実践『理想の妹は俺の小説の中に』
劇中作品第1話です。
結夢はこの作品を読んで主人公の元に来ました。
『理想の妹は俺の小説の中に
小説書きは孤独だ……机に向かいひたすらキーボードを叩く。一人でしか出来ない作業。
延々と書き続け、公募にだしたりネットにアップしたり、しかしそれで報われるのはほんの一握りの天才達……
なりたくてもなれない職業を目指している俺はその現実に直面している……虚空、虚無、空虚、書いているといつもそんな言葉が頭をよぎる……
「あああああああ、売れたい、デビューしたい……あと妹欲しい、誰か妹くれねえかなあ、出来ればイラストの書ける銀髪美少女がいいなぁ」
一人っ子の俺に兄弟姉妹は居ない、両親ともに健在なので義理の妹も存在しない。
勿論その辺の妹リア充が妹をくれるわけが無い事も十分承知している……
俺は新井菜 狐というペンネームで作家活動をしている全く売れる気配のないワナビだ。
作品を書いても書いても誰も読まない、公募は全て一次落選、泣かず飛ばずで1年の月日が流れる……
「才能……無いのかなぁ」
机の上にあるディスプレイには、タイトルも決まって居ない小説の出だしが1行だけ書かれている。
高校卒業後、大学に落ちた俺は暫くなにも考えられずプラプラとしていた。
とりあえず形だけでもなんとか言い訳をと俺は両親に自分の夢であった作家を目指すと宣言した。
何の取り柄も無い、友達もろくに居ない俺の唯一の趣味それは読書だった。
両親もそれを知っていて、一時は応援してくれていた。
しかし……何も結果が残せないまま1年の月日が流れた。
両親はまだ何も言わないが、そろそろ諦めて『働け! 就職しろ!』という視線を俺はひしひしと感じていた。
「これが最後だな……」
最後の作品……これが駄目なら諦める。俺はそう思いキーボードを叩く。
売れるには異世界、デビューするには異世界、そう思い書き続けていたが、正直俺は異世界にはあまり興味がなかった。
興味が無いので書いていても面白さがわからない、どの作品を読んでも違いがわからない……ただ闇雲に主人公を事故に遭わせ異世界に飛ばし可愛い獣耳の女の子とイチャイチャさせたり、おっさんを勇者にさせたりする作品を書いていた。
しかし読者はわかるのか、全く読まれない公募に出しても一次も通らない。
でも……デビューするにはこれしかないと、異世界しか……そう思い俺は最後の作品に取りかかった。
「でも……良いのか……これが最後で……これで諦めて俺は後悔しないのか?」
数行書いた所でパタリと手が止まる。1年書きまくっても駄目なのに、これが最後と意気込んだ所で何も変わらないんじゃないか? 俺はそう思った。
「最後は好きな事を書いて終わろう……」
俺はそう呟くとバックスペースで今書いた物全て消し、そしてタイトルを入れた。
『俺の理想の妹』
俺の最後の作品異世界ではなく恋愛物……それも妹物……俺の夢……一人っ子で兄弟姉妹の居ない俺が一番欲しかった物、それは妹……
俺は妹作品を書くべく自分の中にいる理想の妹を俺の小説に俺の最後の小説に書こうと決心した。
◈◈◈
小説を書く為にプロットという物を作る。
要するに大まかな粗筋、舞台設定、キャラ設定、要するに下書きみたいな物と思ってくれればいい。
俺は特にキャラを重視して書いている。
キャラは髪型、髪の色、目、鼻、口と考え顔全体のイメージを行う。まあ大まかに可愛い系か美人系か、そんな感じで分けると分かりやすいかも知れない、そして容姿、ストレートに童顔ロリ体型、美人モデル体型するか、童顔で巨乳とギャップつけるかとか考えていく。
容姿が決まれば次は性格、まずは作品にあわせてキツイ感じか、おっとりか、大まかに決める。
作品によっては女剣士でおっとりとか、癒しのモンクがキツイ性格とか、あえて正反対な性格にするのもありだ。
そして、物語、顔、容姿、大まかな性格、全てを考慮して細かい設定をしていく。
一番重要なのは物語に書かない所だ。例えばキャラの幼少期などの過去を考える。
そのキャラが今までどう過ごして今どうなったか考えるとキャラに説得力が出る。
例えば、気が強いキャラ、でもそれは昔虐められたからそれを隠すためにとかだと、そのキャラは表面的な気の強さで実は芯がないんじゃないかなと想像できる。
まあもっとあるが、長くなるのでこの辺で……と言う事で俺はプロット作りに取りかかった。
話の内容はよくあるラブコメ、妹とイチャイチャするだけの俺の妄想をそのまま書くことにした。
売れる気はない、読まれるつもりも無い……最後の作品は誰の為にでもない俺の為に、俺だけの為に書く……そう決めた。
「俺の理想の妹か……やっぱり黒髪ロングで清純な感じが良いなぁ、女神の様な優しさで……スタイルは細めかなぁ、あ、あまり巨乳とかは嫌だなぁ……」
などと勝ってな事を言いつつ俺はノートに自分の理想の妹を書いて行く。
最後の作品だ、俺はいつもより何倍も気合いを入れ細かく細かく妹を理想の妹を書いていく。
そして一番最後に名前を書いた……名前を付けると愛情がわく、キャラが生きる。俺はそう思っている。
キャラに魂を入れるべく俺は名前を書いた……妹の名前は……結夢、愛を結ぶ、そして俺の夢を叶えてくれるって意味で名付けた。
◊◊◊◊
ヒロインになるべく理想の妹の最後の設定迄書き終え俺ようやくキーボードを叩く手を止め、パソコンのディスプレイから顔を上げた。
楽しかった……小説を書いていてこれ程楽しかった事は無かった。
気が付けば俺は朝まで妹の設定を、理想の妹を書き続けていた。
小さな頃から俺とどう接していたか、幼稚園の時に好きだった先生、小学校入学の時におたふく風邪になった。あらゆる設定を書き続けた。
一人の人生を16才の少女の人生を作成したと言っても過言ではない。
朝まで書き続け、俺はそこで力尽きた。妹の設定があまりに楽しすぎて、肝心の物語の事はまだ何も考えていなかった。
「とりあえずここまでに……」
俺はその時目眩に教われる。グルグルと世界が周り始めた。
「ヤバい……と、とりあえずベットに……」
倒れる様にベットに潜り込み、そしてそのまま眠りに付いた。
「ん……んん」
どのくらいの時間が経ったのだろうか……確か昼近くまで、ほぼ24時間書き続け、そのまま寝落ち……駄目だ、そろそろ起きて書かなければ……
特に締め切りがあるわけでは無い、でも俺は毎日8時間以上書く事にしていた。そうしないと、甘えてしまうから。
俺は眠さをこらえ重い身体を起こそうとしたが……ん? 起きれない……身体が動かない……金縛り? 生まれて始めての経験……何か上に乗っている様な感覚、確か脳の一部がまだ寝ているだけだった様な、しばらくすれば覚醒して動ける様にとうろ覚えの知識でそう判断するが、一向に治らない。いや、そもそも半身は動く、そこで俺は気付いた……誰かいる……
俺のベットに誰か寝ている……
俺の隣に誰かがいる……腕に伝わる何かの感触、そして微かに聞こえる寝息……
間違いなく誰かが隣で寝ている。そして俺の身体の上に乗っているのは腕だ、隣に寝ている何者かが俺を押さえつけている様に寝ているんだ。
怖い……目が覚めたら隣に誰かが寝ているなんて……こんな怖い事はない……
仮にそれが父さんや母さんだとしても、それはそれで怖い。
しかしこのままでは何も解決しない。俺は隣に寝ているのが父さんや母さんでない事を祈ってゆっくりと顔を横にし隣で寝ている何者かの顔を確認した。
「誰?」
とりあえず最悪の父さんでも、母さんでもなかった……が、これで事態はもっと深刻な状況に……他人が隣で寝ている……しかも美少女。
これが見知らぬ場所ならラッキーという他無いんだが、残念ながらここは俺の部屋だ。飲み会で偶然出会った美少女をお持ちかえりなんて事はあり得ない。
そもそも俺はあまり酒を嗜まない……飲み会処か飲みに行く友達もろくにいない。
「おいおい、ちょっと待ってくれ……どういう事?」
俺は困惑した。当たり前だ俺はプロットを書きそのまま寝ただけなのに、隣に美少が寝ているなんてシチュエーション、これなんて『らのべ』だよ……
異世界に落とされるよりもあり得ない展開、こんな事を書く作家なんてマジ才能ねえな……
等と考え現実逃避をしてみた所で事態は変わらない……俺はまずゆっくりと俺の上に乗っている腕をどけてみた。
「う、うううん」
「!!」
腕を動かすとその美少女はそう声を出す。そして首元がはだけ、胸元が………………
「ひいいいい!」
俺は思わず声をあげてしまった。だ、だってだって……
「う、うううん、お兄ちゃんうるさいよおおお」
「お、お兄ちゃん?」
その美少女はそう言いながら目をこすりゆっくりと起き上がる。
「ん……お兄ちゃんおはよう、今何時い?」
「うわわわわわわわわわ」
「え? ど、どうしたの?」
「いや、そ、その……えっと、胸、胸が、いやその」
「ん?」
「いや、ん? じゃなくて……なんで裸で」
「裸? 下着着けてるよ?」
そう言ってその美少女は布団を捲って履いているパンツを確認しているって……ピ、ピンク……
とりあえず上下ピンクの水玉のブラとパンツはしっかりと確認した後に俺はその下着姿の美少女に尋ねた。
「えっと……どちら様?」
「は?」
「え?」
「お、お兄ちゃん大丈夫? 寝ぼけてる?」
「え?」
「私が誰だかわからないの?」
「えっと……」
俺は考えた、俺をお兄ちゃんと呼ぶその美少女の事を……その美少女は艶やかな黒髪ロング、美人と可愛いを足して2でかけた様な顔立ち。細く幼児体型だけどそ白い肌に小ぶりだけど形の整った胸……パンツから伸びるすらりと長い足……
「お兄ちゃん?」
じろじろと俺が見つめていると、その美少女は少し怪訝な顔をする。しかし嫌がる素振りは見せない……俺はこの少女に見覚えがある、いや書いた覚えが……まさか……
「あ、えっと…………結夢?」
「あははは、何その今初めて会ったみたいな呼び方は?」
「いや、その……」
「おはよ、お兄ちゃん」
目が覚めたら、俺のキャラが、妹が現実に現れていた。』
◈◈◈◈◈◈◈◈◈
「どう? お兄ちゃん!」
俺はここまで作品の第1話をほぼ書いた通りに結夢とやってみた。
全然イメージと違う……
「ああ、ありがとう……これじゃ駄目だってのがわかったよ」
結夢の協力で俺は自分の作品の駄目な所がわかった……わかってしまった。
「こんなのはただの作り話だ……全然リアルじゃない……これじゃ……全然駄目だ……」
下着姿で俺を見つめている結夢の横で、俺はそう呟いていた。
以上劇中作品を投稿しました。
「理想の妹は俺の小説の中に」はボツにした作品ですが
ご要望がありましたらこちらも書きます。
ただ、そもそもランキング下位に載ったもののこっちのブクマが殆ど増えない現状では需要はないのかなと(泣)