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泊まる場所


 記憶喪失……結夢はそう言った。

 うろ覚えだけど、確か人間の脳は基本的に記憶する為だけの器官だ。

 感情も痛みも身体のコントロールも全て脳にインプットされている記憶で成り立っている。

 つまり病気や外傷で脳の一部に損傷が起きた場合、その記憶が失われる。身体をコントロールするような重要な場所、脳幹等が損傷した時はその場所の記憶が失われそれが直接死に直結したりする。

 

 そして脳の最も大きい部分、大脳と言われる脳の部位が記憶、言語、認知等を司りさらにその表面部分、大脳皮質と言われる場所で感情、感覚、記憶を司っているとの事。


 今言っている、記憶喪失のいわゆる一般的な記憶というのはこの大脳と言われている部位での脳の機能による物だ。

 この記憶はコンピュータのメモリと同様で、瞬間的に記憶する物フラッシュメモリと多くの情報を保存するハードディスクの様な機能に分かれる。

 つまり記憶喪失と言うのはこのハードディスク部分に保存されている一部の情報が何かしらの原因によって失われている状態を指す。


 そして脳はシナプスと言われる物質の連結で記憶が行われており、その連結が崩れたりしただけで記憶に障害が起きる。そして当たり前の事だが、人間の脳はパソコンのハードディスクと違い外部からその記憶領域を覗き見る事は勿論出来ない。

 なので記憶喪失だとしても病院でそれを直接治療する方法はない。


 ただ心配なのは精神的な要因、何かショックな事があった等ではない場合だ。 外的要因や病気の場合だと危険で、叩かれた、ぶつけた、脳腫瘍等の病気で記憶喪失の状態になってしまう可能性もありその場合は病院での治療が必要となる。

 なのでなるべく早く病院には連れて行きたいのだが……


「いや!」


「で、でも記憶障害ならまずは病院で検査を受けるべき」


「絶対に嫌です!!」


「…………」

 結夢は頑なに病院に行くことを拒否する。警察も嫌、病院も嫌……困った。


「理由を聞かせて欲しいんだけど……」


「わからないけど……嫌なんです!」


「うーーん、でも命の危険もあるから」


「――無理やり連れていくなら……」


「わーーった、わーーったから、鞄に手を突っ込むな!」


「他の事なら無理やりでもいいですけどね!」


「だから突然ぶっこむなって……」


「お兄ちゃん、そろそろカレーが食べ頃じゃないでしょうか?」


「ん? ああ、そうだな」


「私も食べ頃ですけどね!」


「だーーーかーーーらーーー、もういい……」

 疲れる……一体なんなんだこの娘は……ひょっとしたら全部嘘で俺はからかわれているんじゃないだろうか?



◈◈◈



 よくある家出の女の子と暮らす物語だと深夜一人で寂しそうに立っていたり、びしょ濡れで道を歩いていたり、そうして出会うも始めは捨てられた猫の様に怯え、それから段々と打ち解けていくのがセオリーだと思っていた。

 しかし結夢はそうじゃない、自ら俺の部屋に押し入りそして見た目はとてつもなく明るい……まあ明るく振る舞っている可能性はあるが。

 

 そう言えばエロゲーやエロ本だと、泊めてくれる代わりになんて展開があったりするよな……いや、手は出さないけどさ……


 そう考えた所で俺はふと思った。そう言えば泊まる……所……どうするんだ?


 そうだ、そうだった、確かこの娘は、ずっとホテルで暮らしていると言っていた……え? 今日は、いや、これからどうするんだ?

 

今、結夢はカレーを食べ終わりタブレットで俺の小説を嬉しそうに読んでいる。時間はもうすぐ夕方、俺は恐る恐る今夜どうするか聞いてみた。


「え? 妹なんだからお兄ちゃんと一緒に居るのは当たり前ですよね?」


「当たり前って……」

 俺はこめかみに手をやる……


「お兄ちゃんカレーだよ、カレーは一晩経ってからが美味しいんだよ!」


「いや、まあ、それはそうなんだけど……」

 美少女と一緒に一晩過ごす、こんな美味しいシチュエーション、でも現実にそうなった時どうすれば良いのか、結夢の言っている16才と言う年齢が本当なら俺は捕まる可能性まである。そもそも記憶喪失による失踪なら当然行方不明の届けが出されているわけで、心配しながら結夢の帰りを待っている人がいるはず。

 俺がこの場で結夢を泊めたりしたら、いや、それ以前に一回でも泊めたらずるずるとこのまま一緒に……


「お兄ちゃん?」


「ん? あ、いや……」


「迷惑……かな?」


「あ、いや……迷惑ってわけじゃないんだけど……」


「そか……じゃあ……私行くね」

 結夢はそう言うと大きな鞄を持って立ち上がった。


「行くって……どこへ?」


「ん~~そろそろホテルも通報される危険があるし……私そこそこ可愛いから泊めてくれる人は一杯いると……」


「だ、駄目だ!」


「え?」


「それは……駄目だ!!」


「でも……」


「とりあえず今日はうちに泊まっていいから、本当そう言うのは止めてくれ」

 

「お兄ちゃん!」


「とりあえず、今日はうちに居て良いから、俺の小説の事を覚えているってのが何かヒントになるかも知れないし、俺と一晩話せば記憶の一部が戻る可能性もあるし」


「良いの? お兄ちゃん」


「ああ、良いよ! 俺の読者は皆俺の妹だからな!」

 男ばっかりだけどね……


「嬉いい!! お兄ちゃん!!」

 結夢はそう言うと俺に抱きついて来た。結夢の身体から凄くいい香りがし、全身に柔らかい感触が……ああ、俺……今晩耐えられるのかなぁ……





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