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長期連載で最も都合のいい病気。


「じゃあ、お兄ちゃん早速お昼ご飯を作るね」

 そう言うとさっきハサミを取り出した大きめの鞄からスーパーの袋を取り出す。


「作るの?」


「うん、お兄ちゃんにご飯を作るのは妹の義務だから作ります!」


「そうなんだ……」

 実際うちの妹は俺にご飯を作るなんてした事ないけど……まあ、俺の書く妹っていうか、『らのべ』に出てくる妹は全部ファンタジーだからな! 妹に惚れる兄も兄に惚れる妹も居ません。


 鞄からエプロンも取り出し制服の上からエプロンを着る。なんか色々入ってますねその鞄……


「それで何を作るの?」


「妹と言ったらカレーです! お兄ちゃんの小説に書いてあった妹カレーです」


「妹カレーは俺の小説じゃねえよ!」

 どこかのガチ妹好きの小説家のだよ!


「え? お兄ちゃんはカレー嫌い?」


「いや、好きだよ、ああ、じゃあ米研ごうか?」


「お願いしまーーす。わーーいお兄ちゃんと一緒にご飯を作るってなんか嬉しい~~」


「そう? ああ、まあ、そうかも……成る程これは取材にもなるな……」

 戸惑いは今でも隠せないが、こうなったら仕方ない毒を食らわば皿までと俺は開き直りこの美少女と一緒にご飯を作る事にした。兄妹ごっこ……実の兄妹とは絶対に出来ない……


 あまり自炊はしないんだけど、ご飯だけはよく炊いている。ご飯だけでもかなり食費は浮くので、俺は野菜を切ろうとしている結夢の邪魔にならない様にシンクで米を研いでいた。米を研ぎ水を何度か捨てている時にそういえばさっきハサミで危ない事をしようとしていたこの娘に包丁って大丈夫なんだろうか? と慌てて横を向いて確認すると、包丁を両手に持ち今から人でも刺すかの表情で目の前のニンジンを見つめている……なにそれ怖いんですけど、そう思った矢先結夢は徐に包丁を振り上げると脳天唐竹割りよろしく、そのまま下にに振り落としニンジンを真っ二つに切った。


「あ、あぶねえええええええよおおおおおおお!!」


「ええ?」


「なんて切り方してんだよ!」


「えええ?」


「お前さては料理したことねえな!」


「そんな事ないです! この間ちゃんと作りました!」


「何をだよ!」


「目玉焼きです! ジャリジャリして美味しかったですよ!!」


「殻入りまくりじゃねえか、わかった、俺がやるから」


「嫌です!! 私が、私がお兄ちゃんに料理を!」


「わかったから包丁を置け、なにかにつけて刃物を首もとに当てるな!」


「じゃあ」


「だからと言って俺に向けるな!!」

 

「でも、でもおおお」


「ああ、もうわかったから一緒に作ろう、な?」


「……うん……ごめんねお兄ちゃん」


「いいよ、じゃあホレこれで皮を剥いて」


「お兄ちゃんの?」


「なんでそこで急に下ネタぶっこんで来るんだよ、ニンジンの皮だよ! ほらピーラーがあるから」


「ピロートークなら得意だよ!」


「だから下ネタはいいって言ってるだろ、そもそもピロートークなんてどこで覚えたんだよ!」


「え? お兄ちゃんの小説で」


「まさかの俺が原因だった~~って、そういうのいいからほらこうやって剥くんだよ、その間に肉を炒めておくから」


「はーーい」

 なんだか変な妹が出来たものだと俺は頭を抱えながらも、サッと肉を炒めて、玉ねぎの皮を剥き、ジャガイモの皮を剥く。

 あまり自炊はしないけど、出来ないとは言っていない。これでも料理は得意だ。


「剥けたよお兄ちゃん!」


「ああ、ありがと、じゃあ後は細かく切って炒めるから」


「カレーって炒めるの?」


「ああ、ジャガイモ以外は炒めるよ、特に玉ねぎは炒めた方が甘みが出ておいしくなるから」


「へーーお兄ちゃん物知りだね~~」

 そう言って尊敬のまなざしで俺を見る結夢、いや、カレー作って尊敬されても……

 さすがにもう包丁を持たせるのは怖いので、さっさと手早く切ってフライパンで炒め鍋の中にぶち込んで水をいれて煮込む。


「すごーーい早い!お兄ちゃん天才~~」


「いや、誰でも出来るから……」

 お前以外の奴ならなという言葉を俺は飲み込んだ。


「ジャガイモは煮崩れするから後から入れて、ジャガイモが柔らかくなったらカレールウを入れて出来上がりだ」


「へーーーただ切って煮るだけじゃないんだね?」


「ああ、まあな、とりあえず座ってコーヒーでも飲もう、入れなおすよ」


「うん!」

 そう言うと部屋の座卓の前に座ってニコニコしながら座って待っている結夢、可愛いけど…なんだろう、あの笑顔が何か気になる。

 よく小説で言うように顔は笑っているが目笑ってないとか、心は笑ってないとか言うが、残念ながら俺にはそういうのを見分ける力はない。作り笑顔も心から笑っている笑顔も俺には同じ笑顔としか認識できない。小説の様に地の文が分かればいいんだけど……


「それで、結夢はどこから来たんだ?」

 俺の部屋には座卓がある。普段はここで飯を食ったりしている。

 結夢と二人座卓を挟んで座り俺はコーヒーを一口飲んだ。


「どこから? うーーん、お兄ちゃんの小説の中から?」

 俺が飲んだのを確認してから結夢もカップに口をつける。


「それは俺の小説の話だ、いい加減言ってくれよおお」


「言ってくれと言われても……私も分からないんだもん」


「わからない? わからないって……」


「うん」


「ど、どういう事?」


「えっとね……記憶が……ないの」


「は?」


「記憶が全然ないの……お兄ちゃんの小説の事以外に記憶がなかったの」


「ど、どういう事だ?」


「うんとね、ちょっと前に気が付いたら東京駅に立っていたの……覚えていた事はお兄ちゃんの小説を読んだ事だけ、あ、でもお金は何故か結構持ってて、だからホテルで寝泊まりしながらホテルのPCでお兄ちゃんの小説の事を調べて、そうしたらお兄ちゃんのツイッタラーを見つけて、それで暫くずっと見てたの」


「マジか……何も持ってないのか? 学生証とか」


「うん、鞄の中全部探したけど……」


「そうか……ホテルって身分証明とか要らないっけ? そういえば年齢は16歳って」


「住所は適当で、名前はお兄ちゃんのペンネームと結夢を合わせて二頭追 結夢って書いてました。あ、ちなみに年齢は自称です!」


「どこかの声優か! ……あ、でもお前さっきストーカーの話でお父さんとかお母さんの時代とか言ってたじゃないか、両親の記憶はあるんだろ? だったら」


「うーーん、記憶が無いって言っても、誰かと何か喋った記憶とかは覚えているんだけど、それが誰かは覚えていないの。ストーカーの話しも最近見たネットの記事を読んで思った事と、昔の記憶とごっちゃになってて……少なくとも私の記憶の中に知り合いは居ません!」


「居ないって……それでいいのか? なんだったら今から一緒に警察へ」

 行方不明の届けが出ているかも知れない、そもそも本当に未成年なら俺が捕まる可能性も……


「いや!」


「で、でも……」


「絶対に嫌! それだけは絶対に嫌! お願いお願いします……お兄ちゃん」

 そう言うと結夢の目から涙が溢れる。座卓の上から俺の手を握り、俺に縋りつくように泣き始める。


 ぽたぽたと俺の手に落ちる涙を見て、俺はそれ以上何も言えなかった。


 部屋は結夢の泣き声と、コトコトとカレーが煮える音だけが響いていた。













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