妹になれないなら……
「えっと……もう少し詳しく教えて貰える? 妹になりに来たってどういう事?」
「はい! 私お兄ちゃんの書く小説の大ファンなんです! お兄ちゃんの書く小説の妹達が凄く幸せそうで、いつも羨ましいって、私もああいう風に愛されたいって思いながら読んでました!」
「ああ、うん……それは……どうもありがとう……」
「後ツイッタラーも毎日読んでました! そしたらこの間お兄ちゃんが可愛い妹欲しいなーーって呟いてたので、私そんなに可愛くないけどこれはチャンスって思って思いきって来ちゃいました!」
「いや十分可愛いって……ちょっと待って、色々突っ込みたい所があるんだけど、そもそもなんで俺の家がわかったの?」
「はい! お兄ちゃんがいつもツイッタラーにアップしているラーメンの写真からお店を調べて、あと天気とか地震とかで呟いてたので場所を調べて、他の写真とかも全部片っ端から見て、あと時々アップしている部屋の写真から間取りも調べて、それで、最後にストーリービューで調べて特定しました!」
「ストーカーじゃねえか!! えええ! 怖っ!! ネット怖!!」
その頑張ったぞ褒めてみたいな顔してるけど、もろに犯罪じゃねえか!
「ち! 違います!! 愛です!! 私今のなんでもストーカーって言う風潮嫌いなんです!! お父さんやお母さんの時代は携帯とかあまり普及してなかったから、皆待ち伏せとかして告白したり、ラブレターとか送ったりしてたんですよ!! しつこくしつこく愛を告白して、それで結婚なんて夫婦が沢山いたんですよ! 今はなんでもストーカーって言われて、だから結婚しない人が増えたんです! 知ってますか? 異性と付き合った事のない男子が日本に何%いるか」
「い、いや知らないけど、ああでもそ、そうなんだ……じゃあさ、君はそういう事されても良いんだ、こう情熱的に迫って来る方が良いって事だね?」
「は? 何言ってるんですか? そんなキモい事絶対に嫌です! 速攻通報します!!」
「言っている事が全然意味不明だね!」
「私はお兄ちゃんにだけ愛して貰えれば良いんです!」
「いや、お兄ちゃんお兄ちゃんって、君は」
「君じゃなくて名前で呼んで下さい!」
「名前って、そう言えば聞いてなかったな、えっと……」
「結夢です!」
「は?」
「結ぶ夢って書いて結夢です!!」
「いやそれはわかっているんだけど、そうじゃなくて俺の書いてる小説のキャラ名じゃなくて君の名は?」
「だから私は結夢です! 結夢になったんです!!」
「なったって言われても……」
「あの愛を結ぶ、妹との愛そしてお兄ちゃの夢を結ぶって言う名前の付け方、感動しました!!」
「そ、そか……あ、ありがとう」
「お兄ちゃんの愛の結晶で結夢が誕生したんですよね!!」
「ああ、うん……まあ」
えっとちなみにこの娘が何を言っているのかと言うと、俺の書いている小説『理想の妹は俺の小説の中に』という作品の出だしの事で、これは簡単に言うと、売れない作家が最後の作品で書いたのが妹物、その妹への思いが強すぎてキャラであるその妹が現実に現れてしまうという作品で、結夢とはその現実に現れた妹キャラの名前の事である。
「さあ! お兄ちゃん、私を小説の様に愛して下さい!」
「いやダメでしょう?」
「なんででぃでえぇすくわぁ~~~」
「言えてない言えてない」
「えーーー? これは理想の妹はの第5話目、一向に何もしてくれないお兄ちゃんに結夢ちゃんが言っているセリフで!」
「わかってるわかってるから深く掘り下げないで、それ結構不評だったんだから」
「私は好きです! ううん、お兄ちゃんの書く小説は、キャラクターは、セリフも含めて全部好きです!! 愛しています!」
「そ、そうですか……」
まあそう言われて嬉しくないわけはない、ましてや自分の作品の読者って殆ど男子で女子っぽい人からの感想等は無だったし……
「さあお兄ちゃん、早く小説みたいに私を撫で撫でしてください!」
「いや待って落ち着いて、そもそも君って」
「結夢!」
「わかった……えっと……じゃあ結夢は年いくつなんだ?」
「16才だよお兄ちゃん」
「アウト~~~~~」
「ええええええええ!」
「出来るかぁ! 一発で捕まる年齢じゃねえか? 家に入れている時点でヤバいんだぞ!」
「ヤバく無いもん!」
「ヤバいって……」
「結夢はお兄ちゃんの妹だからヤバくなんか無いもん!!」
「だから妹じゃ……」
「お兄ちゃんが妹欲しいって言ったから……私……」
「そんな事言われてもなぁ、まさか本気に……ってな、何を!」
「お兄ちゃんが妹にしてくれないなら、私……もう死ぬしか……」
結夢は突然鞄からキラリと光る物を取り出した。ハサミだ、彼女はハサミを取り出すとその片側の刃を喉元に当てるってやめてえええええええええええ!!
「わ、わかったから、落ち着いて、ね? とりあえず、わかったから!」
さっきまでとは全く違う表情、その思い詰めた様な顔に俺は彼女の本気を感じた、まずい、このままじゃ本当にまずい。
「妹に……妹にして……私をお兄ちゃんの……」
「するする、するから、わかったから、だから落ち着いて」
「……本当?」
「ああ、本当、本当」
俺はウンウンと頷く、てかこの状況で断れるわけがない……
「やったああああああああああ、お兄ちゃん大好きいいいいいい」
結夢はそう言うと俺に抱きつく、いや、危ないから、色んな意味で危ないから……とりあえずハサミはしまおう。
あああ、認めてしまった……っていうか認めざるをえなかった。
そして俺は大変な娘に目をつけられてしまったという事を、この時はまだまだわかっていなかった。