妹と妹
「に、兄ちゃん! 一体これは……」
「あ、いや、その」
「誰? ま、まさか……恋人……ど、ど、ど、同棲!」
「えっと、えっと……」
突然の実妹の訪問にたじろぐ俺……えっと……どうしよう……そう思っていると結夢は俺からそっと離れベットから立ち上がると妹に向き合う。
「そちらこそ、どちら様ですか? 突然入ってこられて……失礼ですよ!」
「はあ? 私妹だし! あんたこそ誰よ!!」
「妹……ああ、貴女もお兄ちゃんのツイッタラーを見て来たんですね? でも残念ながら私が先着です! お兄ちゃんの妹は先着1名なんです!」
「はあ!? マジバカなに言ってんの? ねえ兄ちゃん! 一体こいつなんなの? お兄ちゃんって言ってるけど何者?」
「いや、なんなのって言われても……」
なんなんでしょう? 俺にもさっぱりわからないんで、答えようが……
「ちょっとちょっと貴女いきなり入って来て図々しいわよ? なんでそんなに妹ぶってるの、ちょっと痛いわよ?」
「いや、えっと、結夢……そいつは……」
「お兄ちゃんは黙ってて! こういう娘はちゃんと言わないとわからないから!!」
いや、あの……完全におま言う? って状態なんだが……俺は結夢の勢いに押されてし本当に黙ってしまう……えっと……結夢って、こんなにキツイ言い方出来るんだ……
「あのさ、ちょっと兄ちゃんと話すからあんたは黙っててくれる?」
「いいえ黙りません! お兄ちゃんの妹として黙るわけにはいきません!」
「だからさっきから妹妹って、私が兄ちゃんの妹なんだけど」
「いいえ、私が妹です、本当に図々しい人ですね!」
「図々しいのはどっちよ! 兄ちゃんマジでなんなのこいつ」
「貴女もお兄ちゃんのツイッタラーを見て来たんでしょ? それとも小説? 残念ながらもう私がお兄ちゃんの妹の座に就いているんですから、貴女は必要とされていませんよ?」
「ツイッタラー? 小説? 何それ? それってどういう事?」
ああああああああああああ、ヤバい……これはマジでヤバい……どどどどどどどうしよう……
当たり前だが、俺が小説を、ましてや妹物小説を書いている事は内緒だ!
そりゃそうだろ実の妹がいるのに妹物の恋愛小説だなんて……
でも勘違いしないで欲しい、俺は確かに妹物小説を書いている。そして妹に萌えるし興奮もする! しかし、しかしだ……それはあくまでも理想の妹にって事だ。もし俺に俺が書いている様な理想の妹が存在するならば、それは非常にまずい事態になりかねない……しかし! しかしだ! 妹がいるからこそ安心なのだ!
なぜなら! 理想では無いからだ、遠く掛け離れているからだ! だからこそ書けるのだ。
つまり妹が実在する妹作家が、実妹に恋をする可能性は皆無なのだ!
これは母親に欲情する物語を書く作家も同じ……な気がするがどうでしょうか○○先生!
「え? 貴女お兄ちゃんの小説を知らないの? お兄ちゃんはいも」
「あああああああああああああああああ、えっとえっと~~」
「うるさいバカ兄貴!」
「いや、これ以上は聞かない方が、結夢も言わない方が」
あああああ、もう駄目だ……おわた……俺の人生おわた……
俺の高尚な実妹には惚れない理論があっても、それを実の妹に伝えるのにはかなりの抵抗がある。
お前は俺の理想じゃねえなんて言えるわけ無いんだ……つまりはバレた瞬間に詰みって事だ……おわた~~……マジでおわた~~
「いいえ、きちんと言った方が諦めもつくとおもいます!! こんなお兄ちゃんの事をろくに理解していないのに妹の座に就こうだなんておこがましいです! いいですか? よく聞いてくださいよ!! お兄ちゃんは、もうすぐ有名に、いいえ、既に知る人ぞ知る小説家なんです! 妹との恋愛小説を書かせたら右に出る人は居ません!! 超妹大好きな、日本一の妹作家なんです!!」
日本一は他にいますううううううって、そんな検討違いな事を思いながら俺は妹の方を見ると妹は完全に電池の切れたロボットみたいに動かなくなってしまった。
人間、いや、動物もそうなんだけど未知な物を見ると止まってしまうんだよね。よく山奥の野性動物が麓に降りて道路に飛び出し車を正面に見たとき慌てて逃げないで凝視して轢かれてしまうのと同じ状態だ。
今、恐らく妹も未知な体験をしているんだろうね……実の兄が妹大好き小説を書いているって事実を、実の兄を目の前にして、自称妹に知らされるなんて……多分日本中探しても……こいつだけだろうなぁ……
そして数十秒の沈黙を破り妹が……
「はああああああああああああああああああああああああああ??」
まあ絶叫するよね……うん、俺だって立場が逆なら絶叫するよ……そして結夢の満足そうな顔……勝ち誇ったその顔が、この後どう変わるか……俺は脳内から何か出ているせいか、ちょっと楽しくなってきていた。