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おはようお兄ちゃん!


 暑かった夏の勢いがようやく衰え初め、朝晩と冷え込みがキツくなって来た10月の初め、まあ、エアコンのついている部屋にいる俺は電気代以外はあまり関係なく、いつもの様に部屋に籠って小説を書いていると、『ピンポーン』と、突然部屋のチャイムがなった。


 今日宅配物は来ないはず、恐らく宗教の勧誘か押し売りかなんかだろうと居留守を決め込んでいたが、『ピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーン』と鳴りやむ気配のないチャイムの音。


 あまりのしつこさに俺は腹を立てせめて怒鳴り付けてやろうと玄関の扉を開けた。


「お兄ちゃん! おはよう!」

 扉を開けるとそこには今時珍しい黒のセーラー服を来た美少女が立っていた。


 黒髪ロング、頭にはリボンの付いた黄色いカチューシャ、目はくりっとして黒目がち、鼻は小さめで唇は艶やかで少し色っぽい、胸は少し小さめで全体的にスレンダー、まあいわゆる10人が10人美少女認定する様なアイドル顔負けの少女が玄関佇んでいる。


 そしてなんで俺が「お兄ちゃん」と呼ぶ少女に対しこんな他人行儀な事を言っているかというと……その美少女と俺は、初対面だからである。


 自分の人生でこんな美少女と、どこかで会っていれば覚えていないわけがない。


 まあとりあえず百歩譲って初対面の美少女が玄関先に立っている。そこまでならまだわかる……宗教の勧誘とか今時珍しい押し売りとか、まあ無くはない。


 でもその少女はわけのわからない事を言った。

 

 そう……その美少女が俺を見て「お兄ちゃん」と呼んだのだ……俺はその意味が全くわからなかった。


 お兄ちゃん……誰だ? 死んだ親父の隠し子? いや、あの親父に似ても似つかない美しさ……母とも全く似てない、勿論俺にも似てない……

 親戚にもこんな美少女は居ない……はず、一体この美少女は誰なのか俺には皆目検討もつかなかった。


「お兄ちゃん?」


「あ、いや……えっと……とりあえず、ここじゃなんだから入る?」


「うん!」

 その美少女はにこやかに笑うと俺の部屋に躊躇なく入ってきた。

 あまりいい行為とは言えないんだが、玄関先でゴタゴタするのは近所の目がある、ましてやこの娘はとんでもない美少女、ゴタゴタしてたら目立って仕方ない。

 「お兄ちゃん」と呼ぶからには遠い親戚の可能性もある。とりあえず話を聞かないと始まらないと、俺は彼女を部屋に入れ、インスタントコーヒーを2つ用意をし彼女が座る座卓の上にそれぞれ置いた。

 

 ここは都内ワンルームマンションの一室、俺はそこに一人で暮らしている。


 一昨年見事に大学を全部落ちた俺は浪人すべく田舎から都内に引っ越してきた。


 まあ田舎と言っても埼玉の奥地なんだけど、近くに予備校はかったので仕方なく独り暮らしをする事に、とはいっても家はそれほど裕福ではない。俺はアルバイトをしながら浪人生活をしていた。

 しかしアルバイトと勉強の両立は難しく、最近はもう予備校にも行かなくなってしまい今はアルバイトで暮らしている。

 

 そもそも大学に行きたい理由は将来小説を書く為に勉強しようと思っていたからだったのだが、今はそんな事をしなくてもネットで投稿し、デビュー出来る時代、そして俺はとある投稿サイトで、そこそこ人気のある小説を既に書いていた。


 二頭追にいおい たぬきそれが俺のペンネーム、俺はとあるジャンルでそこそこのフォロワー数を稼いでおり、最近は『ツイッタラー』でもそれなりに知られる存在になって……いる気がする。


 特定のジャンル……小説には異世界や恋愛、SF等大きなくくりがあるが俺の小説はそこからさらに狭いジャンル……

 その極めて狭いジャンルに特化した作家だった。


 いや、別に他が書けないってわけじゃないんだ……ただ人気が出ないだけの話なんだが……


 それは何かって? いや、勿体ぶっているわけじゃないんだ、その……ちょっと言うには覚悟が……わかった話が進まないし言うぞ! …………俺の書いているジャンルは……妹物、妹とイチャイチャしたりするバリバリの恋愛物……誰だ変態って言った奴!

 

 という事で俺は小説を書いている事を、ましてや妹物を書いている事は誰にも言ってない。友達にも、アルバイト先にも、親にも……そして実の妹にも……


 そう……俺には妹がいる、でも今ここで座って嬉しそうに部屋をキョロキョロ見回しているこの美少女では断じてない。


「えっと……所で、お兄ちゃんって呼んだよね? それは一体」


「あ、はい! 私お兄ちゃんの妹になりに来ました!」


「は?」


「え?」


「いや、えっと…………どういう事?」


「え? お兄ちゃん言ってたじゃないですか! 可愛い妹が欲しいって! 妹募集中ってツイッタラーで言ってましたよね」


「あ!」


「だからなりに来ました! お兄ちゃんの妹に!」


「――――えええええええええええええええええ!」

 俺の妹になりにきたというその美少女は俺を見てにこやかに笑った……えっと……最初に言ってた事……正解でしたね。


 宗教の勧誘ではなく、妹の押し売りでした。


 皆さん『ツイッタラー』で変な事を呟くのは止めましょう…………ってそんな事を言っている場合か?

 なんて思いながら俺は暫くその美少女を呆然と見つめていた。









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