異界の森
~前回のあらすじ~
ふざけて異世界への扉を開こうとした主人公(とその他)はなんかマジで異世界に召喚されてしまった!
でも、主人公は持ち前の適応力で何とかしちゃった……
「いや~すっげぇ鬱蒼とした森だな……居るだけで鬱になりそうだぜ! ……いや、これ霧のせいか」
召喚されてから一週間籠っていた建物から出ると、彼を待っていたのは、数m先すら見通せないような濃霧と、初見なら遭難確実の森でした。
しかし、隠れている敵を察知する能力までは邪魔されないようです。
というか、対人限定で働く気配察知センサーが蟻一匹ぐらいまで反応します。
ヤバイです。
辺り一面生体反応だらけです。
(こっちに殺意を向けてるなんか危なそうな気配が二つ……いや、もっとか)
「おい! お前どういう了見で俺にケンカ売ってんだ?」
後畑は、取り敢えず敵を挑発してみました。
すると……
『フンッ! 先に挑発したのは貴様だろう! 此処を誰の縄張りだと思っているのだ!』
「え? ナワバリ?」
念話で返事がきました。
念話は、魔力によって相手の脳に直接言いたいことの概念を送り、相手の脳内で適切な言葉に変換させるので、言葉が通じなくても会話出来ます。
変換は相手の脳内の言葉を使うので、相手の語彙力が低いと謎の文が出来上がったりしてしまうのですが。
そして、美しい白い毛の狼が姿を現しました。
「フュ~! でけぇな!」
『貴様もしかしてここが誰の縄張りか知らんで来たのか?』
「あったりめぇだろ! 此処くんの初めてだしな!」
『……もしやお前転移者か?』
「おう! 話わかんじゃねーか……ってか何で分かった?」
『我らの事を知らんでこんな所に来るのは、余程の阿呆か転移者ぐらいだ』
「そ、そうか」
『で、何用だ?』
「まず、アンタ何者だ?」
『我は偉大なるフェンリル族が末裔、フェルであるぞ』
「う~わ~……いきなり伝説級のバケモンとエンカウントしてんじゃん」
『早く用件を言え』
「え? 特にないよ?」
『何か用があるからこんな所に来たのではないのか?』
「いやいや違う違う! 俺此処で召喚されたの!」
『何だと?!』
なんかフェンリルはメッチャびっくりしています。
「だってそこに建物あるし!」
『クッ、人間がまさか此処まで侵入していたとは……』
「……まあいいや。それより、どの方向に町あるか教えてくんない?」
『フム。人里はアッチだな』
フェンリルは山の麓を指し示しました。
「あんがとよ……じゃあな!」
そう言って後畑は森の中をズンズン進んで行きました。
『……見逃してよろしいので?』
『構わん。あの人間、オーラからすると、手を出せばこちらもタダでは済まんだろう事は想像がつく……それに、あちらにはアヤツがおる。どうせ生きてはおられまいて』
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「ルンルル~ンルン、ルンルル~ンルン、あっおむっしっ出ったっよっと……ん?」
さっきからひっきりなしに生命反応を検知している彼のレーダーに、ヤバそうなのが引っ掛かりました。
ヤバさ的にはさっきのフェンリルの十数倍……接近速度は三倍ぐらいです。
赤いんでしょうか?
そんなことを考えていると、唐突に声が聞こえました。
「おい、お主。こんなところで何をしておるのだ?」
言語翻訳装置を通しているので、ちょっと声は変わって聞こえますが、明らかに女……いや、少女の声でした。
そして、声の発生源とヤバそうな気配の位置は一致してしまっています。
恐る恐る後畑が目を向けると、そこには、銀髪の少女が立っていました。
容姿としては、プラチナのように輝く長い髪、整った顔立ち、病的とも言えるぐらいに白い肌、一際目立つ深紅の瞳。
服はフリルまみれで、ゴスロリチックで、黒いものを着ていました。
そして、彼女は無視できない、圧倒的な存在感を放っていました。
さっきのフェンリルとは桁違いの圧力、殺気……少なくともわかる範囲では規格外の存在でした。
(コイツッ……殺り合ったら秒殺……いや、一秒も持たせる自信ねえな)
「おいお主。聞いておるのか?」
「ああ。すまんな……やけに強そうだったからな」
「ほう……! 初対面で妾の強さを見抜くか!」
「いや、そりゃあなんかオーラバリバリだし」
すると、少女は笑い始めました。
その口には、明かに人間のモノではない牙が覗いていました。
そう、彼女は吸血鬼でした。
「クックックックック……やはりそうでなければ!」
「いきなり何言って―――」
後畑が彼女の台詞の真意を問う前に、彼女は動いていました。
バゴン!
意味不明な爆音がしたかと思うと、彼女は彼の目の前にいて、手を振り上げていました。
「!」
彼は軍刀でそれを受けとめようとして―――やめました。
全力で横にジャンプして回避しました。
ドゴォン!
「ほぅ……これを避けるか」
空振りした腕が地面に叩きつけられ、地面が割れています。
少女は、愉しそうに笑っています。
(やっぱ化物だ! 逃げろ!)
後畑はそう思った瞬間、彼の目の前に土の壁が出現し、行く手を阻みました。
「チッ!」
「どうした! もっと妾を愉しませてくれ!」
バゴン!
それにしても、恐ろしい速度です。
後畑は飛んでくるライフル弾の弾道を見切れるぐらいには動体視力が有りますが、それでも捉えるのがやっとのスピード。
下手な戦闘機より速いかもしれません。
(……やるっきゃねえ!)
彼は覚悟を決めると、腰の軍刀に手をかけました。
「カァッ!」
彼は居合道をやっていた時期があるのですが、滅多に使わないその技を使う気になったようです。
軍刀は、鞘をガイドとして恐ろしいスピードで振り抜かれ……
ガギン!
金属を切ったときのような音がしました。
しかも、この音から察するに、弾かれています。
その気になればチタン合金の超強化形でも刃こぼれ無しでぶった斬れる軍刀が、弾かれました。
装甲車だろうが戦車だろうがぶった斬ってきた彼からすると、物凄く恐ろしいことです。
「ウソだろ?!」
「もらったぁ!」
少女の鉄拳が彼に直撃しました。
彼は咄嗟に軍刀で受けとめましたが、そのまま吹っ飛ばされました。
(クソッ! いってぇな……)
彼は思いっきり土の壁にぶち当たり、それを突き破って吹っ飛び、近くの木に激突しました。
軍刀はひしゃげて使えなくなってしまいました。
彼は絶対勝てないと改めて実感すると、全力で逃げ出しました。
(使えそうなのはスモークグレネード、フラッシュバンと……コイツか)
彼は懐から取り出した、現世では国際条約違反のソレを見て、使うことを決断しました。
少女はまた恐ろしいスピードで近づいて来ると、今度はレイピアをつきだしてきました。
マジで弾丸より速く、多分大砲よりも威力があります。
(ここだ!)
彼は少女のレイピアを避けると、ちょっと距離を取ってから、スモークとフラッシュ、最後に化学焼夷手榴弾を起爆しました。
彼はスモークとフラッシュに紛れて速やかに逃走し――――逃げきりました。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
彼女は退屈していました。
彼女は吸血鬼族の天才児として産まれました。
吸血鬼という種族は、他の種族より強く、戦闘狂が多いのが特徴です。
その中でも一際強く、戦闘を愛しているのが彼女でした。
しかし、彼女は強すぎました。
吸血鬼にとって、数少ない娯楽である戦闘が、つまらないのです。
彼女の周りには、絶対に勝てる雑魚と、絶対に勝てない、勇者とか魔王みたいな連中しかいませんでした。
彼女は勝ち戦も、負け戦も嫌いでした。
彼女は、自分と同じくらいの強さの、愉しい戦いが出来る強敵を求めていたのです。
そして、見つけたのです。
期待できる、強敵を。
いえ、正確には強敵の前身といった所でしょうか?
彼女が見つけたのは、黒いローブを纏った六人組でした。
そう、後畑を召喚した連中です。
彼女は黒ローブの集団が持つ、儀式の道具を見て、喜びました。
彼らはもしかしたら強敵と呼べる者を召喚するかもしれない!
彼女はそう思い、黒ローブ達を守っていました。
守ると言っても、認識阻害の結界を張り、フェンリルや他の魔物に襲われないようにしただけですが。
後畑を見つけたフェンリルが、人間の存在を感知できなかったのは、こういう裏事情もありました。
そして、彼女は久しぶりに、戦う愉しさを味わいました。
彼女は普段、「強者のオーラ」みたいなヤツを隠して暮らしています。
オーラが感知できない、襲ってくるゴミを虐殺して暇潰しするためです。
しかし、さっきの少年(後畑)は違いました。
一目で彼女が圧倒的強者だと見抜き、それでいて彼女の問いかけに臆することなく答えました。
そして、彼女は手加減して遊んでみました。
彼女にとっては「遊び」ですが、人間からすると完全に殺しに来ているように見えます。
その少年は、覚悟を決めた顔をして、全力で片刃の剣で切りつけてきましたが、軽く弾いてしまいました。
その後のパンチは……ちょっと愉しくて若干力が入ってしまいました。
しかし、それでもその少年は立ち上がりました。
さっきのパンチのせいでボロボロですが、まだその瞳には、生きることを諦めていない、強い意志が感じられました。
それを見た彼女は、ちょっと本気を出して愛用のレイピアで殺して終わりにしようと思い、彼も反応できないであろうスピードで迫り、突きを繰り出しました。
しかし、彼はそれすらも避け、そればかりか煙幕と目眩ましの光をぶつけて逃げて行ってしまいました。
彼女は彼を追いかけようと、大きく息を吸い込んだ瞬間、強烈な痛みに襲われました。
「グッ……ガハッ!」
彼女は血を吐き、痛みに耐えきれず、膝をつきました。
足元の血溜まりに映る彼女の顔は、赤く焼け爛れ、美しかった顔は見る影もなく壊されています。
「バカ、な……此処までの傷を負うようなモノは、無かったハズだ……」
彼女は地面にぺたんと座り込むと、怪我の原因を考えました。
(何があった……? こんなことになるのは、火属性魔法か聖属性魔法ぐらいだろう……だが、そんな形跡はなかった! ……まあ、あの少年は転移者だ。私の知らないそういう手段を持っているのだろう)
彼女は適当な所で思考を止め、家路につきました。
「また会うことを愉しみにしているよ……名も知らぬ転移者よ」
笑って再会を望む彼女の顔は、元通りの、綺麗な顔に戻っていました。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「超怖かった……何あの子、ヴァンパイアなのはわかるけど、怖すぎでしょ」
そういいつ彼は辺りを見回し、一言。
「ここドコ?」
あのヴァンパイアから逃げる時に、方向を見失ってしまったのです。
適当にぶらついている状況です。
「ん? あれって教会かな」
木の隙間から、教会のっぽい尖塔が見えました。
「よし! あそこに行ってみよ~!」
彼は、物凄いスピードで突っ走り、教会(仮)に向かいました。
次の投稿は4/9(火)になりそうです




