謁見とトラブルと昔話
《グランドバルド王国/謁見の間前の扉》
後「ひゃー、すげえ扉だな!」
前「無駄に重そうなんだけど」
南「パンジャンドラムは無駄だと分かっていても体面を気にするものだ」
後「……ざっと2tだな」
草「お前、さっそく爆破しようとしてないか?」
後「えーだってあんな頑丈そうな扉見たら爆破したくなるでしょ」
ズ……ズズズズズズズズ……
謁見の間の扉がゆっくりと、そして厳かに開きました。
扉の奥には高そうな鎧を身に纏った騎士10名が整列し、その他位が高そうなオッサン数名が椅子に座っていました。
玉座とその横の椅子には、肝心の王族の皆々様が座っていません。
おそらく、主役は遅れてやって来るのでしょう。
イ「さあ皆さん、いきましょう」
後「……みんなで横一列になって入らない?」
草「なんでさ?」
後「俺先頭とか無理」
草「ハァ……しょうがないな」
結「後畑は以外とシャイな部類だしな」
鷹&岩「後畑が……シャイ……だと!?」
前「そんな設定もあったなあ」
南「酒要るか? そういうのは酔った勢いでぶっとばすのが一番だ」
後「要らんわ」
そして全員キッチリ一列に並び終わりました。
リディアは後畑に張り付いていますが。
そして……
全員「「「いざっ!」」」
バヂッ!
後「うぎゃっ?!」
リ「ひゃあっ?!」
?「ぬおわああああああああああああ?!」
電気が放電したような音と共に、後畑が大ダメージを受けて腰を抜かし、リディアが鼻を押さえてうずくまり……なぜかルイスが顔を押さえて悶絶し、転げ回っていました。
後「っててててて……あっ! ロリババアてめえ!」
ル「ぬっ! バレてしもうたか!」
後「なんで居るのさ!?」
ル「もちろん蝙蝠に化けて追いかけてきたからに決まっておろう!」
リ「お兄ちゃん、鼻がジンジンするよう」
後「よーしよし、ちょっと待ってろ。なんかいい感じのもの持ってくるから」
そして、それを見て謁見の間がザワつき、草架を筆頭に国防軍組はため息をつきました。
草「後畑はともかく、リディアちゃんまで弾かれるとはね」
前「え? ココ結界とかあるの?」
草「闇に属するもの特攻みたいな感じの結界が張ってあるらしいよ」
南「まあ、後畑が弾かれるのは道理かもな」
後「お前ら俺をなんだと思ってるんだ?」
全員「ベルリンの悪魔」
後「うわー、それスッゴい懐かしい」
イ「あ、悪魔……?」
後「ちょっとベルリン防衛戦の時に暴れすぎてねー」
草「敵の戦車ぶん捕って奇襲したり、戦車相手に槍持って突撃したり……あれは酷かったね。うん」
昔話が始まりそうな雰囲気ですが、今回の任務は王様に謁見することです。
後「んで、コレどーすんだ。壊すか?」
草「それが一番早いね」
前「そこは止めようよ」
結「やめろと言ってやめる後畑じゃないからな」
鷹「やっちゃえ~」
結「だからと言って煽るのもどうかと思うが」
後「じゃ、いっきまーす!」
イ「あっ、ちょっ―――」
後「ファイヤー!」
ガッ! バリッ! ガッシャーン!
後畑は拳に炎と黒いのをまとい、全力でぶん殴り、結界を破砕してしまいました。
後「あれま、右手が大惨事だ」
草「炭化した自分の腕見て第一声がそれ?」
後「だって治るし」
草「この人外め!」
鷹「だから結界に弾かれたんだろうけどね~」
後「ホレ、治ったぞい」
草「ハァ……」
後畑と草架が一通り話し終わったのと同時に、驚きの余り硬直していた騎士達が動きだし―――問答無用で後畑に斬りかかりました。
後「やろうってのか? あぁ!?」
騎士A「問答無用!」
後「待て、話せばわかる……ってか殺しちゃうから反撃させないで!?」
草「やれやれ、確かに後畑だと殺しちゃうしねえ」
ガギンッ!
草架は手から光の盾を出現させ、剣を受け止めました。
草「まーまー落ち着きなさいな。ここで争っても何にもならないから」
後「そーだそーだ」
草「話がややこしくなるから後畑は黙ってて!」
ガギンッ! ガッ!
更に別の騎士が後畑に斬りかかり、草架に止められています。
そして、更に数人が剣を抜き―――
ア「静まれええええええええええいッ!」
騎士ズ「「「ッ……、ハッ!」」」
突然現れたアロイスのおやっさんに一喝され、全員一瞬動きが止まったあと、直ぐに元の配置に戻りました。
アロイスの後には物凄く位が高そうな爺さんと、御淑やかそうな年配の女性、内気そうな美少年、そしてさっき出会ったのじゃロリ姫が続いてます。
ア「結界が壊されたからといって取り乱しすぎだ!」
?「まあ、そう怒ってやるな、アロイス。あの結界は我が国最高峰の術者を集めて作ったものだ。アレが素性の知れん者に壊されたとあっては騎士達も心中穏やかではなかろうよ」
ア「……」
そして、お爺さんは玉座に座り、女性はその隣の高そうな椅子に座り、少年と姫は壁の近くのソファーに座っています。
王「儂がグランドバルド王国現国王、ゲルハルト・フォークトじゃ。儂の横に座っておるのが妻のエルネスティーネ、ソファーに座っておるのが娘のグレーティアと息子のファルケじゃ」
後「お初にお目にかかります。陛下。日本国防海軍所属、後畑空斗です」
王「フム。お主がアロイスを? ……あの結界を壊すところを見ておらんかったら、信じられんかったであろうな」
後畑は跪き、頭を垂れていますが……恐らく、彼には敬意の欠片も無いでしょう。
王「して、お主の後ろにおるのは?」
後「畝傍……アンタ等の言う『方舟』の中で生き残ってた連中と、拾った女の子と、なんかついてきたヤバいヤツ」
前「日本国防海軍所属、前田孝宣です」
南「同じく日本国防海軍所属、南友廣だ」
ル「通りすがりの吸血鬼じゃ!」
リ「あ、あの、リディアって言います……はうう」
王様は暫し黙り込み、その後突然立ち上がりました。
王「見たところお主達、昼食がまだであろう? ここで食して行くと良い。そのついでに、方舟について聞かせてもらおうかの」
王様は笑顔で言っていますが、その笑顔は、断ることを許さない迫力がありました。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
《王城/ダイニング》
後畑達がダイニングに入ると、すでに席も
王「さて、皆席に着いたか?」
草「はい」
王「そうか。では……昼食を食しながらで良い。あの『方舟』について話してくれんか?」
後「なんでそんなに畝傍の事が気になるんだ?」
後畑は疑念と不信感を顕に、王様に問いかけました。
王「アレは三年前、何者かによって突然召喚され、あそこにずっと鎮座しておる。最近は大人しいが、召喚された当初は手当たり次第に森を焼き、近づく生物を殺していた……傷だらけの状態で召喚されていたからな。何があってああなってしまったのかが知りたい。あと、お主等の世界の状況も知りたい……と言うか、半分趣味じゃ。あのような闘いの傷痕を見ては、どのような闘いであったか聞いてみたいのじゃよ」
王様は、面白い物語を期待するような、非常にキラキラした目で後畑達を見ています。
後「成る程ねえ……どこから話せば良いものか」
草「あんまり長くなっちゃいけないし、適当に要点だけが良いと思う」
後畑は出されたパンに齧り付きながら思案し、ある程度記憶がまとまったところで、話し始めました。
後「三年前の夏……俺、草架、前田、南の四人は畝傍所属だった。俺と草架が畝傍を離れたのは、畝傍が大共連……俺たちの敵国に撃沈されたからだ」
王「フム。やはり大きな海戦でもあったのか?」
王の問いに、後畑は返答を直ぐには返しませんでした。
後「海戦って言って良いか分からんが。そのときの任務は海賊退治で、海賊自体は弱くて任務は直ぐに終わった。だが、たまたま海賊が大共連の領海ギリギリに拠点を作ってたせいで、任務終了後に大共連軍が出てきた」
草「大共連軍は、畝傍を確認してから出てきたとは思えない速さでやって来たし、待ち伏せみたいなことをしてたんだと思うんだけどね」
後畑と草架は揃ってため息をつき、南と前田は黙ってうつむいています。
後「敵は高速戦艦二隻、高速正規空母一隻、軽空母二隻、重巡洋艦四隻、軽巡洋艦五隻、駆逐艦十一隻、その他小型船多数の高速打撃艦隊……対してこちらは畝傍と島風型駆逐艦二隻、水雷艇母艦一隻、水雷艇十隻、間宮型補給艦一隻の高速駆逐艦隊だった」
王「そこまでしてその大共連とやらは方舟を沈めたかったのか?」
草「恐らく……その前に起こった大海戦でトラウマだっただろうし」
後畑は淡々とその当時の様子を話し、草架は記憶を掘り返しながらゆっくりと語っています。
後「駆逐艦の内一隻は周辺警戒中に爆撃を受け、大破のため戦線離脱、もう一隻は補給艦の護衛のため離脱、補給艦は砲撃後に離脱、水雷艇と水雷艇母艦は第一次攻撃後に中破のため戦線離脱……最後は畝傍がどれだけ時間稼ぎできるかって状況だった」
前「絶望的な戦力差だったなー」
南「そして退くに退けない戦いでもあった」
前田と南も、ようやく昔のことを喋る気になったようです。
後「最終的に……畝傍は撃沈された。敵の10t爆弾が二発直撃しちまってな。まあ、大共連にとってもあの海戦は手痛い損害があっただろうが」
南「確か、高速戦艦二隻、高速空母一隻、軽空母一隻、重巡洋艦三隻、駆逐艦三隻撃沈だったか」
後「いや、軽空母二隻、駆逐艦四隻だ。お前らがぶっ倒れた後に追加で沈めた」
前「航空機もだいたい40機ぐらい墜としたよ」
草「その後、救援艦隊が到着して敵を追っ払ったんだけど……」
後「生き残った船員の証言を元に戦闘海域を徹底的に捜索したが……畝傍は見つからなかった」
草「その時は、予想沈没海域に深い海溝があったから、その海溝に落ちたんだろうって話になり、捜索は打ち切られた」
後「…………まさか、異世界に飛んでるとは思いもしなかったけどな」
後畑達の話を聞き、王は頷いています。
王「そうか……それならばあの荒れようも理解できる。が、話を聞く限りでは、生き残りなど居なさそうなものだが」
後「畝傍には、コールドスリープ装置があってな。戦闘中に、船の設備じゃ回復不可能になっちまったヤツを取り敢えずそれにぶち込んどきゃなんとかなるんだよ」
王「そうか……では、方舟の武装について教えてくれぬか?」
後「武装ねえ……なんで?」
王「方舟が暴れた時、この王城や隣国の王都に砲弾が降り注いだのでな。どのような攻撃力があるか知っておきたい」
後「38.1㎝連装砲、射程45㎞。対空砲、対空機銃は射程的に脅威は無い……問題はドローンだな。アレが残ってたら……畝傍中心に半径30㎞ぐらいは焦土にできるな」
王「そこまでか……しかし、そんな戦闘力があっても沈められてしまうのかね?」
後「まー大勢に囲まれてボコられたしな。こっちが一発撃つ間に、敵は十発以上撃ち込んでくる」
王「そうか」
王にひとしきり説明し終えると、後畑は黙々と食事をし、特にこれといった事もなく、昼食は終わりました。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
《グランドバルド王国/城下町》
昼食後、王様はもっと話を聞きたがっていたのですが……後畑がキラキラ拒否症で暴れだしそうになったので、草架が丁重にお断りしながら、後畑を抑え込み、城下町まで急いで戻ってきました。
草「すみませんね、手間かけさせちゃって」
イ「なに、問題ない……結界を壊したのは驚きだったがな」
草「あー……すみません。まさか後畑が引っ掛かるとは思ってなくて」
イ「問題ないと言っているだろう……それより、聞きたいことがあったんだが」
草「なにかな? お詫びと言っちゃ変だけど、誠心誠意答えさせて貰うよ」
イ「草架殿はいつでも誠実だと思うんだが……」
草「そんなに信用して貰えるとはね! 俺だって何度も人を騙して殺してきたんだよ?」
草架は自嘲するように笑い、イゾルデさんの顔はひきつっています。
イ「そ、そうか……まあいい。それより、あの吸血鬼の少女はどこで拾ったのだ?」
草「知らない。いつの間にか後畑に張り付いてた……拾ってきたっていうより、ついてきたって言った方が正確かもね」
イ「次に、後畑殿は何者だ?」
草「うーん、答えて良いものか」
イ「誠心誠意答えてくれるんだろう?」
草「分かったよ……………………一言で言うと、生物兵器。とあるマッドサイエンティストが日本を守るために生み出した、人であって人ではないナニカ」
イ「つまり、彼は人間ではないと?」
草「いいや、人間だったよ。少なくとも、四歳まではね……」
イゾルデは予想外の答えに面食らって黙り込んでしまいました。
草「それじゃ、またいつか……まあ、今日はこの町をブラブラするから、会いたければ会えるけどね!」
次の投稿予定は4月中旬辺りです……できれば早めに投稿します。