歓喜の号砲
~前回のあらすじ~
ひと悶着起こしつつグランドバルド王国に強行した後畑君。
そこでもまた問題が起こって……?
※キャラクターが多くなってきたので「」の前に色々付けました。
後畑→後
草架→草
結城→結
鷹田→鷹
岩本→岩
前田→前
南→南
イゾルデ→イ
今回はこれぐらいです。
女騎「す、すまん……」
後「マジで止めてね? これからは」
女騎「ああ。気を付ける」
草「あのさあ、元はと言えばお前が原因だよ? 後畑」
後「はてさてなんのことやら」
草「ハァ……」
現在、後畑は魔剣ちゃんに回復してもらい(その後メチャクチャ魔力吸われた)、女騎士は正座で反省しています。
あと、イゾルデが切りかかってきたのは、彼女の斥候役の部下(灰色ローブ)が後畑達に襲われたからです。
前(なぜ正座?)
後(知らぬ)
草(親日本人だったりして)
南(つまりバエルと云うことだな)
前(意味分かんねー)
草(相変わらずだね)
後(成る程な)
草&前(分かるの!?)
後畑、草架、前田と南がナチュラルにテレパシーを使ってしまっていますが、放っておきましょう。
結「後畑、拠点とやらはどこなんだ?」
後「ん。じゃあ行くかい?」
結「ああ」
鷹「おお!? 珍しく後畑が素直だ~!」
後「お前らの驚く顔が早く見たいからな」
草「……前田と南が居る時点でなんとなく分かるけどね」
後「草架……ネタバレ禁止だぞ!」
草「分かってるって」
後「さて、お話も終わ―――」
?「うわあああああああああああ!」
イ「どうした!?」
叫び声と共に、藪から弓を持った兵士が三人ほど飛び出してきました。
大量のちっちゃいクモ型モンスターに襲われています。
イ「待っていろ! 今払って―――」
後「ストップストーップ! ルティ! この子達退けて!」
後畑がそう言った瞬間、クモの動きがピタリと止まり、サーっと引いていきました。
そして、木の上から黒い女の子が降ってきました。
ルティ「ん……ナンデ止めタの?」
後「おう、お前喋れたのか……ってそんなことはどうでも良い。まず、アイツらは味方になるかもしれない連中なんだ」
ルティ「むー………………わかった」
後「OK。なら良い」
イ「ク、クイーンタラント……」
後「ナニソレ?」
後畑が振り向きつつ聞くと、イゾルデ以下七名が泣きそうな顔をして震えていました。
後「……クイーンタラントってそんなにヤバイの?」
草「らしいよ。クイーンタラントを怒らせて滅んだ国が有るとか無いとか」
後「マジかよすげえなルティ!」
ルティ「ん」
鷹「取り敢えず案内してよ~待ちくたびれた~」
後「相変わらず伸ばし方がキモいな……まあ良い、じゃあ早速行こうじゃないか!」
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
鷹「ねえ、あの色ってまさか……」
岩「非常に見覚えがあるな」
結「あの装甲のカーブは見覚えがありまくるな」
後「でしょうね!」
皆が大体答えを予想出来たところで、鬱蒼とした木々が無くなり、爽やかな青空と、バカみたいにデカいチタン製の船が見えました。
鷹「う、畝傍……」
岩「畝傍だな」
結「どうりで見つからんワケだ」
草「めっちゃしっかり修理されてるんだけど」
後「なんか再生能力獲得してるっぽい」
草「マジかよ……」
ガチャン! ズズズズズズズズ! ギュイーーーン!
鷹「メッチャ動いてる~!?」
岩「ここは異世界だ。ソレぐらいあっても不思議ではないな」
結「揚弾機の作動音が聞こえるのは気のせいか?」
草「気のせいだと思いたい」
後「砲弾はまだまだ置いてあったよー」
草「余計に怖い」
結「む? 砲塔が動いて―――」
ズッドオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!
突然、畝傍の全主砲が上を向き、砲撃をしました。
全員『うわあああああああああああ!?』
パアアアアアアアアン!
晴れた空に美しい色の花火と毒々しい色の煙が広がりました。
鷹「はな……び?」
岩「うむ。花火だな」
後「式典用のアレまだ積んでたんだ」
草「積んであったみたいだね」
結「倉庫の空きスペースの関係で積んだままだったと聞いたが」
後「誰に?」
結「お前にだ」
後「ゴッフウウウウウウウウ!」
後畑が奇声を上げて倒れこんでいますが、いつものことです。
それはともかく、イゾルデさん達は腰を抜かしてへたりこんでいます。
イ「な、なん……」
弓兵A「た、隊長……」
弓兵B「我々はどうすれば……」
弓兵C「方舟が怒った……?」
後「バーカ。アレは喜んでンだよ……多分。号砲ってヤツだ」
イ「そうなのか?」
後「でなきゃ俺たち今頃肉塊にランクアップしてらあ」
草「ランクダウンでは?」
後「言葉遊びって知ってるかい?」
草「言い間違えた訳じゃないんだな」
後「うん。それよりさっさと登ろうぜ?」
結「いつの間にか梯子が展開されているな」
鷹「じゃーとっとと登ろ~!」
岩「落ちるなよ」
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
《畝傍/前甲板》
なんやかんやあって彼らは畝傍の甲板まで登って来ました。
被召喚二日目で後畑が殺した(?)蜘蛛の死骸が未だに残っています。
この付近に禿鷹的なヤツはいないんでしょうかね?
草「こりゃまたでっかい蜘蛛ですなあ」
後「畝傍が対空ガトリングでミンチにしちまったけど……意外と甲殻は使えそうだな」
結「魔物や魔獣の甲殻は軽くて丈夫な素晴らしい素材だぞ」
後「マジかよ! 今度使ってみよう」
結「ん? お前の軍刀はこれで改修したんじゃないのか?」
後「あー、違う。詳しくは畝傍の中でね?」
結「分かった」
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
《畝傍/食堂》
イ「あの~……」
草「どうしたの?」
イ「我々がここにいて良いのか?」
草「唐突だね……別に良いよ? 飯食うだけだし」
結「あの猪は見た感じかなり脂が乗っていそうだったな」
鷹「後畑食堂が復活したね~……どんな料理になるのやら」
岩「猪だからな」
草「たいした物は出来ないと思うよ。調味料もそこまで無いだろうし」
後「出来たぞー」
リ「わーい!」
そして出てきたのは―――
後「猪の赤ワイン煮、猪の焼肉的なナニカ、変な野草のサラダだ」
全員「おお!」
意外としっかりした料理が出てきてイゾルデは面食らっていますが、その他の皆は当たり前といった感じで食べ始めています。
草「うん旨い……ただ、サラダ食うの怖い」
後「大丈夫。この世界の野草図鑑に生食オッケーって書いてあった」
結「ちゃんと洗ったか?」
後「おう。塩水と塩素水と真水でな」
結「なら大丈夫だな」
リ「んー! おいしー!」
後「かわゆい」
草「……ロリコン」
鷹「ロリコンだ」
後「何か言ったか?」
草&鷹「「何も」」
南「尊い」
前「おおっと此方にもロリコンが」
最初は遠慮していたイゾルデ一行も、後畑達が全く彼女らを気にしていないのを見て、食べ始めました。
他愛もない話をしながら、かなりレパートリーの少ない食事を平らげていきます。
お行儀よく食べるイゾルデ一行と、かなり行儀悪い日本人組の対比は、なかなか面白いものです。
結「そういえば、お前の軍刀は何を使って改修したんだ?」
後「原住民が核融合炉改造して作ったらしい炉があってな……それはともかくそこに原住民が置いていってた鉱石を混ぜ混ぜした」
結「具体的には?」
後「んー、アダマンタイトとオリハルコンとミスリルを7:2:1で混ぜて合金にしてからオリジナルの刀身に混ぜて打ち直した」
結「成る程な……異世界合金か。面白そうだな」
後「だろう?」
後畑と結城が笑いあい、草架がのほほんとそれを眺め、鷹田と岩本が黙々と食事をし、リディアとルイスが構ってほしそうに後畑を見ています。
実に平和な光景です。
イ「少し良いだろうか? 後畑殿」
後「どうした?」
イ「実は我らが王が後畑殿に会いたがっていたのだが……」
後「良いよー。権力者に取り入るのは必須だよね! ……っとこりゃ失敬」
後畑は席をたつと、食器をシンクに突っ込みました。
後「じゃあ俺は準備してくっから待っててー」
草「わかったー」
結「ではこちらもこちらで準備を始めるか」
草「そうだね」
イ「えっと……今でなくても良いんだが……」
草「あー、後畑は結構せっかちだし良いんじゃない?」
イ「……そうか」
畝傍内に私室が無い結城、鷹田、岩本を置き去りに、後畑、草架、南、前田は私室に服を見繕いに行きました。
そして、数分後……
後「じゃじゃーん!」
イ「なっ、なんだその豪華な服は!?」
後「ふっふっふ……これが俺たちの正装なのさ!」
草「まあ、非戦闘用だけどね」
どや顔でキメ顔な後畑に、すかさず草架が突っ込みます。
そんなことはともかく、確かに彼らの格好は目を疑うものでしょう。
何せ、真っ白な生地を、きらびやかな装飾品でゴテゴテと飾り付けているのですから。
まあ、これでも質素な方なので、大将とかの正装を見たらイゾルデは失神してしまうかもしれません。
草架の胸には何の変哲もない勲章が少々付いているだけなのですが、後畑の胸には大きな鉄十字勲章がくっついています。
後「移動手段ってある?」
草「徒歩で来たけど」
後「じゃあ作るか?」
草「……作るんならランクルか一般家庭用ジープでね? 流石に装甲車とかはナシで」
後「ヒュ~! 相変わらず冴えてるね」
結「で、何を作るんだ?」
鷹「話についていけないんだけど~!」
後「だから足を作ろうって言ってんだよ」
岩「足は自動車であることが前提なのか……」
後「いやぁ、俺もアシキタスな世の中に生まれたもんでして」
鷹「アシキタス?」
後「気にするな! と言うわけで車を作ろうと思う。異論は有るか? 無いな? それじゃあ早速作ろうじゃないか!」
かなり強引に製造計画がスタートしましたが……車がどんどん完成していきます。
後畑が適当な鉱石で合金板を用意し、結城が良い感じに設計図を書き付け、鷹田と岩本が板から切り抜き、前田と南が溶接していきます。
車体を切り抜き終わった後に、後畑が余った部分から適当な部分を切り出し、エンジン用に加工し、組み立てていきます。
更に他の部品も作り、車体に組み込んでいきます。
その後、どこからともなく持ってきた素材で内装を仕上げて車が完成しました。
完成したのは、やたらゴツゴツした限りなく軍用ジープに近い(イメージとしてはハンヴィーが一番近い)只の(?)ジープです。
草「燃料は?」
後「弾着観測用の重油発煙弾から持ってきた。質は悪ぃが、なんとかなんだろ」
結「まさか本当に作れるとはな」
後「まあ、載っけたのは超が付くほどの旧式エンジンだしな」
鷹「具体的にはどれぐらい旧いの?」
後「第二次大戦期の統制型一〇〇式発動機V型十二気筒タイプ」
鷹「分からん!」
後「18.8tの三式中戦車を38.8㎞/時で動かすぐらいの馬力しかねぇディーゼルエンジンだよ」
岩「十分すぎる気もするが……」
後「ディーゼルってのはもともと大きくて重いものを低~中速で動かすもんだ。只のジープには正直向いてないから、アダマンタイトとオリハルコン多目に配合してなるべく重く、堅くしてだな……んでもって銃座は―――」
後畑のこだわりが相当詰まった車なようで、物凄く長い解説が来ましたが、面倒なのでカットしましょう。
どうせ聞いても意味不明な単語の羅列です。
解説中に気に入らないところを全力で改修している様なので、これぐらいは多目に見ましょう。
後「―――ってな訳だ」
結「成る程非常に分かり辛い」
草「うん。分かんない」
後畑はジープに乗り込み、紐を引いてエンジンをスタートさせました。
ガラガラ! グオオオン! ガラガラガラガラ!
艦内にディーゼルエンジン独特の音が響きます。
後「っしオッケー。動くっちゃあ動くな」
草「それ何人乗り?」
後「銃座入れて七人」
草「イゾルデ達が乗れない」
後「……………………忘れてた」
結「外付けで適当に座席を足せば良いんじゃないか?」
後「ナイスアイデア」
鷹「また工作~?」
後「うん」
すると後畑はイゾルデ達に向き直りました。
後「さて、皆さん。座席つきの豪華なヤツか、床に座るノーマルな馬車か。どっちが良い?」