拠点に帰ろう!
「うーん。あそこまで言われるとねぇ」
「どうした?」
「んにゃあねぇ……ちょっと本気を出してみようかと」
「ふむ」
後畑は無意識にですが魔法も使い、全力で後ろに飛び退きました。
そして左手を突きだし軍刀の峰に添え、右手を引いて軍刀を構えました。
いわゆる"牙突"と言うヤツです。
まあ、オリジナルは左手に刀を持っていますが。
「スー、ハー。スー、ハー、スー。スー、ハー…………」
目を閉じ、独特のリズムの呼吸を終えた後畑が目を開けた時、彼の雰囲気がガラリと変わりました。
今までのヘラヘラとした笑みは消え、狂気に満ちていた目は冷徹に、そして今まで抑えていた殺気が解放されました。
「グッ……な、なんだこれは!?」
後畑に切りかかろうとしていたアロイスは、突然発せられた強烈な殺気に、思わずたたらを踏みました。
「教える義理は無いな……ルールは寸止めだったか? ……殺しは無しと言うことか。なかなかに難しいな」
口調も変わった今の後畑は正に"戦闘マシーン"です。
「では、征くぞ!」
「ッ!」
後畑は全力で踏み込み、軍刀を突きだしました。
「ハアアアアアアアアアアアアアアッ!」
「疾……!」
アロイスは、感想を言いきる事が出来ませんでした。
ズッッッッドオオオオオオオオオオオオオン!!
弩級戦艦の主砲級の轟音が、訓練所内に轟いたからです。
もはや衝撃波と言っても過言では無いでしょう。
後畑がやったことは単純です。
自分の加速のために炎魔法で大爆発を起こし、闇の魔力的なアレですべての爆風が彼の加速に使えるように強引に抑え込み、自分を砲弾に見立てて突っ込んだ。
それだけです。
まあ、その攻撃でアロイスに重傷を負わせ、訓練所に甚大な被害を与えてしまったのですが。
ズドーン! ズズズズズ……ガラガラガラ……
もうもうと砂煙をあげて崩れ落ちていく壁の残骸の中から、後畑が姿を現しました。
後畑はちょっと背中が炭化していますが、ほぼ無傷です。
「……やり過ぎちった☆」
「いい加減にしろおおおおおお!」
バゴン!
爽やかな笑みを浮かべてテヘペロ的なノリで言いやがった後畑に、草架が怒りの鉄槌を食らわせました。
因みに、今回は光るハリセンではなく、光るハンマーでぶん殴っています。
「うぎゃあ!」
「やり過ぎだ!」
「アレでも手加減した方だよ?」
「アレで?」
「アレで」
「…………もうヤダ」
草架が泣きそうになっている所に、鷹田がドッタドッタと走ってきました。
物凄くニヤけています。
「ねえねえ後畑~具体的にはドコをどう加減したのさ?」
「んー……軍刀使わなかった」
「うん? 使わないであの威力~?」
「おう」
呆れる鷹田に、後畑は「お前バカかよ」と言った感じの視線を向けています。
「軍刀使ってたら直径1mぐらいの穴が1㎞ぐらい先まで空くけど」
「何故に?」
「なんかそんな感じがする」
「あっ、そう」
後畑は攻撃による被害予測はかなり得意な方です。
少なくとも召喚された5人組の中では一番得意です。
「団長のオッサンは生きてるけど瓦礫に埋まってるよー」
「なっ、何ぃ! 全員で探すぞ!」
『ハッ!』
イゾルデ達が慌ててアロイスの捜索を始めました。
二、三分ほど待つと、瓦礫の中からボロボロのアロイスが発掘されました。
「ウッ……」
「ご無事でしたか、団長!」
「ああ……正直死ぬかと思ったがな」
アロイスは、見た感じだと左腕を骨折し、体の至るところに打撲傷と擦り傷を負っている程度の怪我です。
命に別状は無いでしょう。
「コウハタとやら……」
「どしたの?」
「お前は、この国を滅ぼすような事はしないのだな?」
「うん。だってメリット無いし」
「ならば良い……」
アロイスはイゾルデともう一人の騎士に支えられ、歩くのもやっとと言った感じで訓練所から出ていきました。
「よし。帰ろう」
「ちょっと待てい」
後畑が唐突に帰ろうとし始めたので、草架はなんとかして止めようとしました。
「後畑……お前この国の最高戦力の一人を叩き潰したんだぞ? このまま帰れると思うのか?」
「愚問だな。囲まれたら突破するし、追われれば逃げるのみ!」
「イゾルデさーん。足止めムリ! ……逃げるんならせめて訓練所の壁直して!」
「いいよー」
草架がイゾルデを呼びに行っている間に、後畑は土魔法でパパッと訓練所の壁を補修しました。
「ふー……これで終わり! 後は帰るだけだな」
「後畑、ちょっと良いか?」
「どしたの結城?」
「お前、何処を拠点にしているんだ?」
結城は、行かせろと目と顔で訴えつつ聞きました。
「口で言い辛いんだよなぁ……道作っとくからそれ辿ってきて? 場所は東の森の中だよ! それじゃ」
「ああ。達者でな」
結城に見送られ、後畑はてけてけと歩き、訓練所から離脱しました。
「おーい後畑~」
「おお、鷹田か……なに?」
「滑走路まで道案内しようかな~って思ってね~」
「相も変わらず間延びしてんな」
後畑は鷹田と共に、ふらふらと基地内を歩きます。
「やっぱり後畑は無茶苦茶するね~」
「まあ、俺は細かいこと苦手だからな」
「そっか~…………いっつもバタフライエフェクトがどうのとか言ってるクセに」
ふざけた会話をしつつ歩いていくと、すぐに滑走路に着きました。
「またね~」
「おう」
後畑は滑走路に放置してあった五式司偵に乗り込み、エンジンに点火しました。
わちゃわちゃしている基地の方々は無視しているようです。
「後畑空斗、出るぞ!」
誰も聞いてないのに、一人で発進宣言をすると、エンジン出力を一気にMAXまで上げ―――
ギュオオオオオオオオオオオオオン!
再び空高く飛び立ちました。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「何か言うこと無い?」
「ゴメンナサイ」
現在、後畑は畝傍の艦橋で前田に怒られています。
それも正座で。
「最初に言っとくけど、着陸した件じゃないよ……通信記録に草架の声が入ってたし」
「うん? それ以外になんかあったっけ?」
「『あったっけ?』じゃないよ! なんでこの森にナパームばらまいたんだよ!?」
「道作るときに面倒臭いから焼き払おうと思って」
何故こんな会話をしているのかと言うと、後畑の道の作り方に問題が有りまくりだったからです。
どうしたかと言うと……
森にナパーム弾を帯状にばらまく
↓
怒った魔物をまとめて機銃で挽肉にする
↓
消火剤(兼枯葉剤)をぶちまける
この三ステップでやらかしやがりました。
突然の爆発&森火事に、グランドバルト王国のお歴々が頭を抱えているですが……それはまた別のお話です。
「ハァ……それで、なんで急に道なんて作ろうと思ったのさ?」
「結城と約束したから」
「あー、もうこの件は良いや……聞きたいことがあるんだ」
「なあに?」
「お前になついてる狐耳っ娘いるじゃん」
「リディアのことか」
「あの子何語喋ってるの?」
「異世界語」
「なんでわかるの?」
「……ああ! 忘れてた!」
後畑は直ぐにイヤホン型の自動翻訳機を外しました。
「コレ」
「自動翻訳機か……異世界語って適応範囲外じゃない?」
「俺が全部登録しといた」
「俺にもくれ」
「いいよー」
後畑はポケットから予備の翻訳機を取り出し、データをコピーし始めました。
「ん、出来た。あげる」
「ありがと」
「そう言えば南が異世界語理解してたんだけど」
「データリンクじゃない?」
「ああ、アレまだ繋がってたんだ」
後畑が使っている自動翻訳機は畝傍の轟沈より前から使用していたもので、データ容量削減とバックアップのためにダーナとリンクしてあります。
南をサイボーグ化したときに、損傷した脳の一部と超小型コンピュータを繋げ、更にそれをダーナとリンクしていました。
恐らく、コンピュータが勝手に言語情報を引っ張って来たのでしょう。
「結城達はいつくるの?」
「多分明日ぐらいじゃない?」
「そりゃそっか」
「と云うわけで狩りに行こう」
「何処が『と云うわけで』だ……まあ良いけど。この世界の肉を食ってみたい」
「じゃあ早速レッツゴー!」
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
《畝傍から十数分歩いた所》
「居るね居るねぇ!」
「赤い猪だ」
「ロケット生肉じゃねぇか」
「それ違うヤツ」
現在、彼等(後畑、前田、南)は草むらに隠れてバーニングボアの巣を覗いています。
10頭ぐらいいます。
後畑は軍刀、前田は43式軽機関銃を、南はM37A1アサルトライフル(二丁)を持っています。
「俺が突っ込むから前田と南はテキトーに銃撃して」
「分かった」
「弾が当たっても恨むなよ」
「分かってらあ」
後畑はテキトーに返すと、軍刀を抜いてバーニングボアに斬りかかりました。
ガギンッ!
後畑に一番近いバーニングボアの首がぽとりと地面に落ちました。
「ブモオオオオオオオオ!」
仲間が殺されたのを瞬時に察知したバーニングボアが唸り声をあげましたが……
タタタタタタタタタタタタン!
ズパパパパパパパパパパパパパパパン!
アサルトライフルと軽機関銃が火を吹き、怒濤の高速連射で残りの猪の大半を射殺しました。
「ヒュー、やるねえ」
後畑も口笛を吹きながらサクサク猪の首を落としていきました。
ものの数十秒でバーニングボアの群れが全滅してしまいました。
ガサッ!
突然、背後の藪から物音が聞こえました。
「「「ッ!」」」
ビュッ!
タタタン!
物音に向かって後畑がナイフを投げつけ、南がアサルトライフルを発砲しました。
前田は二、三歩下がって軽機関銃を構えています。
「ガァッ……」
「クッ……大丈夫か!?」
「逃げるぞ!」
藪から出てきたのは三人。
全員灰色のローブの下に革製と思われる鎧を装備しています。
一人はナイフが左胸に深々と刺さっていて(要するに瀕死)、もう一人は小さな穴が左腕に三つ空いていて、最後の一人は無傷です。
「お前は報告を!」
「分かった!」
無傷のヤツがナイフを構え、瀕死の男が突然立ち上がり、左腕が使えないヤツは逃げ出しました。
「ハアッ!」
無傷の男がナイフを逆手にもって飛びかかってきました。
「ゴミがッ!」
ギギンッ!
後畑はナイフの刃を叩き切ると、そのまま軍刀の峰で強かに敵の鳩尾を殴りつけました。
「おらよっ!」
後畑はそいつの胸を踏みつけ、軍刀を鼻先に突き付けて問い質しました。
「お前、何処の所属だ?」
「……」
「言ってくれりゃあ見逃してやれるかもしれん」
「……」
「例えば、グランドバルド王国所属だったりしたときだなぁ……あの国には恩がある」
「ッ?!」
「……まさかそうなの?」
男はゆっくりと、しかし確実に首を縦に振りました。
「ヤベェ!」
「ナイフ刺さってる人どーすんのさ!? もうほとんど死人だよ!」
「直す!」
「どうやって?」
後畑は左腕の袖を捲りあげました。
「やれるか?」
「……めんどくさい、やだ」
「ほわあ!?」
後畑は驚きのあまりひっくり返りました。
「誰だ!」
「女の子の声だった気が……」
「お前喋れたの!?」
「「ちょっと待てい!」」
前田と南が振り返ると、赤紫髪の幼女が突っ立っていました。
目の焦点が合っておらず、ぼんやりした感じです。
「どう云うことか説明してもらおうか」
「俺もわかんないっていうか南さん顔近いやめて怖い冗談抜きでホントに分かんないから!」
「でも、心当たりはあるんだろう?」
「…………はい」
「それを説明してくれ」
「はい」
「面倒だし長いからかいつまんで説明するよ?」
「ああ」
「そんなに濃いの?」
「まず、畝傍の俺の部屋になんかヤバそうな魔剣的なサムシングがありました」
「うん」
「なんやかんやあってその魔剣に取り憑かれました」
「ふむ」
「色々試したけど外せませんでした」
「それで?」
「終わり」
「「いや分かんねえよ!」」
「何が?」
「俺達は何で喋りかけたかが気になるんだよ!」
「ああ、そういうことか……魔剣を外そうとして取り憑かれた左腕を切り落とした時にさ、左腕の切り口から触手的なサムシングが出てきてねえ」
「「……」」
「その触手が左腕をくっつけちゃったんですよ。切った跡さえ残さずに」
「じゃあ、お前はその回復力をアテにしたんだな?」
「そゆこと! 察しが良くて助かるね~……ってなワケでやってくれない?」
後畑は唐突に魔剣ちゃんに話を振りました。
「いいよ」
「おろろ? さっきはやだって……」
「魔力くれるならやる。くれないなら吸いとる」
「あげるからやってくれない?」
「うん」
魔剣ちゃんが傷口に手をかざすと、手のひらから黒い触手っぽいのが出てきて、傷口に殺到しています。
触手から緑色っぽい光が出てきて、傷がものすごい勢いで治っていきました。
ちょっと気持ち悪いです。
「おわった」
「ごくろーさん」
「魔力ちょうだい」
「どうやってあげればいい?」
「いつもの黒いの出して」
「あー……あれね」
後畑が頑張って黒いモヤモヤを噴出させると、魔剣ちゃんはそれに手を突っ込みました。
近くの草木が絶賛腐食中だと云うのに、涼しい顔でそれを吸っています。
「こんなに美味しいのは若い人間のクセに心の闇が相当深いということ……何かあった?」
「そっとしておいてくれ」
ビュッ!
突然飛んできた矢が、深々と後畑の首筋に突き刺ささりました。
「ガハッ!」
「後畑!?」
「大丈夫だ傷は深いぞ!」
「全然大丈夫じゃねーじゃん!」
「漫才してんなよ……俺死ぬ……」
「「ごめんなさい!」」
ガサガサッ!
「曲者めっ!」
「ぬわあ!」
どっかで見たことある女騎士が斬りかかってきたのを、南はアサルトライフルで受け止めました。
その女騎士の剣は、きれいにライフルの真ん中に食い込んでいます。
「ぐぬう、俺の銃が……」
「抜けない……ッ!」
ドゴッ!
「グッ……」
「チッ、浅いな」
南のミドルキックが女騎士の脇腹に命中しました。
しかし、どうやら手応えがあまり無いようです。
そして、女騎士が剣を捨てて後退り―――
「ちょっとちょっとストーップ!」
「ヤバイ~!」
「待て! 先ずは剣を置け!」
「それより誰かこの矢抜いてくれない!?」
聞き覚えのある声×3と、後畑の声が響きました。
次の投稿は10月中だと思います。