邂逅
ギュオオオオオオオオオオオオオン!
「久しぶりの空の旅は良いねぇ」
『砲兵のクセに戦闘機乗りとか役職多すぎでしょ』
「まーまー良いじゃん……ん?」
「ギギャッ! ギャギッ!」
「ギャー! ギャー!」
「ウヴォオー!」
彼の行方を阻むかのように、飛行モンスターの群れが現れました。
よくある下級デーモンっぽいヤツとプテラノドンっぽいヤツ、羽が四枚あるトカゲっぽいヤツの三種類がウジャウジャいます。
いっぱい居すぎて正直キモいです。
「キモッ!」
ズヴォアアアアアアアアアアアアアア!
後畑が反射的にトリガーを引き、60㎜機関砲と30㎜機銃が一斉に火を吹き、目の前にいたバケモノをあっという間にミンチにしてしまいました。
しかし、如何せん数が多く、殲滅は出来ません。
「ギャッ……ギー」
「ギーッ! ギー!」
「ヴォー……」
しかし、関わると錄なことにならないことを察したのか、すごすごと引き下がっていきます。
「森抜けるまでは大丈夫そうだな」
『GPSとかないから正確じゃないけど、もうすぐ森抜けると思うよ』
五式司偵は巡航速度がマッハ1~3ぐらいです。
因みに今はマッハ1で飛んでいます。
『お前がマッハ1で飛んでるなら、もうすぐグランドバルド王国が見えると思うよ』
「ふーん」
『国土は決して大きくは無いが、王は武闘派、軍は精強、そして美人が多いらしいよ』
「俺は美人より美少女の方が良いな」
軽口を叩きながら下を見ると、青々としただだっ広い平原と、砦&城壁(っぽい何か)を見つけました。
見た感じ結構な規模の町で、軍の駐屯地も見えます。
「見た感じ軍の装備は古そうだな」
『古いってどんぐらい?』
「多分8,8cmFlaKシリーズだと思うぜ……第二次大戦中のドイツ軍の高射砲だな」
『あの伝説の?』
「ああ」
そんなことを喋っていると、駐屯地上空に差し掛かりました。
すると……
ズドォン!
「ん? ……ぬわっ!」
いきなり下から砲弾が飛んできました。
ズドォン! ズドドドォン! ドォン!
「警告も無しに対空砲ぶっぱなすとは、良い度胸じゃねぇか」
そんな無駄口を叩きながら加速し、あっという間に対空陣地を抜けてしまいました。
なぜか近接信管が搭載された砲弾だったようで、凄まじい勢いで砲弾の破片と爆風が機体を叩いてきます。
しかし、もともと対空砲火をくぐり抜けて敵艦隊を砲撃、強行偵察をするのがこの機体―――五式司偵D型の役目です。
旧式の砲弾なんぞでは墜ちません。
そして―――
「ん? 下のアレは滑走路か? ……なんかF-2が並んでるケド」
ザ・空軍基地といった風体の基地が見えました。
後畑はスピードを落とし、ちょっと高度を下げました。
「んーっと……強行着陸しよっかな?」
『絶対ダメ! んなことしたら帰ってきたとき砲撃するぞ』
「おお怖い怖い」
失速ギリギリの速度で飛んでいますが、姿勢は安定しています。
「オイオイ……離陸の順番間違えてんじゃねぇか」
後畑が今目にしているのは、おおよそ正規軍人がやらないようなよく分からん行動でした。
滑走路の奥に行き、離陸準備をしている機体が居るというのに、いきなり別のF-2が横合いから飛び出し、無理に離陸しようとしています。
「あ……やりやがった」
飛び出してきたF-2が、そのまま離陸しました。
飛び立つには少々心許ない距離の滑走ですが、上手く離陸しています。
「ヒュー、やるねぇ! ってかあの挙動どっかで見たことあんな」
そんな事を口にしている間にも、そのF-2はぐんぐん高度を上げて、突っ込んで来ます。
「ちょっとつついてみるか」
後畑は急旋回しつつ機銃の射撃トリガーに指をかけました。
すると―――
『ザザッ……こう…た………える…!』
聞き覚えが有りまくる声の無線が届きました。
さらに言っておくと、この無線は何故か日本国防軍共通規格の周波数です。
少なくとも国防軍関係者であることは確実です。
「あ? この声まさか草架か?」
『お前後畑だろ!? そのおちょくるような機動は絶ッ対、後畑だ!』
「お、おう。俺だが」
『やっぱりな……色々かっ飛ばして悪いけど、後畑は何処に飛ばされてたんだ?』
「変な森の中」
『よく生きてたな……いや、後畑なら大丈夫か』
「ヌハハハ。俺は不死身だ!」
『ホントにな』
「んで、なんかある?」
『単刀直入に言うとだな』
「言うと?」
『今すぐ着陸して殴らせろ!』
「へいへい」
後畑の返事を合図に、草架のF-2が降下し、後畑もそれに続きました。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
《グランドバルド王国/王都空軍基地》
「こんのド阿呆!」
バコッ!
後畑は、五式司偵から降りるなり直ぐに、草架にぶん殴られました。
「クッ……殴られることはわかっていたが理由が分からん!」
「後畑、落ち着いて想像してみてくれ。突然、よく分からん森から、いかにもな大砲ぶら下げたゴツい超高速の飛行機が市街地と対空陣地を抜けて国の心臓、王都まで来たんだ」
諭すような口調の草架の台詞を珍しく真面目に聞いていた後畑ですが、草架の台詞が終わるなり首をかしげました。
「それが?」
「…………もういい。お前に通常の人心を期待した俺がバカだった」
「そうだな」
「開き直んな!」
「あ、あの~……草架殿? そろそろ私もまぜてもらえないだろうか?」
後畑と草架が漫才を始めかけた所に、待ったをかける勇敢(?)な女性がいました。
「あん? 誰だ」
「ったくお前は初対面の相手にもそれか。この人は―――」
「私はイゾルデ・シュミットバウアーだ。副騎士団長をしている……あなたは?」
「俺は後畑空斗海軍中佐だ。得意なのは殲滅戦と包囲戦だ」
後畑の風変わりな自己紹介に、早くもイゾルデの顔は引きつっています。
「そ、そうか。分かった」
「そんなことより草架、お前ドコでこんな美人引っ掛けてきたんだよ? 召喚されて運命の出会いデスカ?」
「だいたいそんな感じ」
「クッソ羨ましい!」
二人がふざけていると、基地の連中が集まってきました。
整備士は五式司偵に、騎士っぽい連中は後畑&草架のコンビに群がっています。
「おいこらお前ら俺の愛機になんかしやがったらただじゃおかねぇからな!」
取り敢えず脅すのが後畑流です。
「後畑、色々面倒だから基地に入ろうか」
「そうだなー。行こっか」
「ではお二人ともこちらに」
イゾルデの先導の元、二人は基地に入って行きました。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
《王都空軍基地/よく分からん部屋》
「見知った顔が……」
「うん。はぐれたのお前だけだよ? 後畑」
「後畑って悪運強いよね~」
「何かやらかしているかと思ったが。意外と大人しかったな」
「無事なら良いか……」
後畑が部屋に入ると、見知った顔が三つと、知らない顔が一つ並んで座っていました。
台詞に波線伸ばし棒(~)がついてるのが鷹田、その次の台詞が結城、その次が岩本です。
鷹田は重火器と爆発物の使い手、結城は若干マッドなサイエンティスト(万能)、岩本は脳筋白兵戦野郎です。
因みに、後畑は砲/狙撃手で攻撃特化な歩兵、草架は中近距離戦が得意な防御特化の歩兵です。
「お前が、噂のコウハタクウトか」
突然、見知らぬ顔のオッサンが口を開きました。
なかなかにナイスガイな声です。
「オッサン誰?」
「……私はアロイス・アドルフだ。騎士団長をしている」
「アドルフ、ねぇ……」
後畑は含みのある笑みを浮かべています。
「オジサン、ミドルネームが"ヒトラー"だったりしない?」
「何の話だ?」
「何でもないよ」
「聞いていた通り、おかしな男だ……それに、通常の人間ではないらしい」
「どういう意味かな?」
「その左目のモノを外せ」
「……」
「えーっと……後畑? 森で何してきたのかな?」
「後畑もとうとう人外の仲間入りか……少し感慨深いな」
「人外? どういうことだ?」
「もとから人間っぽくなかったけどね~」
「俺の扱いッ!」
「んで後畑、早く外しなよ」
「……」
「どうしたの?」
「カラコンつけたんだけど外せない」
「……コンタクト外せない病まだ治ってなかったのか」
「……うん」
「「「「「…………」」」」」
「ハァ……俺が外してやるからじっとしてろ」
「はーい」
後畑は無駄にお行儀良く気をつけの姿勢になり、そこに草架が容赦なく左目に指を突っ込みます。
「取れた……もうヤダ」
「何が?」
「お前! いつ人間辞めたんだよ!?」
「ちょっと前☆」
「☆なんかつけとる場合かー!」
バシーン!
草架のツッコミと同時に、良い感じの音が響きました。
「痛ったぁ! それよりどっから出してきたその光るハリセン!?」
「魔法で作ったんだよ。一瞬で出てくるツッコミの必需品」
「これこそ正に才能の無駄遣いだ」
「お前に言われとうない」
二人が漫才(?)を始めていますが、その横ではイゾルデとアロイスが深刻な顔で頭を抱えていました。
「団長、私はどうすれば……」
「俺も分からん……だが、一つ気になることがあるな」
「なんでしょう?」
「あのコウハタという男、ただ者ではない」
するとアロイスは立ち上がり、脇に置いてあったロングソードを手に取りました。
「コウハタとやら……剣は持っているか?」
「ソニックブレードなら」
「訓練所に向かうぞ。ついてこい」
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
《訓練所:後畑サイド》
「剣を構えろ」
「いやゴメンちょっと急すぎない!?」
「人生は常に風雲急を告げるモノだ」
「ナニイッテルカワカラナイ」
後畑は後畑なりに抵抗していますが、そんなもの気にせずにアロイスが準備を済ましてしまいました。
「よし。勝負はこのコインが地面に着いたらスタートだ……寸止めでやるぞ」
「俺やるって一言も言ってないよね?」
後畑が無駄口を叩いている間にアロイスはコインを投げ―――
「行くぞ」
「は?」
コインが地面に激突し、硬質な音をたてるのと同時に、アロイスの姿が消えました。
「カッコつけてるトコ悪いけどアロイスさん遅すぎない?」
ただ、後畑は既に……いえ、最初から捕捉していたようです。
上段から全力で振り下ろされたロングソードを愛用の軍刀で無造作にいなし、そのまま軽く切りつけました。
ガキッ!
アロイスは間一髪と言った感じで防御し、そのまま一歩下がりました。
「速いな」
「いやアンタが遅いだけ!」
ギギッ! ズギギギン!
後畑は軍刀のスイッチを入れ、面倒臭そうに軍刀を振るってアロイスに連擊を叩き込んでいきます。
「もうヤダ! 固すぎ!」
「固さこそ我らが騎士の誇りだ!」
「知るかー!」
後畑がゴネたその時、アロイスがまた消え、いつの間にか後畑の後ろに立って剣を構えていました。
今度は横薙ぎのフルスイングなようです。
「うんダルい」
「!?」
後畑はこれにも反応し、今度は全力で軍刀を叩きつけました。
ガギッ……ギンッ!
「なっ……」
「戦車も切れるこの軍刀に、鉄の塊が切れないとでも思った?」
「チッ……まだ終わってはいないぞ!」
アロイスはそう叫ぶと、後ろにとびすさりつつも手に魔力を集め、光の剣を出現させました。
「来い!」
「うーん……まだまだ遊べそうだねぇ」
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
《訓練所:草架サイド》
アロイスと後畑の一進一退の攻防を、草架以下5名はなんとなく眺めていました。
すると、
「これはあれだね~」
と鷹田が曖昧に言い、
「うむ。団長殿は完全に遊ばれているな」
岩本がそう分析し、
「そんなことより後畑の軍刀だ……気になる。何かを覆す予感がする」
結城がおかしな所に目をつけ、
「ハァ……やっぱりアイツはおかしい」
草架がこう締めくくりました。
「遊ばれている? 互角に見えるが」
もっとも、イゾルデには違って見えるようですが。
「互角? 無い無い。後畑が真面目に刀使ってる間はおふざけモードだよ」
「そ、そうなのか?」
「まあね~」
「ああ」
「やはりあの軍刀、黒くなっているな……素材を変えたのか? いやしかし―――」
「結城、戻って来てくれ頼むから!」
草架は、自分の世界に入り込みかけた結城を引き戻しつつ、戦闘中の後畑に声をかけました。
「遊ぶのは終わりにしてくれ! 俺は早く休みたいッ!!」
次の投稿は9月のどこかになりそうです。
あと、少しオマケです。
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前田「ねーねー南ー」
南「どうした?」
前田「なんで狐耳っ娘の言葉理解できたの?」
南「わからない」
前田「マジで言ってる?」
南「多分後畑のせいだ」
前田「よし。アイツ着陸しやがったし、帰ってきたら撃墜だな」
南(これは相当キレてるな……)