拠点を探ろう! その2
~前回のあらすじ~
拠点探索の途中、畝傍の中央制御コンピュータ室に行きたいと言い始めた後畑。
果たしてその真意とは……?
「どういう意味ですか?」
「まんまだよ……ここの中に、頼りになりそうなヤツが居るんだが、そいつを呼ぶのがなぁ」
「呼ぶのが?」
「恥ずい」
ちょっとした静寂が彼らの間にやって来ました。
後畑に羞恥心が有ることが大分疑わしいからでしょう。
「ハァ……分かりました。待ちますよ、外で」
「さっすが零だ。ものわかりが良い」
「それじゃあ早く行ってくださいよ」
バシュー……
この部屋には中央制御量子コンピュータ、通称"ダーナ"があります。
ダーナは、三時間ごとに変わる暗号とバンカーバスターも余裕綽々で防げる部屋と扉で守られています。
真っ暗な部屋に佇む、半透明な球体から、多数の黒っぽい円柱と六角柱が突き出た不可思議な構造物。
そう、これこそがこの艦の頭脳、ダーナです。
ブ、ズズ、ブゥン……
後畑が入ると、一斉に周囲の壁―――正確には、壁のタイルっぽいものの隙間の筋が、発光しました。
扉からちょっと離れた所で立ち止まると、コホンと咳払いをした後、真面目な顔になり―――
「新しい時代の夜明けだ……目を覚ませ、アグニカ・カイエル!」
謎の台詞を叫びました。
「フム。お前にしてはなかなか―――」
「うるせえ! 恥ずかしい事させンじゃねえええええええええ!!」
バゴッ!
突然背後に現れた気配に、後畑は回し蹴りをお見舞いしました。
背後に現れたソレは、上下黒服の人間でした。
「ウグッ……いきなり何を―――」
「このロリコンがぁ!」
ドゴッ!
後畑の右フックが、正確にソイツの顎を捉えました。
「ウガッ!」
「うん。スッキリした」
後畑は晴れやかな顔で言っています。
ぶっ倒れている人はちょっとたってから飛び起きました。
「まったく、ノリで人を殴るなよ。俺は鷹田みたいに頑丈じゃない」
「んなこと知ってらぁ。今鷹田いねーからちょうど良いサンドバッグがないんだよな」
「………………………………人でなし」
「ったく、細かいこと気にすんなよ。お前今は機械人間だろ? 南」
「お陰さまでな!」
今現在、後畑と会話している人(?)は、南友廣と言います。
畝傍での戦闘中に受けた傷が原因でサイボーグになりました。
そして、その怪我の原因の一つが後畑の命令違反だったりします。
「まーまーどーでも良いことは置いといてさ。お前以外のココに眠ってるヤツで使えるのいない?」
「フム……使えるのは前田ぐらいだが、アイツは重傷で永久保存版のコールドスリープ装置に叩き込んである。」
「そんなに傷酷かったっけ?」
「左肩を骨折し、砲弾と装甲の破片が腹部に複数食い込んでいる。体内に入り込んでるのもあったな」
「ソレぐらいなら俺と弌がいればなんとかなるな」
「じゃあ出すぞ」
南が部屋の壁に手を置き、ぐっと押し込みました。
すると―――
バシュー
聞き覚えのある音と共に、上面が透明になっているコンテナがせり出してきました。
「やけに凝ってんな」
「まあ、死なせないだけならダーナに任せるのが一番良いからな。だからこんな面倒な作りにしてある」
「ま、さっさといきますか」
「医務室だよな? 早く行くぞ」
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「弌! さっさとやっちゃって草架達を引き取りに行こうぜ!」
「はーい。じゃあ二人でサクッと終わらせましょう!」
後畑は完全に草架達を引き取る気ですが、いつもであれば彼が引き取られる側です。
何故かこーいう事に対しては、比類なき強運ぶりを発揮しやがります。
「じゃあ弌! ヨロシク! 俺はサポートに徹するからさ」
「分かりました」
弌が背中から人間味の無いメカメカしたサブアームが四本、出てきました。
サブアームの先端には、レーザーメス、ピンセットみたいな指、注射器、ライトの四つが装備されています。
「ちょっとサブアームの装備替えて来ますね。注射器とか要らないんで」
そう言うと、医務室の奥に引っ込んでいきました。
そして、十数秒後に出てきました。
変なロボットを連れて。
「ご主人! ロベルトちゃんを連れてきたましたよ……使い方ぐらいわかりますよね?」
「おいおい……俺はこれでも軍用医師免許持ってるから大丈夫だよ」
ロベルトとは、専用の機材を装着した医者の動きをトレースし、それをAIが補正してもらいつつ手術をするためのロボットです。
しかも、この艦では接続しているAIがダーナなので、手術の成功率は高いです。
後畑は無造作にロベルトを起動し、トレース用のグローブを装着し、VRゴーグルみたいなのを着けました。
これはロベルトと視界を共有するためのもので、ロベルトが逐一患者の状態を視界の片隅に表示してくれます。
「じゃ、やるぞ!」
「はいっ! 頑張りましょう!」
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「南、終わったぞ」
「…………どうだった? だがソレよりも聞きたいことが―――」
「大成功さっ! ……ってか南疲れてるみたいだけど大丈夫?」
よく見ると、南はひどく疲れた顔で壁に寄りかかっていました。
「大丈夫じゃないに決まってるだろ……緑色の女の子と狐耳の女の子がいるんだぞ? これは夢か? もしくは後畑お得意の特殊メイクか?」
それを聞いた後畑は一瞬キョトンとしてから、なんか頷きました。
「ああ、言い忘れてたけどね。ココ、異世界」
「………………………………は?」
「まさかダーナの部屋から出なかった系男子ですかアナタ!?」
「ああ」
「ん~っとね。説明はメンドクサイからかっ飛ばすケド……アナタは畝傍と共に異世界に何故か召還? え~っと……転移させられました!」
「もういい。思考を止めれば問題ない」
「そろそろ前田が起きるハズ!」
「いやいやそんなに早くは―――」
ウィーン
「み……な、み……助けて…………」
「おっ、お前! 大丈夫なのか!?」
「大丈夫なワケないでしょ。後畑謹製のドラッグのせいでやたらと体の調子が良くて怖い」
すると南は後畑の方に顔を向けました。
やけに真面目な顔をしています。
「後畑……前田に何を飲ませた?」
「フッフッフッ……よくぞ聞いてくれた! あれは、ココら辺の謎の薬草に、ムカデと冬虫夏草の乾燥したヤツを擂り潰して混ぜ混ぜして完成したポーション的な何かだッ!」
「「病人になんてもん飲ませてんだ?!」」
「病人だからこそさ!」
相も変わらず無茶苦茶な後畑に、早くも諦めと呆れの視線が向けられました。
「ハァ~……そう言えば、草架は一緒じゃ無いの?」
「ああ。アイツは別の場所で召喚されたっぽいな」
「大事なブレーキ役が……」
「召喚? え? どゆこと?」
「そういや前田にはなんも説明してなかったかな。実は―――」
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
《畝傍/食堂》
「ブラックホールで異世界に行こうとか……」
「さすが後畑だな。無茶すぎる」
「そういえば自分から此の世界に来たいとか言っとるヤツ初めてみたのう」
「「誰なんだこのロリは……」」
「この子はヴァンパイアの……え~っと……お名前何て言うの?」
「「いや知らんのかい!」」
「妾はルイス=バートリーじゃ。言っておらんかったか?」
「うん言ってない」
「(ねえ、バートリーって……)」
「(まさかエリザベート=バートリーの親戚か?)」
「(それって吸血鬼カーミラのモデルの話かにゃ?)」
「男三人で何をコソコソとしゃべっておるのだ? 些か気落ち悪いぞ」
「「「いや、だってさぁ……」」」
三人は一斉に顔を背けました。
ガチャ
「お兄ちゃーん、いるの?」
「おう」
食堂にリディアが来ました。
そしてリディアを見た南と前田は、後畑に白い目を向けました。
「後畑お前……」
「好みの幼女拐ってくるとか……」
「違う違う! あの子は教会で拾ったの! 決して拐ってなどないッ!」
「「信用できねぇ……」」
リディアは南と前田、ルイスを見て一言。
「この人たち誰?」
「んーっとね……右側のノッポが南で、左側のオタクが前田で、こっちの銀髪テンプレ幼女が―――」
「ルイス=バートリーじゃ。……話は逸れるが、そこの娘っ子も旨そうじゃの」
「ヒッ……」
リディアは危険を感じ取ったようで、ササッと後畑の後ろに隠れました。
「そう言えばさ、めちゃくちゃ話変わっちゃうけど……艦載機ってまだ残ってるの? 南」
「まあ、一応整備はしてあるが……水偵は無理だな。残っているのは……無駄に頑丈なあの曲者ぐらいだ」
「ま、アレさえあれば十分だろ……すぐに準備してくれ」
「何をする気だ?」
「いやあ、異世界の空を遊覧飛行したいだけさ」
「なるほどな。直ぐに準備をしよう」
「助かる」
少々おかしなニュアンスで使われた『遊覧飛行』という言葉に、南は即答しました。
「じゃあ俺は艦橋にでも行ってるよ……通信設備が生きてると良いね」
「おう。助かるぜ前田!」
「なら、俺と後畑は格納庫だな……行くぞ!」
「なんか楽しくなってきたッ!」
後畑と南は艦尾に走り、前田は食堂を出て直ぐにあるエレベーターに乗り込みました。
「え~っと……お兄ちゃん、行っちゃった……」
「突然どうしたんじゃ? あやつ等は……」
可哀想な事に、リディアは怖ーいヴァンパイア(ルイス)と二人きりになってしまいました。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
《畝傍/格納庫》
「いやー……ホントに頑丈だな。コイツは」
「まあ、お前の荒い操縦に耐える事ができたんだからな。当然だ」
ずっと埃を被っていたが為に使い物にならなくなってしまった水偵が並ぶなか、一際大きく、そして銀色に輝く機体が鎮座しています。
「五式司令部偵察機、幻のD型……砲撃仕様」
「航空機に155㎜砲をニ門も積んだ馬鹿げた機体……正直、旧ソ連軍やドイツ軍の二の舞になりそうだが」
「ま、コイツは意外と戦果あげてたけどね」
五式司令部偵察機―――通称"五式司偵"は、日本国防軍で一番重武装な偵察機です。
ジェットエンジンを三つも積んでいるバケモノ仕様なので、重武装にもかかわらず国防軍内でも一、ニを争う速度を出せます。
通常のA型、艦載/艦上機のB型、VTOL仕様のC型、大砲をニ門積んだ魔改造仕様のD型の、四タイプあります。
A、B、C型は60㎜ガトリング機関砲ニ門と30㎜翼内蔵式機銃ニ門が基本武装なのですが、D型はさらに155㎜低反動砲をニ門つけています。
因みに、155㎜低反動砲は翼の付け根という、かなり独特な所に装備してあります。
さらに言えば、取り外しは出来ません。
「じゃ、南。頼んだぜ!」
後畑は五式司偵に乗り込むと、南に声をかけました。
「分かった。エレベーターで上に上げてからカタパルトに接続するぞ……そこそこ揺れるが、いいか?」
「勿論!」
ガコンッ……ギュイーーーン……ガシャン!
薄暗い格納庫から、爽やかな青空と鬱蒼とした木々が同居する、不可思議な森へ。
『カタパルト接続完了、進路クリアー! 発進どうぞ!』
「どこがクリアだよ……」
『大丈夫大丈夫。そんぐらいの木なら、強引に突破できるから』
「成る程ねぇ」
『それじゃ、改めまして。発進どうぞ!』
「了解。後畑空斗、五式司偵、出るぞ!」
バシュッ! ギュオオオオオオオオオオオオオン!
ローレンツ力と蒸気圧により、一秒足らずで700㎞/h近くまで加速され、凄まじいGが彼を襲います。
「うおあああああああああああああ!」
そして、彼は大空に飛び出しました。
すいません。なんか話が気にくわなくて全面改訂してたら大分遅れてしまいました。
次の投稿は、8月中にはできると思います。