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「殿下」

「ハワード公爵夫人」

「…」

「き、今日は宰相殿とともに来ていないのだな」

「テオなら仕事場におりますわ」

「そ、そうか」

「殿下」

「…」

「ふ、ふふふふふふふ」

「す、すまない!他意はなかった!!!!!リリアーナのドレス姿をあなたに見せられなかったのは仕方なかったのだ!」

「仕方なかった…?」

「?!」

「さぞかし愛らしかったでしょうね。私のリリアーナは」




「ひっ」とアグノアが悲鳴をあげる。致し方ない。致し方ないのだ。私ですら恐ろしい。もう一人の侍女を下げておいて正解だった。普通の神経なら倒れてしまうだろう。公爵夫人を目の前にしているのではなくドラゴンやら伝説級の化け物やらの人の手でどうにも出来ないものを相手にしているようで神経が擦り切れる。国取りの方が幾倍もマシだ!




「私も見たかった!!!」

「(やっぱりそこか!)」

「何故なの?!何故私が見れないの?!王宮の夜会には出られないのは別にいいとして!何故私の天使のドレス姿が見れないの?!」

「急に決まったことで」

「知らないわよ!そんなこと!!!」

「(理不尽…!)」

「テオに聞いたわ!すっっっっっっ………ごく可愛かったのでしょ?!」

「はい!」

「即答?!腹立つ!!!!!!」

「ハワード公爵夫人。口調!」

「煩い!ブレア!!!貴方も気が利かないわ!!!」

「(飛び火?!)ですが」

「ですがもへったくれもないわ!不可能を可能にするのが職務でしょ!」

「無茶を仰らないで下さい」

「ハワード公爵夫人、お、落ち着いて下さい。今お茶をいれますので。何よりリリアーナ様が」

「…わかってるのよ!わかってる…私の因果な運命とこの性格とあのくそったれのせいで私はあの子の美しい姿を見れないことなんて理解しているのよ!」

「…くそったれ」

「…口調が。下町の酔っ払いではないのてすから」

「煩いわよ!」

「まずその因果な性格を治しては?」





「治るものなら治しているわよぉぉぉぉぉぉ!!!!!」と荒ぶるこの人を周りは「絶世の美女」とか「妖艶な人妻」と表すことが多い。妖精的な女神的なリリアーナとは違い、出るとこ出て引っ込むところは引っ込み、いつもアンニュイな表情を浮かべつつニヒルに笑うこの人はある意味「物語の中の悪役令嬢」であり「ヒロインと対極にある色気を持つ女性」を体現している。然し乍ら私は知っている。嫌という程知っている。


この人は大将軍であるセス ブラッシュをある意味超える脳筋と戦闘センスを受け継ぎ、拗れに拗れた面倒な天邪鬼であることを。





そしてリリアーナ親衛隊名誉顧問に叙されるほど娘命なのだ。






「因果な性格ですね」

「煩いわよ!」

「ハワード公爵の時も凄惨だったが、もう一段酷いな」

「ああ!恨めしい!!!あの子を褒めれば褒めるほど愛でれば愛でるほど!真逆の台詞が口を吐くこの性格が怨めしい」

「…幼少の時からですから…リリアーナ様の自己評価が著しく低いのも仕方がないのかもしれませんね」

「知っている者は変換できるかなぁ。知らぬと相当だからな」

「ぐぬぬぬぬ」

「リリアーナの呪いの一つであるから。捨てて置けないのは事実だ」

「呪い?」

「…あなたとあの人の物語がリリアーナにとっては最大の呪いだ。そして私たちにとっても」

「…」

「リリアーナは王妃になれないと思っているところがある。なりたくないとかではなくて、なれない。才覚も十分で家柄もみあっているのに。幼馴染で5歳までは普通に私の妃になると言ってくれていたのに…!!!!!」





握る手から血が出てますよ。え?!血の涙ですか?!!と宣うブレア。血の涙の一つも流すだろう!5歳の誕生会で「やはり私には妃など無理です」と言われたことを思い出しているのだから!




「あの後だったわね。天使が転生者認定をされたのは」

「ええ」

「そして私ががっつり嫌われたのも」

「こっちもですか?!面倒くさい」

「煩いブレア!」

「黙れブレア!」

「…はぁ」

「まぁいい。リリアーナの転生者としての記憶も現実とあまりにもかけ離れている。市井で暮らす民達ですら絵物語と笑い嘘だと知っているあの人の作った無茶苦茶な話が彼女の中での純然たる事実だ。」

「何故そのようになったのでしょうか?」

「わからない。転生者としても異質だったからなぁ。あとあの人にいいように使われてもたまらない。洗脳したのではないかと言う話すら出ていた」

「あのくそったれ!」

「ああ!それは!アンティークのカップです!!!!やめてぇ!!!」

「思想としても教養としてもトップクラスの記憶。ただ技術面は我々が理解できないほどに高度。」

「元々、転生局でもいつかのためそれらの技術を記録しておこうとしていたくらいだものね…なのに」

「ああ…(割れた…)」



リリアーナはその技術を含む自身の全ての記憶を否定している。取るに足らない記憶として。いくら周りが素晴らしい記憶ですと言ったところで曖昧に笑うだけだ。リリアーナにとってあの人の言った「役に立たない記憶」の一言が全てを決定づけている。

情報の優良性は何も再現の有無だけで決まるわけではない。新しい発想がこの世界にとって有効になる時もある。リリアーナの場合、「社会福祉」と言われる公的システムが有効的な思考として認定されている。それなのに、と思って奥歯を噛みしめる。





「リリアーナ様は何故」

「知らないわ。」

「ハワード公爵夫婦は戦略結婚。王家は恋愛結婚。自分は本来王家に弓引いた罪人の娘。恩赦によって今の地位にある。いつ自分が王家に弓引いてしまうかもしれない。」

「リリアーナ様」

「真逆なのにね」

「いくら言ってもダメなのよ。リリアーナは、変に頑固だから」

「知ってますよ。でも責任感が強いんですよ」

「ええ」

「そこが可愛い」

「そうよ!当たり前じゃない」

「…この呪いを早くといてあげたいものです」

「お願いね。貴方様のことは信頼していますから」

「ありがとうございます」







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