-再会の『白』-
やはり、如月蒼伊は「ハク」を知っていた。
その事実は、私の夢が夢ではない可能性を示していた。
もし、あの夢が「誰かの記憶」だったりするのなら、私の夢に出てくる世界は、何かの記録として残っているかもしれない。
それを確かめるため、国内でも最大級の図書館といわれる「天上学院図書館」に足を運んでみることにした。
校舎とは別になっている図書館に行くため、昇降口で靴を履き替え、外に出る。
広い学校というのも、意外とめんどくさいものだ。
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図書館に到着し、私は言葉をうまく見つけられなくなった。
何というか、大きすぎる。
とりあえず館内に入ると、受付にいたお姉さんに話しかけられた。
「こんにちは、赤のネクタイということは、1年生ですよね?ここの説明は必要ですか?」
図書館の説明、というのも不思議なものだが一応聞いておくことにしよう。
「お願いします。」
「では、まず学生証をご用意してください。図書館の初回利用時のみ、受付で内蔵チップを読み込んで利用者登録を行います。その後の利用については、図書館のメインホールへの入口ドアに設置されている箱のようなものに学生証をかざしていただければOKです。」
「はい、ありがとうございます。」
この学校のシステムはよく分からないが、説明通りに学生証を差し出すと、受付のお姉さんが機械に学生証を通す。
「1年Aクラス、白澄一音さんで間違いありませんか?」
「はい」
「では、どうぞお入りください。」
メインホールへのドアが開き、中に入る。
本の多さに驚きキョロキョロしていると、男性が声をかけてくれた。
「ここのご利用は初めてですか?私はここの司書の天童明といいます。お願いしますね。何かお探しですか?」
頭の中で「夢」の事を思い出す。
「えーっと…『シキノコク』という国についての本はありますか?」
「色ノ国…ありますよ、こちらです。」
司書の男性は迷うことなく私をその本まで導いてくれる。
「ここにあるのが色ノ国に関する本ですね。と言っても、藤原海さん、花さんというご夫婦の書かれた数冊しか無いんですけどね」
情報のあまりの細かさと正確さに驚く。
「あの、ここの本、全部把握してるんですか?」
そう聞くと、彼は少し笑って答えた。
「いえいえ、いくら本が好きでもそれはさすがに難しいですよ。色ノ国については、私が高校生の時に調べていたので印象に残っていたというだけです。…それにしても、色ノ国なんて、よく知っていましたね。この本を読んでいる人なんて、ほとんどいないんですよ、ほら。」
話しながら何かの機械を操作し、本の貸出履歴を私に向ける。
そこには、「天童明」の名と、他の数名の名だけが何度も記録されていた。
「え、これ、天童さんと他の4人しか借りてないってこと…ですよね?」
「そう。私が高校生だったときの親友たちなんだけどね。本当にこの本を読んでいたのは、あの頃の、私たちだけだったんだ。だから、君がこの国の名前を出した時、驚いたよ。」
「あの、じゃあ天童さんは、なぜこの国に興味を持ったんですか?」
「ふふ、今は秘密と言っておくよ。この本を読めば、分かるかもね。あぁ、ヒントを1つあげよう。私たちの『名前』だよ。」
「名前…。天童、明…さん?」
「あと、私の親友たちも、ね。じゃあ、私はそろそろ失礼するよ。ごゆっくりどうぞ。」
本を読めば分かる。あの人はそう言った。どういう意味なんだろう。
とりあえず「色ノ国」の本を1冊手に取ってみる。
第1巻はこの国の歴史について書いてあるらしい。
パラパラとページをめくると、気になることが書いてあった。
「白の髪と金の目を持った王子、白明の誕生…私と、同じだ。この人が、夢の中での『私』…?」
パラパラと第1巻を読み、第2巻に手を伸ばす。
第2巻は、色ノ国の中心となる、王家と貴族四家からなる「五家」の歴史と系図が書いてあるらしい。
王家の系図を見ていると、「白明」という人物を見つけた。
色ノ国の第11代の王らしい。
ページをめくると、貴族の系図があった。
どうやら、この国の初代の王である「天明」という人物に仕えた「春花」、「夏海」、「秋月」、「冬雪」という4人の子孫たちが、「四季四家」と呼ばれる中心貴族のようだ。
一通り系図に目を通すと「冬雪」の本家によく知った名前があった。
藍、青の髪と銀の目を持った姫。
生存時期は白明とほぼ同じだった。
これが夢の中の少女であることは間違いないだろう。
藍という人物について書かれたページを読んでいると、気になる単語がいくつかあった。
「色ノ子」と「彩の時代」という2語だ。
用語ページでこの2語について調べる。
「色ノ子」は、この国で稀に生まれてくる、髪と目に黒ではない色を持った子で、様々な分野で優れた才を発揮する。
そして、同じ色を持った子は、同時に2人以上存在することはない。
「彩の時代」は、その色ノ子が五家に集中した奇跡の時代、
ということらしい。
もう一度春花の系図に戻り、彩の時代の頃を見ると、
緑の色ノ子「翡翠」と桃色の色ノ子「桜」
という人物がいた。
夏海には、紫の「藤忠」という人物、
秋月には、黄の「山吹」と赤の「紅」、
冬雪には、青の「藍」と橙の「灯」、
と、白明の周りには本当に優秀な人物が揃っていたようだ。
夢のいくつかを思い出してみても、白明の周りには常に笑顔が溢れていて、皆に愛された王だったことがうかがえる。
─悲しい夢といえば、藍姫が泣き叫ぶあの夢くらいだ。
今までの夢を振り返り、出てきた言葉や人名を調べる。
これを繰り返していると、少しずつ、白明の周りのことも白明自身のことも自分の中に吸収されて、まるで「私」が「白明」になったような不思議な気持ちになる。
ついさっきまで「夢」であったはずの映像が、自分の記憶よりも鮮明に「記憶」として再生される。
そして、「私」の記憶は、ここで途切れてしまった。
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「如月君、木原君、星本さん、色ノ国についての本は、この奥にあるよ、今は先客が…」
「あざっす!この奥っすね!失礼します!」
「翠、ここじゃない?」
「だな、入ってみよう!」
「…白澄、お前もここに来てたのか!」
『白澄…。それが『この子』の名前なんだね…。でも、私は『この子』とは違う。私の名前は『白明』だ。ふふ、それにしても、懐かしい顔ぶれだ。ね、藍姫、翡翠、灯。また会えたこと、嬉しく思うよ。』
「…っウソ、本当に『ハクメイ様』なの…?」
『あぁ。君は灯。私の妻である凛のお付きの女官だったよね。』
「それは、私の『夢』…?」
『違うよ。それは灯の『記憶』だ。…疑っているようだけど、私は本当に白明だよ。信じてほしいな。』
「…ちょっと待て。お前が白明なら、白澄はどうしたんだ。アイツは無事なのか?」
『久しいね、藍姫。元気の良さは、あの頃と変わらない。白澄さん、は私の意識の奥で眠っているよ。あまり体を借りていても申し訳ないしね、そろそろ彼女を起こしてあげようと思うよ。では、また会おう、ね。』
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「おい、大丈夫か!」
目が覚めると、目の前には如月蒼伊と緑の人とオレンジの人がいた。
「アオイさん…?何で、ここにいるの?私は何で倒れてるの?」
「白澄か!良かった、戻ってきて」
「戻ってきた、ってどういう意味?」
「お前、ついさっきまで『白明』に乗っ取られてたんだよ。その間に俺らがここに来て、アイツが急にお前の体から抜けたせいでお前はぶっ倒れたんだ。背中、痛てぇだろ。」
そういえば、ズキズキと鈍い痛みがある。
「あ、それより、そっちの2人は、誰?」
緑の人とオレンジの人の存在を思い出し、如月蒼伊に聞く。
「あぁ、こいつらは…」
「自己紹介、するね!私はBクラスの星本燈!よろしくね、えっと、カズネちゃん!」
とっさに自己紹介したこの子。私と正反対の子だ。明るくて、可愛い。
「よろしく、アカリちゃん。」
「アカリで良いからね!次、アンタの番!」
アカリちゃんが後ろの人の肩を叩いて言った。
「お、俺かー!俺は燈と同じくBクラスの木原翠。よろしくな!」
ノリが如月蒼伊といた人と似てる。うるさい。
「よろしく、ミドリ…さん。」
「俺もミドリで良いよ!ついでにコイツもアオイで良いよ!な、蒼伊!」
「別に、良いけど…お前、馴れ馴れしいな…柊に似てる。うるせぇ。」
「シュウ…あぁ、あいつか!さっきの!つーかあの人どこ行ったんだ?置いてきちゃったけど!?」
「どうせ1人でナンパでもしてんだろ。メンドクセェからほっとけ。」
賑やかだ。とても。
今まで見てきた「夢」のようだ。
私の過ごしてきた静かな日々とは全く違う。
だけど、とても心地良い。
この学校に入って、この人たちと過ごしていくんだ。これから。
─同じ「夢」を見る、この人たちと。
こんばんは、木星です。
お久しぶりの更新になってしまいました。
今回はとりあえず1つのまとめ、のようなお話でした。
視点は白澄一音ですが、途中で噂のあの人に切り替わります。
「白明」の読み方ですが、即位前は訓読みの「しろあき」、即位後は音読みの「ハクメイ」、ということにしており、だいたいお話の中で出てくるときは「ハクメイ」読みです。
今回もお読みくださりありがとうございました!
質問、感想など、Twitterなどでもお待ちしております!
木星寿比汰




