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009話 現実と夢

今回から試験的に改行を多目に取り入れました。

不評であれば戻す予定です。



「翼! 起きてるー?」


 翼は自分の名を呼ぶ声が聞こえてきて目を覚ます。


「ん、起きてるよー」


 今起きたのだが、意味もなく既に起きていたよいうように返事をする。


 翼の部屋は二階にあるため、彼の母親は階段の下から顔だけだして大声で言っているの。


「朝食、机の上に置いてあるからともちゃんにも伝えてねー。お母さんたちは出かけるから、あとは宜ねー」


 翼の母親が妹にも伝えるようにと大声でお願いする。


「わかったー。いってらっしゃーい」


 同じく翼も大声で返事をする。


 もう朝か。翼がベッド脇の棚に視線を向けると、時計の針が九時を指している。昨日は、ログアウトして直ぐにそのまま眠ってしまったため、シャワーを浴びるべく一階へと欠伸をしながら降りていく。


 シャワーを浴びたあと、歯を磨きながら鏡をのぞき、翼は自分の姿を見る。

 これが現実だよな。鏡の中に写し出される自分の姿を確認しげんなりする。


 しかし、フロリバでの翼のアバターであるスカイは、現実とは違いまさに翼のコンプレックスを解消してくれている。それを考え嫌になった翼は、さっさと朝ご飯を済ませるために口をすすぎ洗面所をあとにした。



――――――



 ニーナはまだ来ていないか。


 ログインし翼からスカイになる、フレンド一覧にあるニーナの名前が灰色表記されているのを見てそう判断する。

 ニーナが来るまでインクの森で狩でもしようかと思ったが、ろくに昨日の戦果を確認していないことを思い出し、この機会にステータスを含めて確認することにした。

 今日は土曜日ということもあり、町の中はプレイヤーでいっぱいだ。とりあえず腰を落ち着かせて確認するため、酒場に移動することにした。


「ステータスオープン」


 酒場にやって来たスカイは、酒場の奥に空席をみつけそこで確認することにした。



 【名前】スカイ 【性別】男性 【年齢】十五歳

 【種族】竜人族 【称号】冒険者

 【レベル】10

 【体力】140/140(C-)

 【魔力】160/160(C)

 【能力】総合 C-

     腕力:170(C)+5

     知力:160(C)

     素早さ:110(D)+5

     器用さ:100(D)

     物理耐性:140(C-)+15

     魔法耐性:120(D+)+5

     幸運:250(C)

 【スキル】

  竜化魔法(E)、火魔法(F)、風魔法(F)、土魔法(G)

  統率(F)、剣術(F)、合成魔法(G)採掘(G)

 【魔法】

  ドラゴンフォーム、ドラゴンブレス、ドラゴンフィールド

  ファイア、ウィンド、ストーン

 【固有】

  爆裂ブレス

 【加護】

  竜神の加護



 着実に強くなっていると思う。

 初日から二〇〇匹以上倒せばレベルがこれだけ上がるのも当然だろうが、他のプレイヤーはそうもいかない。

 エリアボスを倒せたのも大きいと思う。シャーマンに関しては一匹でレベルが二も上がったのだ。


 それに、新しいスキルを三つも覚えていた。剣術は、その武器を使用した攻撃力のアップで剣を使っているうちに身についたと予想する。条件は不明だが、ゴブリンの大軍を倒していたら勝手に覚えていた。採掘スキルもマナタイトのおかげだろう。結構な量だったからな……。あとでニーナに詳しく聞いてみようかな。


 嬉しいことに、合成魔法も覚えることができた。これはニーナに聞かなくても予想がつく。ファイアをドラゴンブレスで撃ったことが、システム上、合成魔法扱いされたのだろう。むしろそうでないと説明がつかない。竜化魔法でさえチートな気がするのに、合成魔法の詳細を確認すると制約があるものの、これもチートだと思う。


 【合成魔法】

 覚えている魔法を合成し新たな魔法を作りだすことが可能になるスキル。

 合成した魔法は、固有魔法として記録される。最大魔力以上になる合成は不可能。

 現在合成可能な魔法は、二つまで。威力上昇率は一〇%。ランクにより増加する。


 いや、このままだと詰んだな。スカイの理想を前提にすると必ずその結論に達する。


 チート級のスキルが二種類あるのに、何を言うかと他のプレイヤーから怒られてしまうかもしれないが。現状を考えるとバランスが悪い。

 もともと一人でのんびり遊ぼうと思っていたスカイは、剣と魔法を使えるようにバランス型を選んでいたからだ。魔法特化のニーナが加わったことで、そのバランスが崩れている。


 つまり、ニーナが魔法を撃つとヘイトをとってしまうため、それをカバーするためにスカイが護衛をしながらヘイトを自分に集める必要が出てくる。ヘイト管理ってやつだ。


 スカイのドラゴンフォームは、攻撃にも防御にも使え応用が利く便利な魔法だが、攻撃をしたり敵の攻撃を防ぐたびに魔力を追加で消費する。実際にはまだ攻撃を受けてはいないがドラゴンフィールドも理屈は同じだろう。魔法攻撃を受けるたびに魔力を消費すると考えられる。


 極端な話、スカイの魔法は優秀だがその分消費も激しく魔力が〇になると、スカイは剣一本でどうにかする他なく、ダメージを負う機会も増えるということ。ニーナの回復が間に合わなければ、そこで試合終了だ。


 少数だけを相手にするだけなら問題ないが、それだと効率が悪く俺の理想とはいえない。

 理想は、前衛のタンク役にヘイト管理を任せ、後衛のニーナが魔法アタッカー兼ヒーラーを担い、スカイが中衛でバランスよくアタッカーとタンクを臨機応変にやりながら大軍に対応できることだ。


 そう、前衛で敵を食い止めるタンク役の不在である。ニーナから魔法特化と聞いたわけではないが、どう見てもそうとしかいえないステータスをしてる。これでは腕力の高いモンスターから物理攻撃を受けたら大ダメージである。



 【名前】ニーナ 【性別】女性 【年齢】十五歳

 【種族】ハイ・エルフ 【称号】冒険者

 【レベル】10

 【体力】80/80(D)

 【魔力】240/240(C+)+50

 【能力】総合 C-

     腕力:75(D-)

     知力:270(C+)+50

     素早さ:110(D)+5

     器用さ:140(C-)

     物理耐性:50(E)+5

     魔法耐性:210(C)+30

     幸運:150(C-)

 【スキル】

  風魔法(F)、光魔法(E)、付与魔法(F)、採掘(G)

 【魔法】

  ウィンド、マジックアロー、ヒール、エンチャント

 【加護】

  風精霊の加護



 タンク役不在の他にも問題がある。

 それは、ゴブリンシャーマンが使っていた杖とアクセサリーをニーナが装備したことで、魔法の威力が俺の倍にもなっているのに、覚えている魔法が少なすぎること。

 特に耐性向上系の補助魔法を覚えてもらい、俺がタンク役をできるようにしたい。そうすれば、タンク役が不在でも多少はしのげる。


 今日は、ニーナの希望通りブックの町で買いものだな。

 そんなことを考えていると、ニーナからメッセージが飛んできたので、酒場にいることを返信し待つことにする。


「ごめんごめん。待たせちゃったかな?」


 ニーナがスカイの元にやって来てそう聞いてきた。


「待ってないよ。実は寝坊しちゃってさ。俺もさっき来たばかりで、まだステータス確認しかしてないんだ」

「そっか、それなら良かった」

「それじゃあ、さっそくモンスターを解体屋に持って行って換金しようか」

「あ、そのことなんだけど。次のブックに行ってからにしない?」


 スカイがさっそく素材を換金しようと提案するも、ニーナは何か思い出したように、ここペンシルではなくブックにしようと言ってくる。


「そんなに急ぐってことは、よっぽど新しい魔法が欲しいのか?」

「違うわよ。魔法が欲しいのは確かだから違わないけど、理由が違うの」


 スカイは意味がわからなかったので、どういうことか聞いてみる。


 昨日、スカイがログアウトしたあと、ニーナはしばらく調べ事をしていたという。どうやら、薬草、採掘したマナタイトやモンスターの素材の価値を店を回って調べてくれていた。

 その結果、薬草類は売るよりも調合のスキルを覚えて自分で調合した方が、店買いより効率が良いこと。

 マナタイトは珍しい鉱石のため、このペンシルの町ではどこでも換金ができないこと。

 モンスターの素材はそこそこの値で売れるので全て売っても問題ないが、解体屋に確認すると約三〇時間もかかることが判明したらしい。


「え、時間がかかるのか。それだったら解体屋に依頼してから落ちればよかったよ」


 手持ちが少ないスカイたちは、魔法を買うにしても元手が必要なため、スカイは悔しそうに言う。


「それなら大丈夫だよ。私の手持ちの中から三〇匹だけ解体依頼しておいて、さっきそのまま買取もお願いしたから」


 そこで救いの言葉がニーナから発せられる。

 その言葉に思わずスカイがニーナの頭を両手でワシャワシャと撫でまわしてしまう。


「え、あっ何よもー」


 突然のことに慌ててスカイの手を振りほどこうとするが、真っ白な頬が赤く染まりまんざらでもなさそうな表情をしている。プレイヤーの感情を表現できるアバターとかさすが高性能だな、と見当違いなことをスカイは思う。


「いやー悪い悪い。あまりにもグッジョブと思ったから、つい、ついな」


 感謝のしるしなので全然悪いと思っていないが、一応謝っておく。


 それにしてもこうして誰かの頭を撫でるのも久しぶりだ。小さいころは俺の方があいつより背が高ったから、あんふうによく撫でていたな、と幼馴染ことをスカイは思い出した。


 なぜそんなことを思い出したのだろうかと考えていると、ニーナが探るように俺を見つめていた。


「何だ、まだ怒っているのか? 悪かったって、それよりもブックの町へ行こう」


 なんだか居心地が悪くなったスカイは、そう提案し討伐クエストだけでも受けようと、酒場の店主の方へ歩きだす。後方から、「悪そうに思っているように全然聞こえない!」とニーナが言っているのが聞こえたが、ワザとらしく両耳を塞ぎ聞こえないふりをする。



――――――



「相変わらず、ゴブリン討伐とウルフ討伐しかなかったな」


 ペンシルの北門を出てブックの町へと続く街道を徒歩で移動しながら、さっき酒場で受けたクエストについて感想を言う。


「そうね。今朝クエスト系をネットで調べたけど、簡単なクエストしかないって不満の書き込みが多かったもん」

「へーさすがだな、もしかしてアレかな。時間経過とともに敵も強力なのが出てくる的な?」


 勤勉なニーナにスカイは感心しながら、思ったことをそのまま言う。


「どうだろう。クエストは、数を倒せないプレイヤー用の救済処置みたいなこと書いてあったから、場所によって変わる可能性もあるわ」


 救済処置、言い得て妙である。ゴブリン討伐のクエスト報酬は、五〇〇ゴールドだった。それに対してゴブリン一匹あたりの素材換金額は、五〇ゴールドほどだとニーナが教えてくれた。そう考えると、クエストを受けていれば五匹倒せば十五匹分の報酬になるが、スカイたちみたいに続けて数を狩れるプレイヤーにとっては、わざわざクエストを受け直しに町へ戻る方が面倒である。


「そういえば、ユニーク種族についての書き込みはあったのか?」

「それがねー。既に事前登録登録を含めて一五〇万人超えたらしいのだけど、未だにそういった書き込みは無かったわね」


「もうそんなになるのか! そんな実感はしないんだけどな」


 登録人数の多さに驚いた。ペンシルの町でプレイヤーを多く見かけたが、NPCの割合と比べるとそうでもないなとスカイは感じていたからだ。


「それは当然だよ。開始地点はランダムだからいたるところに散らばっているんだよ。NPCだけでも一千万体用意されていて、人口の一〇%ならプレイヤーも目立たないよ」


 おお……、NPCも多いなと絶句する。


「まあ確かに確率で考えたら五〇人程度のはずだからそれもそうか」


 いつまでも驚いてはいられないので、冷静になるため計算しそう言う。


「それにしてもこれからどうする? ブックの町で魔法を買って、傭兵団を作るところまで決めたけど、やはり目的がほしいと思うんだが」


 一人なら気にせずその日の気分でやること決めても問題ないが、ニーナと行動を一緒にすると決めた以上、目的があった方がいいだろ。


「私はあれかなー。合成スキルが欲しいな」

「合成スキル? 魔法じゃないのか?」

「ほら、昨日スカイくんが空を飛ぶのが夢だーって言っていたでしょ? それで私も空を飛びたいって言ったの覚えてる?」

「ああー、確かそんなこと言っていたな。あれだろ? ゴブリンを見つける直前まで話してたやつ」


 ドラゴンフォームの効果を調べた時に、ドラゴンになって空を飛べるかな、と話していたときのことだ。


「そうそれ! それでね、私は風魔法で飛べないかなと考えたんだけど、それよりも装備品に風属性を付与したらどうかなと考えたわけ」

「それだったら、エンチャントじゃダメなのか?」


 スカイは、ニーナにエンチャントしてもらって空を飛べないか試そうと考えていた。


「それは私も考えたわ。それでそのことも今朝調べたの。そしたら、エンチャントは、一時的に属性を付与するだけで永続的ではないんだって。ただし、魔石だけは、効果を定着させられるみたいで、それを特殊な素材でできた装備品と合成することで魔法効果を永続的に付与できるんだって」


 ニーナは、眉間にしわを寄せ難しそうな顔をして説明してくる。


「なんだかややこしいな。要は、合成スキルとその特殊素材を探したい、でいいのかな?」

「簡単に言うとそうなるわ。今のところその特殊素材が何なのかわからないから、これから地道に調べる予定だけどね」


 ニーナのしたいことは確認できたが、結局どうすればいいのかは決まらないな。


「それでスカイくんはどうしたいの?」

「ニーナと一緒だよ」


 その通りなのでスカイはそう答える。


「なんでそんな顔をする? 俺だって空を飛びたいんだから同じじゃないか」


 なんで? と言いたそうな表情をしてニーナが立ち止まるが、「置いて行くぞー」とスカイは止まらず、そのまま先を行く。


「ちょ、ちょっと待ってよー。なんかそれずるくない! それっ、じゃっ」

「おいっ、危ないじゃないか」


 ニーナが駆け寄ってスカイに飛び乗ろうとして失敗する。当然不意打ちを食らったスカイは前につんのめる。


「ちっ、スカイくんは無駄に背が高いね。私をぞんざいに扱った罰だよ」


 悔しそうにニーナは舌打ちをする。


「べつにそういうつもりじゃないって。俺はドラゴンフォームでドラゴンになって飛ぼうと考えたけど、竜化魔法がEランクになっても二箇所くらいしか変化させられないんだよ。それを考えたらニーナの方法の方が早いと思わないか?」

「うー、それはそうだけど……。それにしても私に対する扱いが雑だと思うの。私より年下だったら許さないんだからね!」


 親しみやすいだけで、そんなつもりはないのだが、なんだかお気に召さないようだ。


「たぶん俺の方が若いと思うよ。でもほらっ印象ってものがあるから」

「な、なにそれー。私が子供だっていいたいの!」

「はは、そうとは言っていない」


 スカイは意地の悪そうな笑みを浮かべてみせる。


「むー、その顔がそういってるわよ。ここは、はっきりさせましょ。スカイくんいくつ?」

「なんで俺からなんだよ……」


 スカイが順番のことで不満を漏らすが、べつに年齢くらい大したことないので答えてやる。


「今年で二十六だよ」


 そう言うとニーナがさっきの勢いとは一転して静かになり、真剣な様子で何やら聞いてくる。


「ごめん、聞こえない」

「誕生日は?」

「ん、誕生日か。四月二日だよ」


 すると、いきなり笑顔になり、やっぱりそうなのかなと下を向き何やら考え事を始め、まさか運命? とかなんとか言っている。ような気がする……。

 やっぱり、この娘残念女子だ。自分の世界に入るのは怖いから止めてほしい。

 スカイは、背筋に寒気が走るのを感じた。


「それでニーナはいくつなんだよ」


 こっちの世界に戻ってこい、という意味も込めて聞いてみる。


「はっ、そうだった。私もスカイくんと同じで今年で二十六。誕生日は七月七日だよ」


 がばっと勢いよく顔を上げ、嬉しそうにそう伝えてくる。


「なんだ、まだ二十五じゃないか」


 今は、まだ四月だから厳密に言うと年下だ。そう言って、ふっと鼻で笑ってやるのを忘れない。


「同学年なんだからいいじゃない。それよりも何か気付かないの?」

「七夕生まれか。凄いな」


 全然凄いと思っていないので棒読みで言ってやる。


「もういいわよ!」


 なんだなんだ、今度は怒って先に行ってしまった。笑ったり怒ったりと忙しい子だなと思いながら後を追いかける。


 そんなこんなしているうちに、城壁に囲われているブックの町が見えてきた。電撃魔法でも買ってあげて機嫌を直してもらうか、とスカイはニーナのあとを追いかけるのだった。

なかなか次の舞台へ進まず申し訳ないです。

明日の投稿からブックの町が活動拠点となります。



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