006話 夢と竜化魔法の可能性
「さて、これはどうしようか」
ビッグウルフがドロップした魔法のスクロールとスキル本をそれぞれの手に持ち、戦利品をどう分けるか呟く。
「両方スカイくんが使えば?」
「いや、初の戦利品だし、さすがに悪いよ」
「でも、ウィンドは私覚えてるし、団長をやるんだったら統率スキルは、スカイくんが使うしかないしね」
ニーナは遠慮してくる。
お互い敬語をやめると話し合ったあと、ユニーク種族であることを隠すために、その扱われ方が判明するまでは、普通のプレイヤーとパーティーを組むことをしないとお互いで決めた。
たかがゲームでそこまで用心する必要はないのだが、そもそもスカイは、一人でのんびりやろうと考えていたし別に問題ないと思いニーナの提案にのったのだ。
それに、ニーナの話によるとギルドがある町まで行けば、傭兵登録ができ、傭兵団を立ち上げることもできるのだという。そこで肝なのが統率スキルで、パーティーの能力底上げに加え、軍団編成ということができるらしい。らしい、というのは、運営からの発表でも実際にやってみてからのお楽しみ、と情報が制限されていたという。そのため詳しいことは分からず終いだ。
それで次の目標は、傭兵ギルドがある大きな町に移動して、スカイを団長とした傭兵団を立ち上げるということ。そうすれば、二人では厳しいモンスター相手でも団員としてNPCを雇って対処できるし、どちらかがインできないときでも、そのNPCを連れていけば良いだろうということで話は落ち着き、今に至る。
「確かにスキルは俺が使うとして、魔法は同じ種類なら熟練度が上がったりするんじゃないのか?」
「それはそうだけど、熟練度はその属性魔法を使えば使った分だけ上がるからそんなに必要性感じないのよね」
「そうなのか。じゃあ、今回は俺が使わせてもらうよ。その代わり、次があったら遠慮せずニーナが使ってくれよ」
「うん。そのときは遠慮しないからね」
「よしっ。そうと決まれば、さっさと素材を回収してゴブリンを探すぞ」
そう言ったは良いがどうしよう。目の前にモンスターの死骸がそのままある。ドロップ品は、魔法のスクロールとスキル本だけで、他にどこにもドロップしていない。当然勝手にアイテムボックスに収納されてもいない。丸ごと回収すれば良いのだろうか。とりあえず、スカイは救いを求めるようにニーナの方を見ることにした。
「素材の回収の仕方がわからないんでしょ……」
「……はい」
スカイが何も知らないことにもう慣れたというように、彼の言いたいことを言い当てる。当然、憐みの目で見てくることも忘れない。
「他のゲームだったらドロップ品だったり、自動でアイテムボックスに収納されるといった感じだろうけど、フロリバではそんなことは無いの。だから、自然消滅することはないし、ふつうにその死骸を解体して皮や骨や肉といった素材に分けることができちゃうの」
「さすがにそれはグロ過ぎるぞ。ニーナはできるのか?」
「できるわけないじゃない。やろうと思えばそこまでできるってだけ。実際は、解体屋に依頼して素材にしてもらうのが一番簡単みたい」
「なんだ、それならこのままアイテムボックスに回収すれば良いのか?」
「そういうこと。でも、魔石だけは自分で回収したほうが良いって記事には書いてあったわ。なんでも、NPCには友好度っていうものが設定されているらしくて、友好度の低い解体屋に依頼すると解体率も低くて、自分で丸々解体するより素材が少なる設定みたい。それで魔石がその影響を一番受け易いんだって」
その話を聞き、そこまで現実感出さなくてもいいじゃん、とスカイは思う。
「それじゃあ、宜しくね」
ニーナが笑顔でスカイを見る。
もしかして……。
――――――
「あんなところまでリアル志向でなくても良いと思うのだが」
結局、魔石回収はスカイの仕事だった。血が出るというような演出は無かったが、モンスターとはいえ生き物を解体したことが無い俺としては、結構ハードルが高かった。
「でも苦労したおかげで良い魔石をゲットできたじゃない」
ニーナはスカイの苦労を労いそう言った。
「ニーナは自分で解体していないからそんなこと言えるんだよ。感触が無いからとはいえ、結構キツかったぞ。意味が無いけどこの小川で手を洗いたいくらいだよ」
ビッグウフルの魔石がEランクで他のウルフ六匹からもFランクの魔石が取れた。ニーナいわく、友好度が低い解体屋に任せると全部Gランクになるか、半壊状態で使い物にならない結果になるんだとさ。
今スカイたちは、最初に見つけたゴブリンがいた小川を森の奥へ進むように歩いている。この付近は狭いが河原みたいに石ころが転がっており、少し木々がまばらなため視界は良好だ。これならさっきみたいに不意打ちをされることもないだろう。
「ゴブリン、すぐ見つかるといいね」
最初の苦労があるからか、ニーナが少し眉間にしわを寄せ難しい顔でそう言ってくる。
「そうだな。ここら辺は他のプレイヤーがいないから最初みたいなことは無いと思うし、大丈夫だろう」
それにしても、町の中にあれだけいたプレイヤーが見当たらない。森の入り口は激戦区になっているんだろうなとスカイは思いながら、この辺りが良い狩場であることを願う。
そのまま小川に沿って奥へ進んでいると五度ほど戦闘になった。
猪をそまま大きくしたようなビッグボアが四頭とウルフが十八匹でビッグウルフはいなかった。スカイが前衛で剣を振り、ニーナが後衛で魔法攻撃をするというスタイルなのだが、ニーナの魔法が強過ぎてスカイがいる意味あるのかと感じてしまうほどだ。
「なんかニーナだけいれば良いような気がしてきた」
スカイは少しいじけてそんな発言をする。
「そんなことないよ。スカイくんが前で敵を引き付けてくれるから、私は安心して魔法を打てたんだよー」
「そう言ってもらえると助かるよ。それにしてもステータスの差って大きいんだな。俺のウインドより威力でかかったように感じたけど」
「そりゃそうっー。Fランクといっても、威力が一〇%増えるだけだもん!」
「へーそんなもんなんだ」
「へーって、スカイくんは自分のスキル詳細とか確認していないの?」
そう言われて、ちゃんと確認していないことを今更ながらスカイは思い出した。
「いや、だって面倒じゃん?」
「面倒じゃんって……、はぁ……」
ニーナはこれが何度目かと数えるのが面倒になるほどの呆れ顔をして息を吐く。
友好度じゃないけど、呆れられ度なるものがあったらこの数時間でグングン上がっているんだろうな、とどうでも良いことをスカイは考えてしまう。
「慣れている人ってそれがふつうなの? 私は心配で隅から隅まで確認したんだけどな」
ニーナは、自分の行動を思い返しため息交じりに話してくる。
できの悪い生徒でごめんニーナ先生! とスカイは心の中で謝っておく。
「上級者になればなるほど、しっかり確認して自分のできることとできないことをしっかりチェックするものだよ。俺は、さっきも言ったように面倒だったというのもあるけど、とりあえず冒険がしたくて後回しにしちゃったんだよ」
「そうだよね。じゃあ、ちょうど良いからその竜化魔法を調べてよ。ちょっと気になってたんだよね」
早く見せて見せてとニーナは言って身体を近付けてくる。ステータス表記が見えるだけで、詳細まではニーナの画面からは確認ができないらしい。
「ステータスオープン。えっと、竜化魔法を選択すれば良いのか?」
「選択すると、詳細って項目が表示されるからそれを選択してみて」
「詳細、詳細……おおこれか」
竜化魔法とドラゴンフォームの詳細をそれぞれ押してみる。
【竜化魔法】竜族の魔法が使用可能。ランクが上がるにつれてできることが増える。可能性は扱うものの意志に影響され無限大。
【ドラゴンフォーム】竜化魔法の基本的魔法。身体の一部に竜族の力を宿すことができる。部位は、任意で決められる。ランク上昇に伴いその選択肢が増え範囲も広がる。
「これはドラゴンになれるってことか?」
「Gランクのままでは無理だと思うけど、いずれできるようになるんじゃないかなー。ドラゴンになってドラゴンブレスでも使ってたら、エリアボスと勘違いされそうだね」
ニーナが愉快な妄想をしてふふっと笑ってくる。
エリアボスプレーとか面白そうだけど、今は無理だから忘れよう。
「でも、頑張り次第ではできるってことだよな。それなら空を飛ぶのだって夢じゃないよなー。でもドラゴンって翼で飛ぶっていうより、魔法を使って飛ぶという設定が多いから風魔法系も上げる必要があるのかな?」
ニーナに聞いてみるけど反応が無い。歩みを止めることはないが、何やら考え事をしているように鮮やかな緑色の瞳が右へ左へと焦点が合わない感じで動いているのがわかる。ニーナも風魔法で空を飛べるか考えているのだろうか。気にせず俺は話を続ける。
「それにしても、空を飛びたいと思っていたから竜人族になれたのらなラッキーだったな。やっぱり夢は諦めるもんじゃないよな」
「夢……」
「どうしたんだニーナ? 何か気になるのか?」
スカイの問いかけに、はっとしてニーナがやっとスカイに顔を向け目を合わせてくる。
「スカイくんの夢って、空を飛ぶことなの?」
ニーナは、質問を質問でかえしてくる。
「ああ、笑われるかもしれないけど、子供のころから大空を何物にも邪魔されずに飛べたら良いなって思い続けているんだよ。いい大人が笑っちゃうだろ?」
「そんなことないよ! 私も空を飛びたい!」
凄い勢いで同意してきた。ニーナはたまにスイッチが入るときがある。それにしても嬉しい答えだった。それは良かったとスカイはかえす。
「それでスカイくん、聞き辛いんだけど……」
何かニーナが聞こうとしてきたけど、いよいよ目的のゴブリンを発見した。時間も十一時近くだし、こっちをさっさと済ませようとスカイは話を終わらせることにした。
「ニーナ悪い。ゴブリンのお出ましだ」
「あ……、そうだね。その話はまたあとでね」
残念そうに少し俯いたニーナだったが、ゴブリンに意識を集中させ杖を構えた。
「洞窟の前に一匹だけだね。おそらく洞窟の中にたくさんいると思うから、先ずは私がマジックアローで倒しちゃうけど良いよね?」
「うん、それでいこう」
小川を進むと滝が見えてきて、その脇に洞窟らしきものがあった。そこには、見張りらしきゴブリンが一匹、錆びた剣を持って暇そうに欠伸をしていた。そんなすきだらけの相手に後れをとるはずもなく、ニーナのマジックアローであっさり仕留める。解体をするのは後回しにして洞窟の中へと進む。
洞窟へ入ると松明が壁に設置されておりそれなりに明るかったが、火の光が届かないところが薄暗くなっている。
「所々暗いから注意して進もう。今までと同様に俺が前を行くから、ニーナは後ろの方をたまに振り返って、外から戻ってくるゴブリンが来ないか注意して」
「うん、わかった」
洞窟の中は広くなったり狭くなったりと通路の幅が変わるが一本道で、迷うことはなさそうだ。あとは、挟撃させることだけ心配すれば大丈夫かな。曲がり角等接近し易い場合は俺が剣で倒し、直線の場合はニーナにマジックアローで倒してもらう。
そうして五匹目のゴブリンを倒したとき、ベルの音のような通知音がなり、ゴブリン討伐のクエストを達成しました、というテロップが視界上に流れた。
「討伐クエストって、その場で達成完了するんだな……。報酬も届いてるし」
「私もそれは知らなかった。なんかごめん」
「いやいや、ニーナが謝ることではないよ。これなら今後は討伐系は全て受注してから町を出るようにしよう。それはそうと、クエスト達成したから戻るか」
「せっかくここまで来たのなら、できればもう少しレベル上げを兼ねて探索したいな。洞窟なら宝箱もあるだろうしね」
スカイにとってそれは嬉しい提案だった。今まで遅くまで付き合ってくれる相手に中々恵まれず、結局ソロプレイが主体となっていたスカイとしては今回は相手に恵まれたようだ。
「それじゃあ、洞窟のボスまで倒さないか? それか十二時になったら引き返す。テレポートが使えないから、戻る時間も考えて夜中の一時には解散できるようにしよう。ニーナが優し過ぎるからそう決めないと朝まで続けちゃいそうだし」
嬉しくなったスカイはそう提案する。
「ふふ、私はそれでも構わないんだけどね。気にかけてくれてありがとう」
おお、朝までとかガチ勢になれる素養をお持ちとは、やっぱりこの出会いは当たりだとスカイ
は思った。
でも、最初から飛ばし過ぎると今後の関係に影響がでるから気を付けよう、とも思い直す。
さて、宝箱か……。見つかると良いなと意識を違う方へ変え探索を再開する。
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