004話 インクの森と初戦闘
2018/7/17ステータスの数値とランクの相関に誤りがあったため修正しました。内容に変更は御座いません。
ペンシルの町には出入口が三か所ある。王都方面へ向かう北側が一番大きく、次は開拓村等がある南側。今俺たちが通った東側は、モンスターが生息するインクの森があるため、通常門は閉じられており、人一人が何とか通れる専用の扉を通ってスカイたちは外に出た。
「門が閉じているのって、なんか違和感を感じるな」
外に漏れた心の声をニーナがひろう。
「そうなんですか? 町のNPCにとってモンスターは危険ですから当然かと思いましたけど」
「そう言われれば確かにそうなんですけど、ゲームで拠点といわれる町が襲われることはないし、町の出入りで手間を取らせないために開けっ放しが普通なんですよ」
「あー、確かにそうですね。それじゃタイミングによってはプレイヤーで行列ができてしまうってことですよね?」
「うーん、どうなんでしょう。普通は、一度行ったことのある場所ならテレポートできるのですが、このフロリバではどうなんでしょうかニーナ先生」
スカイが調子よく茶化してみると、ニーナは満更でもない様子で教えてくれる。
「へへ、なんか恥ずかしいですが、うん、悪くないですね。それでは先生と崇めるスカイくんには特別に教えてさしあげます。」
別に崇めてはいないのだが、なんだか楽しそうに演じているからスカイはそのまま調子を合わせることにした。
「お願いします」
「いいでしょう。このフロリバでは……空間魔法や転移魔法陣といった魔法的要素以外でテレポートはできません。なんでも、移動も含めて楽しんで欲しいみたいですよ」
なるほど、忙しいときには面倒だけれど、予想外ではなかったな。それにしても……とスカイは感じたことを話し始める。
「それにしてもリアリティーが高いですね。ゲームをしているという意識だからこそ感じる違和感が、現実だったら、と考えると全然気にならないです」
「何でも裏テーマが『第二の人生』らしいですからね」
第二の人生ね。ストレス社会で生きる現代人、翼にとって、始めたばかりだがここは夢のような世界だと思う。過ごした時間なんて関係無いほどに、彼の心はこの世界に惹かれ始めている。
強さが正義だってニーナも言っていたし、簡単ではないだろうがこのアドバンテージを活かしたい。そして、やりたいようにやれるだけの強さをえたい、とスカイは決意する。
決意を固めたところで、その第一歩となるゴブリン討伐クエストの目的地に着いたようだ。
「『ザ・森』って感じですね」
そう言ってインクの森の入り口で立ち止まり、周りを見渡すニーナ。ははっと笑いスカイが頷く。
てか、何言ってんだこの娘。そりゃ森ですからね、とスカイは呆れた様子を内心だけに留めておく。
それにしても、エルフなだけあって町の中よりも、木々に囲まれた方が似合っている気がする。残念な感じも妖精だと思えば納得である。
偏見だが、スカイにとっての妖精は神聖だがアホな生き物なのである。
「それでは奥へ進みましょう。ここいらではモンスターも出ないでしょうから」
ニーナを促してスカイたちは森の奥へと進む。
どれくらい経っただろか、いくらなんでもこれは酷過ぎる。モンスターを探し始めてから一五分歩いてもまだこんなやり取りをしている。
「――こっちの方も戦闘している人がいますね」
「えー、スカイくんまたですか。もうそろそろ魔法使ってみたいです」
鼻息混じりにニーナが訴える。そして、スカイの呼び方が『スカイくん』で定着したようだ。今の問題はそれではなく、モンスターが見当たらず未だ戦闘をしていない。モンスターの鳴き声を頼りにその方へ向かうも、見つけた時には既に他のプレイヤーが戦闘をしている。
「これで五回目ですね。それに戦いたいのは俺も同じですよ。どうでしょう? 定番では奥に進むと、より強いモンスターが出現する可能性がありますが、そこなら他のプレイヤーもずっと少ないと思うんですよ。挑戦してみませんか?」
本来であれば序盤は無理をするものではないが、自分たちのステータスからしたら冒険をしても良いと思うのだった。
「強いというとオークとかですかね……。その程度であれば、私たちのステータスなら問題ないと思います。挑戦してみましょうか」
強いモンスターと聞き思い当たるモンスターを想像して、危険がないか考えるニーナであったが、スカイと同じ考えに至り同意する。
さらに五分ほど奥へと進むと、戦闘音はもちろんのこと、他のプレイヤーの気配がしなくなった。そろそろだろうか。注意深く辺りを探していると、スカイの後ろから付いて来ていたニーナが彼の肩を叩く。それに応えニーナの方へスカイが振り向く。
「スカイくん、あそこを見てみてください」
ニーナが指さした方を目を細めて見ると、スカイたちから右側、五〇メートルほど離れた場所に小川があり、そこで水を飲んでいるのか、川に顔を突っ込んでいるらしいゴブリンが一匹見える。
もう少しで通り過ぎるところだったため、グッジョブとスカイが褒める。
「よし、気付かれないように背後からゆっくりと近付きましょう。ニーナさん、左後ろから付いて来てください。そっちの方が木が少ないので魔法を撃ちやすいと思います」
「わかりました。でも、ある程度近づいたらゴブリンのステータスを調べてください。今後の基準にしたいと思いますので」
「了解です。確認できたら合図しますので、そしたら攻撃をしてください。そうですね……遠距離からならマジックアローが丁度良いのではないでしょうか。タイミングをみて俺も飛び出しますから」
戦闘の方針が決まり、ゆっくりと近付く。ゴブリンとの距離を二〇メートルまで詰める。ここまで近付くとゴブリンの様子がよくわかる。その見た目は期待を裏切らず、ニーナの表現を借りると『ザ・ゴブリン』である。人間の五歳児くらいの身長で醜く歪んだ顔に霞んだ緑色の肌をしている。
さて、記念すべき最初の獲物のステータスはどんなもんだろうか。
【名前】インクの森のゴブリン
【種族】ゴブリン 【称号】下級ゴブリン
【レベル】5
【体力】10/10(G)
【魔力】3/3(G−)
【能力】総合 G−
腕力:5(G)
知力:3(G−)
素早さ:14(G+)
器用さ:11(G)
物理耐性:5(G)
魔法耐性:1(G−)
幸運:1(G−)
【スキル】
悪食(G)、繁殖(G)
……弱あああっ。
能力の総合はG−か、さすがは最弱モンスター代表なだけあるな。これなら楽勝だろう。
振り向くように顔だけをニーナに向け、目を合わせてスカイが頷く。それを合図と受け取ったニーナが魔法を撃とうと身構える。それを確認しゴブリンの方へと向き直そとうしたそのとき、黒い何かがニーナに飛びかかろうとしているのがスカイの目に入ったのだった。
「伏せろニーナっ!」
ニーナに飛びかかるモノを指さしながら叫ぶ。
「え、えっ? キャーっ!」
スカイの叫び声に一瞬驚くも、飛びかかってくるモノに気付いて、叫びながら何とかしゃがみそれを避ける。
「大丈夫かっ」
スカイは駆け寄り、手を貸し引っ張るようにニーナの身体を引き起こす。少し力を込め過ぎたのか、ニーナは引き起こされた勢いのまま身体をスカイにあずけるような体勢になる。
「あっ……」
反射的にそう発し、ニーナが上目遣いにスカイを見る恰好になる。状況を忘れ思わず抱きしめそうになるが、これは身長差によモノでそういう意味じゃない。ぐっと堪えスカイは冷静になる。
「ごめんなさい。強く引っ張り過ぎちゃいました」
「いえ、大丈夫です。それよりも何が……」
「あれですよ。魔法攻撃の隙をついてウルフが攻撃を仕掛けて来たようです」
そこには、全身を真っ黒な毛で覆った狼のようなモンスターが涎垂らしながら唸り声をあげている。
「レベル七のウルフですか。能力はF-……」
ニーナは、ウルフのレベルと能力調べて独り言のように呟く。
「総合は低いですが、素早さがE-もありますよ。まだまだ俺たちの方が上ですが気を付けるに越したことはありません。それに……」
スカイがそう言いかけると、さらに六匹のウルフたちが四方から姿をあらわした。
「囲まれましたね」
やられた。そうスカイは思った。おそらく最初の一匹は先兵だろう。
「ずいぶんと冷静ですね」
「いやいや、俺だって内心焦っていますよ。現実だったらちびってますね」
スカイは冗談を言いながらも、敵を観察する。奇襲が失敗した相手は、スカイたちの出方をうかがっているのか攻めてこない。それならこちらから攻めるだけだ。
「ニーナさん、ここはマッジクアローの射線が通り辛いので、ウィンドの魔法を左右に撃って範囲攻撃してください。最悪接近を許したら魔法は捨ててその杖を使うように」
「わかりました。本当は殴打用ではないですが、私の腕力なら十分武器になりますね」
「ええ、飛び切りをお見舞いしてください。俺は、あの大きいのをはじめにたたきます」
六匹のウルフ、さらに一際大きな体躯をしたウルフが一頭いる。
【名前】インクの森のビッグウルフ
【種族】ビッグウルフ 【称号】中級ウルフ
【レベル】15
【体力】40/40(E)
【魔力】45/45(E)
【能力】総合 E−
腕力:30(F+)
知力:50(E)
素早さ:60(E+)
器用さ:45(E)
物理耐性:30(F+)
魔法耐性:20(F)
幸運:15(F-)
【スキル】
風魔法(F)、統率(F)
【魔法】
ウィンド
「やはり森の奥なだけあって上位個体ですね。私が想像したのとはちょっと違いますが、少し厄介ですね」
「他のウルフにはない、統率というスキルを持っていますから親玉なのでしょう。だから最初にこいつをたたいて連携できないようにするんです。それでは行きますよ」
スカイはそう言って一気に駆け出しビッグウルフとの距離をつめる。
ビッグウルフは、予想外の俺の速さに戸惑いをみせる。そのすきを狙って左下から右上にかけて剣を振り上げる。そしてビッグウルフの頭が落ちる……ことにはならず、ギリギリのところで身をよじらせて躱される。
「そう簡単にはいかないか」
そう言いながらもスカイはちょっと残念がる。ビッグウルフはスカイを脅威とみなしてウルフたちを彼に差し向けるように吠える。そして二匹が一斉にスカイに飛び掛かってくる。
「遅いっ!」
向かってくるウルフたちに向かって剣を横薙ぎにする。ビッグウルフでさえ躱すのがギリギリだったのだから、普通のウルフにスカイの剣筋を見切ることができるはずもなく、二匹同時に地に伏す。そのままビッグウルフに向かおうとしたら、もう一匹のウルフが眼前にあらわれ、その大きな牙でスカイの首元に噛みつこうとしてくる。
だか、横から飛んできた光の矢に射抜かれ、そのウルフはそのまま絶命した。矢が飛んできた方を見ると、ニーナが親指を上に向け右手を前に出すポーズをしている。そして、さらに一〇メートルほど離れた地に三匹のウルフが横たえている。このわずかな時間で三匹を倒し、スカイの援護までしてくれていた。
「ありがとうございます。まさか二匹を盾にしてもう一匹が隠れていたとは思いませんでした」
スカイの元にニーナが来たので、そう感謝を伝える。
「いえいえ、生徒を守るのが先生ですからね。うふふ」
「はは、それにしてもすみません。あんな大口たたいたのにビッグウルフが残っています」
そんなニーナを適当に流しつつ、ビッグウルフの方へスカイは向き直す。他のウルフがやられたにも関わらず、ビッグウルフの戦意は衰えていないようだ。
「よし、これからからが本番だ」
そう言ってもう一度ビッグウルフのもとへスカイは駆け出すのであった。
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