021話 初依頼と新たな目的 ★
簡単なマップですが、最後に貼ってみました。
位置関係等の参考にしてみてください。
ガンダー村長の誤解を解くのに意外と苦労した。とりあえず、この大陸の人間ではなく、海を航行中に嵐に遭遇した俺たちは、気が付いたらこの大陸に座礁していたと説明する。
「つまり、別の大陸から来られたと……」
「そういうことだ」
「それはまた災難で御座いましたな」
スカイたちの境遇に心を痛めたのか、本気で心配そうな顔をしている。ガンダー村長は、人の痛みがわかる心優しい人だなと思う。
「それで騎士を待っていたようだが、これから来るのか?」
「それなのですが…………かれこれ二週間ほど待ってもなんの連絡も御座いません」
ガンダー村長は、なにかを思い出すように遠くを見る目をして説明してくれる。
「ここ最近、メルの村の南にあるメルルの森に盗賊どもが居座るようになってしまったので御座います」
「ほう、それで?」
そこでガンダー村長がスカイの目を見てきたが、スカイはその先を促した。
「少数であれば、街道を行く人々を襲うくらいで、我々だけでも対処のしようも御座います。それに村にいれば安全です。ただそれが、数十人もいるようで……」
「盗賊にしては少し多いな」
村人だけでその数の盗賊をどうにかしようとすれば、必ず死傷者がでるだろうな。
「その通りで御座います。そこで……いつかは、この村を襲いに来るのではないかと心配で、領主様に救援依頼を出した訳で御座います」
その話を聞いたスカイは、大体の状況を理解した。
「期待させてしまったようで、悪いことをしたな」
それで門に人が集まっていたのか。恐らく、ヴィーヴルたちがこの村を発見したのと同じように、村人たちも彼女たちの姿を目にして、領主が騎士を派遣してくれたと勘違いしたのだろう、とスカイは先程の様子からそう結論付けた。
「それで領主は対応してくれそうなのか?」
「これだけ待っても来ないのであれば、恐らくその気はないので御座いましょう」
ガンダー村長は、既に諦めているような表情をしている。
「たかが盗賊相手に、なぜ領主は兵士を出し渋ぶるのだ」
「恐らくですが、フォルセアリー王国との戦争で忙しいので御座いましょう」
そのあと、ガンダー村長は、別の大陸から来たと説明したスカイたちに気を利かせ、周辺諸国の情勢を教えてくれた。
先ず、スカイたちがいる国の名前は、クピドス王国。エルフリーデ地方の南西にある小国で鉱物資源と農作物が豊かに実る平和な国らしいのだが、北側の国境で面しているフォルセアリー王国と数か月前から小競り合いが絶えず起こっているらしい。
エルフリーデ地方には、北西のフォルセアリー王国、北東のリーデル王国、南東のコリニス王国とメルの村がある南西のクピドス王国の国が四つあったそうだ。
なぜ過去形かというと、フォルセアリー王国が北東のリーデル王国を数か月前に滅ぼし、今は、三か国になっている。
現在クピドス王国は、フォルセアリー王国の侵略に対抗すべく、東に面しているコリニス王国と同盟を結んだことで、なんとか小競り合いで済んでいる。
ただそれも、国境周辺の緊張感が高まっており、いつ全面戦争になってもおかしくない状態だそうだ。
そして、ここメルの村の領主でもあるラムール辺境伯は、クピドス王国の四分の一を領土としている大貴族で、戦争となれば陣頭指揮をとる上将軍の地位にあり、今は大忙しなんだろう。
「……なるほど。」
戦争となれば盗賊問題が後回しにされるのは頷ける。
「一つ提案なのだが、俺たちがその盗賊の様子を見てこようか?」
「良いので御座いますかっ」
スカイの提案にガンダー村長は、大袈裟な反応をしてみせた。
それほど困っていた証拠だ。
「ただし、俺たちも傭兵だ。もちろん報酬をいただくがな」
盗賊討伐……いきなり戦争に参加するより、それ位が手慣らしに丁度良いだろう。まだ完全に覚悟ができた訳では無いが、殺人の経験がないと、いざ身を守るときに躊躇してしまい、仲間の身を危険にさらしてしまう可能性が高い、と考えたスカイはその依頼を受けることにした。
「それは当然で御座います。ただ……」
「ただ?」
「このメルの村は、特にこれといった特産品がなく、狩や農耕により自給自足をしているので御座います」
「つまり金が無いのか?」
それは困った話だ。文化レベルがどの程度かわからないが、辺境の村となると物々交換で事足りてしまっているのかもしれない、とスカイは予想した。
「薬草が多く取れれば、ラムールの町に売りに行くことも御座いますが、その採取場所があるメルルの森に盗賊が居座るようになってから、採取に行けていないので御座います」
確かにそれは困る訳だ。盗賊の脅威に怯え、貨幣にできる薬草が採取できないのだからな。
そう思いながらスカイは、ゴールドの価値もあとで確認することにした。
「それであれば、俺たちの寝床と食料をいくらか分けてもらえないか? それなら準備できるだろ」
「ああ、なんとっ。それであればすぐにでも用意できます。本当にそれで良いので御座いますか?」
「ああ、ただし、最初は偵察だけでその報酬をいただく。人数等戦力評価が終わったら最終的な報酬の相談をしたい」
スカイたちは疲れていることもあり、今夜ゆっくり休んでから偵察は明日の早朝に行うことになった。
そのあとは、通貨や傭兵の立場の他にガンダー村長が知っていることを全て教えてもらい、十二人を泊められるだけの部屋が村長の家に無いため、宿に案内してもらった。当然宿代は無料だ。
「よし、それぞれ準備ができたら一階の食堂に集まってくれ。ああ、それとツバサは、俺と同じ部屋な」
「スカイ様……」
「どうした、ヴィル」
多分あれだ、同じ部屋がいいとか言うテンプレ的なあれだろうか、とスカイは予想する。
「私は気にしない……なんならそれもアリ……」
アリってなにがアリなんだよっ。意味はわかるが、みんながいる前で諸々をすっ飛ばしてその発言は止めてほしい、と思いスカイは焦った表情を浮かべた。
ほらっ。ニーナとトモエが変な目で俺のことを見ているじゃないか!
スカイは、自分の従者に対してそんな邪な考えは抱いていないからな、と目で訴えるが信じてもらえなさそうだった。
「それに私は……従者……基本離れない」
大体言いたいことはわかるが……。
「スカイくん、べつに妹なんだからいいのじゃない?」
「ん? あそっか、その設定すっかり忘れてたよ」
従者作成の際にスカイは、同じ竜人族にするために続柄設定を妹にしていたのだった。
それを思い出したスカイは、深く考えていたことの方がおかしいことに気が付いた。
「まあ、ニーナの言う通りか。それじゃあ俺たちは従者と一緒で、パレルモたちは話し合って決めてくれ」
「承知しました」
パレルモたちが部屋割りのために話し合いを始めたので、とりあえずスカイとヴィーヴルは、部屋に入ることにした。
「アイテムボックスがあるから特に置いていく物は無いんだけどな」
「スカイ様……お着替えを……」
「そっか、鎧を着たままはさすがに変か」
ヴィーヴルにそう言われたスカイは、鎧から平服に装備を変更することにした。
部屋を出ると、ニーナとトモエたちも着替えて丁度出てきたところなので、一緒に一階の食堂へ向かった。
「パレルモたち遅いな」
「そうね。なにやってるのかしら」
スカイはたちが食堂の席についてから既に十分ほど経つが、NPC傭兵たちが誰一人降りてこない。ガンダー村長と長い時間話し込んだため、既に闇に染まる時間帯でスカイたちはお腹がペコペコであった。パレルモたちには悪いと思ったスカイたちだったが、先に注文することにした。
ファンタジー世界転生モノでよくあるオーク肉は、残念ながら無かった。スカイたちは、シカ肉のステーキと葡萄酒を頼むことにした。
「団長、遅くなりました」
「遅いぞー、なにやってたんだ? 悪いと思ったけど先に始めさせてもらってるよ」
葡萄酒が入ったジョッキを持ち上げ、スカイは先に謝っておく。
「すみません。鎧を脱ぐのに手間取ってしまって」
「ああそうだったな。悪いな俺が脱がせた方が早かったか」
「兄さん、その言い方だと特定の人が喜びそうな意味に聞こえる」
スカイが言いたかったのは、編成メニューの装備変更のことだった。確かにそれを知らない人が聞いたら、スカイとパレルモが男同士で脱がし脱がされやっているように勘違いされてしまうかもしれない。
「トモエ、そういうつもりじゃないんだが……」
「わかってる。冗談よ、冗談」
スカイとしては、トモエにそういう知識があることが冗談ごとではなかったのだが、今はそれどころではない。
「それよりも明日以降のことを話し合おう。ガンダー村長から聞いた情報が本当だとすると計画の変更が必要だ」
ガンダー村長から聞いた情報によると、このまま東に進めばセラムルシオーナ神皇国があるが、険しい山がありそれを越えていくのは難しいという。山越え以外は、鉱山洞窟を抜ける方法もあるが、旧リーデル王国領を通り抜ける必要があり、何事もなく進めても馬で一か月以上かかる距離がある。
そのため、セラムルシオーナ神皇国を目指すことはやめることにした。
次にスカイたちが持っているゴールドは、この世界で小金貨として使えるらしい。貨幣の種類は、銅貨、大銅貨、小銀貨、銀貨、小金貨、金貨と白金貨の七種類。日本円に換算すると、銅貨が十円、大銅貨が百円、小銀貨が千円、銀貨が一万円、小金貨が十万円、金貨が百万円で白金貨が一千万円だろう。
例えば、この宿の一泊の料金は小銀貨一枚で朝食と夕食が付き、小金貨があれば、三人家族が一か月暮らせる。その情報により何百万ゴールドも持っているスカイたちは、お金の心配をする必要がなくなった。
傭兵の仕事は主に三種類で、一つ目が戦争請負人、二つ目が商人の護衛、三つ目が盗賊退治の賞金稼ぎらしい。モンスターの類がいないか聞いてみると、ここでは魔獣と呼ばれており、よっぽど森の奥に行かなければ出会うこともないらしい。
ただし、クピドス王国に魔獣が少ないだけで、エルフリーデ大森林のように魔獣が多く生息しているフォルセアリー王国には、それを狩ることを主にしている傭兵もいるかもしれないと付け足してくれた。
傭兵は、基本金で雇われる消耗品扱いで忠誠心は求められない。報酬が安くても勝ち馬を選んで属する勢力を戦闘ごとに変える傭兵もいれば、気に入った国に肩入れをして士官を目指す傭兵もいるようで、傭兵によって考え方がまちまちだそうだ。
また、強い傭兵は、指名されるようになり報酬も跳ね上がるため、それを仲介する傭兵ギルドも存在していると教えてくれた。
その仕組みを考えると、フロリバの傭兵ギルドとこの世界での傭兵ギルドは、役割が違うようだ。
「俺たちには二つ選択肢がある。魔獣狩りで生活できるか確認するためにエルフリーデ大森林を目指すか、ここクピドス王国で傭兵として戦争にも参加するかどうかだ」
スカイはニーナやトモエに尋ねたが、結果は前回と同じでスカイに任せるとのことだった。
「ニーナとトモエは、本当にそれでいいのか? 人を殺すことになるんだぞ」
傭兵として戦争に参加することの意味をスカイは念押ししておく。
「そんなのわかってるわよ。でも、ここは地球じゃないのよ」
「私もニーナさんと同じ意見かな。ここの世界で人の命の価値は、地球よりずっとずっとずうーっと低いと思う。それなら自分たちが生き残るためにその行為が必要なら、ためらってはいられない」
俺は二人が俺よりも先に覚悟を決めていたことに、驚かずにはいられなかった。フロリバで成り上がったように、この世界でも俺たちの名を轟かせよう、とスカイは決心するのだった。
「わかった。それなら傭兵ギルドから声がかかるくらい有名になってやろうじゃないか。先ずは明日の偵察を乗り切ろう」
そのあとは遅くまで宴会となった。スカイが意外に思ったのは、パレルモたちもエールや葡萄酒を飲んでいたことだろう。特に凄かったのはツバサだった。種族がハイ・ドワーフであるため酒に強く、エールを水のように飲んでいたのだ。
本来お酒は、宿泊代とは別なのだが、村長からそれも村長がもつと言っていた、と宿屋の女将がスカイたちに教えてくれた。結局スカイたちは一銅貨も払わずに済んだが、あとで彼らがどれだけお酒を飲んだかを聞かされるガンダー村長は、ショックを起こしてしまうのではないか、とスカイは心配になった。
――――――
「革鎧なんて久しぶりだな」
次の日、スカイたちは、メルルの森で盗賊の居所を捜索する。今回は、隠密性を高めるために、歩くたびに音がしたり、陽の光を反射する金属製のアーマーではなく、みんな革の鎧を装備している。
「革鎧の方が重いってどうなのよ」
「それだけ、ミスリルが高性能なんですよ」
ニーナとトモエが装備の違いについて話しているのに気付き、スカイはパレルモに鉄鋼のプレートアーマーとの違いを聞いてみる。
「革鎧の方が断然軽いですね。僕からしたらこの感じは懐かしいです」
「ふーん、そういうもんなんだ」
「そういうもんです、団長」
もともとパレルモたちは、Fランク傭兵のため標準装備が革鎧であった。トモエが加入してくれたことにより、自前で装備を作れるようになったので、装備を鉄鋼のプレートアーマーに随時変更していったのである。
「スカイ様……」
「発見したか?」
「はい……約十五人ほど……」
先行していたヴィーヴルの報告によると、メルルの森を南に三十分ほど歩いた辺りに、野営している人間たちを発見したそうだ。
ただそれが盗賊かわからないという、見た目はみすぼらしい革鎧姿なのだそうだが、どこかの国の兵士にも見えるという。
既にフロリバの透視スキルが機能することを確認済みのため。それを確かめるべくスカイたちは、その場へと急いで向かう。
「ニーナどう思う?」
「名前が赤色だから敵対なのは間違いないわね。それに称号が盗賊になっているわ」
「ああ、それもそうだが、元リーデル王国兵士ともなっているのが気になるな」
「元はどうであれ、今は盗賊だから問題ないと思う」
スカイとニーナが透視スキルで盗賊たちの情報を覗いてそう話していると、トモエが迷う必要はないと言ってきた。
それに、商人を襲った戦利品なのか、荷物を積んだ馬車も見える。
「それもそうだな。一旦パレルモたちのところへ戻って作戦を練ろう」
「オーケー」
「兄さん、私は一応ここで見張ってる。どうせ前衛で引付け役でいいんでしょ?」
「そうだな、ただし、報奨金のために極力生け捕りにするからそのつもりで」
「わかった」
「ツバサもトモエと残って見張りを頼む」
「了解じゃ」
当初の予定では偵察だけのつもりだったが、人数がほとんど同数なのと、レベルも十以下で能力が高くてもF-のためそのまま捕縛することに決めた。
いざというときは、盗賊を殺すことも視野にいれながら、スカイはどうしたものかなと考える。できれば、みんなが傷つかず、且つ盗賊を生け捕りにする方法を考えながらパレルモたちの元へ戻るのであった。