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019話 新たな旅立ち

第二章スタートです。

いよいよ転生ですね(/ω\)

それでは、お楽しみください('◇')ゞ

 フロリバを始めてから今までのことを思い出し俺は言う。


「べつに諦めた訳じゃないですよ」


 確かにドラゴンサモンでここ一週間試しているが、飛べる気が全然していないのは確かである。というか、ここも竜神の世界と同じでこのセラムルシオーナを倒せば戻れるのだろうか。


「私を倒すことはできませんよ」

「なっ」


 心を読まれた、とスカイは驚いた。


「私の世界ですからね。あなたの考えは筒抜けですよ。だから先程叩いて差し上げたのではありませんか」

「あっ、そういえば痛かったです」


 そう、セラムルシオーナの豊満な胸に見とれていたら叩かれ痛みを感じたのである。かなりリアルなフロリバであっても、ゲームという性格上身体に影響のある知覚は遮断されているのだ。

 つまり、スカイが痛みを感じたということは、フロリバの世界ではないことを意味している。


「これで私のことを信じでくださいますわね」


 セラムルシオーナは、微笑みを向けてくる。


「どうやら、そうせざるを得ないようですね。それで本当に目的は、無いんですか?」

「あら、魔王退治がしたいのかしら? 確かに魔王はいますが魔人の王であるだけで、あなたたちの世界でイメージされている魔王とは別ですわよ。むしろ人間たちの方が争いばかりで恐ろしいかと」


 魔王、いるのかよ……でもどんな世界なのかもわからずにそう簡単に踏み出せる訳もない、とスカイはセラムルシオーナの言葉をじっくり考える。


「あなたは、空を飛ぶためにどこまでできますか?」


 その言葉にスカイは、胸を掴まれる思いがした。

 セラムルシオーナが言ったセリフは、スカイの傭兵ギルドである竜風装騎士団の入団面接に来るプレイヤーに、彼が出すお題であったからだ。


「それに死ぬ訳ではありません。『フロンティア・オブ・リバティ』の世界と違い、転生していただく私の世界で死ねば終わりですが、それは地球での生活と同じで死は平等に訪れますのよ。ただ、私の世界に戻って来ていただく特典として、スカイとして手に入れた能力と所持品をそのままにして差し上げますわ」


 それぞれの世界の環境が違うため、多少効果に差があるようだが、些細な誤差だと説明してくれた。

 スカイは、確かに深夜まで残業する毎日にうんざりしているが、心残りが無い訳ではない。


「妹さんのことなら心配する必要はありませんわ」

「あの、あとは俺の心を読んで説明してくれませんか?」

「それもそうですわね」


 色々悩んでスカイが質問するよりも心を読んでもらった方が早いので、彼は自称女神様に丸投げをすることにした。


 セラムルシオーナの説明によると、転生するのはスカイだけではなくニーナとトモエも対象になっていた。それはスカイを驚かせるのに十分な内容だった。

 理由は、二人ともスカイと同じで元はセラムルシオーナの世界の魂であり、なぜそんな偶然が起きるのかというと、姿、形が変わってもソウルメイトは、お互い引き寄せられ運命にあると言う。


 つまり、ニーナとトモエは、スカイのソウルメイトらしい。トモエはスカイの妹のはずなので理由を理解できる。ニーナは誰なのかというと、スカイの幼馴染である新渡戸奈々だとセラムルシオーナが説明してやっとスカイは納得できた。


 それを聞いてスカイは腑に落ちた。なぜかニーナに全くの他人という感じかせず、奈々とのエピソードを思い出すことがしばしばあったのである。


 ただ、スカイを悩ませたのは、二人とも彼の決断に委ねると言っているそうだ。しかし、最後の言葉でスカイは決断した。


「私の世界であれば、空を飛ぶのは可能ですわよ。当然あなたたちであれば、ですわね。私の世界では以前と比べて優秀なルーンマスターの数が減少しているんですの。それにあなたの魂のコピーを地球の創造神に依頼したのでご両親の心配もしなくて大丈夫ですわ」

「わかりました。転生します」


 そう答えた瞬間スカイの身体が輝き始めた。


「えっもう始まってるんですか?」

「考え直されても困りますからね。あと、最後のアドバイスですが、年齢は二〇歳くらいと言った方が良いですわね。十五歳では傭兵の世界でなめられますの」


 セラムルシオーナは、満足そうに顔をほころばせている。

 その笑顔を最後にスカイの意識が遠ざかった。



――――――



「ん……」

「スカイくん起きて」


 スカイの頬を叩きながらニーナもとい奈々がスカイのアバターの名を呼んでいた。


「痛い、気が付いたから止めてくれ。……奈々……なんだよな」


 スカイに現実世界の名を呼ばれた奈々は、なぜか顔を赤らめる。


 彼女は、新渡戸奈々(にとべなな)。現実世界でスカイの幼馴染で一七五センチと長身でメリハリのある身体はまるでモデルのようであり、肩先で綺麗に切りそろえられた黒髪にきれいな鼻筋に小さな口、黒目の部分がやや大き目な瞳をしており、全体的に整った顔立ちをしていた。


 でも、目の前にいるゲームのアバターであるニーナの姿は対照的で、身長は一五〇もなく、ふんわりフェアリーショートボブの金髪で、鮮やかな深い緑色の瞳がみるもの全てを引き付けて離さないほどの美少女。時折金髪からのぞかせるその尖った耳は、ハイ・エルフという種族の特徴である。

 


「スカイくん、あなたの幼馴染だった新渡戸奈々はもういないの。これからはフロリバと同じでニーナと呼んでほしいの。この世界では、『ニーナ・ニューゴッド』よ」


 堂々と宣言してくるニーナに対して、スカイはあることに気が付き噴き出してしまった。


「な、なんで笑うのよっ」


 バシバシとニーナがスカイのことを叩いてくる。痛い……本当に転生したんだな、とスカイは痛みを認識しその事実を受け止める。


「い、いやだってさー。新渡戸をニューゴッドにしたってことだろ? 渡はどこに行ったんだよ。カミングニューゴッドとかにすれば良かったんじゃないか?」

「なんですってっ」

「それより兄さん、現状を把握しないと」


 スカイとニーナがじゃれていると、スカイの妹が後ろから近づいて来て、もっともな指摘をしてきた。


 彼女は、青木ともえ。現実世界での血を分けたスカイの本当の妹である。


 アバターであるトモエの姿は、ニーナよりも少し背が高いくらいで、腰の辺りまである俺と同じような青みがかった銀髪ストレート。肌は白く清楚な印象だが、スカイブルーの憂い気なその瞳は周りから保護欲を掻き立てるような儚げな印象をしている。


「トモエ、やっぱりともえだったんだな」

「ふんっ、どうせ気付いていたくせに。いまさら白々しい。私がブルーウッドにしても無視するし…………。そうじゃなくて、それよりもこれからのことを決めないと」

「ああ、悪い。そうだよな」


 そんな感傷に浸りながらも現状を把握するのが先決だ、とスカイは行動を開始する。


 マップを確認するとメルクの森と表示されている。ワールドマップを確認してみると、ヴェルダ大陸と表示されており、東の方へ行くとセラムルシオーナ神皇国があるのがわかるだけで、その他が白抜きで全く分からない。


「東に向かうとセラムルシオーナ神皇国というのがあるようだな。先ずはそこを目指すか?」

「大分距離があるように思えるけど大丈夫かしら」


 確かに、このマップの縮尺がいまいちわからない。ニーナが心配そうに言ってくるが、そうはいっても目的地だけは決めておきたい。


「途中に村くらいあるだろう。先ずは目的地として向かう方向だけでも決めようよ」

「私もそれでいいと思う」

「トモちゃんがそう言うなら、私もそれでいいわ」


 それぞれの同意を得て、目的地が決まったスカイたちは東へ向けて歩き出す。


「ねえ、スカイくん」

「ん、どうした?」


 ニーナが思い出したようにスカイに問いかけてきた。


「従者とかNPC傭兵はどうなったのかしら? モンスターがいるのかわからないけど、魔人とかがいるらしいじゃない。この三人で対処できない数に襲われたら怖いわ」


 ニーナの言う通りだ。もうこの世界は、ゲームではない。死んだらそこで終わりなのだ、とスカイは意識を変える。


「おっ、メニュー機能は使えるみたいだぞ。見てみろアイテムもさっきのままだ」


 フロリバのときと同様に念じてみるとメニュー画面が現れた。GMコールとログアウトのタブだけ機能しないようで他は問題なく選択できた。

 スカイたちはそれぞれの従者を召喚することにした。


「お前たち現状はわかるか?」

「スカイ様……説明を……」


 わからないということなので説明をすることにした。従者たちは、多少驚いたようだが現状を受け入れ、スカイたちに付いて来てくれるそうだ。


「みんなありがとう。これからは気を抜かず慎重に進もう。それから気になることがあれば些細なことでも必ず教えてほしい」

「あっ、じゃあはーい」


 ニーナが勢いよく手を上げて質問してくるのでスカイは先を促した。


「私たちの立場ってどうなるの? 時代は、フロリバと同じような中世で、貴族とかの身分制度があるってあの女神様が言っていたけど」


 ニーナがセラムルシオーナとのやり取りを思い出しながらそう確認してきた。


「ああ、それな。ブルーウッド子爵って言っても誰もわからんだろ。それにもう領地はない」


 フロリバの世界では、それなりに有名なプレイヤーだったスカイは、戦争にもよく参加していてその戦功から子爵の位を持っていた貴族プレイヤーだった。女神からステータスと所持品はそのままという恩恵を受けたが、ゲームの世界での地位や領地は当然無い。


「兄さん、ゴールドは使えるのかな?」


 メニュー画面に所持金のゴールドが表示されているが、この世界で使える確証はない。

 スカイは、早速取り出し手の平に乗せて眺めてみた。


「フロリバと同じで金貨っぽいけど。貨幣価値は、わからないな」


 そうスカイが一人唸っていると、彼の従者であるヴィーヴルが提案してきた。


「スカイ様……傭兵として仕事をしては……」

「仕事をするにしても、仕事の斡旋所が無いとどうしようもない」


 スカイはその提案にもっともだと思った。しかし、不明な点が多すぎるため、一度進むのを止めて作戦会議を開くことにした。


 会議の結果、決まったことは次の五つとなった。

 一、セラムルシオーナ神皇国を目指し東へ向かう。

 二、町か村を見つけたら、言葉が通じるか確認する。

 三、ゴールドは見せて貨幣価値を確認する。

 四、別の大陸からきた傭兵として活動する。

 五、生活の基盤が固まったら、空を飛ぶ方法を探す。


「閣下、異常ありませんでした」

「ご苦労。下がってよし」

「恐れながらもどちらに下がれば……」

「おお、まじか……」

「も、申し訳ございませんっ」


 何をやっているかというと、作戦会議中にモンスターが襲ってきても困らないように、Fランク傭兵の槍兵を四人召喚し見張りに立たせたのである。

 報告しか言わないため、スカイはいつも適当に言っていたのにそれに反応があり、回収しようとしてもできなかったのである。


「スカイくんどうしたの?」

「いや、反応がリアルな上に回収ができなくなってるんだ」

「それってやばくない?」


 ニーナが事の重大さに気付き冷や汗をかいている。

 やばいどころではない、傭兵を召喚できるのは良いが、召喚するとNPCではなく人間としてそこに存在しているのだ。つまり、スカイたちはその傭兵たちの命にも責任を持たなくてはいけない。


 スカイは、大きく息を吸って吐いてを繰り返し、落ち着こうとする。


「君はパレルモだったな」

「はっ」


 パレルモと呼ばれた槍兵が、洗練された左手で拳をつくり左胸にナイフを突き立てるような敬礼の仕草をしてくる。

 この傭兵は、はじめて雇用したNPC傭兵で、気にいっていたこともあり今回も召喚した。その他の三人はあまりわからない。ごめんよ、と心の中でスカイは一応謝っておく。


「君自身のことを俺に説明してくれないか」

「はっ、所属は、栄えあるブルーウッド子爵直属、竜風装騎士団の第一槍兵部隊隊員のパレルモであります」


 今までは、名前しか言わなかったのに、スカイの爵位にギルド名と所属部隊まで敬礼姿のまま説明してきた。

 他の三人にも聞いてみると、パレルモと同じように自己紹介をしてくる。名前は、マウリ、ダールと最後が女性でクララと言うらしい。


「君たちには申し訳ないが、現状は極めて切迫している」


 そのスカイの言葉にその槍兵四人は息を呑む。


「我々は、ヴェルダ大陸と言う我々の知らない土地にきている。しばらく傭兵として基盤を固めるからそのつもりでいるように」

「「「「はっ」」」」

「あーそれと、パレルモ。きみがそこの三人をまとめるように」

「あのーそれはつまり……」


 パレルモは、まさかというように言葉を詰まらせている。


「隊長をやってもらう」


 スカイが言ったその言葉に槍兵たちが固まる。


「なんだ? 不服か」

「い、いえっ。平民の僕が隊長職になれるなど夢にも思っておりませんでしたので……」

「なんだ、そういうことか。それなら他の三人にも言っておくけど、俺だって元は平民の出だ。それが頑張って子爵を下賜されるまでになった。頑張り次第では君たちも隊長になれる日がきっと来るはずだ」

「ありがとうございます。隊長職の任、謹んで拝命いたします」

「あんまり気張らなくていいよ。とりあえず、貴族の身分は隠して傭兵として活動するからそのつもりで宜しく頼むよ」


 スカイは、槍兵を召喚したことを一瞬後悔したが、これも悪くないかもしれないと考え直す。落ち着ける場所を見つけたら、みんなを召喚してそこに拠点を作るのもありだ。フロリバでは、傭兵として戦うことしかできなかったが、人間らしさが宿っているなら戦うこと以外の指示もできるはずだ。


「スカイくん、なかなか様になっていたじゃない」

「ありがとう。内心はドキドキだったけどね」

「まあ、あのパレルモくんに言っていたようにスカイくんもあまり気張らなくていいよ。みんなで力を合わせて頑張りましょう」


 ニーナはスカイが槍兵たちに言っていたことを引き合いに出し、彼の手を取ってそう言った。その握られた手は、冷たく微かに震えているようにスカイは感じた。


 ニーナも不安なんだろう、あの奈々も俺と同じ夢を抱いていたことには驚きだが、俺に付いて来てくれたことはとても嬉しかった。ニーナに励まされているようでは、俺もまだまだだな。


 スカイは握り合った手に力を込めて、宣言する。


「安心してくれニーナ、君のことは俺が絶対に守るから」


 転生したことを後悔しないように、俺たちは生き抜いて見せる、とスカイは決意を固くしたのだった。

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