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016話 騎士と従者

 トモエが加入してから前衛が安定し、一気に狩の効率が上昇した。


 なぜ生産ギルドにしか加入していなかったのかトモエに聞いてみると、理由は単純で傭兵ギルドの存在とシステムを知らなかったらしい。

 それを聞いて、なんともトモエらしい理由だと思う。そういうことならと傭兵ギルドにも登録してもらうことにした。


 トモエと一緒に行動することとなり、スカイたちの目標を伝え、トモエの希望を聞いてみた。

 トモエは、生産職の鍛冶師をメインに武器や防具を作るのが好きみたいだ。

 ただし、その材料調達は当然購入するより狩や鉱山採掘の方が効率が良い。そのため、平日で時間帯が合った俺かニーナが、トモエの護衛を兼ねて鉱石等素材採取の手伝うことを条件に、この休み二日間は狩に付き合ってもらうことになった。



「なかなかランク上がらないね」

「まあ、従者が付く騎士格だっていうんだから、そう簡単じゃないんだろう」

「でも、Eランクまですぐ上がったよ」

「私も……Eランクになりました」


 狩を終えてブックの解体所へ戻ってきたスカイたちは、それぞれが解体換金した結果を話している。

 先週、二日間の狩でスカイとニーナは傭兵ランクをEまで上げていた。それから平日とこの休日二日間で倒し解体換金したモンスターは、その数倍になるのだが未だEランクのままだ。

 それに、トモエもこの二日間で狩ったモンスターだけで、さっきEランクまで傭兵ランクが上がったようだ。


「レベルとスキルと同じなのかもな。レベルも二〇超えてから上がり辛くなった気がするし、俺の竜化魔法だってなかなかCランクにならない」

「兄さん、頑張って」

「おお、ありがとう」


 トモエは、こうやってスカイのことをよく励ましてくれるとても良い子だ。


「トモちゃん私には? ねーねー」

「ニーナさんも」


 自分には何もなかったからなのか、ニーナがトモエにせがんで言わせているの見て、思わずスカイは笑い声を漏らした。

 焦っても仕方がない。気長に頑張ることにするかな。


「一つ提案なんだが、もし先にDランクになっても土曜日まで待ってから一緒に従者を作成しないか?」

「そうね、そうしよう。できればトモちゃんとも合わせたいんだけど」

「私はべつに構わない」


 従者がいた方が、採取の護衛として役立つと思うのだが、トモエが構わないのならそうさせてもらおうと言いたい。でも、待った方が良いのだろうか。

 正直なところ、ニーナを待たずにランクが上がり次第作成したいのだが、それはさすがに我慢する。


「それじゃあ、土曜日の結果で決めようか」

「ありがとう、兄さん」


 逃げのつもりの発言だったのに、トモエに感謝されてしまった。


「スカイくんは、妹思いの良いお兄さんですね」


 自分で決めた設定なのかスカイとトモエのやり取りを見て、ニーナは嬉しそうにしていた。


「じゃあ、時間が合えばまた明日な」

「あ……ちょっと待って兄さん」

「ん、どうした?」


 ニーナを無視して、そう切り出したがトモエから待ったがかかる。

 どうしたんだろうと思うと、トモエがログアウトしてしまう。


「どうしたんだろう?」

「さーどうなんでしょう」


 ニーナに確認すると、何か知っているような感じではぐらかされる。


「お待たせ……。お疲れ様でした」

「ん?」


 二分ほどでトモエは戻ってきたが、お疲れ様と言い出す。

 訳がわからないが、何か説明してくれる様子もないのでスカイはログアウトした。


「じゃあ、お疲れさん」

「スカイくんまたねー」

「はい、お疲れ様でした」


 視界が暗転し自分の部屋で覚醒する。

 端末を取り外し、しばらくしてから起き上がろうとしたとき、翼の部屋の戸をノックする音が聞こえてくる。


「なに?」


 母ちゃんかな? こんな時間に何の用だろうか。時間は二十三時でいつもなら両親は寝ている時間だ。

 それから何も反応がないので、部屋の明かりをつけて翼は戸のノブを引き開けた。


「おお……と、ともえ?」


 そこには意外な人物が立っていた。青木ともえ、翼の妹だ。

 妹は、翼より少しだけ背が低く、少し見上げるようにその栗色の瞳で俺を見てくる。翼がいきなり戸を開けるとは思わなかったのか驚きの表情をしていた。

 正直、翼は気まずくなりまともに目を合わせられない。そんな翼の戸惑いを感じたのかともえは俯いてしまう。


「どうした、お腹でもすいたのか?」


 動揺からか翼はセンスのない問いをしてしまった。


「ち……う」

「ん? 違う?」


 うまく聞き取れなかったためそう聞き返した。


「……兄さん、何してたの?」

「え、あ……ゲームだけど。ちょうど今終わったんだよ」

「そっか」


 それだけ言って、ともえは俯いたまま自分の部屋へと戻っていった。

 いきなりどうしたんだろうか。心なしかいつもより生きた瞳をしており、翼が何していたか伝えたら笑顔になった気がする。顔を下に向けていたためよく見えなかったが、横顔からそう判断した。

 

 なんだったんだろう。ともえから久しぶりに声を掛けられて嬉しかたが内容が謎すぎる。

 まさか、フロリバのトモエと妹のともえが同一人物だったりして……いや、ないない。名前だけではなく仕草や話し方等共通点が多く疑わざるを得ないが否定する。


 自分自身で否定をしたがここは結論を急がず、少しづつ確かめてみることにする。もし、本当にトモエがともえなら、また昔のように話すきっかけ作りになるしな。



――――――



「よし、これでトモエもDランクになったな」


 スカイとニーナは土曜日を待つどころか月曜日でDランクに上がることができ、それならトモエがDランクに上がるまで待つことに話し合って決めた。


「おめでとう、トモエ」

「おめでとう、トモちゃん」

「ありがとうございます」


 従者を作成するために、解体所をあとにし傭兵ギルドへと移動する。


「あ、ギルド長、こんにちは」

「おお、スカイたちか。もう一人もDランクまで上がったんだな」


 スカイはDランクになった時点で、従者作成の方法をブック傭兵ギルドのギルド長であるマーカスに聞いており、仲間が三人になりもう一人がDランクになるのを待つことも含めて説明をしていたため、そう声を掛けてくれたのだろう。

 その他には、待つ間に馬を用意したり、ギルドを立ち上げるなら紋章とか考えておいた方が良いと色々とアドバイスをしてくれていた。 


「それで拠点を移すのか?」

「それは、まだ決めてないんですよ。魔法ギルドに登録するために王都に行くこともあるかもしれませんが、鉱山資源が豊富なここの方が装備を揃えたりするのに色々と便利ですからね」

「うむ、良い判断だ」


 マーカスギルド長は、ひとしきり頷いたあと、スカイの背中をバンバン叩くと去っていった。


「さっそく従者を作ろう」

「おー」

「はい」


 従者作成は、同じ扉からそれ専用の部屋へ入るが、プレイヤーキャラの作成と同じ要領のため、そこにはスカイ以外誰もいない真っ暗な部屋に変わる。


 今回は利用規約を読む必要がないため、すぐに作成は終わった。

 名前は「ヴィーヴル」、続柄は「妹」……言い訳をさせてもらうと、従者にもスカイと同じユニーク種族とさせるために仕方なく……である。


 脳内イメージをシステム解析が終わったのか、目の前にスカイの従者が姿を現す。身長は一七〇センチほどと女性にしては高身長で、メリハリのあるボディー。スカイと同じ青みを帯びた銀髪は、肩口より少し長いセミロング。瞳もスカイと同じ色だがダイヤモンドのように輝いているように見える……これは名前が由来しているのかは不明だ。そして、肌は色白で綺麗な顔立ち、細い眼鏡を掛けたら気の強い秘書のようだ。


 ちょっとピンヒールで踏んで欲しいかも…………。


 冗談です、ごめんなさい。


 閑話休題


「おう、どうだった?」


 部屋を出るとまだ二人は戻っておらず、スカイは二人が出てくるのを待っていた。

 ニーナが出てきたので声を掛ける。


「もう最高よ! ほら、挨拶してシル」


 ニーナは興奮した様子で自分の従者を促す。


「はーい、この度お姉様の従者になったシルなのです」


 おお、ニーナがもう一人増えたぞ。身長から髪に瞳の色まで一緒で顔立ちもすごく似ている。見分けるのはツーサイドアップにしている髪型だけだろうか。あと、口調がもの凄く変だ。


「へへーん、ほら、私って一人っ子じゃない? ずーっと妹がほしかったのよねっ」

「一人っ子とか知らん。それになんだその口調は」


 スカイは、思ったことをそのまま突っ込んだ。


「うーん、なんでだろう? ねーなんで?」

「わかんなーい。シルはシルなのです」


 だめだこりゃ……ニーナとシルがじゃれ合っているのを横目に見ながら、スカイはトモエが出てくるはずの扉を見つめる。トモエは、どんな従者を作るのだろうか。

 そうスカイが考えていると、扉が開きトモエとその従者らしき、がっしりとした無精ひげのハイ・ドワーフが一緒に出てきた。


「それがトモエの従者か。強そうだな、てかお前……」


 透視スキルによりトモエの従者を確認してそう言ったが、名前を見てスカイは絶句した。


「ツバサ、挨拶」

「トモエ様の従者であるツバサじゃ」


 こいつ絶対俺の妹だ! 間違いない……しかも、俺が兄だと気付いているだろ、とスカイを窺うようなトモエの目をみて確信した。


「どうしたの、兄さん」


 そしてダメ押しをしてきた、スカイの反応に、どうかしたの? と聞きながらも勝ち誇ったような笑みを浮かべている。


「い、いや、大分年齢を上にしたんだなと思ってさ。あとは、男になってもドワーフっぽくないんだな。むしろ山賊感満載だ」


 ここで、妹だろと言ったらなんか負けたような気がして、絶対言うもんかとスカイは違う指摘をした。


「む……」

「トモちゃんって年上好きなの?」


 スカイが折れないのを感じ取り、トモエはムッとし、ニーナはまた見当違いなことを言っている。

 スカイは、話題を変えるべく自分の従者を紹介し始める。


「こいつが俺の従者のヴィーヴルだ。言い辛ければ、ヴィルと呼んでくれ」

「ヴィーヴル……宜しく……」


 それの小さな唇から漏れる声は透き通るようで、なぜか口調がともえっぽい……妹設定してしまったため無意識に反映されたのだろうか。


 ヴィーヴルを見て、ニーナとトモエがそれぞれ違う反応を見せる。


「スカイくんってシスコンなの?」

「兄さんは大人っぽいのが好きなの?」

「だーなんでそうなるんだよっ。脳内イメージが勝手に作ったんだよ」


 それがいけなかった。脳内イメージってことはスカイの本心だからだ。

 二人そろってジト目でスカイを見ていたが、後の祭りである。


 ここでスカイたちの従者を整理しよう。


 ■

 【名前】ヴィーヴル 【性別】女性 【年齢】十五歳

 【種族】竜人族 【称号】スカイの従者(妹)、Gランク傭兵

 【レベル】5

 【能力】総合 E ※特殊(素早さかなり高め)

 【スキル】

  闇魔法、統率、双剣術、馬術

 【固有】

  竜化魔法 ※スカイに依存

 【加護】

  スカイの加護


 ■

 【名前】シル 【性別】女性 【年齢】十五歳

 【種族】ハイ・エルフ 【称号】ニーナの従者(妹)、Gランク傭兵

 【レベル】5

 【能力】総合 E ※特殊(器用さかなり高め)

 【スキル】

  風魔法、統率、弓術、馬術

 【固有】

  同調

 【加護】

  ニーナの加護


 ■

 【名前】ツバサ 【性別】男性 【年齢】二十六歳

 【種族】ハイ・ドワーフ 【称号】トモエの従者(兄)、Gランク傭兵

 【レベル】5

 【能力】総合 E ※特殊(各耐性かなり高め)

 【スキル】

  土魔法、鍛冶魔法、盾術、馬術

 【固有】

  城壁

 【加護】

  トモエの加護



 やはり、プレイヤーキャラではないため、ユニーク種族だとしてもスカイたちより戦闘能力が一段階落ちるようだった。でも、レベルも上がるため育成次第でいくらでもやりようはある。


「それじゃあ、従者の装備を整えるか」

「色々準備した……でも兄さんごめん」

「ああ、気にしないでくれ。俺も予想外だったからな。いつでもいいから作成をお願いできるか?」

「うん……」


 ヴィーヴルがまさかの双剣術であったため、トモエが準備した武器の中に双剣用の剣が無かったのだ。とりあえずは片手剣と短剣を装備させることにした。


 スカイたちは傭兵なのだが、せっかくならスカイたちだけでも騎士っぽくミスリル製品で装備を固めるべく準備をしていた。それに、空を飛ぶために、のちにマジックアイテム化する際に魔力伝導率が高いミスリル製の方が良いとトモエが教えてくれたからでもある。

 さらに、ニーナが裁縫スキルでマントを用意してくれており、騎乗して平原をマントをたなびかせたら、どこからどう見ても騎士だろう。


 装備し終えたスカイたちにギルド内から視線が集まる。

 それもそうだろう。ミスリル鉱石は、ペーパーウェイト鉱山で採掘可能だが、採掘エリアの適正レベルが三〇で能力でいうとCランク以上になるため非常に高価なのだ。


 サービスが開始されてから二週間しか経っておらず、ほとんどのプレイヤーは二〇後半にやっと手が届き始めた程度である。それなのに、高価なミスリル鉱石を使用したミスリル防具で全身を固めた六人がいれば、そういう反応をされるのも納得である。しかも、そのうちの三人がNPC従者であると気付けば、その驚きはより一層だろう。


 周囲から羨望の眼差しを受けて、悪い気がするどころかスカイは得意げであった。


「では、諸君。行こうか」


 スカイはかっこつけて騎士もかくや悠然とギルドを出ていく。


「スカイくん、さっきのアレはなによ」

「アレってなんだよ?」

「兄さん、かっこつけすぎ」


 スカイはとぼけてみたが、容赦ないトモエの言葉に恥ずかしくなり反論する。


「いいじゃんか。毎日狩を頑張った結果を誇ってなにが悪いんだよ」

「悪いとは言わないけど、目立ちたくないって言っていたのに違和感を抱いただけよ」


 私も誇らしかったし。ニーナはそう付け加えてトモエの方を見る。


「結局は、この装備を作成してくれたトモちゃんのおかげだよ。ありがとうね、トモちゃん」

「そうだったな。改めてありがとう」

「いえ、わた……んか、べつ……」


 褒められて恥ずかしいのか、トモエの声が小さくて聞き取れない。いつものともえだな、とスカイは思った。



 今回の件で、確実にトモエがスカイの妹だとスカイは理解した。色々と共通点があることからスカイは薄々その可能性に気付いていたが、そもそもトモエはいつ気が付いたのだろうか。翼とスカイは、似ても似つかない容姿をしている。口調だと言われればそうかもしれないが、そんな特徴的な口調だとスカイは思っていない。一応、スカイが兄だと気付いていない可能性もなくはないがどうだろうか。


 慎重にことを進めたいスカイは、直接聞くこともできない。スカイとしてはトモエからそれとなく本心を探り、現実世界に戻ってもちゃんと向き合って話せるようになりたい。


 竜化魔法で空を飛ぶのとトモエと仲直りできるのは、どちらが先だろうか。

 新たな目標を胸にスカイは気合を入れ直し、フロリバの世界で今日もモンスターを狩りまくる。

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