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013話 魔法実験

 廃墟をしばらく進むと少し広い空間へと出た。オイルー川洞窟の広場より二回りほど小さいが雰囲気は凄く似ている。


「ニーナ出番だぞ」


 スカイはホッと胸を撫でおろした。これだけいればニーナも満足してくれるだろう。

 その広場には、ゴブリンソルジャー、ゴブリンアーチャーとゴブリンが合わせて二〇匹ほどいる。

 この程度の数ではあっという間に倒せるが、ガス抜きとしては十分だろう。


「ついにこのときがきたわねー。とっておきをお見舞いしてあげるわっ」


 今まで、お預け状態だったニーナがやる気を見せて前へ出ていく。

 魔法職なんだから少しは考えてほしいが、今回ばかりは大目に見てやろう。ゴブリンアーチャーの矢を警戒して、そっとニーナを庇うようにスカイも前にでる。


 盛大なスパーク音をさせながらニーナのサンダーがゴブリンたちを襲う。

 本来、サンダーの射程は、俺のファイアと同じでせいぜい一〇メートルが限界なのだが、魔力量のおかげなのか倍の二〇メートルに達しているように見える。


「やっぱりニーナの魔法は凄いな」


 今の攻撃で確実に五匹は仕留めたはずだ。死亡しても尚サンダーの残滓によるものなのか、身体が痙攣している。


「お楽しみ中悪いが、試したいことがあるんだがいいか」


 アレックスは、さっきのお願いを聞き入れてくれているのか、襲い掛かって来るゴブリンや飛んでくる矢を防ぐ程度で防御に徹している。


「なんですかっ、今次のサンダーを撃つところなんだけど」


 やはり、一発だけじゃストレス発散にもならないようで、次の準備をしているときにアレックスの邪魔が入りニーナは突っかかる。


 おおこわっ。その様子を見てスカイは、戦闘狂ニーナとでも名付けてみようかな、とどうでもいいことを考える。


「いやあ、悪い。一発俺がウォーターを撃つからそのあとにサンダーを撃ってくれないか? 俺の予想だときっと面白いことになるぜ」

「なら早くっ」


 スカイたちが会話中だろうが相手は待ってくれない。

 ニーナの方に迫っていたゴブリンソルジャーを切り伏せながら、スカイはアレックスを急かす。


「おっと、悪いな。それじゃいくぜ。準備はいいかいニーナちゃんっ」

「とっくに準備できてるってば。いいから早く」


 ニーナからも催促されたアレックスがウォーターを残り全体にかかるように撃ち出す。

 範囲をしぼればその一撃でもゴブリンくらい倒せるが、今回は広範囲に振り撒くように撃ったため、相手を濡らすだけで終わる。


「それじゃあ、行っけーっ」


 アレックスが撃ったのを確認し、ニーナがすかさずサンダーを撃ち放つ。

 先程と同様にバチバチッとスパーク音を轟かせながらニーナのサンダーがゴブリンたちを襲う。

 ウォーターで濡れているからなのか、破裂するような甲高い感電音がして、残りのゴブリンたちが全員黒焦げになった。


「なんだよこれ」


 あまりの凄さにスカイはそれだけしか言えず、ニーナの方を見てみるが、当の本人もその結果に驚いていた。

 その結果を予想していたであろうアレックスだけが、うんうんと頷き納得の表情をしている。


「どうやら俺の予想通りだったな」

「アレックスさん、これは……」


 スカイたちにとって想像以上の結果を、アレックスにとっては想定内だったようだ。


「今回試したかったのは、二つあったんだ。一つは他の魔法の結果に重ね掛けの効果が出るのかともう一つが、魔法の発現原理がどうなっているのかということだ」

「それは合成魔法になるのか、ということを言ってる?」


 重ね掛けというのは、合成魔法特有の相乗効果が発生することを言っているのだろうと思い、スカイは合成魔法を引き合いに出してみた。


「いや、合成魔法とはちと違うな。フロリバのがどんな設定になっているのか知らんが、ふつうだったら相性で打ち消しあうとか関係なく、新しい魔法みたいなもんだろアレは」


 スカイの場合は特殊なため絶対ではないだろうが、フロリバも確かにそれと同じ気がする。ドラゴンブレスとファイアで爆裂効果の爆裂ブレスという新しい魔法ができた。

 あえてそれを説明はしないが、そうだなと相槌を打つ。


「俺が言いたいのは、水に濡れたゴブリンに対しサンダーが効果的だったことから、もしそれがファイアだったら威力が半減するかもしれないということだ」

「あっ」


 アレックスが言いたいことにニーナも気が付いたのだろう、わかった、というように声をあげる。


「ニーナちゃんは気付いたようだな」

「今ので俺も気付いたって」


 ニーナの反応に感心し、スカイの方をみてニンマリした顔を向けてきたので、スカイは反論する。


「なんだよスカイ。俺は何も言ってないぞ」


 くっ、俺が遊ばれているのを見てニーナまでニヤニヤしている。

 スカイは、ニーナにしていることをアレックスにやられて、何とも言えない気分になりムスッとしてしまった。


「まあそれはいい。今回証明されたように魔法の組み合わせ次第で戦術の幅が広がるということだ」

「ふーん。それでアレックスさんは、なぜそんなこと試したの?」


 ニーナの質問はもっともなことだとスカイは思った。魔法職でないアレックスがそれを検証したかった理由に興味が湧いてくる。


「それはさっき言った通りだよ、戦術が増えればそれだけ選択肢が増えるってことだ。つまり、その分戦闘を有利に進められる。それはモンスター相手だけではなく人間相手にだって同じことがいえるだろ。兵法だよ兵法」

「まあ、確かにそうなんだろうけどさ」


 それはニーナも理解しているからなのか、そういう意味じゃない、という表情をしている。


「それは、もう一つの理由にも関係するんだが、このフロリバは、ゲームにしてはやけに現実味があるだろ? ということはだな、現実の理論で得られる結果がこのフロリバでも起きるんじゃないかって考えたんだ」

「それはアレか?『魔法はある現象を引き起こす手段で、それで得られた効果は持続する』ってやつ」


 ゴブリンシャーマンを倒したときに、魔法で発生したストーンウォールがそのまま残っている理由をニーナに聞いたときのことをスカイは思い出したので言ってみた。


 ニーナは、それは私が言ったセリフじゃない、と言いたそうにスカイの方を見た。


「それだそれ。実際、魔法は現実世界にはない。だが、ファイアは火、ウォーターは水、サンダーは電気と仮定すると、話がずっと簡単になる。魔法はその手段でしかない。火であるファイアは、水であるウォーターで消すことができるのか。水であるウォーターは、電気であるサンダーの伝導率をあげることができるのか」


 アレックスは、化学教師が生徒に語り掛けるように説明してくれた。


「今回証明されたのは、ウォーターとサンダーの組み合わせだけだが、他も大方予想通りの結果になるだろうよ。これなら自陣に弱い魔法士しかいなくても使う魔法だけではなく順番や状況によっては、能力以上の結果を引き起こしてくれる。重火器がまともに発展していないこのフロリバで、有利にことを進めるには魔法が重要だと俺は考えてんだ」

「それなら魔法特化にすればよかったんじゃ」


 アレックスは色々考えているんだな、とスカイは感心しながらも、それならなぜ物理特化にしたんだろうと疑問に思う。


「俺は、他で代替可能なら必ずしも自分でやる必要はないと思ってる。それに常に前線で剣を振るっている方が俺には似合っていると思わないか?」

「確かに、大剣を振るう姿が様になってる」


 ゴブリンを真っ二つにした印象が強すぎるせいもあるが、スカイは思ったことを正直に言った。


「魔法も最前線でやれないこともないが、魔力切れを起こしたらそれで終わりだしな」


 あー、それはわかる。俺の竜化魔法はチート級だが、魔力消費が半端ないから効率の良い戦闘スタイルを目下模索中である。


「へー色々考えてるんだね」

「私も近接戦闘覚えた方が良いのかな」


 スカイは竜化魔法のことを全て話してはいないので、それとなく感想を言ってみた。

 ニーナは何を勘違いしたのか、そんなことを言った。

 それとこれとは別問題だとスカイは思った。


「それができるに越したことはないと思うが、その必要が無いように傭兵を上手く運用してみるよ」

「そこは、俺に任せろって言ってほしいところなんだけどな」


 う、確かにそうだ。反論できない俺は、話を戻すべく残りが何なのかアレックスを促す。


「それはそうと、二つ目は、何を確認したかったの?」

「そうだった。関係すると言いつつも話がそれたな」


 悪い悪いというように頬をかく仕草をする。これって癖なのかな?


「俺が確認したかった発現原理っていうのは、何もないところからプレイヤーの魔力だけで発現するのか、大気中から何かしらの作用があるのかを確認したかったって訳だ」

「それはもしかして、水が近くに有ったらウォーターの威力が上がったりするかもしれないって事かしら」

「ニーナちゃん正解。そもそも魔法なんて空想上のものだからな。さっきの兵法って言ったように、周辺の環境で効果が変わる要素があるなら、水辺で戦うときは水魔法、風が強いところで戦うなら風魔法の効率が上がるってことになる。相手も同じ条件だが、その原理を知っているのと知らないのとでは大きな違いだぞ」

「それで結果はわかったの?」

「ああ、わかったぜ。恐らくだが後者だと思う」


 よくわかったな。スカイには全然わからなかった。ニーナもスカイと同じように眉をひそめていた。


「これまた俺の予想だが、何もないところから発現するならウォーターは純水になるはずだ」


 どうだこれでわかっただろ、という顔をアレックスがしてくるが、それは余計にスカイたちの顔をしかめさせるだけだった。


「なんだよーわからんのかおまえたち」

「全然」

「うんうん」


 スカイは左右に顔を振りながら、それにニーナが頷いてわからないと意思表示をした。


「まじかよ。……じゃあ簡単に説明すると、飲み水なんかは大気中の二酸化炭素の他に塩素やイオンが含まれているおかげで電気を通し易いんだよ。アクション映画とかでたまにそういうシーンを描いているのを見たことくらいあるだろ? 逆に純水は、そういったものが少ないため電気を通し辛いと言われている」

「そっか! サンダーだけのときが五匹だったのに対して、ウォーターで濡れたときに一〇匹以上倒せたのは、二酸化炭素とか周りの物質を含んでいたってことになるからなんだね」

「そういうこった」


 ニーナは理解できて嬉しいのか、自分が魔法職だから良いことを聞けたと喜んでいるのかテンションが高くなっている。さっきまで魔法が打てなくてイライラしていたときとは打って変わって楽しそうだ。


「それでこれは売れるのか?」


 アレックスの実験が予想通りで、今後の戦闘に役立ちそうな情報だとわかったのは良いが、この結果が良いとは思えない。


 辺りを見渡すと大半のゴブリンが黒焦げで、換金素材を取れるとは到底思えない。


「とりあえずポイントは入ると思うぞ、うん」


 アレックスは、そのことを思い出したのか汗をかきながらポイント以外のことには言及してこない。


 スカイたちは、黒焦げになったゴブリンたちを回収しながら、魔石が無事なことを祈るのだった。

説明回が続き申し訳ありません。

明日の投稿より一気に物語が進む予定です。

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