012話 廃鉱山でモンスターを所望する
換金の結果、二〇%の手数料を引かれても二万ゴールドにもなり、傭兵ランクがFランクへと上がった。
これは、このギルドに貢献したからなのだろうか? さっきのマーカスギルド長の説明にはなかった結果のため不明だ。
「理由はわからないけど、傭兵を雇うのに丁度いいな」
「Fランクだけど雇うの?」
「俺たちのステータスと比べると物足りない感があるけど、いないよりはましだろ。それに安い方が使いがってもいいし、Fランクの槍兵と弓兵を雇ってみるよ」
スカイは、早速五千ゴールドで二人を雇用する。傭兵はその場に現れるということもなく、アイテムボックスの中にも表示されていない。
メニューを見てみると、編成画面の欄が新しく表示されているのに気が付いた。
「よし、雇えたみたいだ。次はクエストを見てみるか」
「あれ、傭兵は? アイテム扱いなの?」
「いやっ、別枠だよ。編成画面の予備って枠の中に表示されてる」
「ふーん」
呼び出すのはフィールドに出てからだな。
さて、どんなクエストがあるかな。ボード確認ならNPC相手にイライラしなくてすむな。
クエストボードを見てみると色々と種類があるが、さっきのマーカスギルド長の説明の通り、モンスター討伐が多い。
「スカイくん見て見て、これなんか面白いよ」
どれどれ、どんな依頼だろう。ニーナが面白いと言ったクエストを見てみる。
「『テクシス王国政務官夫妻との夕食会の護衛、傭兵ランクC以上、見た目が良い者求む』。なんだこれ、ふざけてるのか」
「他国の高官との会食なら護衛も見た目を重視するんじゃないかしら」
「確かにそうだな。雰囲気を楽しむにはいいかもな。今はこんな形をしてるが、服に回せる余裕が出てくればそういう楽しみ方もいいかもしれない」
スカイたちは未だ初期装備である冒険者の服の上に、革鎧やローブを纏っているだけだ。
「そうね。それにこのクエスト条件はCランク以上だから私たちには気が早いわね」
その他には、ペーパーウェイト鉱山の採掘隊の護衛等があるが、色々と試したいことがある俺たちは、常用依頼といわれるモンスター討伐を受けることにする。
ただし、それにも条件があり、『鉱山』と名が付くモンスターでないとボーナスポイントが付かないようだ。
スカイたちがクエストボードから離れ、ギルドを出ようとしたとき、声がかけられた。
「すみません。少し宜しいですか?」
そう声をかけてきたのは、スカイと同じ位の体躯で年齢を高く設定しているのか、皺がほんの少し目立ってきた四〇歳位の男だ。髪の色が挑発的で燃えるような赤髪をしているが、対象的に深いが透き通る海のような碧眼が知的な印象を与えてくる。
「なんでしょう?」
代表して俺が返事をする。
「いやあ、私とパーティーを組んでいただけないかと思ってお声かけしました」
「えーっと、なんで俺たちに声をかけたんですか? 周りにもたくさんいると思いますが」
ニーナも気付いていることだろう、彼は俺たちと同じだ。だか、これが偶然なのかそれとも俺たちがそうだとわかる術があるのか確認したい、とスカイは思い話に付き合うことにした。
普段のスカイなら直ぐ断って終わりにしただろう。しかし、透視スキルの存在を知ったからには、警戒せずにはいられない。
何か思惑があるかもしれない、とスカイは考えたのだ。
ニーナに目配せすると、スカイに任せるというように頷いてくる。
「そうですね。外に座れる場所があるのでそこで話しましょうか」
本日二度目の休憩スペースにある椅子に座る。
ただし、さっきとは違い人が通る手前ではなく奥の方へ座る。
互いに名前は分かっているが、マナーとして挨拶を交わす。
「アレックスです。時間を割いていただきありがとうございます」
「スカイです」
「ニーナです」
見た目とは打って変わって、丁寧でいい人そうだ。
「さて、なぜあなたたちに声をかけたかですが、……簡単です。NPC傭兵を雇ってましたよね? しかもFランクを二体」
「聞いていたんですか!」
「聞いていたと言うより、聞こえてきたんですよ」
スカイは、つい声が大きくなってしまった。
アレックスの目が一瞬鋭くなりニヤッとしたのがわかる。
スカイは失敗したと思ったが、なんとか取り繕うがどうだろうか。
「それだけだと理由になっていない気がするんですが……」
「そんなに警戒しなくても大丈夫ですよ」
平然を装って言ってみたのだが、この人には通じていないかな。
バレているかは不明だが、この人は何かに気付いているように感じる。
「さっき、ギルド長と解体所に行くのをあの部屋から見ていたんですよ。さっき登録したばかりなのにFランクの傭兵を雇えるということは、高ランクまたは大量のモンスターを解体しランクが上がったから。つまり、この短期間でそれをできるだけの強さが二人にあるということを物語っているんですよ」
やはり、モンスター買い取ってもらってもポイントが付くみたいだな。さっきの予想が当たったのかなと考えるが、今は目の前の相手をどうにかするのが先だ。
「つまり、それだけ倒せるなら俺たちについて行った方が良いと思ったんですか?」
「その言い方だと私が寄生したいみたいではないですか」
そしてアレックスは、またニヤッとする。
その言葉にスカイは思わず沈黙してしまう。ニーナからの助け舟もない。
「意外と頑固ですね……これだと話が進まないので今回は私が折れましょう。私もユニーク種族なんですよ。自分と同じ位強い人と組みたいと思うのは自然ではありませんか?」
それを知っていたスカイたちは驚かない。むしろ、打ち明けてきたことで混乱する。それに、アレックスが言っていることは筋が通っている。
アレックスも事前にスカイたちと同じことをしたから気付いたのだろう……それだけならスカイの考えすぎだっただけでなんの心配もなさそうだが……まだ、わからない。このときばかりは、さすがのスカイも冷静になれず、色々と考えてしまうのだった。
「うーん、驚かないんですね。もしかして、ユニーク種族を知らない。感が外れたのか……いやっ、その反応ははじめから私がそうだと知っていたといったところでしょうか?」
正直凄いと思う。当たり障りのない返事をしていたつもりなのに、そのスカイたちの反応から推測し自分の予想が正しかったことを確信したんだだろう。
あと、この沈黙も対応を間違えたかもしれない。
スカイがどう切り返すか考えていたら、またニーナがやってくれた。
「いえ、私たちはアレックスさんがハイ・ヒューマンだとは知りませんでしたよ。ねっ、スカイくん」
「おまえなあ……」
スカイは思わず両肘をテーブルにつき両手で顔を覆い息を吐く。
「え、えっ、何?」
ニーナは自分の失態に気付いていない。
すると、向かい側から突然破れたような盛大な笑い声が聞こえてくる。
手を外しそちらを見ると、アレックスが腹を抱えて笑っている。
「おまえたち最高だな」
いやらしい笑みを浮かべて言ってくる。
俺は肩をすくめてみせて返事とする。
ニーナは訳がわからないと挙動不審になっているが、面白いので放置だ。
「ところで、敬語はやめにしないか」
「アレックスさんがそう言うならいいよ」
「助かるよ。それじゃあさっそく……」
アレックスの言葉を遮るように断りを入れる。
「まだパーティーを組むとは言ってないよ」
スカイを見ていたアレックスは、スカイの返答にその視線の矛先を変える。
「なあ、ニーナちゃんよ。スカイはいつもこうなのか?」
突然、ちゃん付けで呼ばれたニーナがフォローをしてくれる。
「いえ、普段は私の意見をちゃんと取り入れてくれるよ」
「なるほど、そういうことね。じゃあニーナちゃん、俺をパーティーに入れてくれないか」
なにが『そういうことね』だよ。良い人そうだと思ったのはどうやらスカイの勘違いだったようだ。
感が良いのか、スカイに言っても無駄だからターゲットをニーナに変えたようだ。
「私はいいよ。アレックスさん強いし、これならたくさんモンスター倒せそうだね」
そう言っていつもの笑顔を浮かべてみせる。
俺は疲れたからいちいち反応することはしない。
「やっぱり、俺のステータスが見えてるんだな」
その問いにニーナは訳がわからないといった様子で俺の方を見てくる。
「ニーナ、アレックスさんは、ユニーク種族と言っただけで、ハイ・ヒューマンだとは一言も言っていない。しかも、ステータスを見せてもらってないじゃないか」
「あ……」
やっと、ニーナは自分が犯した失態に気が付いたようだ。
「まあ、俺は気にしちゃいないよ。隠すつもりはさらさらないからな」
アレックスは勧誘とか寄生されるのは嫌ではないのだろうか、とスカイは疑問に思った。
「実は、俺自身の傭兵ギルドを立ち上げる予定なんだよ。寄生は許さないが、有能なやつはメンバーに加えたいから目立った方がいいならとことん目立つつもりだ」
スカイの心の声が聞こえているかのようにアレックスは答えた。
「スカイは、それで隠せていると思っているかもしれないがバレバレだぞ」
「えっ!」
スカイとニーナが目で会話していたことやわざわざ奥に座ったことを指摘してきた。警戒心をひしひしと感じたとも教えてくれた。
アレックスは、強いプレイヤーを集めている最中で、スカイたちの会話が聞こえてきて声をかけたそうだ。そのあとは、先程のやり取りの通りで、スカイたちの言動でユニーク種族だと確信し、自分もそうであることを打ち明けてみたら、面白いことになったと言って更に笑い出した。
ニーナが構わないと言うので、試験的にだがアレックスとパーティーを組むことにする。
本来であれば、ユニーク種族プレイヤーに出会えたことは喜ばしいのだが、スカイたちとは毛色が違うことから、スカイは素直に喜ぶことができなかった。
アレックスは、プレイヤー数を増やし国を作ることを目標にしているらしく、仕事が忙しく休みメインのスカイと一緒にやっていくのは難しいだろう。
スカイたち三人はパーティーを組んだあと、マッジクショップでニーナ用に補助系の魔法と魔力消費が激しいプレースタイルであることからマジックポーションもいくつか買い足し、ペーパーウェイト鉱山へ向かった。
――――――
「それにしても透視スキルね」
ペーパーウェイト鉱山の廃鉱となった一つの廃墟を探索し始めた俺たちは、アレックスのステータスを透視スキルを使って見た話をしながら進んでいる。
「まあ手に入ったのも偶然なんだけどね」
「運も実力のうちって言うじゃねえか。あとで俺もギルド長にたかってみるかな」
「なんか、俺の口が軽いみたいに思われるのは嫌だから、さすがにそれは遠慮してほしいんだけど」
「べつにスカイから聞いたとは言わねえよ。俺だってそこはキチンと考えているさ。おっ、お出ましだぞ」
スカイよりも物理耐性が高いアレックスを先頭にしていたため、モンスターに気が付いたアレックスがこちらを振り返って戦闘準備を促してくる。
「Gランクのゴブリン三匹なら楽勝だな。ここは一撃で仕留めるから俺に任せてくれ」
そう言ってアレックスは猛然とダッシュしゴブリンに襲い掛かる。アレックスの得物は、柄も含めれば彼の身長よりある盾にもできそうなほどの大剣で、現実世界であんな重そうな大剣を持ってあのダッシュをしてきたら、赤鬼が襲ってきたと勘違いしそうな勢いだ。
結果は、本当に一撃で終わり予想以上というかジョークとしか思えない。
アレックスの攻撃に対して、ゴブリンは為す術もなく三匹いっぺんに上半身と下半身で真っ二つにわかれた。
スカイも腕なら切断したことがあるが、さすがに胴体を真っ二つにはできなかった。物理特化故の腕力の差なのか武器による差なのだろうか、とスカイは予測する。
「まあこんなもんだな」
有言実行したアレックスはそう言って、一匹だけ回収した。
「残りも回収しないの?」
残りの二匹の死骸を指差しニーナがアレックスに言って、スカイは報酬の分配とか決めていなかったことに気が付いた。
ニーナとはなし崩し的に共有財産化していたから全く考えていなかった。
「パーティーなんだから等分で俺は良いぞ。その方が一々役割がどうのとかで分配するより楽でいいだろ」
ここはアレックスの好意に甘えることにした。
どうせ大量に出てきたら誰がどのモンスターを倒したかなんて一々判別できないし。
「そうだね。まあ、このあと俺たちも頑張ればいいわけだし、ニーナの魔法なら一撃で複数倒せちゃうしね」
そのときは任せて、とニーナは力強く頷く。
しかし、そのときは中々訪れない。
「鉱山だからダンジョンみたいにわんさかモンスターがいると思ったんだけどな」
「俺たちが強すぎるだけだろ。ふつうだったらもう少し時間がかかるから、そんな簡単に会敵していたらふつうのプレイヤーじゃもたんよ」
「それはそうなんだけどさ。……ほら」
ニーナの方を振り向いてみろ、というように顎でアレックスの視線を誘導する。
インクの森でのときと同じように魔法を撃ちたくて撃ちたく仕方がないのか、ゴブリン出てこーい、私のサンダーで黒焦げにしてあげるよー、だとか辺りを見回しながらぶつぶつ独り言を言い始めた。
「かわいい顔して言っていることが怖えよ。なんだありゃ、新手の妖怪か何かか?」
そう、表情と言っていることがマッチしていない。昨日から何度もその様子を見ているスカイは既に慣れてきたが、初めてあの様子を見るアレックスは不気味に感じていた。
「とりあえずモンスターを見つけたらニーナに魔法を撃たせてやってほしい。もともと今日は、新しく買った魔法の試し撃ちが目的だったんだ」
「そうだったのか。そりゃ悪いことしちまったな」
左手の人差し指で頬を掻きながらアレックスが詫びてきたが、それとこれとは別問題だから気にしないようにとスカイは言っておく。
魔法職であるニーナは必然的に隊列の最後尾になる。
そこまで離れて歩いている訳ではないが、最前列のアレックスは当然モンスターとの距離が近い。
度々出会うゴブリンたちは、ニーナが魔法を打つ前にアレックスにことごとく一撃で両断されてしまっていて、ニーナの出番が中々こない。
あとでニーナに文句を言われたくないスカイは、アレックスにニーナにモンスターを譲るようにお願いした。
また、冗談ではなくニーナを最前列にした方が俺の身の安全のためにもそれが最善かもしれないとも真剣に考え始める。
「さすがにモンスターハウスはないよな」
「スカイ、いきなりどうした」
「いや、フラグが立たないかなと思って……」
「ほしがってどうするんだよ。ふつうは避けるもんだぞ」
アレックスに、もっともなことを言われてしまう。
わかってるよそんなこと。でも仕方ないだろ。
だって、……ニーナがモンスターをご所望なんだから!
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