011話 傭兵ギルドでオリエンテーション
「いやー、嬉しい誤算ってこういうことをいうのかな」
「私のときはほとんど魔石壊れちゃったのに、どうしてだろう」
マジックショップをあとにして解体屋へ着いたスカイたちは、時間がお昼を回っていたことから昼食休憩の間に解体し終わるウルフ一〇匹分をそれぞれ依頼して休憩にした。
戻ってきて結果を確認すると、魔石はランクが下がっていたり壊れているということもなく、全てFランクだった。解体の費用と手数料を引いても四五〇〇ゴールドにもなった。
「さっきの苦労はなんだったんだろう」
ニーナがぼそぼそっと不穏なことを言った。
「苦労?」
「ううん、気にしないで」
苦労ってなんだろう……マジックショップでのことを言っているのだろうか。スカイは、まさか……と思ったが、強引に考えるのを止める。
そして、スカイたちは傭兵ギルドの前まで来ていた。
「ここが傭兵ギルトか」
「うわあ、大きいね」
一階が一〇部屋ほどある三階建てのアパートのような大きさの建物で、当然鉄筋コンクリート造ではなく、レンガのような赤みを帯びた石を積み上げた石造りの外壁をしている。入口はオーニング付きのウッドデッキで丸いテーブルや椅子が何組かあって、休憩できるスペースも設けられている。
中に入ると、人だかりができていた。入口でその様子を窺っていると、奥の方から声をかけられる。
「おーい、そこの銀髪と金髪も傭兵ギルドに所属希望者か?」
銀髪と金髪というのは、間違いなくスカイたちのことだった。
「はい、そうです」
「丁度いい、これから新人への説明会を開くからついて来てくれ」
それだけ言ってその男大柄な別の場所へと移動を開始した。
人だかりとなっていたプレイヤーたちがそれに続いたので、スカイたちもあとを追った。
移動した先の部屋に入ると、大学の講堂のように扇状に長机が並べられており、五〇人ほどが思い思いに席に着いていく。スカイたちもそれに倣い空いている席に座る。
「よーし、みんな座ったな。さっそく説明を始める」
壇上の方に目を向けると、先程スカイたちに声をかけてきた男が立っていた。
「みんなは、南門から入ったと思うからマイクの説明を既に聞いているな。聞いていないやつがいたら手をあげてくれ」
その男が確認するように見渡すが手をあげているプレイヤーはいない。
「よし、先ずは自己紹介だな。俺はこのブック傭兵ギルドのギルド長をしているマーカスだ。門番をやっているマイクは俺の弟にあたる。気が付いたやつもいると思うが、俺もその手のプレイヤーだ」
どおりで見たことがあると持ったが、マイクさんのお兄さんだったのか、確かにあんな筋肉ダルマがたくさんいたら気持ちが悪い。それに、その手のプレイヤーってことはマーカスさんも運営ということだろう、とスカイは考えを巡らせる。兄弟というのが設定なのか本当なのかはわからない。
「説明するのは、傭兵ギルドの役割、従者システム、NPC傭兵紹介システムと他のギルドにつしての四つだ」
従者システムってなんだろう。
「従者システムってわかるか?」
「ごめん、はじめて聞いたわ」
ニーナも知らないということは、これがお楽しみってやつだろうか。
「役割を簡単に言うと、ブック伯爵の依頼を受けるってことだ。基本俺のギルドに所属しているプレイヤーは、一階の受付脇にあるギルドクエストボードから好きな依頼を受けることができる。背景としては、ブック伯爵と直接契約をしている俺が依頼を受けて、それをプレイヤーに達成してもらうことになるから、報酬は形式上俺から払われることになる。実際は、報酬カウンターでクエスト達成報告をして受け取ってもらう」
つまり、ブック傭兵会社がクライアントであるブック伯爵から仕事を受けて、マーカスギルド長の社員であるスカイたちが仕事をこなし、マーカスギルド長から給料をもらうってことだ。
「依頼の種類は、モンスター討伐、盗賊退治の他に町の防衛が基本となる。この町は東にあるペーパーウエイト鉱山から採掘される鉱石類がメイン産業で発展している鉱山都市だ。だから、鉱山内やその周辺のモンスター退治が特に多いだろう」
そうか、どおりでペンシルとは違い木造建物が少ないと思ったら、鉱山都市故に石の採掘等も盛んなのだろう。
「次に、とっておきの話が従者システムだ。その名の通り、自分専用のNPC従者を作ることができる。これはプレスリリースしていないからみんな初めて聞く内容だろう」
自分専用の従者だと! 周りもこの発言にざわつき始める。
「こらこら静かにしてくれ。ちゃんとこれから説明する。――従者は、ふつうのNPCとは違い育成ができる成長型NPCと考えてくれ。次で説明するNPC傭兵も含めてNPCは成長しない設定なのは、みんなも知っているだろう。詳しいことは俺もよく知らんから割愛するが、自分好みにできる高性能AIを積んだNPCと理解してくれればそれでいい。会話も他のNPCよりもスムーズだし、学習能力もある上アイテムボックス機能もあるから色々試してくれ」
な、なんだと……マーカスギルド長は簡単に説明しているが、凄い話だとスカイは驚いた。
「これは凄いんじゃないか?」
「スカイくん、凄いってだけじゃないよ。育成次第でパーティー強化になるから、私たちみたいな特殊なプレイヤーにとっては大助かりだよ」
ニーナも興奮したように凄さを説明してくる。これでタンク不在の問題を解消できるかもしれない。
「ああ、悪い。説明し忘れたが便宜上従者は騎士に仕えることになっているから、傭兵ランクがDランク以上で登用料として五万ゴールドかかるから頑張ってくれよ」
大分騒がしくなっていたが、この発言で通夜のようにその場が静まり返った。
マーカスギルド長は何の気なし言ったのだろうが、上げて落とされたプレイヤーたちは恨めしそうな顔で彼のことを見ている。
騎士やランクのことはよくわからないが、登用料の五万ゴールドが簡単ではないことは直ぐに理解できた。
「そのときにでもなったらまた詳しく説明してやるから、俺か幹部を見つけて声をかけてくれ」
それだけ言って次の説明へと移っていく。
「三つ目のNPC傭兵紹介システムだが、これはそのままでNPCの傭兵を雇うことができるというものだ。いずれ、みんなも自分の傭兵ギルドを立ち上げるときがくるだろうが、このNPC傭兵システムは、この町だとブック傭兵ギルドだけだ。これは、傭兵ギルドの特色ではなく、傭兵紹介を別枠で行っているという理解の方が正しいかもしれんな。王都や他の大きな町へ行けば必ず一つはこのシステムを利用できるギルドがあるからその辺は安心してくれ」
マーカスギルド長の説明に一部疑問を感じた。
「別枠ってどういうことだろう?」
「単純にNPC傭兵の登用窓口が、ブック傭兵ギルドにあるってことじゃないのかな。だから別のギルドに所属をしていても、ここにくればNPC傭兵を雇えるって意味だと思う」
なるほど、とニーナの説明でスカイは理解できた。
マーカスギルド長の性格なのか説明がざっくりすぎていまいちわかり辛い。
「これはゴールドを対価として傭兵を雇える単純なシステムだ。傭兵は、GランクからSランクまでの八ランクいる。雇用できるのは、自分の傭兵ランク以下になる」
Eランク以下の兵種が、剣士、槍兵、弓兵、魔法士の四タイプ。
民兵:Gランク 五〇〇ゴールド
兵士:Fランク 二五〇〇ゴールド
兵長:Eランク 五千ゴールド
Dランク以上になると騎士格となり、騎兵、槍騎兵、弓騎兵、魔法騎兵で馬と従者が付くそうだ。
准騎士 :Dランク 五万ゴールド (従者付き:G)
騎士 :Cランク 一〇万ゴールド (従者付き:F)
騎士隊長:Bランク 五〇万ゴールド (従者付き:E)
近衛騎士:Aランク 一〇〇万ゴールド (従者付き:D)
将軍 :Sランク 二〇〇万ゴールド (従者付き:C)
「傭兵なのに将軍だとか騎士だとかになっているのは仕様だから気にするな。ようはそれくらい強いってことだな」
がははと品なく笑い、これまたザックリとした説明をする。
理解はできたから説明者としては及第点だろうか。
「そろそろ疲れたから簡単に最後の説明をして終わるぞ」
疲れたのはこっちだと言いたい。それに今まで以上に簡単な説明の仕方があるのだろうか。
「他のギルドだが、生産ギルドと商人ギルドがある。詳しいことはそこに行って聞くように。以上だ」
……あった。確かに簡単だが、簡単すぎるよギルド長!
頼むから仕事をしてくれとスカイは思ったが、既に解散と言って部屋から出ていこうとしている。
「ああ、そうだ。登録がまだのやつは、受付で申請してくれ。あと、解体と素材の買取を即金でできるから利用したいやつはいるか? 連れて行ってやるぞ」
思い出したようにマーカスギルド長が、顔と半身だけを残しそう言ってくる。
即金でできると聞いて、思わず俺は挙手をする。
「ん、一人だけか? 他はいないな。よし、ついてこい」
他のプレイヤーからは反応がなく、既に部屋を出ていってしまったプレイヤーもいる。
スカイたちは置いて行かれないようにマーカスさんのあとを追うように急いで部屋から出る。
「そっちの金髪のもか」
スカイの横にいるニーナのことを見てそう言ってくる。
「はい、ニーナです。俺はスカイです」
名前は表示されているはずなのに、このまま銀髪や金髪って言われるのも嫌なので自己紹介をする。
「ああ、悪いな。さっき説明した通り、俺はギルド長のマーカスだ。スカイにニーナこれから宜しくな」
「「宜しくお願いします」」
そろって挨拶をし頭を下げる。
「そういえば、即金で解体と素材の買取をしてくれるって本当ですか?」
「ああ、本当だぞ。ただし、一般の解体屋が買取手数料まで合わせて一〇%なのに対して、二〇%かかるがな」
「二〇%か……でも、何十時間も待つことを考えたら仕方ないかな」
「そうね。仕方がないかも、それに寝るときと使い分けをすればいいんじゃないかな」
手数料が大きいが何十時間も待つことを考えたら、この先のことも見据えて計算すると、即金で対応してくれるのはありがたい。
ニーナも同意してくれたしそのままついて行こうとするが、マーカスギルド長が立ち止まる。
「ちょっと待て、何十時間って一体どれだけの数を解体するつもりなんだよ」
あれ? なんか変な雰囲気だぞ。正直に言うべきだろうかと考えているとニーナが素直に答える。
「二〇〇体近くあります」
「二〇〇! この二日間でか?」
やっぱりマーカスギルド長は驚いて目が真ん丸になっている。
「厳密に言うと昨日の夜だけですね」
隠しても仕方がないのでスカイはもっと少ない時間だと訂正するように正直に話す。
すると、マーカスギルド長は何かに気が付いたのか、ニンマリして俺たちを交互に見る。
「なるほど。そういうことか。それなら納得だな」
「まあ、そういうことです」
俺たちがユニーク種族だということに気が付いたんだろう。まあ、運営の人だからばれても問題ない、とスカイは気にしないことにした。
「それよりも早く行きましょう」
「ああ、そうだな。こんなに人がいる場所で話す内容でもないしな」
そう言って、マーカスギルド長が前に出て道案内を再開する。
ギルド施設の利用は、ギルドメンバーが優遇されるようで、受付カウンターの場所まで来たので先に傭兵登録を済ませる。
称号が冒険者から、Gランク傭兵(ブック傭兵ギルド)に変わったので登録成功だろう。
「ギルド長、そういえば傭兵ランクはどうやって上げるんです?」
「あれ、説明しなかったか? 効率が良いのは、ギルドクエストの達成だな。あとは、貴族や他のギルドから直接ブック傭兵ギルドのメンバーとして依頼を受けて達成すればよりポイントが付くぞ」
そんなの初耳だし。この人は本当に適当なんだと思う。弟のマイクさんの説明の方がよっぽど丁寧だったな。益々兄弟というのが設定に思えてくる、とスカイはうんざりした気持ちになる。
「クエストボード以外からも依頼が受けられるんですか?」
ニーナも同じ疑問を抱いたようで、クエストボードを指差しながらそう質問をする。
「ああ、この世界は自由だからな。うちのポイントが入らないだけで個人で受けるのだって構わないぞ」
「なるほど……それじゃあ、自分で傭兵ギルドを立ち上げた時のランク設定と傭兵紹介のランクはどうなるのですか?」
あっ、それは気が付かなかったな。確かに基準がブック傭兵ギルドのランクだとすると矛盾が生じる。
「鋭い質問だ。これはまじめに答えないといかんな。特別に教えてやるからそこに座りな」
解体所は別の場所にあるのか、傭兵ギルドを丁度出たところだったので、ウッドデッキの休憩スペースの椅子に座るようにマーカスギルド長が勧めてくる。
最初から真面目に答えてほしい。
「ステータス上だと、かっこ書きでブック傭兵ギルドと表示されていると思うが、所属が変わってもかっこ書きの中が変わるだけで、傭兵ランクは引き継がれるんだ。そもそも傭兵ランクというのは、『この世界で傭兵としてどれだけのことを成したか』を可視化したにすぎない。要は、世間の評判だな」
「それだと、『効率が良い』や『より付く』っていうのはどう意味ですか? 他にも手段があるということですか?」
さっき気になった部分を今度はスカイが尋ねる。
「それはお前らのことを俺が保証するっていう意味だ。ギルド登録をしたあとならモンスターを倒すだけでも自動でポイントが付く、さらにここで依頼を達成すれば上乗せでポイントが付くということだ」
「上乗せってことは、ボーナスってことか」
人知れずモンスターを倒すより、その成果を報告することで公にした方が評判が広がるのは確かだなと思う。
「そういうことだな。例えるならば、そうだな……ふつうにゴブリンを一〇匹倒しても一〇ポイントにしかならないが、うちのギルドの依頼として受ければプラスで一〇ボーナスポイントで合計二〇ポイント付くからランクが上がり易くなるってわけだ」
「それでは、戦争等のときはどんな評価になるんですか。相手は人間なわけですからモンスターとは違いますよね」
戦争は、このフロリバの醍醐味でもあるようだから将来的にはやってみたいので聞いておく。
「なんだお前らは、多人数戦闘志望者なのか。それは簡単だ。基準がブック伯爵になるから敵対する相手の兵士を倒せば倒すほどポイントが付くし、勝利し戦功が大きければボーナスポイントも多くなる」
つまりは、自分がどこに所属しているかで変わって来るってことか。
「大体は分かりました。またわからないことがあったら聞くと思いますが、今は解体屋へ行きましょう」
「ん、なんだもういいのか? それじゃあ向かうとするか。よいしょっと」
モンスターを倒すだけでもランクが上がることがわかったので、今日のところは十分だろう。
それよりも、換金して試しにNPC傭兵を雇ってみたい。
解体屋は、遠くにあるわけではなく傭兵ギルドの隣の建物だった。その看板には、『ブック傭兵ギルド解体所』とそのままであった。
「ここがそうだ」
マーカスギルド長はそう言って先に建物の中へと入ってしまう。
スカイたちも続いて中に入ると。ブッチャーのような大包丁を持った体格の良いおっさんがいるのかとイメージしていたが、カウンターの向こう側にかわいい猫耳少女が受付をしていた。
建物自体は大きくもなく小さくもない感じだったが、受付はコンビニのカウンターほどの広さしかなかった。おそらく解体所は、その奥の扉の向こう側にあるのだろう。
「さっきも言ったが、手数料は二〇%だが傭兵ランクが上がれば二%ずつ下がっていくからな。あと、魔石分の金額もモンスターのランクと仮定して換金される。万が一売りたくない素材があれば、受付に詳しいことを聞いてくれ。それと、これをやるよ」
簡単に説明をしてくれたあと、何かの本を二冊渡してくる。
「何ですかそれ」
「これは、透視のスキル本だ」
「透視?」
「ああ、ガードしていたとしても道を歩いているだけの他人だろうが、相手のステータスを見ることができるとっておきのスキルだ」
「「いいんですか!」」
スキルのあまりの内容に、驚き声がはもる。
これなら俺らと同じユニーク種族を見つけることができるかもしれない、とスカイは大喜びした。
「構わんよ。強者ってやつは運にも恵まれるもんだ。いくらステータスが高くても運が悪ければ本当の強者にはなれんよ」
「ありがとうございます」
確かにステータスが高いだけではダメなのはスカイも分かっている。
このプレゼントは気まぐれなのだろうが、大変ありがたい。
「それとアドバイスだが手持ちに余裕があれば、槍兵と弓兵を雇用した方が良いな。それだけでバランスが取れると思うぞ」
それだけ言い残しマーカスギルド長は解体所を出て行った。
「なあ、今のってみられたってことだよな?」
「そうね。それを考えると弱点まで見抜けるこのスキルは貴重よ」
「逆に考えると、注意も必要だな。とりあえず今は換金してしまおう」
「そ、そうね。いくらになるのかしら」
ニーナの目がゴールドマークになっているのは気のせいだろうか。
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