眼帯作戦
1
雪代先輩の家に行って、途方に暮れる僕であった・・・
彼女を何とか、引きこもり予備軍から卒業させないとという新しいミッションが追加されてしまったのだ。
そして、彼女を何とかしたいと思うと同時に気が付いたことが一つある。
僕は、雪代椿という人物をよく知らない。
どうにかしたいが、あまりに情報不足だ・・・・
そこで、顧問である鈴木先生に直接話をしてみることにする。
僕は翌日早速、鈴木先生のもとに相談をしに向かった。
職員室ー
相変わらずこの空間には鈴木先生はよく目立つ。
職員室というのは、それほどに花のない空間なのか・・はたまた僕の男という本能がそうみせているのであろうか。
僕は、目的の人物の元へ足を運び話をきりだした。
「先生、あの雪代先輩の事ですが・・・・」
僕は昨日の先輩の様子や、あった出来事などを細かく先生に説明した。
「なるほどなぁ・・あいつは、私の知る限り負けたことがなかったからなぁ。」
先生は、腕を組み先輩の事を語り始めた。
「そもそも、私があの子をこの高校にスカウトしたのさ。」
先生は先輩との出会いや、今日に至るまでの出来事を話してくれた。
軽く説明すると、町で大人数の大人の男性を相手に棒切れ1本で相手している所を発見され、相手をすべて倒したものの、空腹で行き倒れ寸前のところを先生に拾ってもらい、去年までは一緒に暮らしていたのだという。
僕の第一の感想はマンガのような話だ・・だった。
身内や過去に何があったなどと、そういう話は一切しなかったのだが、戦って勝つそのことに関しては並々ならぬ執着があり、時代錯誤な狂暴さをどうにかしようと剣道部に誘い入れたらしい。
「負けたことが余程ショックだったんだろうな・・・」
先生は考え込むよう、しみじみと言った。
「僕は、先輩に学校に来てほしいです!」
でないと、剣道部に入った意味が半分以上なくなってしまう。
剣の教えを乞える人は今の現状あの人だけなのだから。
「そうか・・・しかし、引きこもりして時代劇とは・・ある意味全く変わらんな。」
先生が言うには先輩は時代劇が大好物らしい。ある日、見せた誤ってデッキに撮りためた、再放送の大河ドラマにどっぷりはまり込んでそれ以降、ずっと先生は好きな番組を一時見れなかったと語った。
「まぁ、その様子じゃ怪我はよくなってるようだし、心配しなくてもそのうち出てくるよ。」
先生は、笑顔で僕の肩をポンとたたいて、そう言った。
話を終え、1礼して職員室から出ようとする僕に先生は声をかける。
「板尾くん、ありがとうな。椿を心配してくれて。」
僕は正直、自分の事ばかり考えていたのだったがその言葉を聞いて少し心がチクリと痛んだ・・
放課後、一旦部室に行き先輩の事を考えつつ、部室を一人で掃除していた。
「うーん・・どうすれば先輩が登校する気になってくれるものだろうか・・・」
先輩の過去を聞けば聞く程、自分と話が合うとは到底思えない。
実力主義の人だ・・僕が多少強くて、先輩と少しでも張り合えるならまだしも、今の僕ではまともに話すら取り合ってもらえないであろう。むしろ、こんな素人に自尊心を傷つけられたのだ。
印象としては最悪ではなかろうか・・・
「食事とかに誘って、なんとかあの勝負の僕のマグレを説得してみとめてもらうか・・」
そもそも、先輩の嗜好がわからない・・そして素直に申し出を受けてくれるとも思えない・・・
僕は、椅子にしゃがみ込み一人考え込みだした。
「お困りのようだな!!親友よ!!!」
突如、扉が勢いよく開き、僕に最近付きまとってくる、自称親友が姿を現す。
「鈴木君。先生に僕を売ったな?」
まず、彼には言いたかった一言を挨拶がてらにお見舞いしてやった。
「ぐ・・・そうではないのだよ・・僕は君の潜在能力をだねぇ・・・そう!!あえて言うなら姉貴が雪代先輩という逸材を見出したように!!」
鈴木君は、マントを翻しオーバーなポーズを取りながら叫ぶ。
痛い所を突かれたのを隠す、それはもう見事なオーバーアクションだった。
「先生が、鈴木君叩き直すって・・・」
僕の攻撃は止まらない。
「ひぃ~~!!そもそも、人には向き不向きがあるのだよ~あの姉ときたら・・・・・ぶつぶつ・・」
うろたえる鈴木君を見て、ちょっと面白くなってきた。僕の気分も少しは晴れたようだ。
「それで?入部じゃないなら、何の用事?」
僕はわざと冷淡に言う
「何の用事とは、みずくさいじゃぁないか!!話は聞いたよ!!」
鈴木君は僕が今、雪代先輩の事で悩んでいることをすべてと言っていいほど知っていた。若干気持ち悪い。
「実は、職員室の立ち聞きで・・うぉほん!基、困っている君の事を風のうわさで知ったのだ!!」
もう、突っ込みを入れる気にもなれず、軽く笑顔で返した。無論、苦笑いだが・・
「雪代先輩の事だが・・実は秘策を思いついた!!この、カイザーに任せろ!!!」
また、ろくでもない発想かもしれないが、一応聞いておくことにする。
自分一人でどうこうできる自信がない・・・
「秘策とは・・これだ!!!!!」
そう言って、鈴木君の取り出したものは黒い革製の眼帯だった。
「え?これでどうすんの???」
色々と、思考を巡らすがどうしても、眼帯と先輩が結びつかない。
「興味がないから話を聞いてもらえないのであれば、君に興味を持ってもらうしかあるまい!!」
鈴木君は、いやらしい笑みを浮かべ薄ら笑いをはじめた・・・・
2
部室にてー
とうとう、翌日鈴木君の作戦が決行されようとしていた。
昨日、この封印の楔(眼帯)を付けられこの時のために、色々と説明を受けていた。
準備は万端。幼馴染から痛い目を向けられた屈辱にも耐えた・・・
「しかし・・・・・本当にこれでいいのか??」
あの日より、鈴木君に乗せられっぱなしの僕は、今ほど不安な時はないと感じていた。
数分後、雪代先輩は久々に学校に顔を出した。
(えぇ~~~!!!!どんな魔法を使ったんだ!?)
「む!!その眼帯は!?」
先輩は、僕の眼帯に挨拶する間もなく食付いてきた。
(ですよね~・・・・変ですよね~・・痛いですよね~・・・)
蔑みの目で見られる覚悟をしている最中である、僕の心の中を裏切り、意外な言葉が返ってきた。
「な、、、なかなか素敵な眼帯をお持ちで・・・・」
(えぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!)
今までの、先輩の態度からは想像もつかないほどの、台詞に耳を疑った。
(なに?!なにが起こった!!??)
僕は理解不能だった。
作戦はこうだ。
先輩は無類の時代劇ファン。特に、昔やっていた人気時代劇「毒眼竜正宗」の大ファンで、実は眼帯マニアだという情報を教えてくれた。
先輩と、趣味の疎通を果たせば話をきっと聞いてくれるという鈴木君のアイデアだ。
理屈は分かる・・・理屈は、しかしこの先輩の態度はどう見てもあの凛々しい先輩のものではない。
まるで恋する乙女のようだ。
頬を赤らめこちらを見ている。
(効果てき面すぎるだろう!!それともなにか!?この眼帯、媚薬でも仕込んでいるとか??)
さらに鈴木君の言った作戦を続行することにする。
「先輩、先輩はあんなところに一人閉じこもっていてはいけない人なんです!」
先輩は僕の眼帯に夢中で魅入られているように視線を外さない。
「先輩!僕はまだまだ未熟ですが、いずれ先輩と切磋琢磨できる剣士になっていきたいと思っています!」
何所からともなくそのタイミングで音楽が流れてくる・・オーケストラ調の荘厳なメロディ・・
人気時代劇「毒眼竜政宗」のテーマソングらしい。鈴木君の仕業だ。
その音楽が合図となり、僕は次に鈴木君の言った台詞を口にした。
「先輩の厳しい態度の中にある剣への熱意・・僕も、かくありたい!!」
そのセリフを聞いた瞬間、先輩は腰砕けのようにその場にしゃがみ込んだ。
実はこの台詞、「かくありたい」は劇中で正宗が幼少期に言った名台詞らしく、正宗ファンならだれでも知っている・・・らしい。
が、・・・この先輩のリアクションはちょっとオーバーすぎではないだろうか…
僕の予想では、少しは同じ趣味を持っている僕を見直し、フレンドリーに会話が弾む・・予定だった・・
「そなたは・・・いや貴殿はあの正宗公の生まれ変わりか?・・・いや、きっとそうだ!」
(何故、そういう方向へいく・・・・)
「間違いない!!!そのセンスの良い眼帯!!そして、1度敗れた者に対してのその優しい言葉!!」
(いやいやいやいや・・・・)
もはや、あこがれの英雄でも見ているかの如く先輩の瞳は輝いている。
「私こそ、貴殿に学びたいことで一杯です!!」
後輩の僕に対して、もう敬語になっている・・・
これを、放っておいたらまた、へんな方向に行ってしまうと感じた僕は先輩の言葉をさえぎって叫び気味に意見を口にする。
「あの!!!・・・残念ながら、僕は正宗公ではありません!!変な期待させてすいません!」
僕は先輩の素直な騙されっぷりに、心が少し痛かった。
「そんな馬鹿な!?では、その見事な眼帯はどう説明する!!」
僕は、眼帯を外して両目健在な事を必死に説明する。
本来の鈴木君の予定なら、もう少し痛い台詞を言ってダメ押しする・・とかそういうプランだったがもはやこれはやりすぎだ。
僕は、先輩に正気になってもらおうと必死になっていた。
「そうか・・・・少し残念だ・・・」
先輩は、肩を落として少しがっかりした様子だったが、すぐに次のとんでもない言葉を言い放つ。
「が、しかし君の眼帯姿に心を奪われてしまったらしい・・私と切磋琢磨したいのだな?」
なんか、言っている事が多少ずれているようにも思えるが、ここはおおきくうなずいて肯定するところだと思った。
「よし!!決めたぞ、いずれ私と添い遂げられるよう君を強く育てることに!!」
(はい?)
僕は目が点になる・・・
「これからよろしくな。海。」
先輩はひとりで空を仰ぎ拳を握って、気合を入れ叫んでいる・・・
ちょっとスルー出来ない台詞もあったけど、なんとか先輩は元気が出てきたようだ。
それとひとつ、僕の名前を憶えていてくれた事に感動した。
なんとなく丸く収まったきになった所で、1番気になる事を聞いてみた。
「先輩、どうして部室にこられたのですか?」
鈴木君はどんな、口実で先輩を口説いたのか興味があった。
「うむ・・・帝が超有名店の最中を入手したので、取りに来いと連絡があったのでな・・・で?・・帝はどこだ??」
ぼくは、この先輩の台詞を聞いて、力が抜けるような思いだった・・
(・・・・・・・眼帯いらないじゃん・・・・・この先輩・・・思ったよりチョロいのでは・・・・・・)
文章力ないですが、皆さんに表現を理解して頂けたらさいわいです。
誤字、脱字、もし見つけてもご勘弁を・・・
ご拝読ありがとうございました。次回もよろしくおねがいします!!