夢か現か
2
転移門ー
ここは、先程まで海がいた空間。
海に定員オーバーを告げた女性が、すべての仕事をこなし終えため息をついていた。
「皆さん旅立たれましたね・・・・」
女性の後ろよりもっと神々しい光に包まれた、女性がまた一人現れた。彼女こそ女神を絵にかいたような人物だ。彼女と並ぶと、海たちを送った女性は、神官風とでも言おうか、それほどの差がある。
「はい・・しかしながら、どうして9番目の方を使者として向かわせなかったのですか?」
女神のような女性に尋ねる。
「あの者は、きっと他の世界に行かせたら危険だと判断いたしました。」
神官風の女性は目を丸くして驚く。
「まぁ・・・とてもそんな風には見えなかったのですが・・・確かに頼りなさそうではありましたが・・」
そのセリフを聞き、女神のような女性は言い直す。
「彼が危険ではなく、世界が危険なのです。きっと、何処に送っても彼は世界をこわしてしまう。彼を受け入れることのできる世界はきっとあそこ以外ないでしょう。」
彼女の言う、あそことは、海の育った元の世界のことだ。
「あそこは、一見普通の世界ですが、特異な世界でもあります。」
神官風の女性は一層興味のある態度で女神のような女性の言葉を聞く。
まるで、講義を聞く学生のような態度だ。
「あそこは、争い、事件、犯罪そういうものが極端に少ないと思いませんか?」
女神のような女性は、神官風の女性に問いかける。
「そういわれてみれば・・そうですね。」
「悪い魔力と言いましょうか、オーラといいましょうか、そういった類のものがたまりにくく、しかもほかの世界に当たり前にある、特異な能力なんてものも殆ど存在しません。しかも、特異な能力をもって生まれた者や、使者として来訪した者も、力を限りなく無力化させられます。たとえそれが他の世界での類を見ない英雄や手に負えない伝説級の魔王やらでも。」
女神のような女性はその世界であろう光を見つめ、語る。
「そして、彼の能力は類稀なる運です。」
神官風の女性はあたまにクエスチョンが浮かんでいるような表情だ。
なにしろ、そんな能力あるのかすらも、知らなかったからだ。
「あの、普通能力って身体機能や技術などのスキルが強力とか、そういうものでは・・・」
「そうですね・・ふつう運なんて不確定な能力がどういう祝福を受けてなるのか私たちにも分かりません。」
「しかし、実際あるのだから、否定のしようがありません。ここへの召喚に応じられたのも間違いなく強力な能力のおかげなのですから。」
「そうなんですね・・・・でも何故、危険なんでしょう?害はなさそうですが・・」
「大問題です!!何でも、本人の都合のいいように転がってしまうのですよ!?本人が望もうが望むまいが・・。そんな力を持っているものが、他の世界で何を望むでしょうか?・・きっと神となることも夢ではないでしょう。」
「なるほど!!つまり、やりたい放題ってことなのですね!」
「そうです!!やりたい放題なのです!!」
神官風の女性の言葉に半分乗せられたように女神風の女性は徐々に言葉がヒートアップしてしまうのに気付き、軽く咳払いをして元のペースに口調を戻す。
「彼があそこに生まれたのには、きっと理由があると思います。あそこが、永く存在できる世界であるための鍵のような存在かもしれませんので・・今後、彼は特異者として、監視したほうがいいかもしれませんね。」
「あそこにいるうちは、彼は普通の人間として生活できるのでしょうか?」
「それは問題ないでしょう・・あの世界が彼の能力に蓋をしてくれているようなものですので。それに、先だって送った使者達も本人達の予想に反して普通に生活できているようですので・・」
女神のような女性は口元を軽く隠して微笑む。
ここでは、この二人の雑談がまだ続いている・・・・
どこでもない、どの時間でもない、ただ選ばれる者のみが刹那に訪れる場所・・・・仮に転移門と呼ぶ。
2
僕、板尾海の住む町は、そこまで大きくない普通の町だ。
過去、そこまで大きな災害や事件等も聞いたことがない。
平和な日常に、本来なら感謝こそすれ別の世界に行って一人この世界から行方不明になっていいとか、今までなら考えることすらなかったと思う。
十二分に今が幸せだと思うからだ。
しかし、僕は見てしまったのである。それは夢なのかも知れない、でも1度起こったことは2度目もある。
今度また異世界に行けるとして、その時困らないよう、自己の鍛錬を本気でやると決めたのだ。
何故、そこまでむきになるのか・・・
僕は今まで、努力というものを一切といっていいほどしたことがない。
不思議と、結構なるようになって来た。
高校の入試も、本来なら自分の受かるレベルではないが、何故か合格して今ここに居るわけだし。
大きい怪我や病気もしたことがなく、ほしいものは何となく手に入ってきた気がする。
そんな、自分があの日から心から欲しいものができたんだと思う。
あの時、異世界から送り戻されたときからその気持ちは大きく膨らんでいる。
「待ってろ!!異世界!!!今度は召喚されてやる~!!!」
僕は、叫んだ後にここが帰宅途中の街中だと思い出し当たりを見回す。
周りの通行人は僕をジロジロみていた。まるで、変人でも見ているかのように引いた表情の人もいた。
僕は素に戻り、その場を足早に去る。
帰宅途中と言ったが、実はこれから寄り道の予定である。
僕の部活、剣道部員は実は僕を含めて現在二人。
一人は、先輩の2年生だ。ある事件があり、しばらく学校に出てきていない。
というのも、事件の原因は僕なのだ。
顧問の先生にお願いして、その先輩住所を教えてもらったので様子を見てこようと思っている。少なかれ責任はあるのだから・・・・
住宅街に入り渡された地図どおりしばらく歩くと、古いアパートがあった。
年代物らしく、木造で言っては何だが、ぼろい。
僕は住所を見て確認して、敷地に足を踏み入れる。
アパートの壁にこの棟の名前であろう看板が掛かっていた。
『古割荘』
「コワレソウ・・・・・・壊れそう・・・ってだじゃれか!!」
看板を見て一人突っ込みを入れ思う。
今の僕と、同じ反応をした人間が何人いるのだろう・・・と。
3
部屋の番号を確認して僕は扉の前に立つ。
扉をノックしようとして、中から聞こえるなじみのある音楽に違和感を覚える。
少しの間、その音楽を聴いていたが、はっと我に返り扉をノックする。
コンコン・・・・
「先輩。雪代先輩。」
しばらくして、扉の奥からものすごい勢いの音が聞こえ凄い勢いで扉がひらいた。
おそらく猛ダッシュして出てきたのであろう。
パジャマ姿で手に竹刀を持っている美女が姿を現す。
危うく扉に激突しそうになる。
「む!!貴様!!よもやここまで追ってこようとは!!!!」
出てきたのは僕の先輩で2年生の雪代椿。
「こんにちは先輩、なかなか学校来ないから、みんな心配してるそうですよ。」
「友人だと・・・・そんなものはおらん!!!」
僕は、この先輩の事をあまり知らないが、学校では美人だがかなり変人扱いされている噂だけは聞いていた。この挨拶も、ほぼ社交辞令な感じで口から出た台詞だった。
「何しに来た!私を笑いに来たのか!!」
彼女は、いかにも屈辱に耐えるといった表情で僕の回答を待っている。
「いやいや、あの勝負は僕のマグレといいますか・・・なんといいますか・・・」
彼女が学校に来なくなる前、1度僕は先輩と勝負という名の試合を行った。
先輩の実力は、大会にこそ出ていないが、全国最強クラスという噂だ。
そんな彼女に、勝てるはずもない僕が運で勝ってしまった。
無論正式な試合でもなく、僕も実力で勝ったなどと思っていない為、そういったのだった。
「マグレ・・・マグレだと!下らん!!では何か!?私はマグレで殺されたというのか?」
(おいおいおいおい・・・・・殺してませんから・・・)
「あれが、真剣なら私はすでにこの世にはいない。故に、最強を目指した私はあの日死んだのだ!。」
(えぇぇぇぇぇぇぇ~)
「そして、ここが負け犬の私の最後の居場所となる・・・・なので、邪魔するな!!」
彼女は、ちょっと自分が正当なことを言っているという態度で、胸を張る。
僕は、この時改めて思った。
マグレ勝ちで、この才能ある人をつぶし引きこもりにしたら、罪悪感でとっても嫌な気分な高校生活が続いていくのだろうと・・・
ふと、部屋の奥から聞こえていた音楽が切り替わり、テンポの速いものになった。
これは・・・よく放送している時代劇の戦闘シーン・・というか、活劇のシーンだ。
彼女はその音楽が耳に届いたのか、扉が開いているのもお構いなしで、一言吐き捨て部屋の奥へ走り去る。
「とにかく!!邪魔だて無用~!!」
無断で入るわけにもいかず、僕はその場を離れようとするが部屋の様子がここからでもまるわかりだった。
そこには、テレビに映る時代劇に釘ずけになって、座り込む彼女の姿。
アイドルでもみているのかと疑うほどうっとりしている表情は、まさに、マニアのあれだった・・・
「まいったなぁ・・話も聞いてもらえない・・・」
僕は憂鬱だった・・・・
稚拙な文章ですが、自分が楽しんで書いております。主人公共々、成長したいです。
ぼくはすでに痛いですが・・・
ご拝読ありがとうございます!!次回もよろしくおねがいします!!