救ってみせる
1
扉を開け、テレビアニメでやっている魔法少女のようなコスプレで現れたその少女は、鈴木君から見せてもらった動画の少女、りらだった。
紫を基調とした可愛らしいドレス仕立ての衣装だが、こんな洋服を着て歩く一般人はまずいないだろう・・
「こんにちは~まだやってるかしら?」
彼女が現れたのは、閉店ぎりぎりで今は従業員である僕たちしかいない。
「は、はい大丈夫ですよ・・こちらにどうぞ。」
僕は動画で見た彼女に少し動揺するが、彼女をテーブル席に案内する。
「さっきから、いい香りね・・・私にも紅茶お願い。」
僕たちが先程まで、くつろいでいたカウンターに紅茶のカップが置いてありそれを見て彼女は注文をだす。
「はい、かしこまりました~。」
僕は朝顔に紅茶の注文を受けたことをカウンターに行き、告げると同時に彼女から確認される。
「あの娘・・・・動画のあの娘だよね~?」
「そう・・だと思う・・・」
テーブル席の方を覗いてみると、キョロキョロとお店を見回している彼女と目が合い、笑顔で手招きされた。
「お呼びでしょうか?」
彼女の方へ行き、用件を聞いた。
「ここって、どの子でも気に入った子とご一緒できるって聞いたのよ」
「はい。好きな子を教えて頂けたら、店長が連れてきますよ~。」
僕は、笑顔でリクエストに答える準備をする。
「そう・・・・では」
彼女が、そういっておもむろに腕を上げカウンターの方に指をさす。
「彼女!!!ゆーかりんちゃんがいいわ!!」
(・・・って?!・・・・ええ???)
2
彼女の指さす方には、カップを両手で持ち紅茶に夢中のゆかりが居た。
僕たちの視線に気付き、こちらを見た。
「お・・お客様・・当店の店長は、子猫や仔犬では・・・・」
「あら、どの子でも気に入った子とご一緒できるのでは?」
なんだか、上げ足を取られた気分であった。
「冗談よ~♪少し彼女と話したいだけ。店長さんなんでしょ?」
彼女は、気さくにフォローを入れる・・が時々、目が真剣になるのが怖い。
「少々、お待ちください。」
僕はカウンターに行き、ゆかりと話がしたいという彼女の要望を伝えた。
しばらく経ってー
「お待たせいたしました。紅茶と、当店自慢の店長でございます。」
ゆかりは、店長とはいえまだ12歳位の子供だ。二人にして何を言うのか、言われるのか分からないので、僕がエスコートして行くこととなった。
「ありがとう。・・・きゃー!!あなたがゆーかりんちゃんね!?かわいい~!!」
ゆかりを目の前に彼女のテンションが上がる。
「・・・・・・・・・・その服・・・・かわいい・・」
無口なゆかりが珍しく、口を開く。
「あ、これ~?シャイニーライラックのコスプレだよ~」
そう言って、彼女はポーズを決める。(びしっ!)
シャイニーライラックとは、最近テレビでやってる女の子向けの変身ヒロイン番組である。
実は最近ゆかりも見ているらしい。
「・・・・・・・・本物だ・・・」
(いやいやいやいや・・・・・・)
僕は、心の中で突っ込みを入たが、小さい子がそう錯覚するほどに彼女は衣装もポーズも決まっていた。
「う~ん・・・・ほんと、可愛いわね~♪まぁ、本物だったんだけどね~・・・」
彼女は一瞬暗い顔をして、すぐ笑顔になる。
「・・・・・・・・今は違うの?」
「あはは・・・心はいつも本物の正義の味方だよ!!」
「・・・・・・・・・おおお」
ゆかりが、ちいさな手で拍手を送る。
ひと時・・他愛のない談笑が続き、僕はそれを横に立ち見守るようにする。
りらは、とても良い娘のようだ。ゆかりのリクエストに答えアニメのポーズを取ったり、一生懸命ゆかりの相手をしている・・・もはやどちらが客かわからなくなりそうだ・・・
「ここは、いいお店だね。ゆーかりんちゃんは可愛いし、紅茶も美味しいし♪」
りらは、口にカップを持っていき、しばらく沈黙する。
そして彼女がカップをテーブルに置いた瞬間、僕たち従業員に聞こえるように大きな声で発言する。
「このお店は、もっとかわいくなる!もっと可能性がある!!私があなたたちを救ってみせる!!!」
3
数日後、嵐のように去っていった彼女は再び閉店間際に現れた。
その手には、大小さまざまな荷物を持って・・・
「い・・いらっしゃいませ・・」
「ふふふ・・・今日は、このお店を救いにきたわ!!」
(何からですか・・・・?)
「何から救うのか?って顔してるわね、ボーイさん。」
僕は表情に出たかと一瞬、しまったと思ってしまった。
「もちろん、悪の手からよ!!・・・・・このお店は悪に狙われているっ!!」
僕は次の瞬間、違う意味でしまったと思った・・・・・
「・・・・ていうのは冗談で真面目に言うとこのお店、もっと良くしようとアドバイスをね。」
従業員の意見も聞かずに、もう彼女はその気になっている。
「大体、見て御覧なさい。今のお客さんたちを・・・・私が予想した通りだわ。」
現在は男性客がまばらに席に居て、何処も不思議なことはない。
「ここ数日を考えて、どんな感じだった?」
僕は、お店を見回しここ数日の記憶をたどる。
「男性客が多いな。女性客を最近あまり見なくなったようなきがするぞ。」
僕の後ろから、箒を持った先輩が近づきそう言った。
たしかに、言われてみればそうだ。まぁ男が多くても、注文が入れば収入にはなるし問題という程のものとは思えない。彼女の意図を知るため、話を進める。
「そこよ!!仔犬や仔猫の癒しが本来のテーマであるべきこのお店が、メイドや、ゆーかりんちゃん目当ての痛いカフェになりつつあるってのが問題なの!!」
りらは腕を組み、話をつづけた。
「大体、ここに居る3人はレベルが高すぎる!!特にゆーかりんちゃんはもはやネットでは超売れっ子よ!!」
確かにそこは認める。僕は、端から見たらかなりうらやましい位置にいるのだろう・・・・
「そして、男性客が増えると、女性客が来づらいじゃない!?」
「うんうん・・・・でも、男性客に帰れとは言えないし・・・・」
僕と、先輩はその場で考える。
「そこで、これを持ってきました~♪」
そう言って、取り出したのは黒いスーツ・・・・しかもタキシードのような凄く高そうなものだった。
「ボーイさんはこれに着替えるのよ!!大体、男性である貴方がボーイに甘んじるなんてナンセンスだわ!!」
強引に衣装を渡され、控室で着替えるように指示され背中を押され無理やり退場させられた。
着替え終わり皆の前に顔を出すと、皆が僕の方を見て無言になる。
「なになに・・・・??黙ってられると、心配になるんですが・・・・」
僕の来たこのスーツは、いわゆる執事の恰好だ。黒い生地のスーツに白手袋・・少女漫画やBLの表紙にあるような・・・・
「ほうほう・・・やるな。ボーイさん。」
「結構にあってるよ!海~!!」
「・・・・・・・・・・かっこいい。」
「うむ・・・・・あとで眼帯を付けたら完璧だな。」
皆、感想を言ってくれたので少し安心した・・最後の先輩の台詞は気になったが‥‥
「これで、一つ問題解消!!」
りらが次の衣装を取り出す。
「そこのメイドのおねーさんはこれ!!」
そういって、先輩にも衣装を渡す。
僕のように、着替えて戻って来た姿は、大正ロマン風とでもいおうか、とても綺麗な薄い赤で染められた着物だ。その姿はメイド服よりしっくり馴染み、凛とした先輩の魅力を纏わせるものだった。
「うんうん、彼女はこれの方がいいよ~あ、これ小道具。」
そう言って、彼女に渡したのはさやに入った日本刀だ。勿論、竹光だが。
先輩が腰に竹光を差した瞬間、気が引き締まったのか雰囲気が変わった。
「うん、この出立ち・・凄く落ち着くぞ!!本来の自分に戻れたようだ!!」
先輩は、嬉しそうに自分の来た衣装を見ている。
「この手のおねーさんは、絶対こっちの方が女子人気高いからね~♪」
僕たちを見て、りらは満足そうにニコニコしてる。
「紅茶を入れてくれる彼女とゆーかりんちゃんは、あれが似合ってるから良いとして、あとは・・・」
彼女の作戦はまだ続くのかと、期待して耳を傾ける。
「あとは、このお店に私が入れば完成だよ!!」
(え?)
「ほら、やっぱ花は多いほうがいいし♪私もそこそこ人気あるし、私もアクセス数稼げるし♪」
(えぇえぇぇぇぇぇ!?)
こうして、また一人従業員が増えた「ユーカリ」であったが、彼女のアドバイスで心なしかお店の雰囲気がまた一つ痛いものになったようなきがする・・・・
4
「あはは♪・・・りらちゃん、あのお店気に入ちゃったみたい♪」
ネットの画面でりらのブログを見て、一人呟くうずめだった。
「でも、なんでだろ~??あれだけのトラブルメーカーが一緒に居るのに不思議とうまくいっちゃってるんだよね~・・・」
うずめは座ってた、回転椅子をくるくる回して考える。
「予想では、人気争いで嫉妬してどうにかなっちゃう的なこと期待してたのに、まさか一緒になっちゃう
道を選ぶとか・・・・」
うずめは回転をぴたりと止る。
「やっぱ、あれホントなのかな~?召喚されたけど戻されたっていう子の話・・」
今度は前後に体を揺らし始めた。落ち着きのない子供のようだ。
「ふふふ♪やっぱ私が行くしかないかぁ~」
うずめは何か企むような笑みをうかべた・・・・・・
ご拝読有難うございます。
なんとか10P目・・
まだまだ、頑張るぞ~・・と一人気合をいれております。




