9番目のあなたは定員オーバーです。
1
どこまでも続きそうな深く静かな空間にここちよさを感じて思わず、言葉がもれる。
「暗い・・・」
ちょっと、シリアス風に台詞を放った瞬間、後ろから思いっきり引っ張られて、顔を持っていかれそうになり僕は叫ぶ
「ちょ!?・・痛い!!痛いって!!!」
あまりの痛さに閉じていた目を開け、僕の後ろにいた友人に訴える。
「少しの間の辛抱だ、イオタ。これは、封印の儀式・・・・この試練に打ち勝たなければ、貴様は自分の力にのみこまれてしまうのだぞ!!」
そう言い放ち、僕の後頭部あたりで、ベルトのようなバンドの調整をしてる。
彼が自宅から持ってきた、特注の眼帯らしい。
「いやー、まさかこれを使う時がくるとは・・・惜しむらくは、自分がこれを付けれなかったことだ・・」
彼は、声色が少し悔しそうでもある、よほどこの眼帯を気に入っていたのだろう。
少し重量はあるが、黒い皮のような素材に銀の装飾・・一見どこぞのビジュアル系バンドなんかで見たことのある風のデザインで高そうだ。
「いや!決して私にサイズが合わなかったのではないぞ!!私は、封印の必要がないからな・・ふん。」
そう言い放ち、僕の後ろから前に体を動かす。
「よし!!出来たぞ!!どうだ?なかなかだろ?!」
ニヤリとどや顔を見せるこの彼は、鈴木 帝は、自分のことをカイザーと呼ぶ、僕の友人兼、アドバイザーでもある。
僕より、少しというか、かなり顔がでかい。なぜか、マントを付けている。見るからに典型的ないわゆる患者さんだ。
「うーん・・・これしなきゃだめ?鈴木君。」
鏡に映った自分を見て、ちょっとため息が出る。
「愚問だな、古今東西!力を持つ者の正装のようなものだ!!これに黒いコートやブーツや指ぬきの皮手袋等で本来は完成形なのだよ!!あと、わたしはカイザーだ!! 」
(正装って・・・・)
鈴木くんは、だんだん口調が激しくなる。
「それにだな!!片目だけでも戦える訓練となる!!」
その一言が、僕の心を納得させた。
「おお~!!そんな効果が!!さすがカイザー君!!」
僕が心より今望んでいるものは、日常生活では培うことのできない、修練。そこをうまく突かれた感じだった。ちなみに、彼がいうところの、力などまず無い。
「ふふ・・いいぞイオタ。理解が早いじゃぁないか。」
うでを組んで、うなずきまくっている鈴木くんに、ちょっと気になる質問をしてみる。
「それでさぁ。さっきから言ってるそのイオタって・・・僕?」
恐る恐る聞いてみると、こぶしに力を込めて力説をしだした。
「そう!!今日から君はイオタだ!!かっこいいだろう!!幻のスーパーカーの名前でもあるのだよ!!」
(いや・・板尾だからイオタって・・・・・・かっこいいか?・・・)
内心そう思うが、鈴木君しか呼ばないだろうから、そこはスルーしておくことにする。
「この、封印の楔(眼帯)は今日の目覚めの日の記念に貴公に進呈しよう、イオタ。」
「あ、有難う・・大切に使わせてもらうよ。」
ぼくの台詞を聞いて、鈴木君は満足気ににんまりと笑みを浮かべる。
「では、そろそろ僕は失敬するよ。何か相談があったらいってくれ!いつでもこのカイザーが・・・・・etc」
好意的なのだが、挨拶の長さに僕の耳には半分しか鈴木君の言葉は入ってこなかった。
なぜなら、この眼帯のことが気になるのが半分、もう半分は過去にある場所で言われた台詞がどうしても頭の中をよぎり、何度も繰り返しているからだ。
挨拶を済ませ、鈴木くんがマントを翻し、部屋を出ていくのを見送ると、一人になりまた自分の姿を鏡で眺めてみる。
「眼帯・・まじ必要か??」
眼帯の必要性に疑問をもちつつ、頭の中で繰り返される言葉を思い返す。
(9番目のあなたは・・・はい、定員オーバーです。)
この言葉を思い出すたびに、疑問やら怒りやら、色々な感情が入り混じった複雑な心境になる。
しかし、この言葉のおかげで、自分を変える決心がついたのだ。
(でも、なんか違うような気がする・・・・)
見るからに、痛い眼帯をしている自分を見ながら、少し前を思い返す・・
2
僕、板尾 海は何処にでもいると思われる程度の普通の高校1年生だ。
得意なことは、特になし。剣道部に所属するも、先輩達は全然部活に来ない。実質、僕一人の剣道部だ。潰れないほうがおかしいとわれながら思う。
友人はクラスメイト、先ほどの鈴木カイザー君。それと、幼少よりの幼馴染が一人くらいで、人間関係は乏しいほうだ。
ちなみに、現在は部室だ。
こんな僕が何故、剣道部員かというのも、チョットした理由があったりする・・・
一人なので、鏡に向かって竹刀を持ち、ちょっと構えて見る・・・(眼帯付きで、カッコつけた構え方。)
ちょっと、やっぱ、へんかなぁ・・と眼帯見て、人目が気になるころ合いに、部室に一人見知った顔の女の子が入って来た。
「おつかれ~海。・・・・・なに?それ??」
入って来たのは幼馴染の白鷺 朝顔。
親同士が仲良くて、兄弟のように育った兄妹のようなものだ、あいつから言わせれば姉弟というだろう。
クラスこそ違うが、噂で結構人気者だと聞く。僕も良く宿題等でお世話になっている結構ありがたい存在だ。
部室に入るなり、さっそく僕の痛い眼帯に食付いてきた。
「ふ・・・封印の楔・・・・」
ちょっと恥ずかしかったけど、眼帯と言わず、あえて封印の楔と言ってみた。
多分、こいつに言えなかったら、他の人には間違いなく言えないから、練習も兼ねてだ。
「なにそれ・・きも!!・・てか、また鈴木君の影響でしょ!?それ!!」
朝顔は、ちょっとあきれた顔で話を続ける。
「海、あんた最近おかしいよ?昔はもっと、普通だったのに・・何で鈴木君と付き合ってるの?」
多分、僕の事を心配してくれてるのだろう。
僕が、以前と少し違うのは自分でも分かっている・・いや、変わろうとしているのだから・・
数週間前ー
思い返せば、とある場所から帰ってきた瞬間に鈴木君にばったり遭ったことがきっかけだ。
僕は、その時一人で空を仰いで叫んでいた。
「ちくしょう!!なんだこれ?!僕、異世界に行けないの!??」
この時の僕を見て、なんだか自分と同じ人種と思ったらしく、あれよあれよと毎日僕に絡んでくるようになった。
何度か、この時の真実を話し、説得しようとしたが、もはや火に油を注ぐように彼の中二心は燃え上がってしまったのだ。
「普通じゃだめなんだ。」
思いつめそうな幼馴染の顔ふいに言葉がでてくる。
「え?」
シリアスな表情で僕の次の台詞を、待っているようだ。
「僕は、戦士として!!強くならなきゃだめなんだ!!!」
その台詞を聞いて朝顔がプチンときたらしい
「こぉのぉ~~!!痛男がぁ~!!!もう!!知らないから!!!」
うまいこと怒鳴って、部室を出て行ってしまった。
おそらく、一緒に帰るつもりだったのだろうが、悪いことをしてしまった。
どうあっても、朝顔は僕に普通に戻ってほしいらしい。
しかし、ぼくはこのままのんびり普通の生活をしていてはいけないのだと解ってしまったのである。
たとえ、周りの人間にどう思われようと、こればかりは譲れない訳があるのだ。
僕は確かに異世界へ召喚された・・・・
3
ある日、それは朝だったか、夜だったかも記憶として曖昧だが、確かにそれは存在した。
気が付くと、そこは見たことのない景色の場所だった。
あたりには、自分のように周りをキョロキョロ見回す人が数人。
みんな自分と同じくなぜここに居るのかわかってないようだ。
やがて、白ずむ光の中からいかにも他とは違うこの状況を説明できそうな女性がでてきた。
おそらく、人ではないのだろう。
「皆さん、突然の事でびっくりされていることと思います。」
女性は口を開いていないのに、頭に言葉が直接流れてくる感覚だ。
「この状況を簡単に説明させていただきますと、貴方がたには別の世界に行っていただきます。」
ぼくはこれを聞いて夢だと、自分で納得する。
(異世界召喚って、アニメやラノベじゃあるまいし・・・・)
「いいえ・・・現実ですよ。」
ぼくの心が伝わったのか、表情を呼んだのか、絶妙に返答が返ってくる。
(まじか!!)
「皆さん・・貴方がたは、世界の均衡を保つ役割を受け、生を授かった方々なのです。ここにあるすべての世界は、貴方がたの助力無くしては滅んでしまう運命にある世界です。」
あたりを見回すと、無数の星のような光が、空や足元にまで広がって見える。
まるで、空中に浮遊しているような感覚だ。
女性の声は頭の中で、続けて語り掛けてきた。
「貴方がたの居た世界もこの均衡の例外ではありません・・人より強大な能力を持って生まれた貴方がたが残れば、いずれ来たるべくして・・・」
(なるほど・・前の世界じゃ、僕はダメってことか・・・ていうか、強力な能力なんて僕には無いぞ?それとも・・別世界に飛ばされたら開花するとか?それはそれで楽しみかも・・・・)
この時は、結構お気楽に考えていた。
ちょっと退屈で平和な今までの世界へのお別れは頭の隅っこの方にあっても、何より、違う世界がどんな所かとかの好奇心のほうが、勝っていた。
話を受けている最中、僕よりも早く光につつまれ、色々な方向へ飛んでいく人々の姿。
「では・・・・」
女性が僕の方へ向けて手をかざした瞬間に僕は身に起こることを理解した。
いよいよ、自分が新しい世界に出発する時がきたのだと・・・・・
僕は、思いっきり目をつむって期待に胸を膨らませる。
(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・あれ?)
恐る恐る目を開けるも、どこにも移動している気配がない。
「あの・・・すいません・・・・」
頭の中に女性の声が再び響く。
「9番目の貴方・・・・貴方は・・・・・」
次の言葉に、耳を疑った。
「定員オーバーです・・・・・」
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
この時、ぼくは目の前にいる女神さまかもしれない女性に対して、突っ込んでいいのかという理性と、おかしいだろ?という感情が同時に襲ってきた。
同時に、僕は何か悪いことしたのか?という疑問、異世界を見れない理不尽さに落胆しそうになる。
「あの!!」
気力を振り絞り、再度訪ねようとすると、女性の声がまた頭に響く。
「9番目のあなたは・・・はい、定員オーバーです。とりあえず、元の世界にもどるようにしますね。」
そう言い残すと僕は光に包まれて遠くに飛ばされるような感覚に見舞われる。
「ちょっとまって!!!こんな!!理不尽だろぉぉぉぉぉ~~!!!」
ぼくは、問答無用でこの空間から強制退場させられてしまった・・・・
何となく書く作品なので、誤字、脱字が多く、文章力もありませんが暇つぶしとして読んでいただけたら幸いです。
ご拝読ありがとうございます!!
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