第1章 終幕「ギリシア終戦そして新たな兆し」
【第8幕】『ギリシア終戦そして新たな兆し』
「敵将オーディンが動き始めたぞ!!」
そう聞こえた時に軍師たちは緊張した顔になるも、エクウェス、ゼウスの作戦実施と作戦発案者は不安の一つも表さずに戦場を眺めていた。
しかし一つでも考えが外れれば全てが終わる。無に帰す。これが戦場なのだ。失われた命こそないにしても降伏した世界に未来などない。だからこそ正念場なのだ。
「お前に任せたぞ」
そう聞こえたのはどれだけ昔だろう。あの地獄のような光景を前にして誰も助けに飛び込めなかった。飛びこびたくもなかった。いっそのこと、ここで目を伏し何もかも見なかったことにすれば…
しかし気づいたら……手が剣に伸び……足が敵に向け歩き出した……魔獣に囲まれ生きることを諦めた一千人を助けに向かっていた。
そんな昔をぼんやり思い出していた。
「おい英雄。ぼけっとしないで何か考えろ」
少し上から…いや雲の上にいるかのような高さから指図された
「ゼウス。何も動かなかったらこのままだ。だからこっちからは動かない」
しかし隣に立っている全知全能神の顔はなぜか引き締まっており、覚悟が決まった様子で小声で言った。
「これで幕引きだ」
城壁上でいろんなことを考えていた時にオーディンは愛馬グレイスプニルに乗りとある人物に接触していた。それは…
その者がいる戦場は無数の弾丸で構成されている雨が今なお降り注いでいる。彼の周りの土地は変形し、彼が立っている地はひとつの銃痕がない。なんせ一振りする毎に空気が振動し、弾丸はニョルニルに触れる前に消える。
そんな戦場にオーディンは現れた。
「トール…雷霆を放て」
語ることは少なくとも信頼は絶大。
そんな信頼を肩に乗せられたトールもまた
「おう」
語ることは少なかった。
天候が荒れ始めて、ついには雨さえも降ってきた。黒き雲は悪意を抱きながらも、呻き声をあげ近づいてくる。
「雷霆」
声量は少なくそう呟いたトール。しかしその攻撃は次の瞬間消え失せる。
「雷神、お前は強いが全能にはまだ遠い」
遠くから聞こえる…と思った直後にそれは目の前にいる。まさに雷のような速さで移動してきたのだ。トールは一目で気づいた。
「彼のゼウスがここにきてよろしいのですか?」
とにやけながら疑問を語るトールに
「お前こそその場にいて死なぬと思っているのか?トール」
と2人はにらみ合い、雲さえ2人のように反発し呻き声をぶつかり合わせた。そして自然と弾丸による雨は降り終わっていた。
「雷神とかほざいてる割には弱いな」
「何をおっしゃる。まだ相対したことすらないのに敵の力を見た目だけで判断とは愚者…いえ愚神の極みですね!!」
2人はまだ言い争っていたがトールの背後にまた突如としてオーディンが現れた。
「トール。分が悪い帰るぞ」
とまた語ることは少なかった。
「おいおい待ってくれよ姉ーさん。これじゃこっちが参ったっていったみたいじゃねぇかよ」
と反論してくるトールに対してオーディンはミョルニルを奪い
「次会った時までせいぜい生きろよ?ゼウス」
と言い放つ。ゼウスは傍観を決め、だんまりであると
「わかったよ姉ーさん……ゼウス。あんたが最強の雷使いとは言わせねぇからな?」
と挑発をかけてくるトールに対し
「我らと貴様らの中だけで最強とは……貴様が願う夢ごとはちっぽけな物事だな」
とさらに挑発。顔を歪めながらもトールも撤退。彼ら2人を含む北欧軍10人全員が撤退を開始した。またこれらを追撃するとなるとこちらの城は消え失せるだろう。なんせ彼らは現在世界軸内ランキングで戦力的トップなのだから。
『次会うときは……この軸を無くしてやるよ』
そう聞こえたのは前線にいたゼウスを含む6神でも、無能者のプレイヤーでもない。いや無能者のエクウェスだけだった。
勝鬨を上げよ!!
そう空気に、壁に、風に指示された気がした。周りの者たちはそれに呼応するように城壁に掲げていた旗を靡かせ、勝利を喜んだ。
一週間のことを一巡と呼ぶこの世界で今の期日は二巡目。たかが8日目と言っても始まりの抗争は引き分けという形で幕を引いていった。この先このギリシアにはさらなる悲劇が迎えようとも今は喜劇である。なぜなら勝利をつかんだのだから。
次の幕間で一章は終了です。2章からは過去との闘争。生存をかけた戦闘が始まります。とてつもなく長い前編ですので長く付き添ってください(何様と言う話です…
また幕間を投稿した後、2章が書き終えるまでしばらく休止とさせていただきます。




