第1章 第7幕「ギリシアに栄光あれ」
【第7幕】『ギリシアに栄光あれ』
中央、左での熱戦が目立つ中、右は敵の動きを見るだけの探りあいをしていた。
『アポロン』こちらの主力としてはやや力不足だが剣、弓などのように近距離武器にも遠距離武器にも長けている唯一の人物。
「ここいらで撤退してくれと私的には嬉しんだが?」
現在彼が手に持っているのは剣のみ。剣をやや左に傾け、近づいて来たところを下段斬りで斬ろうとしているのが相手にはわかっているようだった。
「悪いけど、ここで手を引くと大将にどやされるんだわ。まぁ死んでくれや坊主」
「右に同意」
『一応言っておくがお前が対する敵は隻腕のテュールと不死身のバルドルだからな?』
この知識は神話を読んだ時に知ったものだ。だから実際の能力との差があるかもしれないため大まかな説明しかしなかった。
剣技に長けたテュールと植物と対話し同意しこちらをせめてくるバルドル。
対するは剣と弓を操る洸穹神。
2人と1人は互いに睨み合い、武器を持ったまま動かなかった。
中央平野にてホズとアレスが接触した。
ホズは盲目であるがそんな欠点が霞むぐらいの強力な魔法を使いアレスを攻めてくる。それに対し、アレスは近距離武器、いわゆる槍で交戦している。
「雑魚に振り回されるほど俺は弱かねーよ!!」
アレスが斬りこもうとすると右方から土が生え形状が錐のように変化しこちらへやってくる。其れを斬り落としたと思っていると頭上から幾万と土が成分の槍が降ってくる。
いかに土といえど上空から降って来て頭に当たれば無傷とはいえないだろう。自分の身にあたりそうなものを選別し、はたき落とす。
〈いざ攻撃再開!!〉
心で気合を入れ、足を動かすも目の前には断崖が生まれ、その断崖の上から目が不自由なはずのホズがこちらを見下し顔は勝利を確信し敵に最大の賞賛を与えるかのような酷く歪んだ笑顔をむけている。
「哀れな軍人。さらば不勝の軍神よ」
立っている地面が変わってゆく、地割れのような音が足元から伝わり、その振動が足を通し脳を揺らす。自分が垂直立てているのかわからない。なぜか…そんな足元を集中する暇などない。なんせ右方からは錐状の何かが、左方からは槍の形状を保っているものが、前方、後方からは壁のようなものが迫り来る。
そして上空から岩が降り注ぐ…
遠くからホズの地形変動を眺めていると前方から剣が飛んで来た。ロキは弾く様子も躱す様子もない。ただただホズの魔法を眺めていた。そんな彼には悲惨な結果が待っているはずだった。しかし剣は彼をすり抜け地面に突き刺さりそこで行動をやめている。その光景に一番驚いたのは投げた本人のヘパイトスであった。
指を擦らせ調律が取れている音を鳴り響かせば何千何万という剣を空気中に作り出し、自由落下し始め、最後には地面に刺さった剣達。それらを無造作に取り、再度ロキへ投げた。あの時の光景は幻。そう思いたかった。そう願いたかった。
しかしそれは叶わぬ願いと化した。
悪戯の神【ロキ】。彼はトリックスターの異名を持ち、北欧での厄介ごとに関することは全て彼が起こし、また彼の独断で解決。
『インケルタデウス』
インケルタはラテン語で不確実。デウスは神。不確実な神という意味になる。このような呼称になったのはロキがあらゆる物に化けるためである。
そのトリックはロキ自身が体の形状物質を変換できるからである。細胞を操作し、DNAの構成上馬、鳥、牛などの家畜を始め、植物、水などの自然物質にもなれる。彼が好きな形状は『霧』 そう今彼は霧になり、 ヘパイトスの攻撃をさばいていた。
飛んでくる剣は形状が様々であったが我には関係ないと微動だにしない。
「なーんで俺のところにはこんなつまらん奴が来るんだ…あぁー不勝の軍神とやらのところに行きたい。だってさー必ずこっちが勝つっていう結末がそいつの名前についてるんだぜ?面白すぎるだろ」
アレスによる開戦から一刻経った時にヘパイトスはロキが左平野のトールの援軍として動き始めたのを警戒し、追撃しようとするも結果はこのザマである。
「我ながら無様!!だが挑まぬ方がさらに無様!!」
〈彼を止められないのならば〉
と頭の中で呟き、ロキの目の前に飛び出す。相手が霧状であるのだからすり抜けられるだろう。無意味なことかもしれないが、それでもなお敵の前に立ち上がった。
「へぇーまだ立ち上がるんだー」
そんな行動がトリックスターであったりインケルタデウスと呼ばれる彼の興味を引いた。
「んじゃ一つ警告ね?」
そしてヘパイトスは自分が掲げた目標を自覚していなかった。
「潰れんなよ?」
こちらから絶対に倒せることがない敵を相手にしなくてはいけないという覚悟を。
話がずれるが…
この戦後で知ったのだが同じギルド……いや同盟を結んだ者のプレイヤーネーム(この場合はこのゲーム内での)が頭の上に表示される。エクウェスと名乗った場合、単純にその通りの名前だからなのだが、神アバターは違う。
彼らは……例えばゼウスならばプレイヤーネームが日本太郎であっても頭の上に表示されるのは『ゼウス』。神アバター達には二つ名という形で表示されグローバルシステム初期に設定した名前は隠せる状態でゲームが行える。
これがどれだけ怖いことか本当の意味で理解できている人物はこの段階でギルド及び同盟に参加した神アバターの者のみだ。
話を戦場に戻しギリシア開戦……正念場とまではならないが大一番の兆しが見えた…
最初に危機感を感じたのはエクウェス。この軍では総合指揮官という地位をつけられた。これはゼウスからの特別呼称で周りの指揮官とは特殊扱いさせるための呼び方である。俺そんな肩書きなんざ気にせず呟いた。
「不味いな…天候が…」
そう勝利と敗北という2人の修羅と出くわす場ではその時その時の気候が深く関わってくる時がある。今までただ当然のように走っていた地面に滑るめば、相手に一撃で幕引きされてしまう。そのことを考慮し、アレス、ヘルメスに戦場を城から300メートル付近へ移し、ヘパイトスには侵攻ゲート200メートル付近へ移動させた。
元々トールがいる時点で考慮していたことがある。それはこの平野は多くの雨が降ると泥地と化す。このことはゼウスから聞かされており、そのためこの現象も特異中の特異ではなく前もって考えられており、現在進行の作戦に支障をきたすことはない。
指示通り3人とも実施、そのまま戦闘は続いた。
テュールとバルドルを抑えているアポロン。
彼に関しては土地に不利な位置ではなく、逆に有利かもしれない。しかし攻め入れないのは不利な土地が二つもあるということである。左のトール、中央の戦力差…
一つなら抑えればなんとかなる。しかし二つ以上ともなると…
そのため万能であり冷静である天穹神の彼を配置した。それでもなお敵将の方が一歩上を行ったのは間違えないだろう。
中央平野にて
断崖を作られてからのアレスは言葉で表すに防戦一方と言えるだろう。たださすがと言えるのは指示する前からその場で躱し続け、天候が不安定になっても、その位置から大きくぶれることなくその場で躱しているのだ。
ということは最初からこの場が決心地となることを察知しその場で開戦したということになる。
やはり腐っても軍神ということだ。
このことに対し最初は気付かなくとも見ていればわかるホズは少なくとも驚きとイラつきの感情を同時に顔へ具現化していた。そして彼が躱すのが長くなって行く毎に驚きが消え失せ、イラつきしか顔に出てこなくなる。そしてホズは今までの攻撃が遊びだと勘違いしてしまうほどの全面攻撃がアレスに向かう。
アレスはその目の前の光景を眺めながらもニヤリと口端をつり合えげ、ホズを睨みつけていた。
左平野にて
トールのハンマーとヘルメスの剣がぶつかり合うこと何合目か。数得るのもバカになるほどの数を打ち合い、それでもなおどちらの武器も折れずに、原型をとどめながらもまた火花を散らすほどの威力で殴り合っていた。
「ハッハハハハ!!楽しいな!!そうだろ!?偽りの神よ!!」
「うるせーよ、つまらない肉弾戦なんか俺はしたくないんだよ。わかったかバーカ」
そんな小言を言いつづけてる2人。しかし手を緩めることも足を止めることもせずにただ武器を振りつづけた。
そんな数得るのもバカになるほどの打ち合いを数えていた者がいた。その者は〈アキュゥ〉と総合指揮官に呼ばれ、信頼されている人物。
「197合目、198合目……」
そう口から数字を吐き出すアルテミスはエクウェスに指示されていた。
『もし200合まで続いたら援護射撃してトールを狙って欲しい。最悪の場合ヘルメスを狙ってもいい。失策などはこの際考えなくていい。トールは200合から違う技を使うはずだ。だからこそどちらかに当てて気を紛らわすんだ』
と言われ、なんのことかわからずとも指示出されたことには忠実に実行しなければならない。そんなことを頭の中で思い出しながら200合になるのを待っていた。
「199合目……」
次に剣がぶつかり合った瞬間に一斉射撃を実施すると心に決め、はるか遠くで金属音が聞こえたと同時にアルテミスは…
「我らがギリシアに栄光あれ!!!」
と高く右手を掲げ、その右手で弓の糸を引き矢を放つ。弓であるのに銃弾より早く水平に飛んで行った。彼女の一撃はトールの右肩に当たる。トールが今まで楽しくぶつかり合っていた戦闘の邪魔をされたことに怒り狂った状態でこちらを眺めてる。そんな最中にも多勢による援護射撃が行われた。
ヘルメスはこれ以上は危険と感じ脱出、援護射撃はさらに量が増えていった。黒き雨と表現したギルドマスター【ゼウス】はトールの動きに細心の注意を払った。なぜならここにこの戦いの結果が決まるトリガーがあるのだから。
「これが離穹か…」
黒き雨が降り注ぐ中、トールは笑っていた。ミョルニルを握りしめ、振り回し…アルテミスの一撃以後一度も銃弾を受けていなかった。そんな化け物を見やるゼウスは
「彼は雨が降っても濡れないじゃないか?」
と笑いながら言うが…俺の記憶が正しければトールは幾千の巨人族と戦い、勝利をつかんでいる。倒せることはない。しかしこのまま弾を無駄撃ちし続けることになった。撃ち続ければ彼は動くことができない。倒すことはできないが動くこともできない。
それがこの左平野での決着を意味する。
ヘパイトスは徐々に押され始めていた。いや最初から攻勢になど出れていなかったのかもしれない。ロキは攻撃されることがないため、こちらを一方的に攻めていた。あらゆる攻撃は効かないのにあちらが繰り出すあらゆる攻撃は当たれば即死につながる物なのだ。右からくるのは常に気化し続ける神経毒を手の形状にした物。左からくるのは見えない速度で振られる刃の数々。
鬼畜にもほどがあるだろう。しかしロキはこちらが撤退すらできない位置に必ずおり、どうしようもないのだ。ただ捌ききるしか。
そんなヘパイストスの体力は黄色ゲージに突入し始めた。
今攻められているのはアルテミスのみで、睨み合いをしてるのはアポロン、守りに徹しているのはアレス、ヘルメス、ヘパイトスである。
そんな時、右の状況が変わった。
「やっぱり大将が黙ってねーってよ!!」
テュールが打って出たのだ。アポロンは剣を交えるために攻めゆるもバルドルが右側方から奇襲を仕掛けてきた。
「チッ奇襲か!!」
目の前が棘ある植物に包まれかけた。突如と視界が塞がられ、右と左。どっちを攻撃しようと考えたその瞬間に『ヘラクレス』が現れた。ヘラクレスとはバトルコロシアムにて一年間無敗だった名無しの男だ。ヘラクレスの参戦はさらに予測できない事態を相手側に突きつけた。
「お前ら2対1で勝って何が楽しいんだ?」
ヘラクレスが持ちゆる棍棒はただの木。しかし彼が持つことにより、驚異の攻撃力を生む。これによって右平野で繰り広げられてきたこの戦いを終わらせようとしてきた2人を乱戦に持ち込み、幕が下がらない劇場と化した。
現状を知っているのは作戦を指揮したオーディン。策略を読みきったゼウスとエクウェスの3名のみ。このあとの動きを読むに
〈痺れを切らして次にオーディンが行動を起こすだろう〉
問題はどこに攻めいるのか。予測だとオーディン本人が参戦するのではなく…と考えているのだが
「さてどうなるものかな…」
北欧軍のトップオーディンはどう出るか決めかねていた。
〈やはりあの手で行くか〉
そう判断し、攻撃を実施させるべくして行動を起こした。
「敵将オーディンが動き始めたぞ!!」
そう叫んだのはギリシャ軍の先兵であった。
ギリシャ軍の旗が靡く……そうここが正念場。ここを超えなければ、全てが無と化す。
次の幕で一章が終了します…稚拙な文章が多く誠に申し訳ございませんが…ですがそこを拾うことがあるのでご理解のほど読んでもらいたいです。




