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彼の者は往く  作者: 菜月水仙
第1章「2巡目の英雄譚の幕開け」
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第1章 第3幕 「身元知らずの男女たちの三重奏」

【第3幕】『身元知らずの男女たちの3重奏』


宿のベットは家の布団よりもふかふかで寝心地が良く案の定熟睡してしまい、起きたときには太陽の光が部屋の中に入っていた。


「よく寝れたし、街をもう少し歩いた後、ギルドと武器と情報かな」


と言い立ち上がり部屋を出て行った。部屋は二階であったため階段を降りなければならない。この行動は現実でいた家と同じ感じがしてこの宿に対しての親近感が湧いた。そんな彼は後ろから自分を眺めているフードの男に気づくこともなかった。


城下町に出てみると昨日と同じように活気に満ちていて、こちらも「今日もいい日だな」という気分にさせてくれる。だが困ったことに問題が浮上した。


「マップがない…」


どんなゲームでも自分が知りたい時にマップが表示されたものを広げ、そこから行動を起こすものだが、最近ではなくなりつつあった。だがこれはあくまでフィールドマップのことであり王城などの小さい土地などの入り組んでいる場所には必要だと思う。


「断じてな!!」


と大きな声で心の声が出てしまった。

その後、前回と同じように心の声が出ていたことに気づく…


「いやまさかこっちを見てる人なんていないよな…」


そう言ってぎこちなく周囲を見渡してみると、周りの人たちがこちらを見てきたのを確認し、赤面になりダッシュで現場から離れ、2番通りに行っていた。



「はぁ…はぁ……疲れた…」と手を膝につけている少年は、自分に合う武器を販売する武器屋を探していた。彼は昔FPSをやっていたため銃を探していたのだがそれを販売する店はどうもめんどくさいことにあっちこっち場所を十分に一度は移動する。


「こんだけ……はぁ…はぁ……走っても店の名前すら拝めないなんて鬼畜もんでしょ……」


と嘆く小さい背格好の少年に話しかけて来たのは…


「だ、大丈夫か?」


それはなぜか赤面している青年だった。



少し時間が経ち2人とも話し合い仲良くなった状態で自己紹介しようとしたそのとき


「あれ?これ銃の店じゃないの?」


昨日一度見たことがあった青年は指をさし、教える。


「え?けどこの店ってこの2番通りで何度も見たことある…そんな気がする…」


と2人とも動揺して固まってしまった。


自分の丈より2倍もでかい銃を背中に持っている少年は満面の笑みだった。


「名前まだ知らないけどありがと!!やっと見つかったよ〜」


と話してくる少年に対し


「あぁ名乗るのが遅かったね。おれは【エクウェス】だ。よろしく」


ゲーム機の設定の時に入力した自分の名前を

答えると小さい体を有している少年の満面の笑みが凍りついた。


「え?し、失礼ですが…あ、あのレジェンドの?」


と問い正そうとしてくるが


「いやそんなことはしてないよ」


と自分の名前の規模が壮大になっていてそれを否定しに行く。しかし


「いやいやそれぐらいのことはしてますよ!!?だってあの場の5000人助けて」


と会話が続いてる時左通りから爆発音が聞こえた。2人とも固まってから顔を見合い、その場へ走り出した。


2番通りの中央門近くにある店舗が爆発したようだった。地面は焦げており、店は現在も燃え、天へと黒い蒸気が上がり、炎上している店舗の隣の両店の店主はただただ棒立ちだった。どうしようもなく、逃げることも出来なくただただ悪霊が近づいてくるかのような…今にも死にそうな顔で。だがそんな心配は取り越し苦労になった。通りで見ていた誰かが


「原始の雨よ、水精呼びて、地より現せ」


《アルケインベル》


遠くから詠唱を唱えた声が聞こえた。すると燃え盛る家の下…いや土の中から地表へ水が姿を表し、そのまま上昇し家を丸呑みした。水を蒸発させるために火は潜熱になり、姿を消し、また水も姿を消し残ったのは白い煙のみだった。

その後、周囲に残ったのは約10人の物好きな野次馬たちの中に火を消した少女はいた。



その後、打ち解け、話し合う仲になった。

そんな彼女はこう言った


「あなた様は剣神様ですか?」


火消しとのファーストコンタクトがなぜか銃好きマニアと同じに思えた。


「えぇーっと…何故俺の肩書きってそんなに化け物チックなの?ただでさえプレイヤーネームの意味も守れていないのにさ…」


と頭を抱えてしゃがんでいるのを眺めながら自分よりも背が低い金髮少年に撫で撫でされた。それが癪だったがもはやどうでもよかった。


「それはすみません。申し遅れました…私は【ピクシィー】それが私のプレイヤーネームです」


そう言うプレイヤーは長身で緑眼。長い髪の色は緑でそれは「森の妖精」のようだった。


「んー質問の答えになっていないがピクシィーか…確か妖精って意味だし魔法使いだし、マッチしてるな…って!!何で俺だけ名前に反した体なの!!?なんなの!!?嫌がらせにも程があるだろこの世界の創造主さんよ!!!」


とそんな彼女の容姿を見ずに、頭を抱え込んでいたところから指を天に向け騒ぎ散らすエクウェスをピクシィーは苦笑しながら見ていた。そんな彼女を差し置いて


「ねぇ〜ねぇー僕も自己紹介したほうがいい?いいの?んじゃするね!」


「あれ?お前ってそんなテンションだっけ?」


「僕の名前は【スパット】だよ?覚えて呼んでね?」


とにこやかに左へ体を傾けている愛くるしい少年がそこにいた。いや居なかった…ただの悪ガキがそこに居た。そんな彼は銃を背中に背負いこんでいるため体は左に重心が移動し…


「おっとっとっとっと…あ…」


そう言った時にはフェードアウトして遠くの方からガシャンと物が落ちた音がした。


「何も見てないということで…んじゃ2人とも自己紹介したし、本題に入るけど…なんで俺そんな異名なの?」


遠くの方から服をはたき、近寄ってくる少年と近くにいる彼女は


「だって…」「だから〜」


聞きたかった疑問に対して簡潔な答えを2人同時に声を出した


「私から剣を奪った人ですもん」「僕が憧れた人だから〜」


「う…うん?」


何度俺は首を傾げ続けなければならないのだろうか…


「スパットも少しわからないけど…ピクシィーさんに俺なんかしたっけ?…していたなら謝罪するよ?」


「いえいえこちらが掲げた目標に私よりも早く達しただけすよ」


と明らかに謝罪を促す流れを読み切り


「ごめん…なんかごめん…」


ただ謝るしかなかった。しかし彼女は


「謝る必要ありませんよ。本心です。武の極み…ではなく剣の極みを見せられ私では無粋と感じたので」


「いやそれ間接的にせよ俺が剣を奪ってるじゃないで…」


そんなに自分の声にかぶせて彼女は言った。


「そこから魔法を覚えたんですよ。あなたがまだ極めていない魔法を。そしてこれであなたをいつか倒すのです」


色々と恨まれてる気がするが今尚彼女は笑顔そのもので俺を見ている。彼女の目標はでかいのか小さいのかわからない。何故なら俺自身がその目標であり、越したと判断するには彼女自身の考えが最優先事項だ。だから


「剣を捨てさせれるほど俺は強くないよ?けど謝らないとな。ごめん。剣を奪ってしまって」


礼儀正しく頭を下げる俺に対し彼女は笑顔で


「この後の会話を考えて謝罪を受け取りましょう」


と返答したのだが…


「ん〜ここで【エクウェス】さんが頭下げることに対して僕は納得しませんよ?」


「お前は毎回めんどくさいことをするよな…まぁいいよ。んでお前はお前で俺に何を思ってるだよ…」


と頭を掻きむしりながらスパットを見据える。そんな彼は思いがけないことを発した。


「僕いましたよ?伝説になった場所に」


その瞬間ピクシィーは感じ取った。今までは体が感じないほどに弱い風が彼が発した言葉を起因として体が後退させられるほどの強い風に変わって吹いたのを。そんな彼女を置いてエクウェスは手刀の形で首元近くにいる。スパットの。


「お前はどっち派だった?」


低いトーンで今まで温厚そのものだった好青年は消え、敵を見つけた時の目に変わった剣神は問いかける。


「お前はどっちだ?」


再度問いかける。最初の打ち合いで自分の方が劣等と判断しゲームをやめ魔法を極めた彼女にはわからない。その四ヶ月後の悲劇を…惨劇を…


「あなた派でしたよ。あの場で彼女を殺したところで皆さんの怒りの元も何も戻らない。戻るはずもなくただただ彼らは怒り狂い、彼女を壊した。どちらの意図もわかりますが…あれを悲劇と…いえ惨劇と言って誰が責めるのでしょうか…」


「そう…か」


少し昂りすぎて体と頭がついてこなくなりつつあったおれは理解した。彼はこっち派だと。ただし、それは頭の話だ。体は違う。今もなお彼の首を定め、今すぐにでも左から右に動かそうとする体とそれをやめさせようとする頭のせいで今尚手は震えている。


「あの……ついていけないのですが……」


申し訳なさそうにそう発したのはピクシィーだった。彼女の声が聞こえ、体もおとなしくなり手を下ろした。


「す…すみません…あの時のことを思うと…」


「語らなくてもわかってますよ。伝説になった件ですよね?イラつくのもわかります。その無礼ですが彼女の件で聞いても?」


「なんだ…ピクシィーさんも知ってたんですね?ですが…それは言えません…」


短く答え、区切り区切りのその答えに


「そう…ですか…」


動揺しながら紡がれた言葉を聞いた彼女はこれ以上は藪蛇だと思った。


「すみません。そんな裏話があったなんて」


「いやいいんですよ。誰も悪くない。悪いのは…あいつらですよ」


2人に対しての敵意はない。しかし肌に感じるこの寒気はなんだろうか。肌は、頭は今すぐにでもここから離れろと語りかけてくる。そうこれは殺意そのものだ。例を挙げるとしたら


『形容しがたい怒り』


そんな殺意を引っ込め、彼は


「では、親睦会でもしますか?」


とにこやかに言う。


誰も行きたくない。そう思ったはずだ。



3番通りにある日本料理を基本としている店に立ち寄った3人は長い雑談をする。店舗は料亭のようであるが下町ということを忘れてなく、ドアではなく引き戸を採用し、道から店舗の中を見れるように作られている。数分前のような地雷は踏まず、外から見たら友達同士で語り合ってるように見える。

本人たちからしたら途轍もなくギクシャクしているがそこはスルーだ。


「【エクウェス】さんてなんか感情が豊かですよね」


「ん?そうなことはないと思うけど…」


そんな風に話しかけてきた【ピクシィー】に対して素っ気ない態度で返答する。


「いやそれにしても7つの大罪のそれぞれに似ているような…似てないような…」


ん〜と悩んでいる【ピクシィー】に対して

ビクッと肩を上に跳ね上げその場から逃げようとする【スパット】

だが逃げられるはずもなく


「おい…てめーどこ行く気だ?」


「いや〜…雰囲気が悪いので戸を開けて差し上げようかな〜…と…」


「逃げるだろ?」


「に…逃げませ…逃げません…よ…た…多分…」


今覚えた日本語を確認しながら喋る外国人のような話し方になっているスパットを片手でひょいと持ちあげ、着席させた。


「あ、また違う質問で失礼ですが。【エクウェス】さんて非力そうなのに剣を扱うんですね?」


「ん〜…俺も最初は剣なんか振れないからどうしようと思ってたんですけど…まさかあの時考えた『振り子法』が成功するなんて…」


「『振り子法』?」


ピクシィーが聞いてくる隣で何かを注文した金髪くそガキが


「なんです?振込詐欺がどうしたんですか?したんですか?さてはエクウェスさんしたんですか?ダメじゃないですかー」


「スパット…お前の耳にはもはや期待はしないよ…『振り子法』って言うのは…」


前回とある少年に教えた剣の使い方をピクシーにも話す。以下略


「と言うわけです」


「ヘェ〜私も剣振ってみようかな」


「それはいいですね!昔はなんの剣を?」


「レイピアです」


ピクシィーからのそんな返答を聞き怪訝そうな顔で


「レイピア…ですか…」


「どうかなされましたか?」


「いや…昔超がつくほどのレイピア使いに襲われててんやわんやした時期がありまして…」


そんなことを考えてる隣でラーメンやチャーハンを頼み食べている金髪少年は


「それが【ピクシィー】さんだったりして〜」


と茶化してくる。いつものようにぶん殴ってやろうかと思うがそんなことよりも何かを思い出せそうで、そっちに気が向かない。


「いやそんなこと…ないと…思いますよ?」


と少し期待しながら【エクウェス】の方を見る彼女に対して彼は


「ん〜…確かあの剣を捌くためには…」


となぜか対策方法を考えている青年に落胆し、また諦めたような顔つきで


「やはり剣神さんなのですね」


そのような言葉で今回の親睦会は終わりを告げた。

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