第1章 第2幕「永き日々」
【第2幕】『永き日々』
夢の中で長らくあってなかった父さんと話した記憶がある。懐かしい話、聞きたくない話…言ってほしい言葉、言って欲しくない言葉。長く雑談をしていた気がしたが…今では会話の全て思い出せない。ただ…
「お前はお前なりに生きろ。そしたらわかる。誰を愛し、誰に愛されたいか。お前が見てないだけで相手は見ている。お前自身が自分を否定しても周りは肯定してくれる。ならどうするか…お前ならわかってるだろ?俊」
一気に物事を話すと人は何を言ってるのかわからない。俺が感じたのは…感じ取れたのは父さんの感情の一部でしかないのだろう…
そんな父さんは笑顔であるが、何かを暗示して少し悲しげな顔をしているのを見て俺は再確認してしまった。
「あぁ…2度と会えないんだね?父さん」
確かに父さんはあの時「前を見ろ」って「考えるのは後だ」って言った…だけど…だけど…
「前なんかないよ…あるのは絶望と無気力感だけだよ…」
「目が覚めて」という表現があってるかはわからないがいつの間にかゲームの世界に立っていた。青年は見場らしいがよく他の土地よりも少し高い丘に立っており、そこからは地平線が永遠に続くように感じる樹木を前方に一望できた。森の入り口に並んでいる木達は比較的に青々としている若い木達。そんな木々がざわざわと騒いでいるように感じる。まるで元の世界に帰れと言ってるように…
見上げれば海面のような青さの中天があり、それを少し眺めながら青年は思っていた。昔、動画サイトのお試しなのに現実への再現度の高い動画だった「リフレッシュ型VR動画」を見たのだがそれと錯覚してしまうほどに木々が再現され、涼しく感じる風の強弱、空の透き通るような青さも現実に忠実で、最初は現実世界のどこかにいるように思えた。
「本当にゲームの世界なのか?これは?」
そんな言葉しか出なかったのはドット絵などの昔のゲーム中毒者所以だろう。
風景の感想は終わりとして、ここはどこなのかそこから考えることになった。
「なぜこんな丘からなんだ?最初は大概町から始まると相場が決まっているだろ…」
そう言葉を発した矢先に謎の機械音を頭の中へ直接鳴ったように感じた。
「な!!?」
と大きな声をあげて後退しコケる俺を無視し、その音は鳴り続ける。数秒後視界の左端にメールの受信を知らせる表示がパッと出てきた。ふと説明書に書いてあったゲームの操作一覧のように右手を空中で上から下へスライドしさらに右へ指を動かした。すると左からメニュー欄が流れるように出て来て可視モードになる。またタップ、スライドで操作ができるため通知に一件と表示されているアイコンをタップしてみた。するとそこには「ゲーム内でのルール」と書かれており、文字通り、そこにはこの世界でのルールが書かれていた。
『一、このゲームにログアウト機能はない。追記は四に書くものとする』
『二、10種ある神話の中で同じ神話の神同士で同盟を作っても良い』
『三、開始地点はすべてのプレイヤーが均等に1,000メートル離れるようにされている
なお神アバターの場合は町から100メートル離れている』
『四、ゲーム内での死はログアウト(現実世界への帰還)になる』
『五、NPCは不可攻撃対象である。攻撃した場合【タルタロス】による収監が行われる』
『六、戦闘をする場合、敵への申請が必要、しなかった場合はダメージが換算されない』
『七、この世界には十一の世界軸がありこれらは交わらないが、行き来することは可能である』
以上。
と横書きに書かれていた文をまじまじと読みながらこの世界でのクリア基準を探る。たしか他世界軸を征服させクリアしていくのがこのゲームの趣旨だった気がする。いやそれ以上に…
「ログアウト機能なしだと…」
この一言に尽きる。小声で呟いた言葉は靡く風にかき消され、木々のざわめきと同調した。
ログインしてすぐに訪れた衝撃の瞬間を経てから数時間後のこと、おれは、平原を果てしなく、終わりなく、途方もなく歩いていた。
道は舗装されてなくただただ土と草で分けられているだけの簡易的な道だ。数時間のうちに色々と発見して気づいたことがあった。それは所持金の存在と武器の存在だった。
武器は中世ヨーロッパのように両刃型だった。ここまではいい。初期スポーン地点で何の武器も金もなくほっぽりだされるよりかは断然よかった。よかったに違わない。ただ1つ例外を挙げるとしたら…
この体が現実のなまりきった体力をもとに作られている
そんな考えもしなかった結論にぶつかった。
実際、剣を片手で握り振ろうとしてみる。振れるには振れるが、しかし重すぎてまともに振れたもんじゃない。昔VRゲーム内で
『後で使えるかもしれない』
ということで剣の振り方を極めたのだが…昔のようには振れない。振れるには振れるが威力が十分の一程度なのだ。
ゲームの世界なんだから昔のように夢ぐらい見せてくれたっていいじゃないか…と頭の中で喚き散らして、果てなく、終わりなく、途方もなく道を歩いている。
なぜ道と判断できるか怪しい道を歩いているのか。そう疑問を持つ人もいるだろう。なら考えてくれ、場所は丘で北東に大きな木々が生えている以外何もない場所に、土と草が分けられている道があるのだ。それが地平線の彼方まで。明らかに誘っているのはわかった。早速とある神様の能力なのかもしれない。そんな不安はあるが好奇心もある。
ゲームを買った人たちは、ログインし、最初の街を堪能する人は多いはずだ。だがおれはまだその堪能さえできていない。希望がある場所へ向かわない道理がないだろう。ただ先に敵が待ち伏せてて殺されたらマジで呪うけどな。
そんなこんなでさらに歩き続け2時間。
なぜ最初のスタート地点からの時間は分からなくて悩んで歩いてから落ち着くまでの時間がわかるのか。それは記念すべき初のモンスターと遭遇したおかげでログが更新されたからだよ。
最初の敵との接触は普通だった。下を向いて歩いていたらなぜが道の奥に足があった。ふと見上げたら亜人だとすぐにわかったがアクションが起こせない。相手は亜人、こっちは武器はあるがなるべく穏便にいきたい。なんせ体がなまっているのだから。
だが交渉する言語もない。
なんせ相手は、人の亜種なのだから。
亜人の姿を見るに人間と狼の亜人ということを認識した。これは
ゲームパッケージの後ろに書いてあった【獣人族】の軍隊の1つ『ウルフグレイブ』の一員だと思いだした。
ただ身なりを見る限り、彼はそこまで偉くなくさらには強くもない。下級兵に送られる装備もパッケージリストで見たので間違いない。《アンダリングウルフ》だ。アンダリングとは下っ端という意味で最弱の兵士だ。個々の力はなく現在のおれでも殴れば倒れるだろう。厄介な点はそこではなく…
そう頭の中で考えていたその時、
「うおおぉぉぉぉ」
怒りを孕んだような怒号の声が前方から聞こえた。ハッと意識をウルフに向けるとどうやらこちらを威嚇している。そんな彼が左手を空中で開くとそこにグレイブが現れた。そのグレイブを器用に右へ左へ振り回し、矛をこちらへ向けた。
少年は右手を開き同じ様に剣を現す。合意と捉えたのか彼は笑ってるように見えた。
いつ頃から剣を振っていないのだろう。おれが記憶しているのは、半年前。本人がそう覚えているのだからそうなのだろうが。
「おれつよくね?」
勝負は刹那だったが結果までの過程は長かった。
走りだしたグレイブを使用する敵は左から右下への『袈裟斬り』をしようとしたが、数歩足を出し、推進力で剣を持ち上げる。その状態から左足を後ろに下げ、急激に重心を後ろに持ってくことで剣を下から上へ振り上げられる。
1つ1つの動作は素人でもできるが、その動きに無駄はなく、敵の攻撃が届かないギリギリの位置を見極め行なっている。その洗礼された技と呼べる芸は相手が繰り出した『袈裟斬り』の対となる『逆袈裟斬り』となり、応対。グレイブを弾かれ、ノックバックした敵を目掛けてさらに3歩足を出し、さっき相手が繰り出したのと同じ『袈裟斬り』をする。
狙ったのは胴体ではなくグレイブの柄であり、グレイブとは長いがために遠心力で中距離での攻撃が取り柄である武器だ。そのため長いリーチを短いリーチにしてしまえば、格段と使いづらくなる。グレイズの半分ぐらいの位置で2つに分かれたグレイブを捨て、生身で応対しようとする。利き腕なのか左から殴って来ようとするので、右手で持っていた剣を左へ振る。斬られたことを気にせず、さらに追撃するかのごとく右からも殴りかかってきたので剣を右へ振る。吹き飛んだ両手を眺めながら攻撃手段がなくなり、急に戦意喪失したような獣人に向かって剣を胴に当て斬った。
初手で敵を行動不可へ、次に用いる武器を無効化、さらに手段を無くし、トドメを刺す。
計五手で敵を倒すことに成功。
「やっぱ剣を嘘つかないよ。努力と同じでさ」
と独り言なのだが誰かに訴えるような言葉を告げた青年は、気づいていた。
今五手で攻略した敵が千体近くの群れと為し何の障害物がないこの平野でおれの周りを囲んでいることを。最初の時の雄叫びは仲間を呼ぶため…
いや気づいていた
気付いており、尚そっちの方が面白そうだから選択しただけだ。
「かかってこいよ!亜人ども!ここでおれは死ぬのか生きるのかはっきりさせようぜ!!」
軽く厨二病チックなのは…
ある少女への格好付けが習慣となっていたからだろう。
ふと気がつくと朝になっていた。周りは鮮血に染まった土地と死体が自分を中心に円形状に沢山積まれていた。
ふと昔のことを思い出す…が今は思い出さない…思い出したくない…
頭の中でそう決断した少年はまた歩く。
その後青年は道なりに歩くすると、見知らぬ青年に出会う。おれと同じか。おれより年をとってそうな青年に。彼はこう聞く。
「あんたは強いか?」
「あぁ強い部類の1人だろう」
そう答えるとぶっきらぼうに
「なら剣を教えてくれ」
そう言われた。この時のおれはなぜか驕っており、事実のことをものすごい自慢げに語っていた。
「教えてくれも何もおれは筋力がない。ならば体を動かして、剣の重さを使って敵を斬る。それだけだ。誰にでもできるさ」
実際その通りなのだが、きょとんとする彼を見ておれは目の前で実践した。
剣を右手で持ち、その状態で走る。そして突如と止まり、その時に生じた遠心力を使い剣を振り上げ、身近にあった木を切った。だが威力が違う。ただ振っただけでなぜ木が切り倒されることがありえない。一般人なら。
それを見た青年はなぜか納得げに頷き…
「そうかい。貴重な意見をありがとう」
「どういたしまして」
このような会話をした。これはログに残るか残らないかといえば残る。自分と相手との契約や口約束を守らせるため。
ただ例外もいる。なぜか会話ログに残らない奴らがいる…
当時のおれは忘れていたが、数ヶ月後わかりやすくそれは俺に因縁をつけて…いや俺が因縁をつけてから現れたのだろうか…
どちらにせよそれは目の前に現れた。
『傲慢さんか』
彼は何者なのだろうか…
「報復させていただくために参上した次第です」
ふと後ろから聞こえたのはそのような言葉だった。愚直なまでにまっすぐな太刀筋が後ろから迫ってくるのに気づき、相手の初手を躱すと青年は後ろを見た。そこには…
「前回は痛い思いをした。ならば全力で仕返しをせねば割に合わない。それが見解です」
「いや損失を出さないために無視の方がいいんじゃ?」
「確かにそれも意見として出ましたが、我々、上層部は今回の損失を少なく思っていないとのことです」
「あぁ…そうかい」
一人の青年は鼻で笑う様に
「そういうことです」
一人の男は笑うことをやめ真剣な眼差しで
『なら…』
「開戦と行こうか」「開戦しましょうか」
2人の声はそれぞれ強弱で別れたがその発声はほぼ同時だった。
戦場には崖が生まれていた。今までの道に障害物1つなかったと認識している少年は訝しげな顔で崖の1番上に立っている人物を見る。
立っている自分のことを上層部の1人と認めた彼は亜人。しかも狼との亜人。ということは亜人国家『ミノス王国』の5将の1人と認めたと同じである。
なぜ前もってそんなことを知ってるのか。
それは『ウルフグレイブ』との1度目の交戦後、倒した敵の情報を入手したためである。この世界では倒した敵に応じて解放される情報があり、そのため定石では部下から倒してく、そうなっている。
だが今は関係ない。ただ目の前に現れた軍隊を薙ぎ倒すだけ。例えそれが5000から成る軍隊であろうと。
「A隊は後方援護へ。B隊は初攻。C隊はB隊の助攻。D隊、E隊は2手目をすでに準備」
5隊しかないが1つの隊の人数が多い。そんな軍隊を1人指揮しているこの将はやはり優将の類なのだろう。上官に対する具申もないところも軍隊もそこそこ優秀なことが伝わる。人間の軍隊ならばの話だが…
この軍隊は獣人によって作られている。知識の有無は置いといて、そもそも部下に感情は、知識は、能力はあるのか。1つ目の疑問以外には回答できないが…
感情はある。
そうNPCなら感情はないが彼らには感情がある。なぜなら先程の…1000人程斬った時の先鋒は、感情を表していてた。また今気がついたが彼らがNPCならば俺はすでにタルタロスによって投獄されているはずだ。
〈なら何故…彼らは…〉
そんなことを考えながらB隊と衝突した。1000人となれば前回と同じため疲労はあるもののまだいけると考え、剣を振りそして落とす。初攻の彼らを止めてしまえば後から来る兵士や隊は恐れをなす。なんせ感情があるのだから。
この光景を見ている最後尾の兵士からしたら恐怖で今にでも逃げ出したいと思うはずだ。それはある種、懇願である。
自分の前の兵士たちを流動的で鮮やかな剣舞を見せつけ亡き者としその鮮血を剣と土地に注ぐ、畏怖と尊敬が同居する存在に慄いた者は懇願するだろう。その結果が斬られるという残酷な結末とわかっていても
現在の彼は地面に多く流れた血を踏み滑るように走り、敵を斬りまた鮮血を撒き散らす。
血を使い加速し、止まろうとブレーキをかけ、その反動で剣を振り上げ、敵を斬り捨てる。
一連の動作で彼は5人一気に斬る。
そんな戦況を少し高い場所から眺めていたウルフグレイブを率いる将が眺め、呟いた。
「そんな…【エクウェス】なのか?」
自身の名前を呼ばれた彼は気づかず今尚B隊のど真ん中を走っている。現在のB隊総被害者は…いや死亡者は500…半数を軽く超えており、なお死者の数が減る兆しがない。
「まさか…まだ囚われているのか…」
男の頭の中に雑念が入った。
あの日あの場で出来なかった行為を今実践し、敵を蹴散らし…そう【ある少女】守るために奮闘しているように見える。それは怒号、憤怒…そのような感情が滲み出ている。
「今もなお…そうか…」
片手で顔を抑え、彼は自問自答をしていた。
いや正確には相手に納得してもらうための言葉選びをしていた。
「【エクウェス】!!」
呼ばれて剣を持ったまま崖の上にいる敵将を睨みつける。それはまるで鬼神のように。
「いつ以来だ。その名前を名乗る前に呼ばれるのは。あの時いた奴か?」
「今回は撤退させてもらう」
返答はなかった。だからこそ逃さない。
おれはこいつの答えを知るために。
「あの現場にいた奴をみすみす見逃すとでも?」
「これはあの場で貴様を援護できなかった俺からの供養だ」
どこからか不協和音が聞こえる。誰かが歯を噛み締めている音だ。それが自分の口の中とは知らずに。
「なら現実的な話をしよう。そんな偽善な態度でお前んところの上層部は納得して、ここにいる奴らが死ぬことを承諾してするとでも?」
「してもらう。ここにいる俺の部下は【グレイブ】の中でも異端だ。こいつらは戦うことに否定の意識がない。いつも激しい戦場にいたせいか平穏というのが嫌いらしい。逆に言えばいつ切られてもいいと思っているような奴らさ。いつ暴走するかわからないこいつらを女装部は捨て石として使う…そうだな…あの頃、あの場にいる定義は違えど似ている」
「まさかまた逃げる気か?」
おれの中で空想上の人物が問いかける。
〈逃すのか?〉と
「察せよ、英雄」
空想上の人物からの答えは知っている。
「ほざけ、三下」
「俺は5勇将の一角『ガレン』」
辿り着く到着点はきめている。
「知らねーよ。今から消える人物の名なんざさ!!」
「知っといてもらう。この名は何年も変えていない。今は怒りに満ち溢れ、気づかないとしても気づいてもらう。俺がお前派だったことを」
空想上の人物はまた問いかける。
〈取り逃がしてしまうのか?〉と
「そう言うのを偽善だって言うんだよ!!あの場で誰も止めないで傍観か虐殺に参加以外しなかった奴らが今更、俺派?舐めんのも大概にしろよ!?偽善者!!」
「忘れられても仕方ないよな。んじゃまたいつか近いうちに」
そう言うとなぜか憎たらしい敵はみるみる透明になり、消えて無くなって行った。まるで風のように、空気のように
そんな敵との長き会話が終わり、その場には言の葉を発することのできない哀れな兵士4,500とただただ怒りに満ち、この場にいる者の存命など許さない青年…エクウェス1人が残った。
空想の人物はおれに語りかけて来た
〈また逃したな?〉
「どいつもこいつも!!!!!うるせーんだよ!!!!」
激昂した彼は剣を振るい、土地に血という栄養を分け与えていった。
『今度は憤怒さん…やっぱりそうなのかな?』
わけのわからない言葉を戦場近くにある山の上から見る傍観者は呟く。紅く燃えるように見える金色に染まった長き自毛を靡かせ、不敵な笑みを作り、青年が奮闘している姿を眺めていた。
その後『ウルフグレイブ』3000人斬りを達成した彼は疲れの色を出していた。なんせ昨日と合わせてすでに4000の敵を斬り捨てたのだから。
「街はまだかよ…もうそろそこらの動物殺して、食べんのも飽きたぞ?」
この世界にはあらゆる生命が住んでおり、太古ではあらゆる生物が、世界を我がものとし争ったのだが、今では【人間カテゴリー】の者しか戦争に介入しなくなった。いや介入出来なくなったと言うべきか。人間以外の動物、植物の戦闘能力、感情能力などはほぼ皆無にされ、今では人間のされるがままの物になってしまった。
「そんな感じの設定だったけか?何はともあれ、その場凌ぎの食料などあんまりあてにできない。なら街に行きたいところなんだけど…」
メールが来た初日から何メートル歩いた…どれだけの距離を歩いた…ほんとに途方も無いよ…いっそこの場で寝たい。
青年もといエクウェスは現在の時刻がわからないほどの強い睡魔に襲われ、今にでも寝てしまいそうだ。
現在ゲーム内時間『夜時』
現在現実時間 『20時』
ここでは時間指定の緊急クエストやイベントがないため時間に重きを置いていない。
ふと敵が現れてもふらと剣を振り、敵を斬る。そんな彼は寝ぼけながら夜空を見上げ
「んー……眠い」
そんな言葉をこぼす。今尚歩こうとしている彼は現実世界での怠惰な日々に戻ったような顔していた。
そんな彼は正面に夜の月明かりを受けながら輝く物が目に入れた。それは城壁で、高さは14メートルから15メートルあたり、中世のような煉瓦を積んだよな造りであり、上には見張り台がある城壁で遠くからだとその城壁内にある白銀に見える城も見えた。
しかしこの城は難攻不落に近い設計なのだとすぐに思えた。おれは高台から下に広がっている城を見ているのだが城と城下町は山に埋もれる形で形成されており三方は山と一体化しており、一方は平地。攻め入れるなら山岳地帯の三方よりも平地へ集める。要するに…
「自然型の要塞か…なかなか攻めたくない場所に作られているものだな。はぁ……眠い…考えんのメンドクセ」
と呟きながら下に広がる平地へ進んで行った。20分近く歩いてこちらの声が届くほどの距離に近づいた時その見張り台から声が聞こえてくる。
「貴様何者だ」
短調であっても荒げてる声でもなく、冷静な声が聞こえた。少し考えたがここではなるべく刺激せず穏便に城壁内に入れてもらった方がだろうと考えたおれは、
「んー悪いけど名乗る暇もないほどに眠いんだけど」
そんな腑抜けな回答をし、門番からはどうしたものかと言わんばかりの顔で見られた。
それと同時にうめき声が後方が聞こえた。
「またおまえらか…しつこいね…嫌われるよ?」
単極的な返答し、そちらへと歩を進める。
「おい!あんた何してんだ早く逃げな!!」
上から見ていたためかすぐに状況を理解した門番は、今すぐにでも門に入れさせてくれそうな勢いで言われたが…それでは癪だ。
「あんたの仕事。悪いがおれも見てるだけってのも嫌なんで、無くさせてもらうわ」
と手をヒラヒラと後ろ姿の状態で門番に見せた。そんな瞬間の次には敵と接触していた。
剣と槍が交差する。
それはこのゲームにログインした後何回行われた行為だろうか…交差することはなく一方的に消したことが多いのでまともに斬りつけ合うのはこれで2度目か。と考えているが後続にも敵はおり、それはあの場で逃した
本攻の『A隊』と支給援助の『E隊』。
だがそんな戦闘は10分もかからなかった。
「す、すげぇ…」
純粋な強さを見させられるとそれは敬服に値し、人間は反応が遅れる。それが自然的な脅威であろうと変わらない。
「あんた…今欲している戦力となってもらえるか?」
「んー…いいよ?僅かながらだけどね」
「それは謙遜というものだよ。今君を超える人がいるとしたらそれは1人だけさ」
「ふぅーん…いちゃうんだ。そんな奴」
自分より上の人物がいて少し不貞腐れているのがバレたのか門番は続ける。
「会えばわかるさ。君も大概じゃないけど彼はさらに化け物さ」
「まぁいいよ。ここは?」
「あぁそうだな。ここはギリシア世界軸の中央都市『トロイア』後方にそびえる活火山は『オリンポス山』覚えていってくれ」
「あぁーそうするよ」
そんなように気怠げな会話をした後、男と別れ門を通る。門の中を入ってみるとそこに町が広がってた。
「おぉ…すげぇ…な」
と呟いてしまうほどに道はゴミなどが一切落ちてなく、白を基調とした物で揃っており、整備されている。入ってすぐに立ち竦んでいる中央にある通りから周りを見渡すと合計5個の通りがある。城壁の入り口付近にマップが張り出されており、どうやら通りを数字で分けており、入り口から見て左から1と始まり、右の5で終わっている。
その中の3番通り、いわば今いるこの位置では料理屋と軍事施設が並んでいるようだ。また町を探検しているとあることがわかり、それは1番通りと5番通りに民家、及び住宅があり、2番通りと4番通りには武器屋が並んでいるそうだ。どうやら2番では近距離武器を、4番では遠距離武器を売ってるらしく、少し武器を見たかったため近距離武器店が多いと書いてある2番通りへ歩を進めると…
「なるほどやっぱり近距離だけあって売店で置いてかれてれのは剣が多いな。ということは4番には弓矢とかあるんだろうし遠距離も充実し…」
そこで言葉が詰まる。なんせたくさんある近距離武器ショップの中でとあるショップではスナイプ用の狙撃銃しか並んでいないのだから。
「いやいやこの世界観どこからきてんだよ!」
と1人ツッコミが走り、自分の意識が徐々に覚醒して行く。覚醒と同時に今の発言が寒く感じるが周りの人は…安心していいのかわからないが素通りしている。そんな2番通りを颯爽と去り3番通りに向かう。3番通りには料理店が多い。
ふと俺は通りを眺め直したが、通りの全ては直線で、しかも10軒ほど建物を進むと必ず1から5番通りを行き来出来る十字路がある。まるで京都の平安京のように。またどの通りからも奥に立っている城を眺めることができ、その色は白色…いや白銀だ。そんな城を眺めた後で散歩をやめ、宿を探すことにした。初日だと迷子になるであろうが一ヶ月いれば土地勘も付くだろう…そんな風に考えていると体がフラフラしてきた。やはり睡魔がやってきた。
「はぁ〜…眠い時は動かないのがベストだな。眠い」
何が言いたいのかわからないことを言い始め、寝ぼけ始めた。そんな時、道の端に何か書かれている看板があったためちらっと見たが…
読んでも内容がわからないほどに睡魔に襲われているため、今見つけた目と鼻の先にある宿屋へ駆け足で向かった。そんな駆け足の横で掠めるような近さで突っ立っている人はその看板を眺めていた。書かれていたことは【オーディンとゼウスが同盟を掲げそれぞれ北欧軍とギリシャ軍が作成した】とのこと。そしてそれを見ていた者は
『怠惰のクソヤローか。つまんねーの』
そう呟いた。




