第2章 15幕「安らぎの日は長く無く」
第十五幕「安らぎの日は長く無く」
謎の女性の介入によって終了したベルフェゴールとの戦闘を皮切りに捕虜として捕まえていた者達がアケディアとの接触前の記憶に戻って行った。
その後ミノス王国側との正式な会談をその場で公約し、ミノス王国への征服作戦を終了。
また城を無くし住む場を無くした獣人達を保護し城が復興したら返す事を前提とした王城への引き入れが行われることが決定した。
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「ポセイドン、ゼウスの野郎に報告も無しでいいのか?」
「今までの取り繕ってる俺だったら最優先に行ってたかも知れんがもうどうだっていい、正しい行いだと思う事をして何が悪いと言うのだ」
翌日、ミノス王とミノタウロス、イグニベアとポセイドン、アテナ、ヘルメスによる会談が実施。
ミノス側は長らくの反旗はポセイドンへの抗議として行っていたと言うこと、その際内部でのいざこざが発生しそこにアケディアに入り込まれたと言う事を供述。
ギリシャ側はポセイドンへの抗議が行われる原因となった数多くの事件に対し、最初の事件以外に関与してなく、それすらもアケディアによる工作の一つと言う仮説を提案。
その提案を受け入れ、ミノス王国とギリシャ本営の調停が成立。
その翌日にギリシャ中央都市「トロイア」へ向け移動が開始された。
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武器を運ぶために使っていた馬車を使い獣人の中でも子供、老人を入れ、周囲を獣人達で守らせる。それを前後で挟むことでこれ以上蛇足と成り得る事故を起こさずに移動することに成功する。そんな護衛をしているベアーの横へ行き、話しかける。
「ところでベアーはどちら側に付くんだ?」
「エクウェス殿か自国か?と言うことですか?」
「あぁ、自国復興を最優先にしたいのじゃないか?」
「そのことですが、そもそも自国を裏切ったという行為をあなたは知ってますよね?」
「そんな些細なこと気にしないさ、誰も彼もが平和な方が1番に決まってるんだから」
「…それでもあなたについていきます」
「わかった、これ以上は無意味で蛇足だ」
南部方向にあるミノス王国への移動は3日。一日の行軍距離が12キロと仮定したら36キロでそれを例えるならば東京から横浜まで徒歩で移動するということ。
そんな事を考えながらポセイドンの元へ帰ってきた。
「ところで1,000メートル離れた位置に無能力者を置くんだろ?ギリシャ神話関連のアバターはもういるならそっちからの軍強化は終えたのか?」
「あぁ、北欧が攻めてきたのは想定出来なかったがあの場でお前が会えなかった6神があらゆる国に訪ねて助力を求めてた。そのサブプランとして無能力者を連れてくるというのがあったからもう残ってるのはいないだろうな」
「あーそれでスパットがもう居たりしたのか…待てよ?そのサブプランは理解したがお前しれっとそのメインプラン失敗してねーか?」
「…なぜ遠回しに触れさせないようにした事を気付けるのか俺は不思議だよ」
「それだから最終作戦だったのか、理解した」
そんなこんなより3日かかる行軍が開始、その1日が終わった。
ーーー
行軍2日目、初日の食料問題が浮き彫りになったことで少数なりとも狩りを実施。
「これまたやんのか…」
「おいそこの英雄、足を動かして獲物を見つけ手を動かして仕留めろ。じゃなきゃ今日の夜また飯がないことになるぞ?」
「うるせーよ【名無し】、ログイン初日から問題が多くてこの生き方をしてきた身からするととても効率的とは思えないんだよ」
「なら打開策は?」
「お前が野垂れ死ね」
「処すぞ?あぁ?」
バチバチとしてる2人を遠目で見てるアテナはボヤく。
「ほんと…さっさと食料確保して…」
「わかってるが、まぁ隣のこいつがいなきゃな」
「てめーが言うな、クソ野郎」
「…(これでも尊敬してるんだからツンデレってやつなんでしょうね…)…はぁ」
「「なんで溜め息ついてんだ?」」
「…能天気攻撃至上主義野郎どもめが…」
「「お前もだろ?」」
「…はぁぁぁぁぁぁあ…」
その後食料は確保、行軍している一塊の周囲防衛に参加。そんなところに金髪のチビが寄ってくる。
「英雄さーん」
「なんだよ、スパット。お前は反対側の防衛だろ?なんでこっち側いんだ?」
「それは単純に質問があったからだよー、その武器は君のだよね?確か前見たときは【名無し】が持ってたけど?」
「あぁ、それはあいつから正式に貰ったよ」
「にゃるへそ、ところで模擬戦していい?」
「弾丸を斬れと?」
「斬る、躱す、逸らす、身代わりなんてものまであるのにー?」
「最後に関してはお前の持ってるアンチマーテリアルライフルだったら意味なしだろ?」
「んー、んじゃARのみにするよ」
「オートなしな?三点または単発オンリー」
「ちぇー剣バカかと思ってたのに…」
「無知は罪という言葉があってな?」
行軍の娯楽としてちょうどいいと思ったのもあるが、何より自分がどこまで銃に対しどこまでやれるのか気になったからである。
「こっちはいいぞ」
「こっちもだよー」
好条件でその全てが揃っている状態である場合、ARいわゆるアサルトライフルは4キロ飛ぶ。しかしこれは飛ぶという事実だけであり殺傷能力があるのかと言われると極めて低いと言える。
なら殺傷能力が残る距離とはどのぐらいなのか?それは40メートルを切る距離である。
そのことを踏まえこの戦闘は100メートル離れて行うことが決定。
「始めるぞ?」
「いいですよー」
「「バトルスタート!!」」
英雄は瞬時に足を動かし、剣を二つに分ける
金髪チビはそのまま射撃を実施。
右、左と躱し近づいてくる英雄を見据えながら慌てることなくただただ引き金を引いていく。
残り距離が40メートルになるギリギリから金髪は真価を発揮する。
先の条件決めの際に言った三点とは三点バーストのことであり、その存在意義はオートで撃ち過ぎた場合銃身がブレてしまわないために作られ3発しか連発できないと言うもの。とある話では4発以降は撃っても当たらないと言うものがあるが事実は不明である。
そんな三点バーストを今までは3連で撃っていたが突如単発を2発右左と撃つ。
右に飛んで行った弾丸は地面に着弾すると同時に爆発を起こし、その爆発は連鎖し英雄の元へ近づいてくる。
左に飛んで行った弾丸は何かに弾かれる形で進行方向を変える。
英雄から見て右からは鉛玉が飛んでおり
左からは爆発が押し寄せてくる。
活路は前しかないと思わせるための策であり、それが彼に勝ち得ると判断したのだろう。だが英雄は前へは進まない。
右から飛んでくる鉛玉を右手で持っている大剣の剣先で逸らし、爆発が起きるであろう位置から後ろへ下がっていく。
爆風と黒煙で英雄の姿を失った狙撃手は軽く狼狽える。そんな彼の首には剣が置かれていた。
「こりゃ負けですが、どうやってあそこから?」
「あの黒煙の範囲的に行軍の近くまで行くと思ったからそっちまで行って紛れ、お前の首元に剣を置いたわけ」
「なんで60メートルを詰めたときに使わなかったんですか?」
「お前と同じだよ」
「デスヨネー」
そうして模擬戦は終わり、少し先に行ったところまでで今日の行軍が終了。
明日の正午には「トロイア」に着くとのことだった。
ーーー
その後、初日に起きた食料問題も起きず、2日目で起きただる絡みも起きずただただ進みやっとのところでオリンポス山が見えてきた。
「やっと着いた…とりあえず宿に戻って風呂入って寝たい」
「その前に凱旋と謁見だ」
ぼやきで言った言葉を隣に来た水神が返答してくる。
「えー別にいらなくね?おれはいてもいようが意味ないだろ」
「無能力者で作られる兵団の歩兵部のトップのお方が何を?」
「おい待てそんな話聞いてねーぞ?」
「なんせゼウスに口止めされてたしな、あと兵団のトップがお前、それと同等または次に偉いのがスパットのやつだ」
えっへんと手を腰に当て斜め上を見ている金髪チビの頭を鷲掴みし投げ飛ばしにかかる。
王都凱旋とも言えるこの帰還、だがそんなことよりも緊急事態が発生していた…
「エクウェスと言う奴はどこだ?」
「売国奴はどこだ?」
「裏切り者はどこだ?」
各々と口から発する言葉はどれも裏切り者は誰で、そのものを殺せと言うものばかり。
ぞろぞろと王城に住んでる民が詰め寄ってくる…武器を持ってやってくる…
「お前らの言い分を王は知っているのか?」
威圧的に質問をしたポセイドンに何を言ってるんだこいつは?と言う目で返答が返ってくる。
「そいつが裏切り者で卑劣なことをしていたと言ったのは王だぞ?」
確かに分かり合えるとは思っていなかった。確かに納得はできないと思っていた。ただ…ただ理解はし、お互いの理念のために動くことを決意し合ったのにこれはどう言う風の吹き回しだ?
「これより王に獣人達の保護と居住区の提供を上奏する、それからその問題に取り掛かる」
「「あいつはどこだ?」」
「あいつは置いて来た、そのため今どこで何をしているかわからん」
機転を利かせ話を逸らすと次に怒りが触れると思っていた獣人達との共住問題が発生すると覚悟していた。今までされてきたことを忘れないと考えていた住民達は暴走し、その弁明とし、行ってきたことを忘れずに自分たちの罪を認めていると獣人達に言わせると段取っていたからだ。
しかしそんな話はなかったかの如く、住民達は去って行った。
「積年の恨みが無くなるほどの怒りとは…ゼウスのやつは何を言ったんだ?」
その後フードを被せられ、王城まで神達と獣人のトップであるミノス王とその側近としてベアーを連れていく。あくまでエクウェスはこの王都にいないと言うことにして。




