第2章 第9幕「ミノタウロスの迷宮区」
第九幕「ミノタウロスの迷宮区」
皆さんは知っているだろうか。ミノタウロスというのはギリシャ神話の1つと呼ばれているが実際はとある島の信仰心を高めるための昔話だったという説を。
その島はクレーター島と呼ばれ牛を信仰の対象としていた。ちなみに日本は山、木、地形…所謂自然信仰である。
話を戻すがクレーター島では牛と踊るという祭りがあり、しばしば死者が出ており、外国の子供を踊らせることもあるほど確実に、絶対に行われなければいけない伝統だったのだ。それほどまでの信仰をギリシャ神話の一部として再編され話が作られた。
いつかその神話内での話を語るとしよう。怠惰がどんな嘘をついたのか、それは真実なのか
ーーー
(何故俺様は捕らえられている…親の家系に傷が付く?そんなのはとうに知っている!なら追い出せばいいだろう!!なぜ捕らえる!!?
俺様を解放しろ!!!)
壁から鎖が伸び手枷足枷がある。とある牛人を抑え込むには絶対に力が足りないがなぜかそれは成り立っている。なんせ魔法というものが枷にかけられているのだから。
そんなことを知らずに今日まで牛人は音を立て抵抗していた。
そう今日までは
ーーー
「ここから先は敵が攻撃することができるレッドラインだ。敵からの邪魔が入るのは確実であるがポセイドンを救助する部隊、クローン作成装置を破壊させる部隊の2隊に分かれてそれぞれ作戦を成功させることだけ頭に入れ行動しろ。以上」
そう言うと兵士はすぐに二手に分かれ指揮する隊長が誰になるか気にしていた。
「クローン作成装置は俺が指揮する」
エクウェスが目の前にいる十名の兵士へ語る。
「僕が率いるのはこっちー」
スパットの適当な挨拶を受けた五十名の兵士達は落胆している。
「落胆することはない。どちらの作戦も隠密、バレてしまっては意味がない。そういう意味でも剣よりも銃の数を増やした。近距離戦はせず対象を救助したら遠距離で時間を稼ぎつつ逃げてくれ」
そんな言葉に歓喜するものは少数だった。なんせ銃特化隊は今回の戦争で初投入でまだまだ戦い足りないと言う表情をしているのだから。
「足りないのならば前線に立て、そもそもこの隊の存在を知らされてなかったんだ」
英雄は人に責任を擦り付け、歩の方向を変えスパットに声をかける。
「おい、お前なんで隊員になれてんだ?」
「僕は隊長ー、だから隊員になる方法は知らないんだー」
「お前は政治家か?まぁ、いいだろう。さ、始めるぞ」
そんなおれを後ろから見てボソッと言う。
「傲慢くんかー、早く嫉妬君になってくれないかなー」
ーーー
「なんで急にこいつら軍略なんざ使うようになったんだ?」
「さぁ…わかりませんけど彼の英雄様と計略神は考えていましたよ?」
「やめろ、傷を突っつくな」
「まだまだ青二才と思われでしょうね」
「くそ…」
英雄率いる二正面作戦実行隊を遠目から見る2人はそんなやり取りをしていた。2人の足元には打ち取った複数の牛人がいる。武器を取り上げ手足を斬り動けないようにしているが死ぬまでには至ってない。
戦場を俯瞰の目で見てみると、
現在捕虜が500名、吸収した兵士が10000名。
敵軍約10000、自軍約20000。
この軸の覇権を手に入れると言う最終目標を達成したあと付属で付いてくる吸収兵。勝てばこの作戦は成功し、違う軸に対して有効な手が生まれるだろう。
そう成功すればの話である。
ーーー
「こっちの道でもなかったのか…」
そう落胆し、壁に手をついている老人がいた。目の前には10の入り口があり、左から順に見やすい位置にバツを付け牛人がいる道を探しているのだがそれが見つからない。
そもそも怠惰のことだからここにいないのかもしれない。だが諦めることは簡単かもしれないが怠惰に対抗するとしたらミノタウルスしかいない。
「一縷の望みだが賭けるには十分すぎる」
この老害が賭けに勝つには奇跡か何かが起きなければいけないのだろうが、楽観も客観も悲観もしない。ただここで起きうることを目に収め、理解し、考え続ける。その結果が最悪であっても諦めない。挫折し、心が折られたことはすでに経験している。
諦めなければ希望が必ず落ちていると信じて
ーーー
そこまで離れていなかった城に入り、下への道を行くとそこには10ある中で残り三つしかない道があった。その中で適当に選び先に歩いた培養器破壊組は…いや、俺は今ラブリュス、いわゆる斧を振りかざそうとしている復讐に満ちた紅き眼を持つ黒毛の牛人と見合っていた。
「お前が大罪の仲間ってのは割れてるんだ!!」
「だから違うって言ってんだろうが!!」
両者自分の意見を譲らず睨み合いが続く。そんな喧騒はすぐに止んだ。いや声が止み金属が鳴り響いた。戦闘開始の狼煙が上がったのだ。
右からやってくる石斧を左手に持っている槍で受け止める。守備から一転し右手の剣を敵に突き刺そうとするも斧の柄で止める牛人。両者ともに悪意を孕んだ笑顔でこの戦闘を嫌がりつつも本心では、本能では嬉々としている。
槍を敵に向け突進するも敵は往なし、斧で手を切ろうとする。それを止めるべく剣で切り上げる。さらに加速し、無数ともいる攻撃手段を交互に繰り返し、優勢になる時もあれば劣勢にもなった。手を変えて品を変えて戦闘を継続する。
右の剣撃をのらりくらりと躱し、左の平突を往なす牛人。対するは両手専用武器、斧を躱す、流す、受け止めるの多種多様な方法で対抗する英雄。平突が、剣撃が加速する。
手数が多いはずの英雄は目の前にいる暴力の化身に手間取っていた。牛人はこちらの攻撃を全て力技でねじ伏せる愚業に出る。いや愚業と呼ぶにはまだ早いのかも知れない…なんせ倒れてないのだから。
「大雑把な割にいい剣筋だ!!まぁそれでも俺の方が上だけどな!!」
「言っても意味ねーなら気絶してもらう!!」
そんな両者が詰め寄ろうとするが天井に向けて銃声を鳴らしたちびっ子が宥める。
「まぁまぁ、争う意味なんかないんですし、少し止まってくれませんか?説明したいので」
「あぁ?てめーも怠惰の仲間か?」
「『数打ちゃ当たる』僕はこの言葉が大好きなんですが今回は言い得て妙ですね。止まらないなら撃ちます」
「待てよ、スパット。戦闘は終わってないしそもそもなんでここにいる」
「単純に水神保護が終わったと判断してくれて結構です。今は直ちに培養器を」
拳銃を携え、こちらを睨みつける小さな子は見ただけで強いとわかった。目の前にいる剣豪と同種かそれ以上、なんせ遠距離だから相性が悪い。ここは…
そんな考えを頭の中で巡らせた牛人の一声よりも早く悪意は訪れた。
『どーもどーもォ皆さんお集まりのところ失礼しますゥ』
そう悪魔でここは奴の城、奴のテリトリー。いつ現れようが奴の好き勝手で…そして最悪のタイミングで登場した怠惰の名を冠する悪魔。戦闘は、戦争は間もなく終わるだろう。
その結果が良くも悪くも、善に転がろうとも悪に転ぼうともそれは結果であり、受け止めなくてはならない一方的な宣言なのだ。




