第2章 第4幕「ミノス城陥落」
第四幕「ミノス城陥落」
ライヴァッサー率いる1万の軍勢は既に周りを囲んでいる。もし軍師が今の状況を表現するなら死地と言うだろう。
「2万で足りるのか?」
今さっき仲間たちとカチ割った英雄は質問を飛ばす。
本陣営をぐるっと回る形で包囲している敵軍は、剣ではなく銃を持っている。号令1つで1万の鉛玉が飛んでくる。
「あぁ、俺がここの指揮をする。お前は将を打ち取れ」
そう言ったポセイドンは敵軍と自軍の間に何枚もの水の盾を張る。また南の方では空撃を繰り返している神がおり、東では女神が鼓舞し一団となって敵軍に突撃して、西では木を持った無名の英雄が単独攻撃を繰り出そうとしている。それぞれの持ち場を認識して団結する。
「次はやられるなよ?」
「笑わせるな」
二人は違う敵を見つめ、駆け出す。それは明日遊ぶ約束をした少年二人のような光景だ。
英雄は目の前の500人を瞬時に斬り伏せ、大将を探す。そんな時、
「こちらですヨ?」
耳元からそんな声が聞こえた、瞬間視界が白い光によって遮断される。
「視覚は潰しましタ。次は聴覚でス」
すると何かが地面をせり上げこちらに近づいてくる音がする。その正体はわかりやすい、地にある物質の中に土以外に何があるか、それは鉱石か水分の二択である。そしてこの地響きは大量の水分が一点に向かって来る音だ。
「フォースオロのやつはミスったようだが俺は一筋縄じゃ行かないゼ!?」
そう言い放った敵将は水の上に立ち己の姿を見せつけてきた。策略などは放棄し、力技でこちらを倒す自信があり、それは百獣の王と呼ばれたライオンの姿だった。が。
「悪いがお前に時間をかける暇はない」
そう言ったのは英雄ではなく…
「ほかの持ち場は?」
「全軍勝利、あいつ以外立ってる奴はいない」
トライデントを持つ水神はただそれだけを言い、英雄の隣で胡座をかく。
「はァ?皆さんやられたのですカ?弱すぎでしョ」
「んじゃ逆に聞くが、作戦も立てずに円上に並べただけの兵士に対してどう負けろと言うんだ」
「まァ〜そりゃそうカ。んじゃこちらの総大将から伝言ダ」
敵軍の主力を前にライオンはニヤニヤ笑っている…それはどこかの狐のような道化師でいて、これから始まる戦闘を楽しみにしているような笑顔。
「『アケディア』そう言えと言われてそのままこの戦場に来タ!クックっクックック…クハハハハ!!」
ケタケタと嗤い始めたそれはさっきまで敵対していた者ではない。それは悪意の塊のような何かだ。
「アケディア…なんだその単語は…」
水神は首を傾け考えてるようだが隣の英雄の顔は硬い…そして何よりも…
「これはあんたにだけ分かる暗号だァ。トラウマかァ!?トラウマだよなァ!!!お前が失ったのは何もプライドだけじゃないもんなァ!!!」
「嘘をついてんならここで自白しろ。ここから先は冗談抜きだ」
彼は怒りに満ちていた。ゲームに入ってから何度目の憤怒だろうか…だが仕方ないことなのだろう…なんせこの世界では少女への冒涜者が多すぎる。
「冗談抜きィ?!笑わせるなよ英雄ゥ!!俺たちの間に嘘、偽りの類の戦闘があったのかァ!!?あったならこっちが泣きたくなるぜェ!」
「その喋り口調…本人か」
「あァ!!お前が駆けつける三十分前にA隊を内部崩壊させたアケディアだよォ!!」
「あの場には頼もしい仲間がいたのになぜ負けたのかずっと気になっていた」
「答えはわかったのかなァ?」
「お前のその洗脳だろ?胸糞悪いな!!どうせ仲間同士で斬らせたんだろ!!」
「ご明察ゥ、俺の特有能力は洗脳ゥ…とでも言うと思ったか英雄さんよォ!!俺の能力はまだ先があるんだぜェ!?」
「知らないな…」
そう発したのは挑発され、腸が煮えくり返っているエクウェスではなく胡座を書き冷静にこの直面を考えていた神だった。
「あァ?お前に喋る権利あると思ってんのかァ?」
「んじゃ逆に聞こう。水神の前で貴様舐めているのか?」
「お前に対しての恐怖心なんざねーよカスがァ」
「そうか」
そう呟いたと思った時にはなにか焦げる匂いがした。彼の周りからなにか焼ける音がする。
「貴様に対する猶予は既になくなった。消えな。堕ちた獣王よ」
水質が変わった気がした。だがそれは確証が得られない事だ。なんせたちまち水がなくなってしまい、ライオンも消えてしまったのだから…
「さ、ミノス城へ行こうか英雄」
「なんでそんなキレてるか聞いていいか?」
「お前と同種だからだよ」
「…そういうことか」
そういい英雄は舌打ちをした。水神に対してではない…どこまでも汚い手で人を愚弄する大罪に対してだ。
ーーー
「悪いがこの城は俺がもらうぞォ?」
「それをしてどうする気だ?」
「ただの仲間に対する時間稼ぎだよォ?こんなつまらない世界、さっさと出ていきてーぜェ」
「ここには宿敵がいるんだろ?」
「あのなァ?もう少し自分の立場を考えて話した方がいいぞォ?ミノス王ゥ」
そう呼ばれたのは白いロープを羽織った老人でそんな彼は磔にされている。
「俺がこの体を手に入れてからお前は何回そこから逃げようとしたァ?」
「一万と5千7百4回だろ?」
扉が開きその先から声が聞こえた。それは赤く燃え上がっているような色を持つ毛で、単純な装備しかしていない巨漢の熊。
「ベアーかァ。どうしたァ?お前だけは洗脳外にしているのにまさか洗脳されに来たのかァ?」
「ご冗談を…あなたに洗脳されるなど1度たりとも御免です」
「ハッハハハァ!!やはり反逆者のひとりくらいは正常の方が面白いィ!!」
「本題へ入っても?」
「あァ悪かったァ。少し気分が上がっただけだァ。んでェ?俺とミノタウロス以外の戦士がどうして今この場にいるゥ?」
「ミノタウロスの培養に成功しました」
今まで少し余裕を持ち上から語りかけてくる化け物でさえ少し言葉が喉に引っかかった。
「ほうゥ?戦闘力はァ?」
「従来のミノタウロスの5倍はあるかと」
「本物はァ?」
「枷をつけ、牢に入れています」
「そうかァ、気が熟したァ…そういう事かァ?」
「えぇ」
そんな二人の会話を間近で聞いていてもなんのことか分からないミノス王を見た怠惰の名を冠する化け物はニタッと嗤う…何処までも小汚く、薄汚い感情が渦巻いている彼からしか滲みでない、なにか黒いモヤような物…
そんな何かに怠惰は包まれながらも嗤っている。
ケタケタケタケタケタケタケタケタと…




