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彼の者は往く  作者: 菜月水仙
第2章「過去との闘争」
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第2章 第1幕「国土掌握最終段階《獣人国家ミノス制服作戦》

第一幕「国土掌握最終段階《獣人国家ミノス征服作戦》」


今回の作戦は総力戦と奇襲が肝だ。どれだけ長期戦になろうとも攻め続ける。さもなければ負ける。


敵の軍勢は強大だ。ミノス王直属の部下『ミノタウロス』の1人でも厄介な上、他にも『ヴァンウルフ』『イグニベア』『ライヴァッサー』『フォスオーロ』の5名を含めた〈動物五将軍〉が指揮するそれぞれ10,000人から成る軍団。


「敵の奇襲作戦を指揮するのは少なくともフォスオーロだと俺は思う」


土の意味をなす〈スオーロ〉と狐を成す〈フォックス〉これが合わさり【フォスオーロ】と呼ばれている。土を操り、奇襲を得意な上、策略を考えるのがうまい…彼がいたからこそミノス王国は今の今まで存命してこれたと言っても過言ではないと思う。そんな彼を釣って本陣営から離さなければならない。


「彼を釣る作戦を今から練るがこれはあくまで前哨戦。次は残った3名と正面衝突。勝てるかは策よりも物量に関わるためわからない。しかし勝つという気持ちだけは持ってて欲しい」


そんな直後、本陣営では地割れが発生した。


「なんだ!!」


声を荒げたのはオリンポス十二神【水神】ポセイドン


「貴殿らオリンポス軍など私一人で十分なのさ」


そう聞こえたのは多分陣営の近くにある山からだった。現在も自分たちの足場は崩れ、多くの兵が落ちていく…


「エクウェス!ここは任せて。落ちた兵はヘルメスに引き揚げさせるから。とりあえず指揮を取って!」


そう語りかけてきたのはまだ話したことすらないアテナからで、遠くから舌打ちが聞こえた。


「あぁ、悪い。俺の兵で動ける奴は全員付いてくるように!!」


そう言って俺は索敵を開始する。



山の麓に着くと手を合わせた音が聞こえた。

その直後、地面が変動する、自然が変形する。


「やあ。私的で素敵なプレゼントはいかがな?」


「誰がいつ求めたんだよこの韻踏み野郎」


現在進行形で形状が変わって行く山の中腹地に1つの影が見えた。形は壁のようでこちら側が上へ登れないように高く作っている。


「それは悪いね。私的には嫌だったんだがこれが最善策と上層部がうるさくてね?」


嘲笑いながら言い訳を並べていくから影。そんな影は月の光によって姿をあらわす。


「なにを言ってんだよクソぎつね。お前が上層部だろ?」


その影はキツネのような容姿で二足で立っている。彼は金色の毛並みを持っていて、それはそれは美しい姿だ。


「バレてるのか…さては貴殿がグレンの配下を斬り捨てしたエクウェスか」


「てめーの紹介はまだかよフォスオーロ」


「紹介するまでもないだろ?君は我らの敵だ…しかも神よりもタチが悪い」


「過大評価ありがとうよ」


「開戦なんて分かりやすい行動はしないよ?」


「それがお前のやり方だろ?そんな三流も語れない戦法で俺に勝てるとでも?」


「いいご身分だな!!英雄!!」


直後手を合わせる音が聞こえた。そして俺の視界の端に敵兵が地から現れた。


だが


「不意打ちは俺のご法度だぞ?」


直後に敵兵の四肢を切り捨て剣をフォスオーロに向ける。


「礼儀も知らん奴が戦略の権化って言われてる時点で俺は我慢ならないんだよ!!」


『開戦だ!!』


エクウェスの大声を起点に、戦場では伏兵と伏兵の潰し合いになった。



その後両軍の大将が動くことはなく、また戦場では大きな変化は起きず膠着状態になった。


「それだけじゃ、貴殿はここまで来れないよ。エクウェス」


「残念なことに敵を騙すなら味方からと言う言葉があるように俺はすでに騙されてるんだよ…な?


ヘラクレス」


フォスオーロとの会話中に相手が狐の容姿をしてると気づいたのはなにも直接月の光が当たったわけではない。その近くにあった何かが光が反射したおかげで敵の容姿が見えた。そんな優しい奴とは思えないがこっちが見やすいように剣を抜刀してくれたんだろう。



振りかざした剣はギラつき、伏兵達が戦っている全ての戦場に月の光を反射させ、兵の目線を独占した。


呼ばれた男はテントが襲撃された直後にエクウェスに言われたことを思い出していた。


〈どんな形でもいい、俺の裏をかけ〉


そんな男は、敵将を前にし、昂ぶっていた。


「討ち取ったぞ!フォスオーロ!!」


「素晴らしい戦術だ。だが、それは届かないよ」


この戦が始まってから三度目の手が合わさる音がした。するとフォスオーロが立っている地面が天へ伸びた。


「お前だけの専売特許じゃないぞ?エクウェス。騙し討ちってものは」


「ほーらそれで勝ったとか思ってる時点で負け確なんだよ」


次の瞬間には槍、矢がフォスオーロに向け無数に飛んで行く。


「だからさ!!英雄とか祭り上げられた貴殿は飴みたいに甘いんだよ!!」


4度目の手が合わさる音がした。今までのマジックの種が足場が高所に移動したため月の光に照らされ、形を表した。それは単純なことで、


手を合わせ、地面に触れる。


この行為だけで地面が動く、しかも質量保存の法則のように触れた位置が減り、増やしたい地面の土の量が増えるようなことは起きず、ただ任意に地面の形を変える。


「それがお前のトリックか」


「トリックってわけでもないし、貴殿なら見抜いたろ?」


「確証が欲しかっただけだ。んじゃ反撃を開始しよう」


「出来るわけねーだろが!!英雄!!」


「敵を無駄に過大評価し、自分の位置も同じように過大評価するお前に負けるわけないだろ?」


「スカした顔してんじゃねーよ!!」


5度目の手が合わさる音がした。次に起きたのは地殻変動ではない、多くの槍の形をした土が降り注いだのだ。


「これで私の勝ちだろ?」


不敵な笑みで笑い、勝利の愉悦に浸る狐の姿はまさに道化師…人を欺き、騙し、それを悦びに変える狂人。だが


「勝ったつもりでいるのか?」


今尚降り注いでいる槍が効いていないのかそれはこちらを見ていた。


「それで?次は?もう策はないのか?」


1つ語弊があるようだ。彼は効いていないのではない。無傷なのだ。


「愚者は己と敵のでかさを間違える。お前はそれの典型だ」


なんせ剣で斬り伏せているのだから


「ヘラクレス、斬れ」



その頃、フォスオーロの兵士は剣を、槍を、弓を持っている手を止め、大将二人の戦闘を見ていた。地理的に、戦略的に圧倒的な優位に立っているはずのフォスオーロを見てなぜか哀れな気持ちを抱き、大将に逃げろと言いたくなる…地理的に、戦略的に圧倒的な劣勢に立っているはずのエクウェスになぜか恐怖している、味方に逃げろと言いたくなる…なぜ?


真に敵なのは己自身の弱さという者がいるが己を倒しても外部に化け物は実在する。


フォスオーロは弱さなどなかった。恐怖心など一切抱かなかった。己が1番、私が最強と思ってたからだ。だから掬われる。


最弱の騎士に



命令を出したと同時に天に伸びた塔は崩れた。それは木を伐採するように。


「どうだ現実は」


彼が転落した先にいたのは最弱の騎士


「偽りの世界で己が1番と愉悦し、満足してどうだ」


〈やめろ…その目で見るな〉


これはフォスオーロの心情だ。哀れな道化師は仮面を顔に当て、勝者だと自分を偽り自己満足に浸るそんな一人の、いや一匹の狐だ。


「お前の夢は楽しかったか?」


〈やめろ…夢から覚めさせるな〉


「俺も夢に浸ってた時は最高だったよ」


〈同属の目をするな…〉


剣を振り上げ、目の前にいる英雄は悲しげな目で別れを告げる。


「覚めろ、お前の夢はここが限界だ」


そう言われ、フォスオーロ…私の意識は絶たれた。


そんな獣の亡骸を見ていた英雄は確かに聞いた。彼が願ったどこまでも貪欲で叶いっこない夢を



その後フォスオーロの兵士を捕虜にし連れ帰る手筈を済ませる。そんな時


「エクウェスさん!本陣が燃えています!!」


そんな尖兵からの報告を聞いた。


ーーー


「どうなっていやがる!!」


「現在、3方から敵軍が攻めてきます!」


「他の持ち場は!?」


「アテナ、ヘルメスによる対抗は成功していますが…」


「が?」


「二軍ともに撤退勧告、オリンポス山方面に向かってます」


「なるほどな…確かに活路はあるな」


そう言い、地面に胡座をかき座りながら地図を眺めているポセイドンは近くにおいていたトライデントを持ち、


「全軍聞け!!俺が殿をする!!他の二軍と共に撤退し、エクウェスの到着を持つんだ!!」


「ダメです!!そんなことをしたら!!」


「俺のいうこと聞けないって言うのか?」


そう言い放ったポセイドンから殺気が溢れ、部下は足が竦む。当の本人はトライデントに自重を預け、立ち上がる。


「俺の言うことに異論を言う者は斬り捨てる!全軍撤退!これが俺の決意だ!」


「そんな言う暇あったら俺を倒したほうがいいじゃないのか?」


「今は倒せないから撤退だろ?」


挑発してくるのは【ヴァンウルフ】風という意味を成す〈ヴァン〉と狼と意味を成す〈ウルフ〉容姿は狼が二足で立ち、毛は黄緑色の単色。


「つまらん人だなー」


「なら面白い人を教えてやるよ」


そう語りかけるポセイドンに向けウルフは手を合わせている。


「面白くなかったら殺すよォ?」


「面白くても殺すだろ?」


ニヤッと笑い狼はその場に巨大な竜巻を起こした。


ーーー


(いつの間にこんな離されてたんだ)


そんなことを俺は走りながら考えていた。

本陣に向かうもその道中では、右方も左方も前方も後方、全てから火の手が上がり、黒煙が支配する。そんな森の中を自軍を率いりながら、戦場を走っている時、俺はふとさっきとは違うことに気付いた。


(グレンとやらはどこに行ったんだ?)

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