第1章 序幕「2巡目の英雄譚の幕開け」
【序幕】『英雄が敗れた日』
ある青年は立ち上がった。剣を地面に突き刺し、自重を剣にかけ、おもむろに鮮血がこびり付いた地面から立ち上がった。その行動には意味があった。それは自分がゲームに誘った少女を守るために…
--から命を賭しても助けなければならないという義務があった。
しかし守れなかった。救えなかった。
『目の前で殺された』
少女の亡骸は原型が残らないほどに切り裂かれていて、もはや抱き寄せる体もなかった。彼は少女を守れなかった。だが同時に多数の人を助けたことに変わりはない。
助けたという行為が、彼には意味がないとしてもその行為に意味があるという結果は変わらない。なぜならその助けたという行為に対して感謝している人が必ずいるのだから。だがその感謝に浮かれて忘れてもいけないものがある。それは多数を助けるがために少数が死んでしまったということ。確かに助けたという大きな恩は存在するがそれと同じくらいの咎が彼の身の周りに存在する。それは鎖のように絡まり彼を地へ引きずり込もうとする。それは無生産な、怠惰な生活で、すべての色が失せ、灰色しかなくなった世界だ。
そんな日は過ぎ去って、過去は過去、今は今と線を引きちゃんと分けることが出来始めた頃、やっと彼は日常生活に復帰する。だが彼はふと当時のことを思い出して顔を俯けてしまったり、虚ろな目でどこかを眺めている時がある。それは失恋を経験した少年のようでいて、すべてが馬鹿らしく思えた時と同じだったろう。だが…彼は手を止めることなくテレビに向かった。それは彼なりの彼女への謝罪なのかもしれない。
『だけど俊くんの罪は消えないよ?』
たしかに過去は過去、今は今と割り切れるかもしれない。だが潜在的な自分は認めない。それを忘れないためにこうやって自分を十字に貼り付け、罪を清算しようとしているのだから。
そんな日々から時間は過ぎ
とあるゲームを始めてから半年を経過したある日。『オーディン』率いる【北欧神話】の神々と『ゼウス』率いる【ギリシャ神話】の神々が激しい闘争を開始した。
戦場となった大地は神々の足音を聞き、震え、戦場となった天は神々の姿を恐れ、顔を隠し、戦場となった海は神々の醜態に嘆き、涙した…
だが戦争というものは始まればいつかは終わってしまうものだ。それはある1人の人物の行動によりこの戦争は終結していった。彼は過去でも未来でも『英雄』と呼ばれ、周囲から偶像崇拝されている。
時は遡り、半年前
【オープンワールド型ストラテジーMMOVRゲーム】
これが今期販売のゲームの中で『1番売りのゲーム』
1番売りというだけありプレミアがかかるほどの条件での販売なのだ。それは『初期販売数が10万個』と『ネット予約しか買うことができない』と『追加販売は初販から一年後』という三つの条件だ。
タイトルは
『HRS〜世界軸の果てへ〜』
また同時に新たなVRゲーム機『LDS』が販売された。
上記の2つはどちらとも国内限定型VRゲームを300タイトル以上開発し発売している大手ゲーム会社により作成され、神話に描かれている神々をVRにて忠実に再現し自分視点で操れるというものだ。このゲームのコンセプトは神の戦闘をよりリアルに、より開放感を感じるように作成されたゲームであった。またそれぞれの世界軸を仲間とともに制覇することによってゲームクリアというシュミレーションゲーム特有の喜びを感じさせるゲームなのだ。
そんなことでこのゲームの制作段階でゲーマー達に注目され、ニュースにも取り上げられた。予約開始日に近づくごとにゲーマーたちは画面から離れなくなり、ネット予約の0.01秒もずれないように大半のゲーマー達はタブレット端末の画面越しに待っている…日本中のゲーマー達が楽しみしていたのだ。だからこそ彼らは気づかなかったのかもしれない。
このゲームには昔起きた悲劇の立役者が関わっていることを。そう--が関わってることを気づかなかった。