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虚空回廊  作者: 相川隣家
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空に浮かぶ街01

 最初に感じたのは雑踏、怒号。ざわざわと、たくさんの人の焦った声に混じる、空気を振るわせる何かを擦り合わせるような雑音。

 「……ぇ、ねえ、しっかりして!?」

女の子の叫び声でぼんやりとした状態から覚醒する。背中がゴツゴツとして痛い。起き上がり辺りを見回すと、そこは落ち着いた色の石畳敷かれたの広場のような場所だった。本来穏やかな場所であろうそこには現在、大小の水晶の欠片と、ザリザリと不快な音を出す黒い「何か」が溢れ帰っていた。


 「なんでこんなところに……!」

そう叫んだ少女の手には手のひら大の銃が握られている。しっかりと両手で構え一番近くの黒い影に向け引き金を引いた。弾丸に貫かれあっけなく消える影。しかしその横から別の個体が近づいていた。目を覚ましたこちらを気にしているのか、少女は気がつかない。

 影が少女に飛び掛からんとした。眼鏡の奥で驚きに目を見開く少女。何を考えたわけでもなく体が動き、足を止めてしまった少女と影の間に割り込む。ざり、と脇腹の辺りを影がかすめる。引っ張られ、吹き飛ばされる。固い石畳に落ち、息が詰まる。

 そいつはさらに鎌首をもたげ、喉元に絡みつく。影のくせにまるで実態があるかのような圧迫感。何とか抜け出そうとするも不定形のそれから逃れられない。息が詰まる。その時。


「動くな!」

 とっさに動きを止める。鼻先三寸を掠めた剣閃が黒い影を裂き、輝く塵だけ残して霧散させる。その剣を振るった少年は気合の声とともに身を翻し続けざまに近くにいた数体を同じように屠る。影から解放され、呆然と尻もちをついたままその光景を見ていることしかできなかった。少年だけでなく先ほど庇った少女やその周囲の人々の手によってものの数分もしないうちに黒い影は全て消え去り、人々の雑踏だけが広場に残った。


 「君、大丈夫?」先ほど助けてくれた少年が周りを確認しながらやってきた。

 「……はい」体を起こしながら答える。よかった、とほっとしたように人懐っこい笑顔を見せる。そして剣から手を離し、え、と思った瞬間にそれなりの大きさのはずの金属の塊は跡形もなく消えていた。何かの見間違いかとそちらに意識をとられる。その間にも少年は特段変わった様子も見せずに、ちょっと見るね、とこちらの脇腹の影が掠めた辺りの傷の具合を見てくれているようだった。

 「かすり傷程度で大きな外傷はなし、意識もはっきりしてる、と」少年は何を気にすることもなく、うんうん、とこちらの状態を確認しながらなにやら納得しているようだ。

 先ほど庇った少女もどうやら何事もなく無事だったらしい。近くにいた壮年の男と何か言葉を交わすと去って、いや思い出したように立ち止まってぺこり、とお辞儀をしてから、何やら集まって作業している方へ駆けて行った。とりあえずこちらもちょっと頭を下げてみる。少年が声をあげる。

 「ところでさっき「穴」から落ちてきたように見えたんだけど……。どこから落ちてきたかわかる?」

 周囲を見回しても人が通れるような大きさの穴など見当たらない。だがどこから落ちてきたかと問われれば。

 「空から?」

 真実を述べているだけだが、その要領を得ない答えに少年はその返答にちょっと困った顔をした。

 「えっと、高いところにいたってことかな?」

 高いところ……どれくらい落ちたかもわからないところだったことは間違いない。曖昧にうなずく。

 「そうか……まあ大丈夫! 多分そんなに穴の規模は大きくないみたいだったからそう遠くまで飛ばされたわけじゃないはずだからね。なんなら住んでる街まで送っていくし。あ、僕はレイジっていうんだ。名前教えてもらってもいいかな?」

 思い出したように自己紹介をする少年。

 それに答えようとして、開きかけた口が途中で止まる。はく、と一呼吸おいて再び口を開く。


 「……名前、わからない」

 「え?」

 ぽかん、と口を開けて、レイジが間の抜けた音をこぼした。

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