第六話
渡り廊下を進んで、剣道場へ向かう。
外は少し曇っていて、雨が降りそうだった。
今日は、傘を持ってきていない。
教室に折りたたみ傘あったかなぁ…。
いや、確かこの前雨が降ったときに、家に持っていったはずだ。
……どうか、雨が降りませんように!!
空に向かってそう願ってから、また足を進めた。
剣道場の近くに来ると、試合をしている声が聞こえてくる。
…今は入らないことにしよう。
部員でもないし、邪魔したら駄目だもんね。
そうやって待っていると、ドアが開いた。
出てきたのは、女子の先輩だった。
その先輩は、ドアから顔だけをだして辺りを見回す。
そして、私に気づいて一瞬顔をしかめると、すぐに気づいたように目を瞬かせた。
「あれ、篠原さん……、だよね」
「あ、はい!そうです」
「なんだぁ、よかった…。また女の子たちが来たのかと思ったよ」
先輩はそう言って笑った。
「ま、でも篠原さんなら大丈夫だよ。蓮君の妹だもんね」
ーーー
剣道場の中では、お兄ちゃんと他の男子の先輩が、試合をしていた。
お兄ちゃんは集中しているのか、私に気づいた様子はない。
私はそっと座って、試合を見ることにした。
やがて試合が終わり、私はお兄ちゃんが一礼して戻ってきたときに、声をかけた。
「おにーちゃん!」
「、リア!?どうしてここに…?」
「お兄ちゃんの試合が見たかっからだよー!
あ…、迷惑、だった…?」
少し不安になり、お兄ちゃんに問いかけると、なぜか焦ったように否定された。
「そんなことは全くない!それより、今日はこれで終わりだから、一緒に帰ろう」
「うん!」
やったー!!
久しぶりの、一緒の下校だ!
お兄ちゃん、いつも部活で忙しいから、登下校は一緒に出来ないんだよね…。
今は、登校は直也、下校は真衣ちゃんや雪菜と一緒だ。
でも、たまにはお兄ちゃんとも帰りたいから、うれしいな。
そんなことを思っていると、お兄ちゃんはすぐに戻ってきた。
「リア、行くか」
「うん!あ、ありがとうございました!」
「また来てね!リアちゃん!!」
「あはは、ありがとうございます」
先輩たちに挨拶をしながらドアを開けて、気がついた。
雨…、降ってる……。
しかも、どしゃ降り…!?
そんな!!あんなにお願いしたのに!
「リアは、傘、持ってるか?」
「ううん、お兄ちゃんは?」
「ひとつだけならあるぞ」
お兄ちゃんどうやら、傘立てに傘を置いたままきていたようなので、すぐに持ってくると言って、取りに行った。
私はそのあいだ、窓の外の景色を見る。
雨に打たれて、桜の花びらが散っていった。
なぜか悲しい気持ちになって、私は窓の外を見るのをやめて、ただひたすら兄を待っていた。
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