第二話
ドアを開けると、雲ひとつない綺麗な青空が広がっていた。
校庭で咲いている桜の花びらが風で舞い上がって、花吹雪となっていた。
「綺麗…」
その光景に思わず言葉が口に出る。
…はっ!!
違う、こんなことしてる場合じゃない!!
人を見つけないと!
こんなことしてる間にHRはもう始まっているはずだ。
急がないといけない。
「あのー、誰かいませんかー?」
一応、呼びかけながら周りを見てみる。
…いるはずないよね、ここにいる人なんてサボり以外ありえないし。
まさか初日からサボる人なんて――…。
「ん…、誰か来た?」
いたあああああああ!!!
救世主だ!いや、本当は駄目なんだろうけど!!
とにかく、いてくれてよかった。
声はどうやら、置いてあるベンチのほうから聞こえてくる。
こちらからは反対側しか見えず、死角になっているから見つけられなかったみたいだ。
急いでその人に近寄った。
「すいません、教室って…」
な、なんだこの人…。
すっごくイケメンだ!!
茶色の髪は柔らかそうだし、肌は白くて綺麗だし!!
おまけに顔も甘く整ってる。
女子なのに、負けた気分…。
イケメンさんは私に気づくと、にっこりと笑った。
「どーしたの、後輩ちゃん。迷子かな?」
「はいっ、そうなんです!!」
全力で肯定すると、なぜか驚いた顔をした。
しかし、それも一瞬で笑顔に変わる。
「へぇ、そうなんだ。でも、ここって教室からはかなり離れてると思うけど?」
「え…。そんな遠くまで来てたんですか…」
自分の方向音痴がどれだけ酷いのか、よくわかった。
いや、でもマシな方…だと思う。
そう思いたい!!
「私、旅行に行くと必ず迷子になるレベルなんです!」
「そんな、自信満々に言われても…」
おかげで出かけるときは、誰かに見張ってもらわないといけない。
お兄ちゃんなんか、手を繋いで歩く。
私の扱いが小学生並みだ。
「ここ、座りなよ」
とんとん、とイケメンさんは自分の隣を叩いた。
少し距離を空けて座る。
すると、肩に重みがかかった。
慌てて隣を見ると、イケメンさんのドアップ。
「え、ええっと…?」
「んー、眠れそう…」
しばらく経つと、寝息が聞こえた。
え?
どうすればいいの、私…。
仕方ないので、そのままイケメンさんを観察することにした。
な、なぜこんな近くなのに、毛穴がないんだ!!
イケメンはすべてイケメンだということなのか!!
この肌だけでも欲しい!!
…だめですよね。
次は髪だ。
ふわふわしていて、とても触りたい。
寝てるし、大丈夫!!
そう判断して、貸している肩と反対の手で頭を触った。
わああああ!髪質良すぎ!!
このままずっと撫でてたいよ…。
…そんなことを考えてたら、なんか眠気が――。
・・・・・
「―ねぇ、起きて」
うぅ、もう朝か…。
まだ眠いな…、あと5分だけでも寝させて…。
「起きなきゃ、さすがにやばいよ。もうHR終わっちゃってるかも」
え、HR…?
「ああああぁ!!」
「あ、起きた」
どうしよう!
もう、間に合わない!!
「今、もうHR始まってますよね!!」
「うん、30分は遅刻かな」
「もう駄目だ…。おしまいだ…」
私の高校生活が!!
このたった一回の遅刻だけで!!
「大丈夫、俺が引きとめたっていっておくよ」
「いや、自分が悪いので大丈夫です!先輩、また会いましょうね!!」
「ちょっと待って、君ってさ、確か教室の場所がわからないんだよね?」
そうだった!!
「俺が案内するよ。何年何組?」
「1年3組です…」
「おっけー、じゃ、いこっか」
―――
「すいません、ご迷惑をかけて…」
「ううん、別にこれくらいなら迷惑でもなんでもないよ」
「ありがとうございました」
頭を下げると、先輩は「どういたしまして」といって、笑った。
教室の中を覗くと、どう考えても自己紹介が始まっていた。
しかも、もう後半にさしかかっている。
「ほら、早く行ったほうがいいよ」
「あ、はい!」
「じゃあね」
教室に入ると、皆の視線が私に向いた。
雪菜は呆れと心配が混ざった表情をしている。
直也は…、これは完璧に面白がっているな!!
「おー、篠原。遅かったな。理由は後で雑用でもやらせながら聞かせてもらおうか?」
額に怒りマークをつけた先生が、私に言った。
「す、すいませんでした…」
先生に謝って、一つだけ空いていた席に座る。
「どこに行っていたんですの!?」
小声で前の席の雪菜が問い詰めてくる。
「あはは、屋上?」
「…私も、後で理由をくわしく聞かせてもらいますわよ」
「はい…」
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