忘霊
是非楽しんでください。
人は死んだらどこへ行くのだろう。
この純粋かつ出口のないトンネルのような問いに、間髪入れずに答えた人がいた。
僕の祖父だ。
「そりゃあお前、魂のゴミ収集車に決まってんだろ。それより相撲つけろ相撲。今やっとるはず……おぉそうだ! ユウキ、りんご食うか? ばあさん! 切ってやれ。それと……」
いつも騒がしくて、たまに帰省した時などは大賑わいだった。
魂のゴミ収集車って何だよと、葬式でさえ思っている。
神妙なお香の匂いがお前は馬鹿だと言っている気がしてならない。
父さんも母さんも、大袈裟ってくらい泣いている。他の親戚の人たちもだ。
泣いてないのは僕だけ。
こういう時たまに僕は悪魔なんじゃないか、またはその類なんじゃないかと思う。
人の感覚とは違うのだと突き付けられてるようで、僕はたまらず祖父の言葉を思い出していた。
「染まるなよ。馴染むと染まるは違ぇからな」
逆に僕は誰かに染まれたのだろうか。
馴染む事はハナから諦めているからいいとして、自分は何かに影響されたことがあっただろうか。
テレビに映るスターにも憧れた事など一度もない。ただそこに存在しているというだけ。
「好きな子を作ると世界が変わるぞ。どら、ユウキ、コイバナしようコイバナ!」
慣れない言葉を使って興奮気味に話しかけてきたこともあった。友達すら一人もいない、ましてや他人に興味のない自分には遠い話だと思っていた。
小さい頃はもう少し色のある生活をしていた気がするが、あまり覚えていない。大事なところが全て抜け落ちているみたいな……まぁいいや。
どうしてロクでもない記憶しか残っていないのか不思議だ。
「トシさん……声かけてあげて……」
祖母が上ずって祖父の名前を呼んだ。
本当に不思議だ。僕は確かに目の前に祖父の姿が見える。涙を必死に堪えて祖父は言葉を綴った。
「……なあ、ユウキ。どうして……、どうして言ってくれなかった……?」
祖父は僕の足下をひたすらにじっと見つめていた。
読了感謝です。