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最弱7:紗織の思い

「そんなことがあったんだ……」


 ミノは悲しそうな顔をして言った。


「うん……ごめんね、こんな話しちゃって」


「ううん。聞けてよかったよ。私がその子の代わりになれるように頑張らないとって思ったから」


「ミノ……ありがとう」


 桜月はミノの頭を撫でてあげた。ミノは気持ちよさそうな顔をしていた。その顔は、実を撫でてあげた時と同じ顔だった。その時、ピリリリリッと音が鳴った。


「何の音……?」


「この音……もしかして……」


 桜月はポケットを漁るとスマホが入っていた。紗織から電話が来ていた。


「ねえ、何それ?」


「紗織……」


「桜月、聞いてる?」


 桜月はミノのいうことが耳に入ってこないで、着信音だけが入ってきた。電話に出ようと桜月は画面を押そうとしたが、少しためらった。今危険な状況にあることを紗織に言ったら怒るか泣き出すかするだろうと思ったからだ。だが、桜月は意を決して画面を押す。そして、耳元に持ってきて言った。


「……もしもし?」


 ─────────────────────────


 冷たい地面の感触が頬を通して伝わってくる。目を開けると、少し明るめの部屋のようだった。壁や天井は本物かはわからないが金で出来ているようだった。紗織は起き上がって、辺りを見回す。


「どこだろう、ここ……」


 現在位置をコールで確認するため、紗織はコールを起動させる。マップの項目を選び、辺りの地図を読み込ませる。が、どうやらここではコールのマップは使えないようだった。


「マップが使えない……早く桜月くんのところに行かないといけないのに……」


 紗織は壁などを触ってなにかないか調べてみる。が、壁や床には何の仕掛けもなく、天井に穴が開いているだけだった。浮遊魔法があれば出られるのだが、生憎まだ習得していなかった。つまり、完全な密室状態だった。


「どうすれば出られるの……そういえばここ、電波はつながるのかな?」


 紗織は胸ポケットからスマホを取り出す。食堂で休んでいた時から着替えずにここにきたので、服装は夜だけに着ていた制服だった。そして、ここに召喚された時、たまたま持ってきていたのだ。スマホの画面を見ると、驚くことに電波は通じていた。奇跡としかいいようがない。


「やった、つながってる!これで桜月くんに……!でも持ってるかな……」


 学校ではみんな休み時間にスマホを使っていたりしているのだが、桜月が使っているのは見たことない。つながるか以前に今持ってるかすらも危うい。


「……1回かけてみよう。もしかしたら、通じるかもしれないから……」


 紗織は桜月の番号を入力して、電話に出るのを待つ。コール音が何度も鳴り響く。どうやらこっちに持ってきていたようだ。そうでなければ番号がないと言われるはずだ。だが、コール音がいつまでも止まない。だめかと思ったその時、コール音が止んだ。


『……もしもし?』


 紗織はその声を聞いて、ホッと胸をなでおろした。それと同時に、涙が溢れてきた。電話の向こうから、桜月の声が聞こえたのだから。


「桜月……くん?」


『そうだよ、神原桜月だよ。その声を聞くところ、泣いているようだけど?』


「うるさい……ばか……」


 紗織は涙を拭かずに、笑顔で言った。きっと桜月も声を聞いただけでわかるだろう。


『ごめんね……そっちに帰れなくて……』


「……私も今、帰れないんだ。どこかに閉じ込められちゃって……」


『えっ!?け、怪我とかない!?」


 桜月はかなり焦っている様子だった。桜月の紗織に対する心配っぷりがよくわかる。


「うん……何かの建物の扉のところにいたら穴が開いて落ちちゃって……今は周りが金で出来た部屋にいるの。それで、出口がなくて……」


『……その建物、もしかして神殿みたいなところ?』


「え?……あ!確かそうだったよ」


『ここ罠とかあるのか……大変だな、これは』


 紗織は桜月が言った、『ここ』と言う部分に気付き、桜月に質問をした。


「桜月くん、もしかして、今いるところって……?」


『予想通り、その神殿のところだよ』


 紗織は知らず知らずのうちに、洞窟の方ではなく神殿にいる桜月の方へと近づいていたのだ。紗織はそれは単なる偶然ではない気がした。


「……私、ここから頑張って出る方法を探してみる。だから、桜月くんは……」


『……わかった。気を付けてね』


 プツンッという音が共に、桜月の声は聞こえなくなった。桜月は同じ場所におり、私を助けてくれると言ってくれた。紗織も頑張ってここから出る方法を見つけなくてはならない。


「私も頑張らないと。ここから出て、桜月くんのところに……!」


 紗織は早く桜月に会いたいという一心で、ここから出る方法を探し始めた。


 ─────────────────────────


 桜月は通話を切って、ポケットにスマホを閉まった。そしてミノの方を向くと、ミノが泣き目でジーッと見つめていた。


「み、ミノ……?」


「……桜月のばか」


「ええっ!?」


 桜月はミノが呼んでいたことに気づかなかったので、いきなりミノが言ったことにびっくりしていた。


「何度も呼んだのに……聞いてくれないんだもん」


 ミノは頬をプクーっと膨らませて怒っていた。桜月は内心かわいいと思いつつも、桜月は頭を下げる。


「ごめん!全然気づかなくて……」


「……許さない」


「ええっ!?」


「でも……」


 ミノは桜月に手をバッと広げた。桜月が頭にはてなを思い浮かべていると、ミノはそれを察したのか顔を赤くして言った。


「……ギューッてしてくれたらいいよ」


「……わかった」


 桜月はミノを優しく包み込むように抱きしめた。ミノの幸せそうな顔を近くで見ていた桜月は微笑んだ。ここがダンジョン内であることを忘れさせるような空間だった。


「……これでいい?」


「うんっ!」


 ミノはまだ幸せそうな顔をしていた。ミノの極上の笑顔で元気を補給したところで、桜月もダンジョン探索を再開した。この試練を乗り越えるため、そして紗織を救うために。


 ダンジョンはずっとまっすぐな直線しかなかったため、道なりに進むしかなかった。予測では10kmは進んだのではないか。が、見つかるのは爪犬のみ……全く進展はないまま、さらに時は進んだ。


「ねえ……これ、いつ試練をクリア出来るの……?」


「わからないけど……進んでれば着くんじゃないかな……?」


 体感では既に夜は明けているような時間のはず。きっとお昼頃だろう。食事にもありつけてないし、睡眠も取ってない。流石に体力の限界が近づいてきた。


「ちょっと休もうか?休んでる途中にいろいろ考えてみよう」


「そ、そうだね……あ、そこに座りやすそうな石がある!」


 ミノが指さしたところには平たい大きな石があった。確かに座りやすそうだった。


「私が座っていいかな?戦う時も足ばっかり使うからヘトヘト……」


「まあそうだね。座っていていいよ」


「わーい!」


 ミノは石に駆け寄り、その石に座った。その時、桜月の近くから『カチッ』と音が聞こえた。


「ん?今何か鳴ったような……」


「そう?何も聞こえなかったよ?」


「ちょうどこの辺りからかな……壊してみよう」


 桜月は音が鳴った辺りの石の壁を思い切り蹴った。壊れはしなかったが、他の壁を蹴った時よりも音が鈍かった。きっと空洞があるのだろう。


「うーん、僕じゃ無理かな……ミノ、お願いできる?」


「はーい!ここを蹴るの?」


 ミノが立ち上がり、桜月の近くに来る。すると、またカチッと音が聞こえた。桜月はもう一度蹴ってみると、先ほどの鈍い音はしなかった。


「うん。でも、僕がいいよって言ったら蹴ってね」


「……?はーい」


 ミノは壁の前でファイティングポーズを取る。桜月はさっきミノが座っていた石に座った。またカチッと音が聞こえた。


「これならいけるはず……ミノ、お願い」


「はーい!」


 ミノは左脚を軸にくるっと壁の逆側を向いたと思いきや、右脚で高速の蹴りを壁に叩き込んだ。壁はものすごい音を立てて崩れ落ち、砂ぼこりがたつ。壁は見事壊れており、どこかに通じる穴があった。


「桜月!道が出てきたよ!」


「よし、これで進めるね。さっそく行こう」


 桜月達はその穴の先の暗い闇の中へ消えていった。


 ─────────────────────────


 あれから紗織は脱出方法を考えていたが、全く手がかりはつかめないまま時間は経過した。ぐぅ〜とおなかはなるし、ふわぁ〜とあくびが出る。


「どうやって出るの……全然わからないよ……」


 紗織は顔をうつむける。


「私が学校で頑張って成績を上げてきたのは、桜月くんに褒められたかったから。こっちで訓練を頑張ったのも、桜月くんのことを守りたいから。私は桜月くんがいるから頑張れたのに……今は桜月くんがいない……それだけで、何も出来なくなっちゃうんだ……」


 紗織は涙をポロポロと地面に落としていた。


「私は本当は無力なんだ……桜月くんがいないと……何もできないんだ。今、桜月くんは危険な状況にある……そう思うだけで、頭の中が空っぽになっちゃう……なんにもわからなくなっちゃう……どうしたらいいの……?学校で勉強したことは役に立たないし、魔法だって……」


 そうやってつぶやいていると、紗織は独り言を言うのを止めた。


「魔法……?そういえば、床に見覚えがあるものがあったはず……」


 紗織は床の模様に注目して、這いつくばって探した。すると、紗織に見覚えがある模様を発見した。


「あった!多分、転移の……!」


 紗織が発見したのは、魔術書の中に書かれていた転移魔法の魔法陣だった。魔術書に書かれているものはすべて覚えていたので、やり方もわかっている。


「これで、どこかに……!」


 紗織は転移魔法の詠唱を始めた。どこに転移するかはわからない。桜月のところに行けるかもしれないし、もっと危険なところに行くかもしれない。それでも、やらないでずっとここにいるよりはましだ。紗織は詠唱を終える。


「……『転移』」


 魔法陣が光り、紗織を包み込む。その光が部屋全体に放たれた。数秒後、光は消えた。その部屋から紗織はいなくなり、誰もいなくなってしまった。


 ─────────────────────────


 紗織の転移が完了し、目を開ける。そこはかなり大きい空間で、壁には大きな壁画が描かれていた。床には見た事のない不思議な魔法陣が描かれていた。


「どこなんだろう……ここ……」


 その時、紗織の後ろからうなり声が聞こえた。紗織が振り向くと、その先は闇しか見えなかった。だが、うなり声とともに足音が聞こえてきた。


「なに……?」


 紗織は戦える魔法の習得は少ない。ある程度の攻撃を防ぐことしかできない。紗織は防御魔法の準備をしていると、闇の中から姿を現した。その姿を見て、紗織は腰を抜かした。


「何なの……この魔獣……!」


 魔獣は紗織の方へ少しずつ歩み寄ってくる。


「いや……こないで……!」


 紗織は後ろへ後ずさる。それでも魔獣は歩み寄るのをやめない。


「っ……!壁……!?」


 紗織は壁際まで追い込まれていた。魔獣はゆっくり近づき、キラリと光る牙を見せる。そして、大きく口を開ける。


「いっ……いやあああああ!!!」

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