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最弱3:兎の神

 桜月達が異世界に召喚されて1週間が経った頃、その日は実践訓練をするということで、街の近くにある洞窟で魔獣と戦うことになった。その洞窟はそこまで強い魔獣はいないので、訓練にはもってこいの場所らしい。努力した成果を見せる時だ、と桜月は張り切っていた。


 桜月が洞窟前に到着すると、ニック隊長が立っていた。集合の時間よりかなり早く向かって素振りでもしようと思っていたが、どうせならと桜月はニック隊長に話しかける。


「ニック隊長、おはようございます。」


 桜月は軽く会釈する。ニック隊長も会釈を返してくる。


「おお、桜月か。おはよう。随分と早いな。」


「早めに来て素振りでもやっていようかと思っていたので……」


「ふむ、いい心掛けだ。訓練の方はどうだ?」


「はい、毎日頑張ってますが……相変わらずコールの方に変化がなくて……」


 桜月はコールを軽く叩く。毎日訓練してステータスを上げようとしていたのだが、変化は全くなかった。他の人達は順調にレベルを上げており、輝斗に至っては既にLv.10になっている。さらに、スキルと呼ばれる新たな付属効果のようなものも手にしていた。ちなみに、そのステータスはこんな感じ。

 ──────────────────────────

 名前:鮎川輝斗

 年齢:17

 職技:剣聖Lv.10

 筋力:6000

 体力:8000

 敏捷:5200

 知能:4000

 マナ:12000

 スキル:10個 《表示》

 ──────────────────────────

 他のみんなも平均で5くらいは上がっているはずなのだが、桜月のステータスにはいつまで経っても変化はなかった。


「そうか……桜月、ちょっと見せてくれるか?」


「は、はい。」


 桜月はコールを起動させ、ステータスの項目を選ぶ。しばらくするとステータスが表示された。桜月はそれを見て「えっ」とつぶやいた。


「ん?どうした?」


「いや、あの……これ……」


 桜月はニック隊長にコールを見せる。すると、ニック隊長は驚きの声をあげる。なぜなら、桜月のステータスに変化が現れていたのだ。だが……

 ──────────────────────────

 名前:神原桜月

 年齢:17

 職技:DEATH/

 筋力:0

 体力:0

 敏捷:0

 知能:0

 マナ:0

 スキル:0個 《表示》

 ──────────────────────────

 相変わらず職技は意味がわからないものだが、すべてのステータスが0に変化していた。無能ではなくなったと言える(?)が、輝斗達と比べたらとても及ばないステータスだった。


「ステータスがすべて0……まあ無能から卒業出来たと考えればいいんじゃないか……?」


「は、はぁ……でも職技は変わらないですね……」


「ステータスが0なんて、産まれたばかりの赤ちゃんと同じレベルだぞ……子供でさえ10はあるというのに……」


 ニック隊長の言ったことを言い換えれば、『桜月はただの子供より弱い』と言っているようなものだった。桜月は肩を落としたが、それを考えれば今までは赤ちゃんよりも弱かったのだ。そこから強くなったのだから、努力は一応実っている。


「まあなんだ……きっと訓練を続けていれば強くなれる。頑張って訓練を続けるんだぞ。すまないが、少し街に戻ってくる。」


 ニック隊長はそう言って街の方へ向かう。桜月はコールに表示されているステータスをじっと見つめる。毎晩考えているのだが、いつまでもこの《DEATH/》の意味がわからない。死に関連する職技だとしたら、桜月には葬儀屋くらいしかわからなかった。本当だとしたらなんなんだ。円滑に葬儀を進めてくれるのか。完全にいらない能力になるだろう。本当にこの職技はなんだろうか……ずっと職技のことを考えていたら、少しずつみんなが集まってきた。いつの間にか集合時間になっていたようだ。ニック隊長も戻ってきていた。


「よし、全員揃ったな。それでは、今日はこの洞窟で訓練をする!くれぐれも私から離れないように!いくら強くなったとしても、普通の人間ならここの魔獣でも死んでしまうからな!」


 みんなは揃って返事をする。とうとう自分の力を試すことができるのだ。楽しみであるのと同時に緊張が走る。緊迫した空気の中、一同は洞窟へと入っていった。


 洞窟といっても大したものはなく、ただ魔獣や鉱石などがあるだけだった。鉱石は採取して持っていくと、鑑定してお金と替えてくれるようだ。もちろん、良質なもの程高く売れる。桜月は進む道にある鉱石をちょくちょく取って、後でお金にしようと思っていた。だが、ここは街が管理している採掘場にもなっているらしく、勝手に取っていってはいけないようだった。ちょっとガックリした桜月だったが、その時隊列が立ち止まる。


「お前ら!目の前に小さな獅子のようなやつがいるだろう。あれが魔獣だ!」


 ニック隊長が指さす先には、体長30cmくらいの獅子がいた。小さいが立派な牙が生えていて、桜月達にもわかるくらいの殺気をたてていた。


「あれは他の魔獣と比べてかなり弱い。お前らなら簡単に倒せるはずだ。試しに鮎川、寒条、佐村、時雨で相手してみろ。」


「わかりました。」


 輝斗達は前に出て、獅子と向き合う。他の人は後ろで見守っている。獅子と輝斗達の睨み合いがしばらく続く。両者に緊張が走る中、獅子が輝斗達に向かって突っ込んできた。


「ガゥッ!!」


「いくぞ!紗織と雪音は後方で援護、庸介は俺のサポートを頼む!」


「「「了解!!」」」


 獅子の攻撃に対して、輝斗は剣を取り出し受け止める。獅子の力はかなり強かったが、それに負けることなく輝斗は獅子を押し返した。紗織と雪音は詠唱を唱え始め、庸介は大剣を手に取り獅子に突っ込む。


「骨ごと砕けろぉ!『破砕斬はさいざん』!!」


 庸介は地面を蹴りあげ、勢いよく大剣を振り下ろす。獅子はギリギリのところでかわしきり、庸介に突進する。庸介は咄嗟に大剣を地面に突き刺し、跳び上がってかわす。獅子が反転し、再び突進しようとすると獅子がいる地面に魔法陣が展開される。


「「『鉄鎖鍵チェーンロック』」」


 魔法陣からチェーンのようなものが飛びだし、獅子の体に巻き付く。獅子は完全に拘束され、チェーンから抜け出そうと足掻いているが解けることはなかった。その隙に、輝斗は剣を鞘に納めながら獅子に向かって走る。


「これでとどめだ!神の裁きを受けよ、『神速斬しんそくざん』!!」


 輝斗は獅子が射程圏内に入った瞬間、素早く鞘から剣を取り出し、見事な居合斬りを決める。獅子は悲鳴をあげずにバタッと倒れた。


「やった!初めて魔獣を倒したぞ!」


「ま、当然の結果ってやつ?」


「流石、この中では1番の実力者達だな。他のチームもこのように、チームで連携を組んだ攻撃を行うように。」


 輝斗達は初めて魔獣を倒したことを喜んでいた。他のみんなもその姿に見とれて、俺達もやるぞと自信をつけていた。だが桜月はというと、圧倒的な力の差を見せつけられたような気がした。


(僕にはあんな力に凄い力はない……輝斗くん達みたいに……本当に強くなれるのかな……)


 その後も洞窟を進んでいき、魔獣が現れては倒すの繰り返しだった。桜月はというと他の人が強くて攻撃することすら出来なかった。どんどんみんなと、力の差が開いていく。日々成長するクラスメイト達と、一つも成長しない桜月。差が開いていく度に、桜月は自分の居場所がなくなっていく感じがした。


(どうすれば強くなれるんだろう……職技さえわかれば、何を伸ばせばいいかわかるんだけど……)


 桜月は下を見て、歩きながら考えていた。洞窟に入って、他の人のステータスを見るとレベルがしっかり上がっていたが、桜月には全く変化はない。数値も0のままだし、職技も全く変わらない。職技がわかればそれに関連する能力を訓練すればいいからいいのだが、わからないのではどうすればいいかわからない。


(うーん……ダメもとでニック隊長に聞いてみよう。)


 流石に1人で考えててもきりがないと思った桜月はニック隊長に聞こうと顔を上げると、そこには誰もいませんでした。


「あれ……?みんなどこいったんだ……?」


 桜月は辺りをキョロキョロ見回すも、誰の姿も見えない。ついでに言ってしまうと、何故か周りが壁で囲まれた場所にいた。


「な、なんで……!?トラップ……とかじゃないはず……でも出口がないのはおかしい……」


 桜月は近くの壁を触ってみるも、特におかしな点はない。普通の岩の壁だ。地面にも全く変化はない。


「うーん……何もない……一体どうすれば……ん?」


 桜月は壁をジーッと見てみると、少し亀裂が入っていた。光は漏れていないが、ここを掘ってみれば何があるかもしれない。


「よし……掘ってみよう。採掘道具ならあったし……」


 桜月は鉱石を掘るために持ってきたシャベルと小型のピッケルを取り出す。そして、亀裂が入ったところから壁を掘り始めた。時間はかかるかもしれないが、流石に何もせずに餓死するのは免れたい。桜月は懸命に壁を掘り続けた。


 ──────────────────────────


 ニック隊長は全員(桜月を除く)の成長に驚きを隠せなかった。1週間の間しか訓練をしていないのに、ここの魔獣を簡単に倒すことができるレベルまで達している。ここの魔獣が弱いとはいえ、1週間でここまで成長するのはなかなかのものだった。


「よし、今日はこの辺でいいだろう。全員、出口に向かうぞ。」


 ニック隊長は号令をかけ、洞窟の出口に向かう。これだけ戦うことが出来るなら、ダンジョンの攻略も視野に入れようと考えていた。全員自信もついたようだし、今日の訓練の成果は上々と言えるだろう。数十分くらいしたころに、ようやく洞窟の出口が見えた。既に夕方になっており、夕日が綺麗だった。普通の訓練生よりも何倍も深く潜っていたので、実力はかなりのものだろう。


「よし、全員戻ったな。では、明日はダンジョンに行って実戦だ。今日はゆっくり休むように。では、解散!!」


 みんなは街の方に向かっていった。ほとんどが向かってニック隊長も帰ろうとした時、輝斗に声をかけられた。


「あの、ニック隊長。」


「ん、なんだ輝斗。」


「その……まだ桜月が帰ってきていませんが……」


「……なんだと?」


 確かに、あまり気にしていなかったが桜月のことを途中で見なくなった。迷う程の場所ではないが、どこかで置いていってしまったかもしれない。


「探しに行きましょう。桜月のことを見捨てることわけにはいきません。」


「そうだな……俺と輝斗だけでも充分だろう。まだやれるな?」


「もちろんです。」


「よし……行くぞ。」


 ニック隊長と輝斗は再び洞窟の中へ消えていった。


 ──────────────────────────


 どれくらいの時間が経っただろうか。いつまでたっても道に出ない。後ろを見ると、最初にいた場所はもう見えない位置まできている。ちなみに、この頃ニック隊長は出口に着いたころである。


「うーん……まだかな……」


 桜月はずっと掘り続けているため、体力がかなり消耗していた。お腹も空いてきた。疲労が溜まってきて、掘る手も遅くなる。


「早く……出たい……」


 元々体力がない桜月は、疲労が溜まりすぎて手が中々動かなかった。意識も少しずつ薄れてくる。


「もう……限界……が……」


 疲労がピークに達し、意識が薄れてきたその時、カツンッとピッケルが音を立てる。


「ん……?」


 桜月は音がした場所を掘ってみると、綺麗な石がチラッと見えた。


「なにこれ……掘ってみよう……」


 桜月は慎重にその周りを掘ってみる。数分後、石を綺麗に掘り出した。ピンクに近い紫色の石だ。綺麗な光沢を放っており、真ん中に小さく兎の形をしたマークがある。


「やった……でも今の状況は何も変わらないし……はぁ……」


 桜月がため息をついたその時、石から微かに光が放たれているのに気がつく。


「えっ……光ってる……?うわぁ!?」


 次の瞬間、石が強力な光を放った。桜月は思わず目をつぶった。目をつぶっていても眩しく感じる。相当な光の強さだ。その光が光っている間、桜月は何故か柔らかな力に包まれていた気がした。しばらくすると光は収まり、桜月は目を開ける。すると、目の前に広がっている景色は、朝に見た洞窟の前だった。


「あ、あれ……?ここは洞窟の前……?」


 桜月は辺りを見回すと、既に日が落ちて暗くなっていた。暗くなると強い魔獣が出てくると聞いたので、早めに帰らなくては。


「あ、そうだ!あの石は……?」


 桜月が石を持っていた手を見るも、石はそこになかった。


「消えちゃった……?珍しい石だと思ったのに……」


 桜月はガックリと肩を落とす。諦めて家に帰ろうと振り向くと……


「あの……」


「う、うわぁ!?」


 桜月の目の前に女の子が立っていた。暗くてよく見えないが、ぴょこんと出ているうさ耳、薄紫色の長い髪、アメジストのような綺麗な目、スラッとした美脚。そして、一番の問題は……服を着ていないことだ。


「えぇ!?あ、あの、だ、誰ですか!?」


 桜月は顔を赤くして、女の子から目をそらす。


「私……?私は……あなたに救ってもらったものです……」


「す、救ったって?どういうこと?」


「私は……長い間、石になっていたんです。」


 桜月は、あの掘り当てた綺麗な石を思い出す。


「えっ、もしかして……あの石が……?って、その前に!とりあえず服!服着ましょうよ!僕の上着貸しますから!」


「えっ……?っ……!は、恥ずかしい……!」


 僕は上着を女の子に投げると、サッと後ろを向いた。女の子はせっせと上着を着る。幸いサイズが大きかったので、一応隠す部分は隠せた。


「き、着終わりました。」


「あ、はい……じゃあ、話の続きいいですか?」


 女の子は桜月に話し始める。


「私はずっと昔、石となって封印されていたんです……あそこで、何百年も眠っていました。ですが、あなたに助けてもらって……封印が解かれたんです。」


「な、なぜ……?」


「この世界には、四つの種族が存在することは御存知ですよね……?」


「は、はい……人間、魔人、魔獣、妖精ですよね。」


 種族についてはここに召喚されてさた時に聞いている。


「はい。ですが……昔は5つあったんです。」


「ええっ!?で、でも歴史本を読んでみても何も……」


「戦争のこと、知っていますか?」


「戦争……確か、人間と妖精が協力して魔人種を倒そうとしたんですよね……それで、魔人種は強大な破壊魔法を使って人間種達に勝利したとか……」


「……実はその時、私達……獣神種と呼ばれる種族も戦っていました。」


 桜月は新たな事実に驚きを隠せない。女の子はそのまま話を続けた。簡単に説明すると、獣神種とは数百くらいの小さな種族らしく、戦闘能力はずば抜けた能力を持っていたという。その戦争では、その戦闘能力を生かして、魔人種を圧倒していた。その時、魔人種達は獣神種を倒そうと魔法を開発し、その魔法を使って獣神種を滅ぼしたという。その使われた魔法とは、獣神種を石にしてしまう魔法だった。人間や妖精達にはただの破壊魔法として転用できる、最強の代物であった。そして、獣神種達は石に変わり、長い眠りにつくことになったという。


「その歴史が書かれていないのは、あまりにも数が少ない種族だったので、存在してることすらわからなかったんだと思います……」


「そうだったんだ……」


「その中でも……私は1人でした。兎の獣神種は私以外誰もいなかっから、みんなと違うからって……」


「ひどい……同じ種族なのに……」


「だから、私はこう言われていました。『孤独兎』と。」


「……実と同じだ……」


「えっ?」


「い、いや、何でもないよ。」


「そうですか……あの、よければあなたの話を聞かせていただけませんか?ここに来たってことは何か目的があったんですよね。」


「え?い、いいですけど」


 桜月はここに何をしに来たか、最終的な目的を話した。


「そうなんですか……あの、あなたに頼みがあるんですが……」


「な、なんですか?」


 桜月が聞くと、女の子は予想外の言葉を放った。


「私を……従者にしてください……!」


「えっ!?」


 桜月は驚きの声をあげる。


「な、なんで……?」


「あなたは私の恩人だから……恩返しがしたいんです!」


「で、でも僕の目的は魔人種から人間種を救うことだし……」


「それなら、私もお手伝いできます!戦闘ならたしなみがありますし、2人の方が捗りますよ?」


「そ、そうだけど……って、なんで2人って……?」


「だって最後はこの世界で暮らすんですよね?そしたら結局は1人じゃないですか。だから私もお手伝いします!お願いします!」


 女の子はぺこりと頭を下げる。桜月は頭をポリポリかいて、どうしようかと考えていた。


「私には行き場がないんです!お願いします!」


 女の子が顔をあげる。その時、桜月の目には女の子の隣にもう一人女の子が見えた。


『私と一緒に遊んで!お願い!』


 頭の中に声が響く。昔聞いた懐かしい声が響き、その姿が目の前に映し出される。そして、女の子と重なった。


「……実……」


「えっ……?」


「あっ、いや、何でもないです!」


 桜月はあたふたしながら答える。1度深呼吸をして、落ち着いてからこう答えた。


「……だめ。従者になんて出来ないよ。」


「そ、そんな……」


「だけど……」


 悲しそうな顔をした女の子に、桜月は微笑みながら言った。


「友達として……仲間としてなら、連れて行ってあげる。」


 それを聞いて、女の子の顔は笑顔に変わる。


「あ……ありがとうございます!」


「あと……敬語で話さなくていいよ。」


「……うん!」


 女の子の笑顔が、月と重なる。桜月はとても美しい景色のように思えた。


「あ、まだ名前を言ってなかったね。僕は桜月。神原桜月。君は?」


「私は……昔の名前は忘れたけど……今思い付いた!」


「えっ?」


「ミノ。今日から私の名前はミノ。桜月が呟いていた、『実』を参考にたの。きっと、大切な人なんだよね。私がその代わりになれるようにしたいから。」


 どうやらしっかりと聞かれていたようだ。少し恥ずかしく感じた。


「……うん。よろしく、ミノ。僕の……大切な人。」


「うん!えへへ……」


 これが、2人の旅の始まりを告げる瞬間だった。

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