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最弱2:1つの決意

 異世界召喚された次の日、美味しい朝食を食べたあと、ニック隊長から号令がかかった。全員は宿舎近くにあるちょっとした広場のような場所に集合した。


「ニック隊長、全員集合しました。」


「よし。今日から毎日、ここで訓練を行う。戦う上で必要な技術と、魔法の使い方も教える。時には実践で魔獣と戦うことにもなるが、怪我のないように訓練してくれ。それでは、始めるぞ!」


 ニック隊長の指示のもと、全員の職技にあった訓練を行った。輝斗は剣術の訓練、紗織は魔法を使う基礎から教えてもらっていた。


 桜月はというと、職技が不明でステータス不足なので、まずは剣の振り方から教えてもらった。見た感じ簡単そうだったが、桜月には少し難しく感じた。基礎体力の低さを補うために毎日トレーニングをするように言われたが、自分だけそんなことをやるということに己の弱さを感じていた。身体的にも、精神的にも。


「154……155……」


 桜月が素振りをやっていると、後ろから声をかけられた。


「熱心に素振りしてるんだ。あんたの職技、剣士?ダサっ」


 声をかけてきたのは雪音だった。相変わらずコメントが冷たい。


「いや、剣士じゃないけど……とりあえず剣は振れるようにって言われて……」


「ふーん。あんたが剣を持ったところでどうせ無駄よ。紗織のことも守れないわ。」


「でもほら……念のためっていうか……」


「あんた、サラッと紗織のことを見捨てる宣言してんじゃないわよ。」


 雪音に鋭い目で睨まれる。その威圧に負けて、一歩後ずさる。


「べ、別にそういうわけじゃ……」


「いいえ違わないわ。毎日紗織と馴れ馴れしく話して……紗織がどうなってもいいの?あんたは守る気がないの?それとも、守れないから言ってんの?あんたは大人しく隅で本でも読んでればいいのよ。どんな職技であれ、どうせあんたじゃ何も出来ないんだろうから。さっさと消えれば?」


 そう言って雪音は紗織の方に向かう。桜月はその場に座り込んだ。


 ─あんたは守る気がないの?それとも、守れないから言ってんの?─


 頭の中にさっきの言葉が響く。守る気がないわけじゃない。紗織のことは本気で守りたいと思っている。紗織を守ることが出来ないなんて思っていない。身を投げ出してでも守るつもりだ。ただ、自分の職技とステータスの低さから、絶対的な自信を持つことが出来ないのだ。当時小さかったとはいえ、守れなかったことがあったから、次は守ることができる、と自信を持って言うことが出来ないのである。


「何をそんなに考え込んでるの?」


 立ち尽くしていた桜月の後ろから声が聞こえた。振り向くと、魔道書のようなものを持った紗織がいた。


「紗織……」


「どうしたの?お悩み相談だったら聞くよ?」


 桜月の隣に紗織がちょこんと座る。心なしか、いつもより距離が近い気がする。


「さっきまで素振りをしてたんだけど……雪音さんに、僕じゃ紗織のことは守れないって言われちゃって……無能だっていうのは1番僕がわかってるんだけどね……」


「そうだったの……後で雪音に、桜月くんは無能なんかじゃないって言わないと。」


「いや、言わなくていいよ。事実だしさ……」


「えっ、でも……」


 紗織は心配そうな顔で言う。


「いいんだ、別に。ステータスにも無能って書かれていたし、職技もよくわからないし……でも、無能なりに何か出来ることはあるはずなんだ。頑張っていればきっといつか報われるって言うし、今はとにかく訓練を頑張らないと。そうすれば、紗織のことだって守れるはずだしね。」


 無能だから、何か出来るはず。元の世界でも他のみんなと違って普通で無能だった桜月だからわかること。とにかく努力して、努力して、もっと努力して……そうすれば、その努力は報われる。実際、偏差値が足りなくて無理だと言われた高校に入ることが出来た。それなら、今は何も能力はなくても、努力を惜しまなければ紗織を守れるほどの力を手に入れられるはず。桜月はそう考えていた。


「桜月くん……そうだね!努力すれば報われるもんね!私は唯一のヒーラーだし、私なりに頑張れることがあるはずだよね!」


「そうだね。紗織には、紗織しか出来ないことがあるもんね。それを頑張って訓練するといいと思うよ。」


「うん!そうする!あ、じゃあさ、桜月くん……私は前に立って戦うことが出来ないから……」


「うん?」


「桜月くんが……私のこと、守ってくれる?」


「えっ」


 桜月が驚きを隠せずに声を漏らす。紗織のことを守るなら、前線に立てるような実力者達の方が頼りになると思うのでは、と考えた。


「桜月くんに守ってもらいたいんだ……桜月くんが近くにいると安心するの……だから……お願い。」


「紗織……」


 桜月は、こんなことを言われて断ることなんて出来なかった。こんな自分と仲良くしてくれた幼馴染みが、自分を頼りにしてくれている。守って死ぬより、ここで断る方がよっぽどかっこ悪いことだ。


「だめ、かな……?」


「……わかった。絶対に守るよ、紗織のこと。」


「っ!あ……ありがとう……桜月くん。」


 紗織の顔が、華が咲いたように綺麗な笑顔に変わった。桜月はその笑顔に見とれながらも、笑顔を返す。桜月は心の中で、紗織だけは絶対に守ってみせると決意した。


 一方、その様子を木の陰から見ていた男がいた。クラスの中の邪魔者が、紗織と仲良くしている様子を見ていると、本当にイライラしてきた。


「くそが……なんで紗織さんはあんなやつに……」


 いつも自分のアプローチは見てくれないくせに、いじめられている無能なやつとは毎日仲良く話している。それが不満でならない。


「あんなやつ……消えちまえばいいんだよ……」


 男はギリっと歯ぎしりを鳴らした。それと同時に、桜月に対する憎悪が、男を蝕んでいた。

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