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最弱8:対決

穴の中はかなり暗く、壁に埋まっている鉱石が微弱ながら光を放っているくらいだった。桜月達は罠にかからないように慎重に進む。


「罠は今のところなさそうだね……だけど、ここがどこにつながっているのか……」


「雰囲気的に試練のボスとか?」


「十試練ってボスとかいるのか……攻略が大変そうだ……」


桜月とミノは周りを警戒している時も、手を離すことはなかった。そろそろリア充認定してもいいのではないか。結局罠は見つかることなく、たどり着いたのは大きな扉の前だった。桜月の身長(169cm)の3倍はあるかと思われる。


「でかっ……ここの先にボスがいるかもしれない、と……」


「うん。聞いた限りではだけど」


「それなら……」


桜月はミノの耳元でコソコソといった。扉越しとはいえ、耳がよくて言葉がわかるやつだったら意味がないからだ。


「……うん!わかった!」


「よし……気を引き締めていかないと。」


桜月が気合いをいれて、扉を開けようとしたその時。


「いやあああああ!!」


扉の向こうから悲鳴が聞こえてきた。桜月にはとても聞き覚えがある声だった。


「この声……紗織!!」


桜月は急いで扉を開けた。すると、目の前に壁の方を向いている巨大な魔獣がいた。体長はおよそ10m、白と黒の毛で覆われていて、巨大で鋭利な牙を持っている。そして、爪の長さは爪犬達と同じように鋭利な刃物のようになっていた。容姿は狼のようで、右目には傷がついていた。桜月達は今までの爪犬のボスだと感じた。ネーミングセンス0の桜月は狼牙ろうがと名付けた。そのまんまである。そして、そいつが見ている先には腰を抜かしている泣き目の紗織がいた。


「いやぁ……こないでぇ……!」


紗織はずっと怯えたままでまともに動けそうになかった。狼牙はじりじりと近づき、紗織に牙を近づける。


「誰か……!!」


紗織は思わず目をつぶる。もう自分はここで食べられてしまうのかと思っていたその時、狼牙が紗織の目の前で悲鳴をあげた。耳が聞こえなくなりそうなほど大きい悲鳴で、それにびっくりした紗織は思わず目を開けた。すると、後ろ足の辺りから血をだらだらと流している狼牙の姿があった。


「ど、どういうこと……?」


紗織はとりあえずそこから離れようとした時、一瞬の間に誰かがお姫様抱っこをしていた。


「ええっ!?な、なんで……!?」


紗織が顔を上げると、ずっと待ち遠しかった人の顔が見えた。


「さ……桜月くん……!!」


「遅れてごめんね、お姫様」


桜月は狼牙からかなり離れたところにいたが、『光速』で一瞬で近づき、狼牙の足を鎌で素早く切り込んでいた。気をそらした隙に紗織のことを抱えて助け出したのだ。桜月は地面に着地して、紗織のことを優しくおろす。


「紗織、怪我とかは──」


紗織は桜月にギュッと抱きついた。紗織の顔を見ると、涙で埋め尽くされていた。


「桜月くん……やっと来てくれた……!どれだけ心配したと思ってるの……?」


紗織は涙だらけの顔で笑顔を作る。


「ごめんね、心配かけちゃって」


「ほんとだよ……ばか……!」


「……ただいま」


桜月が優しく微笑む。紗織はゴシゴシと涙を拭って、笑顔で言った。


「おかえりなさい」


桜月は無意識に紗織の頭をなでた。昨日ぶりとはいえ、桜月の中では1ヶ月くらい経っているのではないかと思った。

桜月はミノという実の代わりになってくれる子がいたとはいえ、心では何かが足りないように感じていた。実といられるだけで大丈夫なはずなのに、実がいれば何も不安を感じないはずなのに、本心ではもう一つ、何か大事なものを忘れていた。

そして、その足りないものが何かを理解した。右の隣にミノがいても、左の隣に誰かが足りなかったのだ。実がいた頃は、いつも両隣が埋まっていたのだから。その左隣にいてくれたのは、他でもない紗織だった。


「……さて、感動の対面はまた後にして……」


桜月はなで終えると、とりあえず今のこの状況を何とかしないといけないと思い、ずっと放置していた狼牙の方を向く。すでに出血は止まっており、足の怪我はまるでなかったようになっていた。


「紗織、後方から援護をお願い。できればこいつを吹き飛ばせるくらいの上位魔法がいいかな」


「あっ……わ、わかった。でも、桜月くん一人じゃあの魔獣は……」


「大丈夫、助っ人はいるから」


桜月は狼牙の方を向き、少しずつ近づく。役に立つかわからないが、『威圧』を使ってみる。桜月から紫のオーラが現れる。狼牙は少しビクッとなったが、桜月に殺意を向けてくる。どうやら完全に敵視されたようだ。


「うーん……こっちじゃ弱いのかな……?神圧は後で使ってみよう。とりあえず、やってやる……」


桜月は『創造』で鎌を作り、狼牙に向ける。狼牙は『察知』で見た限り、かなり落ち着いているようだった。桜月と紗織のことを餌として敵視していること以外は。だが、それは幸いとても助かることだった。狼牙は意外と『察知』が使えないのかもしれない。


「行くよ!」


桜月は地面を蹴り、狼牙に突っ込んでいく。狼牙は突っ込んでくる桜月に向かった前足でつぶしにかかる。かなりのスピードでつぶしに来たが、桜月は軽快な動きでその前足をかわし、そのまま前足に鎌を突き刺した。


「グガアアアッ!!」


狼牙は大きな悲鳴をあげ、前足をじたばたと動かす。桜月はふるい落とされそうになるが、鎌をしっかりつかんで振り落とされるのを回避する。その足を動かす動作の反動を利用して、上に動いた時鎌を抜いた。狼牙の高さをゆうに超えるところまで飛び上がり、鎌をくるくると回す。別に飛んで逃げておこうとか思ってはいない。桜月は狼牙の体に落下していく。狼牙は絶好のチャンスだと思ったのか、落ちてくる位置で大きく口を開ける。


「僕を食べようとしてるのかな……?でも……僕には無駄だよ!『旋風鎌連斬サイズスロウ』!」


桜月は回していた鎌を下にむけ、回っている鎌を狼牙に押し付けた。狼牙は口を閉じようとしたが、桜月は『光速』で閉める前に無理やり押し付けた。鎌の刃先が当たる度に、牙が折れ、血が溢れてきた。

紗織は遠くの方で詠唱をしながら見ていたが、1晩でここまで成長した桜月に驚いていた。普通、この世界ではレベル制度のような感じで成長していく。最初は1から始まり、魔獣を倒したり訓練を積んだりするとレベルが上がっていく。桜月はここに来てから全くレベルが上がっていなかったので、全く成長していなかったはずだ。せいぜい剣術がまあまあ使えるくらいだった。

しかしどうだ。目の前にいる桜月は、見た事のない武器を使い慣れているかのように使いこなし、敵の素早い攻撃をものともせず、自作のスキル(?)を使っている。これくらいの腕前ならとっくに50はいっているのではないだろうか。だが、それを1晩で習得するなんてありえないことだった。


(桜月くん……あんなに強くなったんだ……)


紗織は、強くなって勇敢に戦っている桜月をみて、私も頑張らなきゃ、と思った。詠唱に今まで以上の魔力を送り込み、魔法の威力を上げようとする。だが、詠唱が終わるまでに魔力が切れたらその瞬間無駄になる。魔力が切れないように調節しようと思ったが、頑張っている桜月を見ていると、その制御が効かなかった。


(詠唱はあと半分……きっと、大丈夫……)


紗織が詠唱を続けている間も、桜月と狼牙の白熱した近接戦が行われていた。桜月が鎌を突き刺しても、すぐに再生してしまう。きっと自動回復の類いだろう。かなり厄介なスキルの上に、ステータスで言えば向こうの方が断然有利。持久戦はかなり辛いだろう。桜月からしたら早く決着をつけたいところだった。


「流石に鎌だけじゃ攻撃しても回復が早い!鎌だと1箇所しか傷がつかないから回復がしやすいんだと思うけど……それなら一気に広範囲を攻撃すれば……でも僕は鎌しか使えない……し……?」


桜月は狼牙の猛攻を避けながら、あることが思いついた。桜月の能力、『創造』はものを作る能力。だが、単体で作った場合はそのものとしての効果は発揮出来ない。簡単にいうと、切れない日本刀のようなものだ。だが、派生能力で桜月には『鎌』が付いている。これは道具本来の能力を引き出せることが出来、更には自分のイメージしたものを作ることが出来る。

そして、桜月はこの、『自分のイメージを具現化する』点に注目した。何も、鎌と言っても近接だけで使えるものだけではない。今では電動だが自動で刃先が回るものだってあるし、ちょちょいと改造すればネイルガンのように刃だけでも飛ばすことが出来る。そこから桜月が導き出した答えは、それだ。


「飛ばせる鎌なら……遠距離から攻撃出来るし、連射にすればさらに威力は増す!!」


桜月は『創造』を『鎌』派生付きで使用した。桜月の予想通り、鎌が生成される。形はいわゆるリボルバー回転式の拳銃で、口径が自由に変えられるおまけ付きだった。これなら殺傷力の調整が出来るだろう。

さらに、弾薬は細い円錐のような形をしていて貫通性が高く、中は少しでも速くするために空洞になっていた。

弾薬は6発装填が可能で、装填は手動のようだ。ここには手間があるものの、『創造』の『派生』が使えるようになれば、素材さえあれば他の弾丸も作ることが出来るのでここは妥協出来るだろう。


「よし!予想通りだ!これなら……いける!」


桜月はリボルバー銃を狼牙の四肢の膝を狙い、トリガーを引く。押しっぱなしにすれば一瞬で全弾発射出来るようで、2発を無駄に打ってしまったが、『光速』を利用して膝を完全に撃ち抜いた。狼牙はドスンと音を立てて崩れ落ちた。自己修復の能力を使うが、なかなか回復が遅いようだ。桜月はそれを確認すると、どんどん弾丸を作りだし装填、胴体をどんどん撃ち抜いていく。


「よし……これならいける!ミノ、お願い!!」


桜月が合図を出すと、扉がバタンッと開き、ミノがくるくると回りながら登場した。よろよろと立ち上がった狼牙はミノの存在に気付き、迎撃しようとするが、修復が間に合わず動けない。


「『超脚』と『加速ブースト』、『重力グラビティ』を組み合わせた、その名も……『超脚落とし』!いっけえぇ!!」


ミノは『超脚』で脚力を強化、『加速』で速度を上げ、『重力』で足を重くして落下速度を上げる。そうして組み合わせた『超脚落とし』は、狼牙の脳天に蹴り落とされた。狼牙の顔は床に叩きつけられ、地面に力が伝わり地面に亀裂が走る。

ミノはスタッと着地して、桜月の近くに寄ってくる。桜月はよくやったとミノの頭を優しくなでた。ミノの顔は本当に幸せで満足しているような顔だった。

狼牙の方を見ると、まだかすかに生きていた。そして、殺意が止むことはなかった。まだ戦う気なんだろう。ボロボロになった体でも最後までやり通そうとしているのだ。


「……紗織、お願い」


「天より注ぐ希望の光よ、邪気を払いて、悪を滅せよ。『光神天』」


紗織がいうと、狼牙の上に巨大な太陽のようなものが現れる。その光は狼牙に降り注ぎ、狼牙は悲鳴を上げる。だが、少し紗織には違和感を感じていた。普通ならこの魔法は魔獣の体に炎が上がり、燃え上がって消滅するはず。それなのに炎は上がらず、さらに狼牙の体からは黒い煙のようなものが出てきた。しばらくすると、煙は出てこなくなり、太陽は消えた。倒れている狼牙を見ると、狼牙の体からは傷が消えていた。桜月が近づくと、狼牙は目を開け、むくりと起き上がった。桜月は臨戦態勢を取ったが、最初と違って殺気を出していなかった。それどころか、『察知』で見るとかなり懐かれているように感じた。狼牙はある方向に目線を向ける。その方向を見てみると、先ほどまでなかったところに扉が出来ていた。


「……僕らを認めてくれるの?」


狼牙は桜月の言葉がわかっているのか、静かに頷いた。


「……ありがとう」


そう言うと、狼牙の目に緑色の光が灯った。『察知』で見てみると、主従関係にある魔獣として写された。これはきっと、スキルの中の『召喚:魔獣』を使えるようになった印だろう。これで、どこにいても好きなところで狼牙を召喚出来るようになった。


「さて、ミノ、紗織、行くよ」


「えっ?ミノ……って……?」


「……あ、紹介忘れてたね……ミノ、おいで」


桜月はミノを呼ぶと、紗織の顔色が変わった。きっと、桜月と同じように実のことを思い出したのだろう。


「ミノって言います!よろしく!」


「み……実ちゃん……」


「紗織、実ではないよ。でも、ミノは実でもある。僕は実と一緒にここの攻略をしていたんだ」


「そうだったんだ……」


「……でも、僕には何かが足りない気がしたんだ」


「え……?」


「僕はミノと一緒にいてほんとに幸せな気持ちでいられた。それでも、心の中では何かが足りないって思ってたんだ。それをずっと考えてた。それで、紗織を見つけた時に思ったんだ。足りないものは、紗織なんだって」


「桜月くん……」


桜月は一呼吸おいて言った。


「……一緒に来てくれないかな?」


紗織はそれを聞いて少しキョトンとしていた。そして、桜月の言葉を理解すると笑顔で答えた。


「もちろん、いいよ。私も、桜月くんと一緒にいたいから」


桜月は紗織の笑顔を見て優しく微笑んだ。隣からミノの鋭い視線が飛んできているが、なでてあげたら気分がよくなったのかその視線は消えた。もしかしたら紗織に嫉妬してるのかもしれない。それでも、きっと仲良くやってくれるだろうと桜月は思った。


「それじゃあ二人とも、行こうか。」


『うん!』


桜月は左にミノ、右に紗織が並び、奥の扉へと向かった。

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