帝王の雛 二話
俺達の視界に入ったのは、半透明の空中に浮いた謎の生物。その生物に足は無く、まるで幽霊のような容姿をしている。
「瑠璃!隠れるぞ!」
俺は瑠璃の手を引き家の影に隠れる。
「何よあれ・・・!」
「わからない。少なくとも俺は見たことないけど、瑠璃は?」
瑠璃も首を横に振る。
角から覗いてみると、謎の生物はキョロキョロして俺達のいる方とは逆に向かっていった。
「向こうにいったみたいだけど、何かを探してるみたいだった・・・。慎重に進んだ方がいいかもしれない」
瑠璃も無言で頷き、深い霧の中へと歩き出した。
町の中を数分歩いた時、瑠璃が言葉を発した。
「ねえ竜斗・・・?ここ、公園があるはずだよね?」
言われてみればそうだ。この場所には何度も遊びに来ているから間違えようもない。
しかし公園があるはずの場所はただの空き地と化していた。遊具があった形跡すらない。小学生の頃はここでよく遊んだのに。今俺達の視界には柵も、樹木すら存在しない。
「確かに・・・なんで無くなってるんだ」
「一体何が起こってるの・・・?」
その時、再び例の生物が前方に現れる。
「瑠璃、またあの変なのがいる。まだ距離はあるけど、十分に気をつけて進もう」
例の生物に気づかれないようにそっと進んでいたときだった。
「竜斗・・・!後ろからも来てる・・・!」
急いで確認すると、確かに俺達の背後にも、例の生物が出現していた。
しかも、前の奴とは違ってゆっくりとこちら側に迫ってきている。
「どうするの?」
「・・・一か八か、突破してみるか」
そう言って俺は走る準備をする。
「万が一の時は俺が注意を引くから、その隙にどこかへ逃げろ」
「そんな!ちょっと待って竜斗。もう少し・・・」
俺は瑠璃の忠告を無視して走り出す。
前方の謎の生物は俺に気づくと俺の方へと近づいてくる。そして一定の距離に近づいた瞬間、大きな音とピンク色の煙と共に破裂してしまう。
しまった!仲間を呼ばれたか!
「瑠璃!走れ!」
瑠璃が前方に駆け出していくのを確認してから俺も走り出す。
先程の爆発で後方の生物はもちろん、他の場所の生物もやってくることだろう。早急に隠れる場所を探さないといけない。
「一度俺の家の場所に向かうぞ!」
走りながら頷く瑠璃。
幸い、俺と瑠璃の走る速さは同じ位なので、どちらかが遅れたりすることもなく家の前にたどり着いた。
しかし・・・。
「おい、嘘だろ!?」
見慣れた家があるはずの突き当たりは見たこともない謎の建物が建っている。少なくとも家には到底見えないその建物・・・。いや、そもそもこの町全体に人気が無い。
「あたしたち、本当に何処に来ちゃったの・・・?」
そして俺達は気づかされる。
後ろから例の生物、そして数人の人影が近づいてきている。
仮面を着け、同じ服を着た数人の男が腕を前に突きだすと、その右腕に着いた腕輪が怪しく光りだして、謎の生物が前に出る。
見える位置に来たとき、その数は男達と同じ数・・・。五体いることがわかった。
初めて霧が出てから人に会うが・・・明らかに怪しい。少なくとも俺達の味方ではないだろう。むしろ俺達を襲おうとしているようにも見える。
「赤羽竜斗・・・だな?」
その時仮面の男が俺の名前を呼ぶ。
「竜斗、知り合いなの?」
「冗談だろ?こんな奴ら見たことも聞いたこともないぜ」
「今すぐそのペンダントを渡せ!そうすれば手荒な真似はしない!」
ペンダント?父親のペンダントが目的なのか?
俺はペンダントを外して、手にもって眺める。
「竜斗、それって竜牙さんの・・・」
「・・・悪いな瑠璃。俺には・・・これを手放すことは出来ない」
たとえ何があっても、俺はこのペンダントを手放すことはないだろう。それこそ死ぬ寸前でも。
「言うと思った・・・昔から変わらないよね、竜斗は」
俺はペンダントを着けなおし、奴らに向かって叫ぶ。
「このペンダントは俺の親父の形見だ!誰がお前らなんかに渡すか!」
「・・・そうか。ならば力ずくで奪うまで!ゴースト!」
仮面を着けた数人の男が右腕を再び突きだす。ゴースト、と呼ばれた謎の生物は、その言葉に答えるかのように臨戦態勢に入る。
「奴らを・・・始末せよ!」
その瞬間、ペンダントの宝石が光りだす。
「な、なんだ・・・って熱っ!」
素手で触れないほどの熱を放ちながら、宝石が輝きだす。
その輝きに思わずといった様子でゴースト達も動きを止める。
「竜斗!」
「何だと・・・!?」
そして輝きはさらに増していく。目が開けられないほどの光が空間を支配する。
・・・数秒、経っただろうか。輝きは収まり・・・。
目の前には赤い鱗を持つドラゴンが存在していた。