帝王の雛 二十二話
バロールの視線を回避した人形は、命令の通りに一度後退する。
バロールの能力は強大だが、敵味方の区別無く、視線の一定領域に入った生命を砕く。
つまり私もバロールの能力を受けないように行動しなければならない。能力が発動した瞬間、私の命は砕け散る。
「うぐぐ……即死の眼か。正面からは近寄れないし、見られた瞬間に人形は破壊される。全くチートにもほどが在る」
零羅の言っている事は正しい。バロールに正面から挑んでも命が無くなるだけ。無駄な犠牲を払うに等しい……。
では初代バロールはどうやって討伐されたのか。……チートに勝つ方法、即ちもう一つのチートを使用したのだ。
勝利の光槍と伝わるブリューナク。その力は即死の能力を無効化し、魔眼を貫き破壊した。
魔眼に勝つにはその力を更に上位の能力で無効化するしかない。それに気づいて退散される前に必ず弱点を見つけて人形を倒す。
考えろ。何故あの人形はあれだけの代償で召喚された?
足りないものは時間……供物……数え切れない。いや待て、確か【黒薔薇花園】には特殊な召喚条件があったはず。
人形ごとに定められた一体一体違う召喚条件……。カオスドールの召喚条件は、【自身の一部を一定時間貸し出し、精神力を二倍払う】事だ!
つまりあのマントに隠れた零羅の肉体はもぬけの殻。これだけの威力を誇っているのだ、あの肉体はほとんどが今存在していない。
そして精神力の消費も早いはず、このまま耐久していれば相手はガス欠で勝手に撤退するはず。だが……。
零羅の顔には汗一つ浮かんでいない。精神力を二倍払っているとは思えないほど落ち着いている。そして肉体の一部が無いということを思わせないような体運び。
相当戦いなれているのか、精神力の最大値が大きいのか……。
戦闘開始から既に三分は経過している。一般の召喚使いならば二倍の精神力+維持する精神力で既に倒れてもおかしくないはず。それなのに平然とバロールと対峙している。
ならば、まずは本体を狙う。
「ポルターガイスト、本体を狙ってください。バロールの視界には入らないように」
私は傍に居るはずの実態を持たない召喚獣に声をかける。ポルターガイストはその性質から、実態を持たない。操る媒体が無くなれば自動的に戦闘不能となる。
バロール、ポルターガイストが気を引いている隙に本命の一撃を準備する。