帝王の雛 二十話
「まずはお前からだ! 小さえの!」
男は私を指差して叫ぶ。召喚されたカオスドールは男の後ろに陣取って、脱力したように腕をぶら下げていてピクリとも動かない。
「行け! カオスドール!」
突如として男の背後の人形が魔力に包まれる。全身を禍々しい色の魔力で覆った人形はこちらを補足し、猛スピードで回転しながら私に迫る。
「虎!」
目の前に虎を転移させ、ドールの回転突進をぎりぎりで受け止める! しかしカオスドールのパワーは創造を絶するもので、段々と後退させられてしまう。
受け止めている間に左側への回避を済ませ、虎も逃がす。だがカオスドールはこちらの回避先を読んでいるかのように拳を繰り出してくる。
その細々としていて、肉付きの無い体からは考えられないほどのパワーの拳が空を裂いて襲い掛かる。腰から取り出したナイフを交差させてかろうじて防ぐが、長くは持たない。
「隼! 突進を!」
受け止めている間に隼の体当たりを食らわせようと指示を出す。
命令を受けたポルターガイストは隼を操作し、炎を纏い一直線にカオスドールの元へ隼を飛ばす。
だが体当たりがあたる寸前、カオスドールは素早い動きで後退し、タメを作ったかと思うと後退した反動の力を乗せるかのように左下から鋭い拳を放つ。
その動きは私が今まで見た攻撃の中でも一、二を争うスピード。到底目で追えるものではなく、何が起こったかを理解したのは数メートル吹っ飛ん地面に横たわった時だった。
骨は……折れてない。当たり所がちょうど金具の場所で助かった。まだ動ける、まだ闘える!こんな所で死ぬわけにはいかない!
起き上がり目を開けると、カオスドールは元の場所……男のそばに戻っていた。
「まだ生きてるか。手ごたえが無いとは思ったが、まさか金具にあたるなんてな、運のいい奴だ」
「名も名乗らす、ましてや辺り一体吹き飛ばすような暴徒に殺されるつもりはないですよ……もっとも、名乗ったところで黙って殺されもしませんけど」
男は不思議そうな顔をして、数秒後に納得した顔をして喋り始める。
「俺の名前は南方 零羅だ。暴徒かは知らん。ここには命令で来たんだ」
「俺たち以外の奴をぶっ潰せって命令でな」
……はい?
まず名乗ったことに驚きの感情しか出てこない。まさか正直に名乗るとは思わなかった。
「おい、俺も名乗ったんだからお前らも名乗れよ二人とも」
「あ、袖咲 奏です……」
奏さんが戸惑いながらも名乗る。
「お前もだチビッ子」
若干イラっと来る言い方だ。
「……空木 幽です。チビッ子ではありません」
奏さんが私の傍に寄ってきて小声で話しかける。
「あの人、零羅さん。実は悪い人じゃない気がするんですが」
そんな事は絶対に無い気がする。奏さん騙されやすいからなぁ……。
「よし、名乗り終わったし戦闘を再開しよう」
「前言撤回、成敗しないといけません」
さすがの奏さんでも騙されなかったか。まあ明らかに敵の組織だし。
「そうですね。どうにか弱点を捜したいのですが、隙がありません。私が少し調べてみるので、注意をひきつけたりして欲しいのですが、お願いできますか?」
「はい、わかりました……出番よバロール!」
「真死領域!」