99]焦(あせ)る…
俺は生まれもっての慌て性だから仕方ないな…と肉挽は半ば諦め思考に陥っていた。やることなすこと、すべてに焦るのだ。これだけは天分のものだから仕方ない…と肉挽は失敗したあと、いつも思っていた。いつやらも先輩の解凍に相談したとき、『お前は不器用なんじゃない。ゆっくりと一つ一つ片づければ、必ず上手くいく。それを心がけろ』と、アドバイスされたことがあった。肉挽は当然、次の日から実行した。それが、不思議なことに思考とは裏腹に身体が勝手に動いて焦った。怖いことに、気持は落ちつこうとしているのに体はうろたえていた。やはり、駄目か…と、それ以降、諦め思考は益々、強まっていった。
そんなある日、職場に可愛い民知愛という新OLが配属された。それからいうもの、どういう訳か肉挽は愛の顔を見ると焦らなくなった。顔を見ているだけで、焦っていた手がゆったりと動くのが肉挽は怖かった。居ても立ってもいられず、肉挽はついに愛に語りかけていた。
「俺と君は相性がいいようだね。お蔭で随分、上手くいくようになったよ」
「はあ?」
愛は不思議な生き物を見たような訝しげな眼差しで肉挽の顔を窺った。
「ははは…いや、なんでもない」
肉挽は思わず否定してその場を去った。それからというもの、愛の顔を見るのが肉挽にとって、ある種の神の救いとなっている。恋愛感情が愛に対して湧かないのが不思議といえば不思議だった。肉はミンチが絶妙の味になる・・ということだろうか。そこのところは私には分からない。
完




