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95]待てど暮らせど

 もういい…と、越場こしばは思った。夕方まで待って来ない相手なら、これはもう来ないと思った方がいいに違いなかった。美沙代とは相思相愛の仲とはいえ、待てど暮らせど来なければ腹も立つし、だいいち連絡もつかないから、腹が立つ。さらに、待ち合わせ場から一歩も動けないイラつきから心のストレスがまった。越場は以上の点で、美沙代を待たないことにし、帰宅した。すると、妙なものでその待ち合わせ場所を離れた瞬間から心のつかえが取れ、メンタル面のストレスが消えた。半日は待ったのだ…という自己弁護できる気分にもなれた。暑気が去り、いい頃合いの気侯になってきたこともあるのだが、これはいい調子だ…と、越場は思った。待てど暮らせど・・というのは、相手の到着を思慕しぼの一念で期待するだけで、結局のところ相手次第なのである。ところが、美沙代は待てど暮らせど来ず、結局、肩透かしを食らった恰好かっこうになってしまった。ということは、越場の男のメンツは丸 つぶれなのである。越場はそこで、待っていなかったことにした。そう思い込むことで、心の、やるせなさやさは消え去った。ところが、である。美沙代は来ていた。こわいことに、間に合うように早く出て交通事故に遭遇し、亡くなっていたのだ。その身は死んでも、恋慕の情は深く、霊魂となって来ていた。そんなことが越場に分かるはずもない。待てど暮らせど来なかった…と越場は思い込んでいた。ただ、いつも通勤電車の横の座席が空いていて、座席の下が濡れているのが気にはなっていた。

 待てど暮らせど…来なかったのではなく、来ていたのである。ただ、見えないのは来ていないのと同じだということだ。絵に書いた餅は食えぬ・・という怖い話である。


                完

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