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92]手遅れ

 蝉しぐれがやかましい夏の昼下がりである。病院内の一室で重体の鮭熊さけくま昏睡こんすい状態におちいりベッドの上に横たわっていた。ベッドの周囲には医者の皮毛かわげと鮭熊の家族が取り囲んでいる。

「お気の毒ですが、ダメですな。手遅れです」

 皮毛は手首の脈を取っただけで、鰾膠にべもなくすぐ言い切った。

「ええっ! そんな馬鹿なっ! 気絶しただけですよっ!」

「いや、ダメなものはダメですっ! 医者の私が言ってるんですから…」

 皮気はどういう訳か、すごく興奮していた。そんな皮毛をいぶかしそうに案じながら、付き従うインターンの炭火すみびは鮭熊の胸に手を当てた。

「先生! しっかりとした拍動が認められますが…」

 立場上、炭火は小声でボソッと皮毛へ耳打ちをした。

「そんなことは分かっているんだよっ! いやなに…じきに止まる」

「ぅぅぅ…あなたっ!」

 妻の美佐江は思わずしゃがみ込むと、ベッドの夫にすがりついた。

「では私はこれで…。あとは君がなさいっ!」

 どういう訳か、皮毛はいて病室を出ていった。霊感が鋭い皮毛には死神の姿が見えていたのである。そんな皮毛の後ろ姿を炭火は怪訝けげんな表情で見送った。

「いや、大丈夫ですよっ! すぐ意識はもどられると思います!」

 皮毛が出てガチャリ! とドアのノブが閉じられると、炭火は鮭熊の家族を見回し、皮毛の前言を撤回てっかいした。

 ドアの外である。皮毛は数歩歩くと、うめいて倒れた。そして、苦しそうに事切こときれた。かたわらには死神が立って皮毛を見下ろしていた。死神は鮭熊に立っていたのではなかった。手遅れなのは皮毛だった。


                完

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